リリカルなのは~優しき狂王~
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A‘s編
第三話~夜の逃走劇~
前書き
更新です。
今回詰め込み感が半端ないですが、何とか書き上げました。
後半グダグダかもしれませんが、本編どうぞ
海鳴市・結界内
辺りに砂埃が舞い、何かがぶつかり合う轟音と火花が散る。散る火花は鉄と鉄の接触ではなく、二種類の魔力の擦過から生まれる。それは魔法戦というある意味では非常識な戦いでは当たり前に生まれるものであった。
目の前でその戦いを見ているライは未だに混乱していた。
その理由は単純明快。自分の知り合いにそっくりな人物二人が、何故か手加減無しの戦闘を行い、更に言えばその二人のうちの一人が幼い姿をしているのだから。
(ここは過去の海鳴?だとしてもこの戦闘は?)
頭の中に席巻するクエスチョンマークに対する答えは出ることがなかったが、目の前で行われている戦闘の結果はすぐに出ることとなった。
防御に徹していた幼い姿のなのはと攻撃に徹していたヴィータとの均衡が崩れ、その結果としてヴィータの持つハンマー型のデバイスであるグラーフアイゼンが、なのはのプロテクションを破り、その勢いのままなのはの持つデバイス、レイジングハートを半ばからへし折ったのだ。
防御魔法とデバイスの犠牲により、攻撃の勢いが多少衰えてはいたがグラーフアイゼンはそのままなのはのバリアジャケットをかすめ、地面にその鉄槌が打ち下ろされた。
その威力は凄まじく、直撃していないはずのなのはの体を着弾の衝撃で吹き飛ばし、放り投げられるような速度で、近くにあった噴水突っ込んでいく。
「ッ!」
流石にそのまま静観はできないと判断したのか、ライはほぼ無意識に飛び出していた。
向かう先はなのはと噴水の間。ライは自身に出せる最速の動きをしようとする。ほぼ考える暇もないほどに動いたため、彼の頭の中には魔法を使うという選択肢すら思いついていなかった。
(間に合えっ!)
念じるように内心で叫び、体の正面を飛ばされてくるなのはの方へ向ける。
何とか噴水の方へ直撃する前に彼女の進行方向へ出ることのできた彼は目前に迫った少女を見据える。
そしてできるだけ衝撃を与えないように、彼女を受け止めるとほぼ反射的にそれに合わせ後方に跳んだ。
(浅いか?!)
背中から噴水の水に飛び込むような形になる二人。冬の夜に水に飛び込むという事を気にする余裕もなく、ライは背中から受ける衝撃に備え歯を食いしばった。
「ハァ……ハァ……なんだ、今の?」
その光景をヴィータは、グラーフアイゼンを地面に叩きつけた場所から見ていた。
傍から状況を見ていたライとは違い、彼女にとっては突然現れたライに疑問が生じる。結界内にいたということはリンカーコアを持っている可能性は高いが、バリアジャケットを着ていなかったことから魔導師ではないのかもしれない、と言う考えがヴィータの中で生まれる。
「アイツ、一般人か?」
彼女が口を開く前に派手に水しぶきを上げて落ちた二人のいる噴水の方へ、視線を向けなおす。
すると噴水の淵に片手をかけ、ゆっくりと立ち上がるライの姿がヴィータの視界に映る。彼の右腕、噴水の淵を掴んだのとは逆の腕にはなのはが抱えられていた。彼女は吹き飛ばされた時にでも気を失ったのか、その目は閉じられている。しかしそんな状態でも彼女は自分の相棒である二つに折れてしまったレイジングハートをしっかりと握っていた。
一方でライの方は、その特徴的な銀髪が濡れて額や頬に張り付いている。そして強く体を打ち付けたのか、少しふらついており、濡れてしまった服装も相まってどこか弱々しい印象を見るものに与えてしまっていた。だが、なのはがレイジングハートを握りしめているように、彼も腕の中の彼女をしっかりと抱えており、彼女に目立った外傷が無い事を確認した彼の目にはどこか安堵の色が伺えた。
「お前、一般人か?」
急に現れた目の前の男性に言葉を投げかけると同時に、手に持ったハンマーの切っ先を突きつける。
耳に入ってきたその向こうからの言葉で交渉の余地があるということは認識できたが、今手持ちに交渉のカードがほとんどない為、ライは何と答え、どんな取引を行うべきなのか判断に困ってしまう。
「……どう言う……意味かな?」
下手に受け答えをして、やぶ蛇を出すわけにもいかなかった為、曖昧な言葉を返す。その返答としてヴィータは怪訝な表情を浮かべるしかなかった。
(本当に一般人か?だけど、さっきコイツはあの魔導師を見て安堵してた……よな?)
その時の光景を思い出したことで一瞬自分の助けたい人の笑顔を連想してしまい、その表情が曇る。しかしそれも一瞬で振り払い、彼女は早々に要件だけ告げた。
「あたしはそいつに用があるんだ。そいつを置いていくなら危害は加えねぇ」
その説明で少しだけハンマーの切っ先の向きが変わる。そしてその切っ先が腕の中の少女に向いていることを認識すると、ライは先程までの弱々しさを感じさせないほどに強い意志をその瞳に浮かべ、首を横に振った。
「今がどんな状況下はわからないけど、気絶したこの子にまだ何かしようとするのであれば僕は抵抗する」
「……怪我するぞ」
「今更だね」
それを最後通告と決めていたのか、最後の切り返しを聞いた瞬間彼女はその距離を詰めるために、砲弾のように飛び込んでくる。
(随分と好戦的だな!!)
内心で文句を垂れながら、濡れて重くなったことでデッドウェイトとなったコートを器用に脱ぎ、向ってくる彼女の方に向けて投げつける。
一瞬だけでも隙ができれば、想定していた逃走ルートに逃げることが出来ると半ばそう信じ込むようにライは行動する。
コートを投げつけると同時にこちらも弾かれたように走り出す。背後から雑巾が落ちるような音と何かを砕いたような音が聞こえたが、振り返って確認するような余裕を今のライは持ち合わせていない。
「っ」
ゾクリ、と背後から魔力と敵意を感じ、ほぼ反射的にライはその場でしゃがみ込む。
「お?」
すると、視界には先程まで自分の頭があった高さに鉄球が通り過ぎる光景が、そして耳にはそれを放った張本人の驚いたような感心したような声が入ってくる。
(殺す気かっ、まったく!!)
内心でそう吐き捨てながらライは陸橋の下に入ろうとする。ヴィータは先ほどの鉄球、シュワルベフリーゲンを立ち止まって打ち出していたため、走って追いつくのは無理だと思い、飛行魔法で上空からライの後を追う。
その選択は普通であれば間違いではない。だが、ここは都会で、しかも時間帯は夜中である。視覚的な情報は集めにくく、そしてライが逃走に選んだのは上空からは遮蔽物が多くなる陸橋であるためライの逃げ切る可能性が少しだけ高くなる筈であった。
普段のヴィータであればこんな油断的な行為を行うことはそうそうないのであるが、ライが一般人であると勘違いしているため、偶発的とは言えその結果として今回の逃走劇が成り立っていた。
ライの方もヴィータとの距離が開いたことで思考する余裕が生まれたのか、今の状況を性格に把握していく。そして結論としてこのまま一般人の振りをしながら逃走を続ける事を選択する。普通であればそれは間違いではない。
間違いがあったとすれば、それは彼らとは別の人物達がその近くで戦闘をしていたことである。
「っ、崩れる?!」
陸橋の下を進んでいると、いきなり轟音と天井である陸橋が崩れてくる。
突然の事で混乱しそうになるが、ライは咄嗟に背中が下になるように前方に飛び込む。
「グッ!!」
無理矢理な飛び込みと飛んでくる瓦礫により強かに体を打ち付ける。苦悶が自然と漏れる。だが、その瓦礫が落ちて来てくれたおかげで辺りに土煙が立ち込めたことはライにとっては僥倖であった。
(このまま――――)
逃げようとしたところで、“それ”がライの視界に入った。
瓦礫の中心で横たわる少女。金色の髪を頭の左右でそれぞれ結び、黒いマントがそのうつ伏せになっている体を隠している。そして今、ライの腕の中にいる少女と同じく半ばから折れている杖を握りしめている、ライにとって見覚えのある女性に似た少女。
(……フェイト?)
ポツリと頭の中で呟き、逃げると言う選択肢を忘れライは彼女に駆け寄る。
近づいて彼女の様子を見ると、その姿は先ほどの砂埃で汚れ気を失っていた。
(さっきの落盤は彼女が追突したから?だとしてもなんで――――)
疑問を浮かべ、天井――――陸橋に空いた穴を見上げるとそこにまた。ライにとっての知人がそこにいた。
(シグナムさん?)
その穴の向こう側、夜空に浮かんでいるのは騎士甲冑をまとった烈火の将その人であった。
ライの思考は今度こそ疑問符で埋め尽くされる。
だが、その疑問に答えがもたらされる事はもちろん無く、その代わりにもたらされたのは追ってからの言葉であった。
「見つけたぞ」
声のした方に首を向けるとそこにはハンマーを肩に乗せ、ライ達三人を見下ろすヴィータの姿があった。目だけを動かし、確認するとシグナムも降りてきておりそのままヴィータと合流しようとしていた。
「今度こそ逃げらんねーぞ」
(どうする、一人ならまだしもこの二人相手は分が悪すぎる)
内心で一般人を装った事を後悔しながらも、目の前の現実を受け入れる。
「大人しくしてんのなら危害は加えねー」
そう言いヴィータは片手を掲げる。するとその手の平で浮かぶように一冊の本が転送されてきた。
(あれは確か……蒼天の書?)
記憶の中にあるユニゾンデバイスが使用するデバイスの姿がライの脳裏を過ぎる。
その本を取り出し、こちらに向き直ったことでライは今度こそ覚悟を決めようとする。
(こうなったら――――)
こちらに向けてその本を向けようとするヴィータの動きをよく観察し、意表を突けるようにじっと待つ。そして互いがその口を開こうとした瞬間、意外なところから横槍が入った。
「タイムアップだ。ヴィータ、今日は引くぞ」
止めたのは意外なことにこれまで静観をしていたシグナムである。
「管理局が嗅ぎつけたようだ。シャマルから連絡が来た。こちらに向かっているそうだ」
「!…………畜生っ」
小さく歯噛みし、こちらを鋭く睨みつけてくるヴィータ。その瞳はどこか欲しいモノが手に入らない子供の様に見えた。
逡巡は一瞬。二人はそのまま飛行魔法を使い去っていく。見逃してくれたことで一気に緊張感が解け思いっきり息を吐きそうになり、そして頭の中で様々な考えが働いていく。そして二人の奇怪な行動も気になったが、ライはとにかくなのはとフェイト(と思われる)二人の少女の手当てをすることから始めようと考えた。
後書き
と言う訳で、劇場版の初戦闘回でした。
原作との違いはなのはとフェイトのリンカーコアが無事ってことですね。
しかしキッチリカッチリデバイスは壊しました。(レイハさん、バルの兄貴すまんです)
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