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久遠の神話

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第九十五話 中田の決断その一

                久遠の神話
            第九十五話  中田の決断
 アポロンは八条病院に入った、彼はリラックスしていた。
 しかし周りはだ、ひそひそと話していた。
 声は人には聴こえない、だが神である彼等はその声を聴いていた。その声はというと。
「大丈夫かね、本当に」
「どうだからな」
「ドイツから来たそうだけれど」
「何でもドイツ医学界じゃ権威だってことで」
「それで来たけれど」
 アポロンの表書きもだった、ここで話されていた。
「今度の手術はどうかな」
「失敗したことがないっていうけれどね」
「けれど誰もがあの人達の意識を回復させることはな」
「難しいっていうしな」
「いや、不可能だろ」
「あれはもう不可能だよ」
 難しいどころではないというのだ。
「あれはとても」
「そうよね、とても」
「あれはな」
「手術は成功しないよ、あの人でも」
「幾ら何でも」
 こう話すのだった、そしてだった。
 その話の中でだ、彼等は中田の家族についても話すのだった。
「とてもな」
「有り得ないよな」
「手術が成功しても目覚める保障もない」
「手術の成功率は一パーセントもないし」
「成功しても目覚めるかどうかわからない」
「そんなのでな」
「どうなるか」
「わからないよな」
 こう話すのだった、彼等は。 
 だがアポロンは落ち着いていた、それで付き添ってきた聡美にも明るい声でこう言うのだった。
「皆面白いね」
「私にも声は聴こえています」
 病院の中でだ、手術とアポロンのことを話すその声をだ。
「既に」
「ではわかるね」
「どなたも不安がっておられますね」
「当然だよ、普通ではね」
「まず成功しない手術ですね」
「うん、まずね」
 人間が行うとだというのだ、そして。
「目覚めることもね」
「まずありませんね」
「手術の成功は不可能に近い、しかも成功しても患者が目覚める可能性は低い」
「それではですね」
「彼等が言うのも道理だよ」
 ひそひそとした噂話のそれをというのだ。
「それもね」
「人ならばですね」
「人の力ではね」
 無理があるというのだ、どうしても。出来ることと出来ないことがだ。
「彼等は知らない技術があるから」
「医療でもですね」
「そう、だからね」
「無理がありませんね」
「そうだよ、けれどね」
「お兄様なら」
「僕は医療の神だから」
 それ故にだというのだ。
「知らないことはないよ」
「医療ならですね」
「そう、問題はないから」
 だからだというのだ。 
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