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悪童

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第二章

「だから一度奥に言ってみよ」
「虎千代様のことを」
「お願いしますと」
「ここは奥に任せるのじゃ」
 こうまで言う為景だった、そして。
 このことについて彼は何も言おうとしなかった、家臣達もそれを受けてだった。
 彼の奥方である虎御前のところに赴いた、そのうえで虎千代のことを話した。
 虎千代の顔立ちは肌は雪の様に白く目鼻立ちは流麗だ、髪は黒く瑞々しい。それは全て母である虎御前から受け継いでいるものだ。家臣達はその虎御前に言うのだった。
「虎千代様ですが」
「どうしても武芸を止められませぬ」
「そのことも気になりますが」
「何よりも仏門について全く関心を示されませぬ」
「出家されることはもう決まっているというのに」
「それでもです」
 こうだ、虎御前に言うのだった。
「それでどうか奥方様にです」
「虎千代様に申し上げて頂きたいのです」
「どうか虎千代様に仏門を学んで下さる様に」
「是非」
「そうですか、虎千代殿は」
 虎御前は彼等の言葉を聞いて口を開いた、声もよく似ている。
「仏門にはですね」
「そうです、困ったことに」
「我等の言葉を聞いて下さりませぬ」
「ですからどうかここは」
「奥方様に」
「出家はもう決まっていることです」
 虎御前もこのことはわかっている、家で決めたことだからだ。
「そして虎千代殿が仏門を学ばれることも」
「その通りです、ですから」
「どうか」
「わかりました」
 穏やかな笑みを浮かべてだ、虎御前は彼等に答えた。
「私からも虎千代殿に申し上げましょう」
「そうして下さいますか」
「奥方様が」
「はい」
 確かにだ、約束した言葉だった。
「そうさせて頂きます」
「有り難きこと、それでは」
「是非共」
「お任せ下さい、実は前からそのことは私も聞いていました」
 虎千代が武芸や兵法にのみ関心を示し仏門のことには見向きもしないことをだ、虎御前も知っていたのだ。
 だからこそだ、ここでこう言うのだった。
「いい機会です、ではすぐにでも」
「お願いします」
「その様に」
 家臣達は喜色を露わにして応える、そうしてだった。
 虎御前は暫くしてだった、虎千代を自分のところに呼んだ、するとだった。
 虎千代は明らかに慕う声でだ、母に問うたのだった。
「母上、何でしょうか」
「虎千代殿、これよりです」
 その虎千代にだ、御前は優しい声で告げた。
「共に参りたいところがあります」
「母上とですか」
「はい、よいですね」
「勿論です」
 虎千代は己の母に明るい声で答えた。
「母上とご一緒ならば」
「そうですか、それではです」
「はい、それで何処に行くのでしょうか」
「今より参ります」
 何処に行くかは言わない、しかしだった。  
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