Fate/EXTRA IN 衛宮士郎
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対戦者発表と新たな出会い
それから、俺はひたすらアーチャーの戦い方を模範するに専念することにした。現在、少し離れた場所でアーチャーとエネミーの戦いを見ている。
「はっ!」
アーチャーが盾のような形をしたエネミーに夫婦剣を振り下ろす。しかし、相手は身を固め剣を防いだため、たいしたダメージはないな。
エネミーが回転しながら、突撃をしてきたが、アーチャーはサイドステップでかわし、俺の近くまで移動する。
「衛宮士郎よく見ておけ」
「!」
アーチャーからの合図がきた。アーチャーと俺との取り決めで特に重要なものを教える時にこのように呼びかけがくる。間合いを詰めてエネミーに近づくとエネミーは、さっきの時同様に身を固めた。
「同調開始」
言い慣れた詠唱を唱えながら、アーチャーは持っている干将・莫邪を構える。
「なぁ!?」
すると、刃渡り50cmぐらいの夫婦剣が、1m程の大きな双剣に変化。
「はあっ!!」
左右から双剣でエネミーを切りさく。エネミーは真っ二つになり消えていき、アーチャーはそれを見届けると手にしている剣を消す。
「今の剣はなんだ?」
俺との戦いの時には見せたことのない剣だった。干将・莫邪には、まだ俺の知らない能力があるのだろうか?
「干将・莫邪を強化することによってあのような形状に変化する。覚えておけ」
ということは、つまり、宝具を強化したってことだよな。
「そもそも、宝具を強化することができるのか?」
俺の質問にアーチャーは首を横に振った。
「さあな。これは私も戦いの中で偶然見つけたものだ。気になるのであれば試すがいい」
「いや………やめておく」
好奇心は猫を殺すともいうし、下手なことをしてもいたい目を見るような気がする。
「それがよかろう。さて今日はこのくらいで切り上げるとしよう」
アーチャーはそういうとスタコラと元来た道を戻っていく。俺も慌ててその後を追いかけた。あっ、早歩きで歩いてやがる。地味に嫌なことをしてくるやつだな……………こうして、聖杯戦争の初日が過ぎていく。
≪1回戦 2日目≫
目が覚める。欠伸をこぼして目を瞬かせ立ち上がると、寝方が悪かったのか、上半身がひどく凝っていた。
朝、突然無機質な電子音が教室中に鳴り響く。どうやらポケットにしまいこんだ携帯端末から出ているらしい。携帯端末を取り出して確認すると、画面に何やら文字が表示されている。
【2階掲示板にて、次の対戦者を発表する】
対戦者の発表。
どうやらようやく1回戦の相手が発表されたようだ。密かにこのまま対戦者が決まるな、とも思っていたのだが、願いは聞き届けられなかったらしい。
重くなる足取りのまま、俺は2-A教室を出た。2階の掲示板には見慣れない一枚の紙が張り出されていた。真っ白な紙に書かれているのは、2人の名前。
マスター:衛宮士郎。
そしてもう1つの名前は――――。
「……………………えっ?」
名前を見て体が固まってしまった。そこには
マスター:間桐慎二
決戦場:一の月想海
俺がよく知っている名前が書かれているからだ。
「へえ。まさか衛宮が1回戦の相手とはね。この本戦にいるだけでも驚きだったけどねぇ」
それを呆然と見ていると、いつの間にか慎二が隣に立っていた。
「慎二……」
間桐慎ニ。俺と古くからの友達であり、第五次聖杯戦争においてライダーとギルガメッシュのマスターになった人物。
(だけど、この慎ニは別人だ)
なぜなら、あの戦いの後遺症により慎ニは下半身麻痺が残り、歩くことはおろか立つことさえできないはずであるからだ。
「けど、考えてみればそれもアリかな。僕の友人に振り当てられた以上、君も世界有数の魔術師って事だもんな楽しく友人やってたワケだし。一応、おめでとうと言っておくよ」
そうだ。思い出した。仮初の日常とはいえ、俺はこの慎二とも友達だと思っていたんだ。
「そういえば衛宮、お前予選をギリギリで通過したんだって?はぁ!どうせ、お情けで通してもらったんだろ?でも本戦からは実力勝負だから、勘違いしたままは良くないぜ?」
「分かってる。自分の実力くらいは見極めているつもりだ」
「そうかい? なら僕に勝てないってことくらい分かるよな」
慎二は笑みを浮かべて、見慣れた動作で前髪を掻き揚げる。
「けど、ここの主催者もなかなか見所あるじゃないか。ほんと、1回戦目から盛り上げてくれるよ。そうだろう? 嗚呼!いかに仮初の友情だったとはいえ、勝利のためには友をも手にかけねばならないとは!悲しいな、なんと過酷な運命なんだろうか。主人公の定番とはいえ、こればかりは僕も心苦しいよ」
芝居をしているかのように大げさなリアクションをとる慎二。陶酔した顔で叫ぶが、すぐにいつものにやついた表情に戻って俺の肩をぽんと叩く。
「ま、正々堂々と戦おうじゃないか。大丈夫、結構いい勝負になると思うぜ? 君だって選ばれたマスターなんだから」
「慎二……どうしても戦わなきゃいけないのか?」
「当然だろ?」
それが当たり前のように頷く。
たった1つの聖杯のために殺し合うということを何とも思っていないかのように。実際、慎二にはどうでもいいのだろう。
あの戦いのように自分が負けることを考えていないのだから。だから敗者のことなど気にも留めずに殺すだろう。しかし、俺には人を殺す覚悟を自覚していない。
ただ生き残りたいだけ、死にたくないだけ。でもその為には目の前の慎二を犠牲にしなくちゃいけない。
「どうしたんだよ?さっきから顔色が悪いぜ?まさか、僕がどんな人間か、分かっちゃった?なんせ―――」
「そこまでにして貰おう」
思考の海から引き戻される。顔を上げると何時の間にか、実体化したアーチャーが俺の前に立っていた。
「先程から黙っていれば好き勝手に戯言を言っているようだが。まさか、もう勝った気でいるのか?」
「あ、当たり前だろ!?僕とコイツとじゃ魔術師としての格が違うんだよ!!」
「ほぅ……………たいした覚悟もない男が己の力量を過信過ぎていると、このように無様で滑稽でしかないのだな」
「ハッ!好い事言うじゃないさ、色男」
実に楽しそうな言葉と共に慎二の隣に胸元が大きく開いた衣裳と顔に走った大きな傷が特徴を持つ刺激的な女性が現れた。おそらく、慎ニのサーヴァントだろう。
「まぁ、覚悟云々は後々分かる事さね。その時は精々楽しませてくれよ?」
「ふむ。それなら、期待には応える、とだけ言っておこう」
アーチャーがそういうと、現れた女性は笑みを浮かべて消える。そして慎二は鼻を鳴らして去っていった。
いつもの俺ならここでアーチャーに何かをいうかもしれないが
「……慎二と、戦う……」
頭の中はそれのことで一杯である。その言葉が秘めた衝撃が、正常な思考を赦さない。20文字にも満たない文字列が、自分の頭の中で何をするのでもなく、浮遊するように存在している。
あの聖杯戦争の後、遠坂のおかげで慎二を殺さなくて済むと安堵していた。しかし、このセラフでまた慎二と戦わなければならないなんて……。
友人だった人間と殺しあうなんて、悪い夢のようだ。だがこれは現実。あの時同様に逃げることは許されない。呆然と立ち尽くすが時間だけが過ぎていく。
「!」
俺は携帯端末の電子音が鳴り響いたことでようやく我に返る。
【第一暗号鍵を生成。第一層にて取得されたし】
第一暗号鍵?聞き覚えのない単語には首を傾げる。字面から察すると何かの鍵のようだ。
「……気が進まないが、あいつに聞くか」
本来なら顔を合わせたくない相手。しかし、最低限のルールを聞かなければ先には進めない。俺はエセ神父に会いに歩きだした。慎二と殺し合うことを考えないようにして。
2階の階段前に言峰は立っていた。何もしてないところをみるとこいつも結構暇なのだろうか?それともこうして立っているのが仕事なのか?
「若きマスターよ。アリーナに向かう前に、私の話を聞いていきたまえ」
俺が声を掛ける前に話しかけられる。どうやら、俺を待っていたらしい。
「先ほど端末に第一暗号鍵が生成されたと通信があっただろう? 本戦の参加者は皆、6日の猶予期間のうちに、この暗号鍵を2つ、揃えなければならないルールとなっている」
「暗号鍵?」
携帯端末に届いた連絡にも出ていた単語に、首を傾げる。名前からして鍵のようだが一体なにに使うのだろう。
「暗号鍵とは、マスター同士が雌雄を決する闘技場の鍵だ。それをマスター自身の手で、猶予期間に集めてもらおうというわけだが、それすら達成できないようでは、闘技場に入る前に電脳死を迎えることになるだろう」
随分と厄介なものだ。エネミー相手でも気を抜いてはいけないというにほかにもやらないことがあるなんて……………その上集めなかったら強制的に負けが確定で死ぬ。
「……なに、それほど身構えなくてもいい。決戦に値するかどうかを示す、簡単な試練だよ」
ゲームオーバー、という単語に無意識に自然に身構えてしまったのを見て、言峰が付け加えた。
「……その、暗号鍵ってのを、期限までに2つ集めればいいのか?」
「その通りだ。アリーナは、各対戦でそれぞれ2つの階層から構成され、そして暗号鍵は各階層で1つずつ生成されるよって、各対戦で生成されるトリガーは2つだ。君たちマスターには、それを取得してもらう。その2つのトリガーを便宜上、第一暗号鍵、第二暗号鍵と呼んでいる。準備出来次第、聖杯から君の端末に通達が入る。注意して待つがいい」
つまり、先ほどの通信は、その第一暗号鍵が昨日行ったアリーナに準備出来たということだったらしい。
「注意点を伝えておくが、7日目に闘技場に入る前の私闘は、学園であれアリーナであれ禁止されている。万が一アリーナで私闘に及んだ場合は、15秒ほどでシステム側から強制終了されるだろう。学園での私闘には、マスターのステータス低下という罰則が加えられる。気をつけたまえ」
「……ああ、分かった」
裏を返せば、罰則さえ構わなければ学園で仕掛けることも可能ということか。こういうものを破るのは絶対にいるのでルールがあっても安心できないな。………………………ちょっとまてよ?
「俺、昨日、遠坂に襲われたんだが……………「説明は以上だ。アリーナにいくがいいマスターよ」
俺の言葉を遮るように言葉をかぶせるとスタコラと言峰は立ち去っていく。だが、俺は見逃さなかった。あいつの顔が笑っていたことを…………。
(わざと無視しやがったな………)
嫌な発見だが、この言峰の性格は俺の知っている言峰と変わらないみたいだ。
『衛宮士郎。一つ教えてやろう。並行世界でもあいつの性格は変わらん』
「……………………マジかよ」
訂正。言峰はどこにいても言峰だ。平行世界を超えてもあんな性格とは、ある意味恐ろしい男だな。呆れていると何かが床に落ちた音がした。音のした方に振り返って見ると
「…………イバー………ごめん。………………もう…………無理」
壁にもたれかかっている息を荒げている男子生徒がいる。
「どうしたんだ?」
壁にもたれている男子生徒に駆け寄り、様子を見てみると男子生徒の顔色が悪い。医者ではない俺が見ても一目でかなりヤバそうな状態だ。
「と、とりあえず、保健室に運ぶからな」
「で、でも………………」
「いいから!」
「わ、悪い……………」
気が抜けたのか気絶してしまった。これはまずい!?急いで肩を貸し、男子生徒をすぐそばの保健室に運び込む。
「あっ、どうなさいましたか?」
保健室に入ると俺たちの様子を見て桜が駆け寄って来た。
「悪い。少しベットを借りるな」
「は、はい。構いません」
桜の許可をとると男子生徒をベットに寝かす。桜がベットに近づくとブツブツと何かを呟きながら右手をかざすと男子生徒の顔色がよくなっていく。なにをしているか、よくわからないがとりあえず安心かな。
「とりあえず、応急処置は終わりましたけど、一体何があったんですか?」
桜が俺に恐る恐る尋ねる。怖がられているのか?
「ごめん。俺にはわからないんだ。この部屋の近くで気分を悪そうにしていたから、とりあえず連れてきただけだから……………………ところで、この人は、一体どうしてこんなに気分が悪そうなんだ?」
「はい。先ほどスキャンして見たところ、身体中のいたるところに悪性ウイルスが見つかりました。このバグの効果は、生命反応を低下される種類のものです。おそらくそのせいで…………」
「え〜と、風邪にかかったって解釈すればいいのか?」
「現実で例えるならそれに似たようなものです」
「治るのか?」
「ええ。バグを取り除いたのですぐに目を覚ますかと」
「そうか…………」
安心したのか思わず笑みがこぼれる。良かったと思うが、原因は何だったのだろうか?病気のように突然なったものではないだろうし…………。
「く、黒…………」
突然、男子生徒がボソボソと何かをつぶやき始めた。うなされているように見えるが………………何か悪い夢でもみてるのかな?
「く、黒い弾がおそってくるーーーーーーっ!!」
男子生徒が大声で叫ぶ。黒い弾?何かの比喩か?
「衛宮士郎。昨日のアレのせいではないのか?」
悩む俺を見兼ねてか、アーチャーがわざわざ実体化をして口を挟んで来た。昨日のあれ?そう言われても昨日だけでもかなりのことがあったからな……………………う〜ん.思いつかない。
「貴様もよく知っているだろ?おそらく、凛のガントだ」
アーチャーの言葉にある光景が頭の中をよぎる。昨日アリーナに入る前に遠坂とあってそこで……………!
「あれか!?」
そういえば、昨日購買と廊下で遠坂に襲われた時に結構な人がいた上に、ガントを四方八方に乱射していた。その時の流れ弾に当たったのかもしれない。
「もしかして、間接的に俺のせい?」
何だろう?すごい罪悪感に襲われる。俺一人だけでも謝った方がいいのか?
「なんだと!奏者がこうなったのは貴様のせいか!!」
「「「!」」」
突然俺たち以外の第三者の声が保健室に響く。一体誰だ?声のする方に振り向いてみると
「えっ?」
俺は間抜けな声をだして固まってしまう。そこには、赤い舞踏服に身を包み、金髪の頭にアホ毛が一本でている少女がいた。俺はこの少女を知っている。
「セ、セイバー!?」
服装が違うが第五次聖杯戦争において、俺の元サーヴァントであり、遠坂のサーヴァントになったセイバーがいた。しかし、驚く俺を尻目にセイバー?は、
「ほう………………一目見ただけで余のクラスを当てるとは、面白い」
感心しながらまるで品定めをするかのような目つきでじっと俺を見ている。俺の知っているセイバーじゃないのか?こんなに瓜二つなのに……………………赤いけど。
「衛宮士郎。このものは彼女と瓜二つだが違う。見てみろ」
アーチャーはセイバー………………なんだかややこしいから赤セイバーと呼ぼう。アーチャーは赤セイバーに向かって指を差す。
「…………」
指のさされた位置を見て言葉を失った。なぜなら、赤セイバーのドレスが透明で下が丸見えだった。衝撃的過ぎてなんと言っていいやら…………………。
「私たちが知っている彼女ならこのような痴女みたいな格好はせんだろう」
「余は痴女ではないわ!」
「いや、その格好で言っても説得力がないだろう。第一恥ずかしくないのかね?」
やや呆れ気味にアーチャーは質問すると
「なにを言っておる。余の体に見られて恥ずかしいところなどない!それに、これは」
その場でダンスでも踊るかのように一回転し自らの服装を見せつけると
「見!せ!て!いるのだーーーーーーーーーーっ!!」
腰に手を当て、胸を張り、自慢気に答える赤セイバー。うん…………………このセイバーは俺の知っているセイバーじゃないと言うのがよくわかった。
いわゆる他人の空似と言うやつだな。後、思考がちょっとあれな人だ。そもそも、うちのセイバーはこんな格好しません!!
「いや、あ、そっ、そうかね…………」
あまりにも堂々としている態度にあのアーチャーですら、皮肉の一つも言えずに戸惑う始末だ。珍しいものを見た気がする。
「あ、あははは………………」
話を聞いていた桜も苦笑いを浮かべながら笑う。その気持ちはわかるぞ。かくいう俺も、どうリアクションを取ればいいのかわからないからな。
「セイバー………………恥ずかしいからやめてくれ」
いつの間にか、目を覚ましていた男子生徒がため息をつきながらベットから起き上がる。
「そ、奏者よ。目を覚ましたか!?もう大丈夫なのか?」
男子生徒に慌てて駆け寄る赤セイバー。そのスピードに驚き、不覚にも動けなかった。
「ああ、もう大丈夫だよ。ごめんね、セイバー…………心配をかけて…………」
「む、無論だ!余にこれだけ心配させたのだから…………!」
しゃべっている赤セイバーの頭に手を乗せて撫で始めた男子生徒。
「わかってるよ。そう言うことはマイルームでな………」
男子生徒の言葉に赤セイバーの顔が着ているドレスと同じように真っ赤になる。
「う、うむ!よ、余も楽しみにしているぞ」
「ハハハ。お手柔らかに」
笑いあう二人。
「「「…………………………」」」
一方、こんな光景をみてどう言っていいのかわからない俺たち三人。
赤セイバーと男子生徒の間に桃色のような空間ができ、甘ったるい空気が流れているのは気のせいか?
邪魔するのもあれなので、しばらく見守ることにした。無論、アーチャーも。
「あっ!そういえば、助けてくれてありがとう」
しばらくして、男子生徒は俺に気づき、お礼を言いながら頭を下げてきた。
「奏者よ。此奴らに礼などいわなくともよい!」
「なんでだ?廊下で倒れているのを助けてくれただろ?お礼を言うのは普通じゃん」
「なにを言っておる!?奏者がこうなったのは此奴のせいだからだ!」
「いや、むしろ被害者なんですけど……………」
親の仇を見るように俺を睨んでくる赤セイバー。うぅ…………顔がセイバーと瓜二つなためセイバーに怒られてる気分だ。
「え〜と………………どういうこと?」
イマイチ話の筋が理解できていない男子生徒は戸惑いの表情を浮かべる。
「すまない。君が倒れたのはこいつのせいなんだ。昨日…………」
アーチャーが男子生徒に説明をする。つーか、おれのせいって………………何気に罪を俺一人になすりつけてないかアーチャーのやつ?
「ふ〜ん。つまり…………」
説明を聞き終えた男子生徒は、俺の肩を叩く。
「君のせいってことか」
「まあ、簡単に説明するとそうかな…………………」
遠坂と話し合わずに逃げなかったら、こんなことにもならずにすんだかと思うし。けど、少しは遠坂も悪いと思う。
「ごめん。君とは関係ないことだったのに」
頭を下げて謝る。これで許してもらえるとは思えないがしないよりましだ。
「いいよ別に」
毛ほども気にせずにあっけらかんという男子生徒。俺がいうのもなんだが、少しは気にした方がいいと思うけど……………。
「でも、悪いと思うならおねがいをきいてくれない?」
「お願い?」
「焼きそばパン、カレーパン、アンパン、カツサンド、豚骨ラーメン、チャーハン、グラタン、ハンバーガー、麻婆豆腐。デザートにパフェとロールケーキでお願いします」
「ありがとうございます」
「……………………お願いってこれかよ」
時刻は、昼下がり。現在地、食堂。お願いごととは、飯をおごることであった。桜に聞いた話だが、基本この世界ではお腹が減っても健康は保たれる。
しかし、習慣で食べないと落ち着かない人もいるために食堂があり、一応、味や満腹度も得られるらしいのだが…………………
「………………いくら何でも食べすぎじゃないのか白野?」
彼がうちの家の虎にかぶって仕方が無いのは疲れているからか?それとも大量に食べよくとしているからなのか?
「なにいってるんだ士郎?食える時に食っとかないと」
男子生徒と改め、岸波白野。髪は茶髪で背丈と年齢は俺と同じくらいだ。しゃべってみたが、悪い人ではない。お互いに気が合う。でも、
「………………………」
なんか、さっきから無言でずっと(なぜか霊体化していない)赤セイバー睨まれてる……………。どうやら、彼女の方は俺に未だに許せないみたいだ。彼女は、白野のサーヴァント。マスターをあんな目に合わせた奴(直接の原因は遠坂だが)と一緒にいるなんて…………………
「セイバー決まった?」
「うむ!余はこの杏仁豆腐というものを食べてみたい」
「食べ物決めてただけかよ!?」
思わず、赤セイバーにツッコミをいれてしまい、二人は少し驚いた顔で見てきた。
「ん?士郎よ、どうしたのだ?」
「いや、さっき睨んでたのって俺を許せないからにらんでたんじゃなかったのか!?」
「ふっ、確かにあの部屋では切り伏せてやろうかと思っておったが」
チラリと白野をみる赤セイバー。白野と目が合うと互いにニコリと笑い合う。目だけで意思疎通で何かを確認しあったみたいだ。
「奏者が許したのだ。余も許さんわけにはいかん」
「そ、そうか…………」
なんか、釈然としないが許してもらえたからよしとしよう。考えるのをやめ、俺も昼食をたのむ。頼んだものは、浅利の味噌汁と焼き魚とご飯と昆布茶。
『…………………じじいくさいな』
頼んだメニューを見て、ボソリと呟くアーチャー。余計なお世話だ。アーチャーは保健室をでてからずっと霊体化した状態。本人曰くこの方が落ち着くらしい。
「う〜ん、席が空いてないな」
白野は食堂を見回しながら呟く。俺も周りをみてみるが空いているところは…………………。
「おっ!あそこがたくさん空いているぞ」
探してみるとほかのテーブルはひしめき合って座っているのに、赤い服をきた金髪の少年がいるテーブルだけが不自然な位空いている。何であんなに空いているのに誰も座らないだろうか?疑問に思ったが、俺も早くご飯が食べたいので気にしないことにした。
「あそこに合席させてもらおう」
「了解」
頼んだものを受け取り、金髪の少年の席の近くにいき、
「すいません」
声をかけた瞬間、周りがシーンと静かになった。なんだいきなり?周りに対する警戒心を少しだけ高める。
「はい。どうなさいました?」
しかし、金髪の少年は、食事の手を止めて周りのことも気にもせずに問いかけてきた。
「あっ、いや、座るところがないんで三人ほど合席いいですか?」
「ええっ、構いませんよ」
許可をとったので俺と白野とセイバーは席につきそれぞれ注文したものを食べ始め、金髪の男子生徒も、それと同じようにして食べ始める。
「うまいなこれ」
「ふむ、奏者よ。余もそれを食べてみたい」
麻婆豆腐を食べている白野をみて、羨ましそうにみるセイバー。ってか、麻婆豆腐食べるの早いな。結構量があったのに…………。
「いいよ。はい、どうぞ」
「うむ。……………!?」
麻婆豆腐を一口食べたセイバーの顔が真っ赤になり
「げほげほ!!」
「だ、大丈夫か!?」
盛大に咳き込んでいる赤セイバーに慌てて、水の入ったコップを渡すと勢いよく飲む。よっぽど辛かったんだな。
「あっ、言い忘れてたけど、それ激辛麻婆豆腐」
「そ、奏者よ。そういうことは早く言って欲しい……………」
そう言うともう食べたくないのだろうか、涙目になりながらセイバーは実体化を解く。
「ちょっと悪いことしたかな?」
「白野は辛くないのか?」
「俺は辛いものが好きだから」
そんなやり取りをしていると
「あなたがたは仲がよろしいようですね」
合席していた金髪の少年がいつの間にか食べ終わったようで、語りかけてきた。
「そう見えるか?」
「ええっ。付き合いが長いのですか?」
「いや、俺達はさっき知り合ったばっかりだ。あっ、俺、衛宮士郎。こっちが岸波白野。よろしく」
「よろしく」
二人揃って自己紹介をする。すると、金髪の少年は立ち上がる。
「これは後丁寧に。僕はレオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。気軽にレオと呼んでください」
お辞儀するレオ。俺と白野と違って礼儀正しい。ルヴィアみたいに貴族の出身の人かな?
「それともう一人ご紹介しておきますね」
レオがそう言うと、背後に白い甲冑を着込んだ騎士が現れた。その騎士を見た瞬間、彼女の姿が頭に浮かんだ。えっ?どうして……………。
「ガウェイン紹介を」
「従者のガウェインと申します。以後お見知り置きを。どうか我が主の良き好敵手であらんことを」
レオのサーヴァントたるガウェインは涼やかな笑みと共に頭を下げる。
そのあまりにも自然な動作につられて、頭を下げそうになりかけた。
「「「「「ガウェイン!?」」」」」
俺と白野だけでなく聞き耳を立てていたであろう周りの連中も同時に驚いた。ガウェインと言えば有名なのが【ガウェイン卿】の名前。
アーサー王の円卓の騎士のひとりとしても、アーサー王の片腕としても名を馳せ、彼にまつわる逸話も他の騎士に比べて多く存在している。
この聖杯戦争で相手にするとなると、話にある朝から正午までその力が三倍になるという効果と、セイバーの約束された勝利の剣の姉妹剣でもある転輪する勝利の剣という剣が厄介になるだろう。特性がそのまま反映されていたとしたら、正に無敵の存在だ。
(しかし、真名を明かすなんて…………)
あろう事か、こんな大衆の目前で、堂々と自分のサーヴァントの情報を提示するということは、それ位知られても、勝ち残れるという自身の表れ。
「あなた達と戦えるのは、二回戦か、三回戦か、はたまた最後の方か……いずれにせよ、あなた達との戦いが待ち遠しく思います」
礼儀正しく一礼すると二人はその場から立ち去っていく。周囲の戸惑う空気を切り裂くかのように、彼があるいて行った先は高潔で正常な空気が流れているような錯覚がある。
実際、そう言う訳でもないのだが、ガウェインという最大級の英霊がいることもこの空間に影響を与えているのだろう。
「………………だけど、彼は一体何者なんだ?」
レオナルド・ビスタリオ・ハーウェイ。この名前には聞き覚えがある。
名前を聞くまですっかりと忘れていたが、確か、あの偽りの学園生活の中で彼は存在していた。だが、マスターとしての彼のことは俺は一切知らない。
「白野はレオについてなにか知っているか?」
「んふ?」
今だ食事をしている白野に尋ねる。ついでにテーブルを見てみるとあれだけの量あった料理がほとんどない。こいつの胃袋は藤ねぇクラスだと。
「さあ〜俺もよく知らないけど強いんじゃない?ところで士郎。一つ質問いいかな?」
「なんだよ?」
「さっきから入り口で君の方をにらんでる美人は士郎の知り合い?」
「えっ?」
入り口の方に視線を向けてみ…………………てしまったのを俺は死ぬほど後悔した。そこには昨日同様に遠坂凛が仁王立ちしている。
「と、遠坂……………」
「ん?知り合いか?」
「……………ちょっとな」
「そっか……………じゃあ、邪魔しちゃあ悪いから俺はもいくとする」
持っていたスプーンを置き、懐から端末を取り出し、
「ごちそうさま士郎。またね」
端末を操作をするとその場から消えてしまった。えっ?何今の?
「ごきげんよう。衛宮君……………貴方って…………」
俺の方にやってきた遠坂は挨拶すると一旦言葉を区切り大きく息を吸い
「バッッッッッッッッカ!じゃないの!!」
食堂に響き渡る大きな声で叫んだ。ちなみに声量は食堂にいた何人かは思わず耳を塞ぎ伏せてしまうほど。近くにいた俺は耳がキーンってするくらい。
「な、なんだよ。いきなりバカって………」
「当たり前でしょ!あいつのことを知らないなんて、バカを通り越して大バカよ!!」
「あいつって………………遠坂はレオのことを知っているのか?」
俺の言葉に遠坂は頭を抑えはぁ〜とため息をつくと、俺の対面の椅子に座り、互いに向かい合わせとなる。
「………………周りを見てみなさい。結構な大物がこの聖杯戦争に参加してるわ」
遠坂の指摘を受け周りを見てみるとレオの存在が大きかったためわからなかったが、確かに周りからピリピリとした空気を感じた。この中の何人かかなりのやり手のようだ。
「大体、この中で周りを警戒してないのはあんたくらいよ」
そう言いますが、さっきまで無警戒のやつが目の前にいたけど、白野を売るみたいだからここは黙っておこう。
「いい。確かに周りの連中も警戒すべきだけど、レオはその中でも別格よ」
「そうなのか?」
確かに、円卓の騎士といえば、英霊としての格は、トップクラス。周りの様子から見てもレオの実力も相当のものと伺える。思い返してみれば、あの学園生活でもすでに記憶を取り戻していたように思えた。
「全く、聖杯を手に入れるためにわざわざ次期盟主がくるなんて………西欧財閥も本気で聖杯を取りにきたわね」
頭を抑え、ため息をつく凛。レオがいるのは遠坂にとっては予想外らしい。
「…………………ところで遠坂。一ついいか?」
「なによ?」
「西欧財閥ってなに?」
「あんた、バカでしょ?いや、むしろアホね」
養殖場の家畜でも見るかのような冷めた目で言われた。流石に少しひどくないか?
「なんで、あんな有名なところを知らないのよ!ねぇ教えなさいよ。あんたの脳みそは、味噌でできてるの?それとも、記憶が戻ってるのに、まだ学生気分でいるつもり?」
くっ………この怒涛のごとき口撃はまさしく遠坂凛。ってか、そこまで言わなくても……………。
「俺は、西欧財閥なんて知らないし。脳みそは味噌じゃない。それに、記憶はちゃんとあるぞ。だけど、ここに来る直前の……というか、ここに来た理由と方法は分からないけど」
「え……ウソ。本当に記憶が戻ってないの?」
恐らく、最後のセリフは冗談で言ったのだろうか、遠坂の表情が翳る。こんな表情を浮かべるなんて予想外だ。
「それって……かなりまずいわよ。聖杯戦争のシステム上、ここから出られるのは、最後まで勝ち残ったマスターだけ。途中退出は許されていないわ……あ。でも別に関係ないわね。聖杯戦争の勝者は一人きり。あなたは結局、どこかで脱落するんだから」
遠坂の心配そうな声が、話が進むに連れて、徐々に醒めた。遠坂にとっては目の前にいるのは、聖杯を奪い合う敵でしかない。
いや、目の前の一人だけではないなく、遠坂にとって、この聖杯戦争に来ている者は全てが敵なのだ。彼女のまとう空気がそれをはっきりと示している。
実感は沸かないが、目に映る人間は全て、殺し殺される関係にすぎない。そんな事実を嫌でも気付かせてしまう。それはいつかの……ビルの屋上からこちらを見下ろしていた姿と重なる。
「……ま、ご愁傷さまとだけ言っておくわ。今回のオペは破壊専門のクラッキングだけじゃなく、侵入、共有のためのハッキングだったし。一時的にセラフが防壁を落としたといっても、あっちの事情はわたしたちには知れないしね。あなた、本戦に来る時に、魂のはしっこでもぶつけたんじゃない?ロストしたのか、リード不能になってるだけか、後で調べてみたら?」
そう言われても遠坂の言っていることが半分も理解できない。クラッキングもハッキングなと出来ないし、いきなり魂とか言われてもそんな高等技術が出来るわけがない。俺が出来るのは強化と投影、それにあの術しかないのだから。
「……ま、どっちにしても、そんな足腰定まらない状態で勝てるほど、甘い戦いじゃないわよ」
「…………わかってるさ。でも、遠坂とは戦いたくないぞ」
「ばっ……!」
俺の言葉を聞いたとたんに遠坂は顔をまた赤く染めた。
「何言ってんのよ!あなた、この聖杯戦争は勝つか負けるかしかないのよ!?あなた、そんなんじゃすぐ負けるからね!」
「心配してくれるのか?やっぱり、遠坂はいい奴だな」
「ッ!!うるさい!!」
怒鳴るように叫ぶと、端末を操作して、白野同様、消えてしまった。
何か、気に障ることでも言ってしまったのかな?
≪一の月想海 第一層≫
遠坂と別れた後、俺とアーチャーはアリーナへと足を運んだ。アリーナへと足を踏み入れた瞬間、言いようのない違和感を覚える。まるで、昨日にはなかった異物が入ったかのように。ひょっとして……………
「ふむ、この気配……気をつけろ衛宮士郎。どうやら慎二がサーヴァントを連れてきているようだぞ」
やはりと言うべきか、アリーナでは慎二が待ち構えているらしい。アリーナ内で慎二と出会う可能性もある。その時は、戦わないといけない。
「これは何か情報を得られる好機かもしれん。アリーナに奴らがいるうちに、探し当てるべきだな」
「お前……どうしてそう冷静なんだよ。相手は慎二なんだぞ」
「そう言われても、私は貴様を勝ち残らせるために呼ばれたサーヴァントだ。……勝ち残る意思がないのなら、それを尊重するが」
「………」
アーチャーの言うとおり今の俺は勝ち残る意思が自分にあるかどうかと問われても答えられないだろう。今はただ問題を先延ばしにしているだけだ。黙り込む俺を見て、アーチャーは嘆息をつく。
「……敵マスターと接触することが好機か、命の聞きかは状況次第だが……今日のところは相手の手の内を……貴様の覚悟を知る好機と考えてよかろう」
アーチャーが立ち止まる。それより1歩遅れて、俺も同じく立ち止まると通路の先で慎二と、サーヴァントが待ち構えているのが目に入った。
慎二のサーヴァントをよく観察してみると、腰まで届く緋色の髪、顔を斜めに走る傷が目を引く。白いパンツに太ももまである黒いブーツを履いている。はだけている胸に思わず目がいき……慌てて、顔を逸らした。この時、遠坂とセイバーがいなくて、よかったと思う。いたら確実に、殺されるかもしれない。
「遅かったじゃないか、衛宮。お前があまりにモタモタしてるから、僕はもう暗号鍵をゲットしちゃったよ!」
もしかすると、アリーナに潜っていたところ、偶然目の前に暗号鍵が生成された、というところだろうか。
詳細は分からないが、慎二が手に持ってチラつかせるカード型の物体が暗号鍵だろう。
「才能の差ってやつだからね。うん、気にしなくていいよ!」
表情を変えたつもりはないのだが、慎二にはそう見えたのだろう。やけに口が回る。気分がはればれとしているな。
「はっ、ついでだ。どうせ勝てないだろうから、僕のサーヴァントを見せてあげるよ。暗号鍵を手に入れられないなら、ここでゲームオーバーになるのも、同じ事だろ?蜂の巣にしちゃってよ、遠慮なくさ!」
慎二がサーヴァントを見上げて言った。するとサーヴァントが肩を竦める俺に視線を移す。
「うん、お喋りはもうお終いいかい? もったいないねぇ。なかなか聞き応えがあったのに。ほら、うちのマスターは人間付き合いがご存知の通りヘタクソだろ?」
「確かに、慎二はそういうところがあるな」
学生時代、慎二は強引なところがあるため、俺と一成と一緒にいる時が多く、他の男子生徒と一緒にいることがあまりなかった。その上、女子生徒とよく一緒にいたためか男子生徒にとってはあまり良い評判ではなかったらしい。
「な、なに勝手に僕を分析してんだよおまえっ。コイツとはただのライバル!いいから痛めつけてやってよ!衛宮も、勝手に和むな!」
どうにもコントみたいな展開になってしまった。しかし彼女、慎二の特徴をずばりと見ぬいているな。
そういう才があったのか、あるいは人を率いる立場にあったのだろう。
こうなると自慢の慎二節も形無しだ。
「おやおや、素直じゃないねえ。だがまあ、自称親友を叩きのめす性根の悪さはアタシ好みだ。いい悪党っぷりだよシンジ。報酬をたっぷり用意しときな!」
クラシックな2丁拳銃を抜き、銃口を向けてくるサーヴァント。どうみてもあれは武器だ。咄嗟に武器を投影しようとしたが
「敵性プログラム
ならともかく、サーヴァント相手にマスターを戦わせるわけにはいくまい。手を出すなよ、衛宮士郎」
俺の代わりに干将・莫耶を投影し、アーチャーは女性サーヴァントと対峙する。これが戦いの合図のようで、とたん、アリーナが赤く染まった。
『セラフより警告 アリーナ内でのマスター同士の戦いは禁止されています』
そんな文字が俺たちを取り巻く。言峰の言ったとおり、このまま戦闘を続ければ15秒ほどで強制終了されるのだろう。それまで凌げればいい。
「チッ、もう気付かれたのかよ」
「なーに、手早く済ませればいいさ」
女性サーヴァントがアーチャーに向けて発砲。回避するのと同時にアーチャーは女性サーヴァントに突っ込み、干将・莫邪で切り裂く。
ガキィン!
接触。互いの武器がすれ合って、激しい火花が飛び散った。身を引きながら、回転するようにその場で刃を踊らせるアーチャーに対し、慎二のサーヴァントは英霊の武器特有の丈夫さを使って、ソレに臨機応変に応戦する。
剣閃が幾重にも積み重なる無骨な演武が続くかに思われた瞬間、アーチャーは得物を相手に向けて、放り投げ、跳躍しながら後退。
「おっと、危ないねぇ」
干将・莫邪を拳銃で撃ち落とし、
「倍返しさあ!」
そして両手の銃から5発の銃弾が放たれる。しかし、狙いは散漫であり、アーチャーはすぐさまあるものを投影をし、うち3発を武器で弾き、残りの2発は全身を捩じるように駆け、紙一重で回避する。
「驚いたね。あの剣があんたの獲物じゃないのかい」
アーチャーの手にしている武器を見ながら驚く女性サーヴァント。無理もない。アーチャーが今手にしているのは、普段使っている干将・莫邪ではなく、ランサーのゲイボルグだ。無論、ランクはかなりダウンしているが、そのリーチを活かし弾丸を弾くことに使ったのだ。
「あんた、何者だい?」
「さあな。セイバー、ランサー、アーチャー、アサシン、ライダー、バーサーカー、キャスターのどれかだろう?はたまた、エクストラクラスかもしれんぞ?」
何処かで聞いたような言い回しを終えると、ゲイボルグを投擲。真名解放されていないため、因果逆転は発動してない。しかし、コントロールが良いためか、相手に向かって真っ直ぐ飛んでいく。
「そいつは迂闊さね!」
サーヴァントの正面に出現したのは、追撃する両者を狙う船の砲台。
そんな大質量の物体が瞬間的な速さで弾をうちだした。投げられたゲイボルグは粉砕され、アーチャーに着弾した。煙で姿が見えない
「お、おい!?大丈夫か!」
情けない声を出してしまい、慎二はいやらしい笑みを浮かべたが
「騒ぐな。やかましい」
煙からアーチャーが出てきて、女性サーヴァントに向けて、矢を打ち込んだ。矢はかなりの速度打ち出され、普通なら当たるところだか
「やってくれるねえ! そうこなくちゃこっちもつまらないってもんさ!」
さすが英霊。矢がヒットする直前、僅かに上体だけずらし矢をかわす。
相手は、地に足を力強く叩き付けて体勢を立て直すがここで
【セラフより警告≫あと5秒で、戦闘を強制終了します―――最終警告です。アリーナ内での戦闘は禁止されています。ただちに戦闘行動を終了してください。最終警告です。アリーナ内での―――】
セラフから最終警告が降りた。
「チッ!藻屑と消えな!、」
最後の足掻きとばかりにサーヴァントが銃を乱射する。アーチャーは、あえて何も投影せず、黙ってそれらの攻撃をかわし続け、五秒後、それぞれの陣営との間には赤い防壁がぼんやりと姿を現した。あれには、いくら攻撃を加えようとも早々に壊れはしないだろう。
「チッ…セラフに感知されたか。まあいい、とどめを刺すまでもないからね。泣いて頼めば、子分にしてやらないこともないぜ?あはははははっ!!」
余裕そうな表情で慎二が、こちらを見下すようにあざ笑う。確かに今の俺では、慎二には歯が立たない。こんな中途半端な俺だと…………。
アリーナから慎二とサーヴァントが消える。帰還アイテム【リターンクリスタル】を使ったのだろう。
「ふむ……凌いだか。しかし、あのサーヴァントの武器が銃だと分かったのは収穫だな。断言はできないが、飛び道具を使うなら、奴のクラスは私と同じアーチャーかもしれん」
「…………………いや、それは違うと思う」
俺の言葉に、癇に障ったのかアーチャーは不機嫌そうに眉を顰める。
「ほう。まさかと思うが、カンではないだろうな」
「そんなあやふやな物じゃない」
俺だって指をくわえて、戦いを見ていたわけじゃない。いろいろとわかったことがある。戦いで分かったこととは、武器だ。
聖杯戦争が終わった後、投影が少しでもより良くなるよう、剣について調べまくった。その過程で、他の武器も調べたこともある。当然、調べた中に拳銃についての記述もあった。
あの銃は、確か、マッチロック式だった十五世紀くらいから使われていた銃だが、遠距離の攻撃を得意とするアーチャーにとっては不向きな武器。ギルガメッシュやこいつを見ていると尚更それが、よくわかる。
「そうなると、他のクラスに絞られるけど、ランサーやセイバー。つまり、三騎士からも、除外される」
「何故だ?根拠を聞こう」
「戦い方だよ。あのサーヴァントはその場殆ど動かずに戦ってただろ?あの動きは、比較的不安定な場所での戦闘してきた証拠だ。馬上とか船とかだと思う。クラスは有力でライダーかな」
ふと、ここで、俺は何を言ってるんだろうという考えが浮かんだ。こいつのことだから、また、ため息でもついて俺に皮肉を言ってくるに違いない。
「ふむ。なるほど…………理にはかなってるな」
顎に手を当てて、納得したかのように頷くアーチャー。こいつが俺の意見に対して皮肉の一つも入れないだと!?
「……………お前、何処か悪いのか?」
「貴様は私をなんだと思っているんだ?ただ、貴様の意見に納得しただけだろうが」
「そ、そうか………」
う〜ん、なんか皮肉を言わないこいつに変な感じがするがまあいいか。
結局その日は、いくつかのエネミーを倒した後、礼装と暗号鍵、そして
「「………………」」
見つけてしまった。藤ねえ愛用の竹刀、名称 虎竹刀。この竹刀で何度理不尽な暴力を受けてきたか……………あれ?なんだろ?目から涙がでてきたぞ。やっぱり、渡さない方が良いのかもしれないな。
「………………早く片付けろ」
アーチャーはやたら急かすが、余程昔のことを思い出したくないのか竹刀を見ようとせずに何処か遠くを見つめているとりあえず、渡すかどうかは別として、持ち帰ることにはした。わざと持ち帰らなかったことを知られたら酷い目に会いそうだからな。
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