魔法少女リリカルなのはStrikerS-King Seong clone of another-
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決戦 中
ドゥーエと自らのクローンと向き合いながら聖は体の感覚を確かめるように、掌を握ったり、開いたりしている。
……よし、同調はいい感じだ。問題は、俺の体が持つかどうか。
自らの体の限界を確認しつつも、聖はドゥーエを真っ直ぐと見据える。彼女は相変わらず笑みを絶やしておらず、その笑みはもはや恐怖すら覚える。
「それにしても……まさか聖王の魔力を使えるようになっていたなんて……。一体どんな手品を使ったのかしら?」
「簡単な話だ。確かに俺は聖王としては完全な失敗作だ。けどな、もとから聖王の魔力、聖王のリンカーコアは存在してたんだ」
「それはそうだけれど、そのリンカーコアは使い物にならないほどに小さかった気がするんだけれど? ……まさか貴方」
「その辺はやっぱり察しがいいな。そうだ、俺は元々あった俺のリンカーコアから少しずつ、聖王のリンカーコアに魔力を与えていたんだ。聖王のリンカーコアには封印を施してクラウンに持っていてもらってな。そして、クラウンの真名を解放することによって聖王の力が解放され、この二つを融合させ、俺は聖王の力を使えるようになったってわけだ」
ドゥーエから一瞬たりとも目を離さずに告げた聖だが、ドゥーエはただただ驚いていた。
……まさか一つのリンカーコアからもう一つのリンカーコアに魔力を与え続けるなんて。
驚いてはいるものの、彼女は聖の成長に頬を綻ばせてもいた。
すると、聖はドゥーエから目線を外し、目の前にいる三人のクローンたちに目を向ける。その中の一人、先ほど安綱によって腹部に風穴を開けられた一人が、頬に汗を滲ませていた。
感情はないといっても、疲労や体の不調は現れるのだろう。腹部からは血が止め処なく溢れておりり、それが脚を伝って地面に落ち、その場に血溜りを作っている。
それに対し、聖が唇を噛むとドゥーエが思い出したというように告げた。
「やっぱりその子はもうダメね。まぁエシェクの紛い物だし、それに今日だけの命だから死のうが構わないんだけど……戦力が減るのは残念ねぇ」
聖に対する挑発。と、取っていいのだろう。彼女はわざと聖に聞こえるように言い、聖の同様を誘っているのだろう。
しかし、聖はそれに小さく笑みをこぼすと、
「……そうかよ。だったら……せめて苦しまないように殺してやらなくちゃな……」
と、冷徹に告げる。ドゥーエはその声に気圧され一歩後ろに退いた。
だが、聖はそれに目もくれず、目の前にいるクローンの内の一人に肉薄すると、彼の左胸に貫手を放つ。
一切の容赦なく放たれたそれは、避ける暇もなくクローンの左胸に突き刺さった。一瞬クローンがその身体を震わせたが、やがて動きを止めた。
胸から手を引き抜きながら彼は自らのクローンに告げた。
「……許してくれとは言わない。だけど、せめて安らかに逝ってくれ」
聖の目から一筋の涙が流れ落ちた。
それでも、聖は他の二人に向き直ると、その二人を見据える。
「行くぞ……」
腕に魔力を集めた聖の下に魔法陣が現れる。それは今までのようなミッド式の魔法陣ではなく、はやてやシグナム達と同じ、古代ベルカ式の魔法陣だった。
魔法陣を展開したとほぼ同時に聖は二人に向かって駆ける。その速さはかなりのものであったが、二人はそれにギリギリ反応すると聖の攻撃を間一髪避ける。
しかし、聖王とほぼ同等の力を得た聖にとってそんなことは想定の範囲内であった。彼は腕に溜めた魔力を撃ちだした。
標的に向かって真っ直ぐに飛び、光の尾を引いて飛んでいく様はなのはのディバインバスターを彷彿とさせる。
砲撃は一人のクローンの鳩尾に直撃し、一人を大きく吹き飛ばした。だが、聖はそれで終わらせることはせず、吹き飛ばされたクローンを追尾する。
そして、クローンとの距離を一気に詰めた聖は先ほどと同じように、右胸に向けて貫手を放つ。
肉を抉り、骨を砕いた様子を鮮明に腕に感じながらも、聖の腕は手加減をせずに心臓を貫いた。
傷口から鮮血が散り、聖の顔、身体を濡らすが聖は腕を抜き取ると、その場にクローンを寝かせた。
「……眠れ」
すると、聖の隙を狙ってかもう一人のクローンが聖の後ろから彼に対し鋭い一撃を放った。
同時に血が飛び散る。
が、それは聖の血ではなく、クローンの血だった。
放たれた攻撃を身をねじるようにして避けた聖は、すぐさま身体を反転させクローンの胸に貫手を突き刺したのだ。
腕を引き抜くとクローンは膝をガクッと落とし、その場にうつ伏せに倒れかけるが、聖はそれを抱きとめ先ほどと同じように仰向けに寝かせた。
自らのクローン達の亡骸を見つめていると、木々の陰からドゥーエが軽めの拍手をしながら彼に告げた。
「凄いわねぇ。さっきまであれだけ劣勢だったのにそれをあっという間に覆すなんて……。流石は聖王の力というべきかしら?」
「……」
「あらら、だんまり? でも……変わったかと思ったけど大して変わってないみたいね。殺すことに躊躇もなかったし」
「そうだな……。確かに本質的には何も変わってないかもな。けどよ、もしここで俺が捕まったら俺は今まで俺が殺した俺達にどう顔向けをすりゃあいい? 結局スカリエッティには負けて、大切に思った仲間を救えませんでしたって言えばいいのか? 残念ながら俺にそんな風に諦めることはできないよ」
小さく笑いながら告げる聖に対し、ドゥーエは面白くなさげに溜息をついた。
〈戦力がなくなった今、貴女に逃げ道はありませんよドゥーエ。諦めて投降なさい〉
「あら、言ってくれるじゃないクラウン。欠陥品のくせして」
〈なんとでもいいなさい。しかし、貴女はもう終わりです。もう一度だけ言います。投降しなさい〉
クラウンが言うも、ドゥーエはクスッと笑う。それに聖は身体を低くして構えを取った。
「そうねぇ……。でも、流石におめおめとつかまるわけには行かないから。逃げさせてもらうわ。またね、エシェク」
彼女が言うと、ドゥーエの姿がその場から消え、彼女がいたところには小さな機械が落ちていた。
〈投影装置……。してやれられましたね〉
「あぁ。でも、にがさねぇ!!」
聖は言うと、魔法陣を展開し魔力が出る限り、放出し続けた。そしてある一定の距離まで伸ばした聖はニヤリと笑う。
「見つけた。こっから大して離れてねぇな」
聖は飛び上がりドゥーエを補足した場所へ向かう。その速さたるや凄まじいものであり、フェイトであっても追いつくことが至難の業であることが伺える速度だ。
そして、聖はドゥーエの前に降り立った。
「ドゥーエ!! もう逃げ場はない! お前はここで捕まえる!!」
しっかりとした声音でドゥーエに言い放つ。しかし、ドゥーエは声高らかに笑った。聖はそれを警戒するが、ドゥーエが指を打ち鳴らした瞬間、聖の身体に痺れる様な感覚が走った。
「ぐっ!?」
「かかったわねエシェク。私が何の準備もなしに只逃げると思った? 残念、全てはここで貴方を捕まえるためよ。それはドクターが開発したプラズマフィールド。どんな相手であっても確実に動きをとめることができる代物よ」
言いながらドゥーエは聖に近寄る。聖の方はと言うと、苦しいのか顔を苦悶に歪ませる。
「これでお終いね、エシェク。安心しなさいな。記憶を消したら前みたいに可愛がってあげるから」
妖艶に微笑んだまま聖に手を伸ばすドゥーエ。
しかし、聖はそこで苦悶に歪ませていた顔を綻ばせた。
それに気付いたドゥーエは彼から距離をとるものの、先ほどまで聖がいた場所に彼がいないことに気付いた。だが、それは探さずともすぐに見つかった。否、見つかったではなく聞こえたの方が正しい。
「お終いなのはテメェだよ!!」
すぐ背後から聞こえた聖の声に、ドゥーエは振り向こうとするものの、次の瞬間、彼女の首筋に衝撃が走った。
聖が手刀を放ったのだ。
それをドゥーエも認識できたものの、体の筋肉が全て眠ってしまったかのように動かず、彼女はそのままうつ伏せに倒れ付した。
同時に、手と足を拘束される感覚を彼女は感じた。聖がバインドを施したのだ。
「五重にバインドを仕掛けた。いくらテメェでも、これは解けねぇだろ」
頭上から聞こえてくる聖の言葉にドゥーエは僅かに笑みをこぼした。聖はそれに気付いておらず、少し疲れた様子を見せながら息が上がっていた。
……本当に、強くなったのね……エシェク。ドクターには悪いけれど……少しだけ嬉しくなっちゃった。
笑みを見せるドゥーエだが、それは今までのような何か含みがある笑みではなく、心のそこから微笑んでいるようだった。やがて、意識が遠のいたドゥーエはそのまま意識を手放した。
ドゥーエが意識を失ったのを確認した聖は、その場に四つん這いになった。彼の顔には大粒の汗が滲んでいた。
さらに、一瞬苦しげな顔を見せたかと思うと、聖は血反吐を吐いてしまった。
聖の身体は聖王の力を使うには適しておらず、使おうとする時点で身体に激痛が走り、さらにはこのように吐血もしてしまうのだ。
よって、聖王の力は聖の身体には毒であり、使ってはならないものなのだ。
「ゲホ! ゴホッ!! ……やっぱり、聖王の力はやばかったか……」
〈聖様、このままでは貴方の体が持ちません。すぐに力の解除を!〉
「ダメだ……。まだ残ってる」
クラウンの提案に聖は膝を震わせながら立ち上がると、空に浮かぶ巨大な戦艦。聖王のゆりかごを睨んだ。
するとその時、聖の頭上にヘリの影が現れた。そこにあったのは、六課の出撃の際見慣れた深い緑色のヘリだった。
ヘリはそのまま地上に着陸した。
「聖! 大丈夫かお前!?」
ヘリから降りてきたのはヴァイスだった。聖は僅かに笑うと、ヴァイスに答えた。
「あぁ。なんとかな。それより、お前も大丈夫なのかよヴァイス」
「たいした怪我じゃねぇよあんなもん。それより、コイツが?」
「ナンバーズの二番、ドゥーエだ。……ヴァイス、俺はこれからあの聖王のゆりかごに乗り込む。コイツの護送を頼めるか?」
聖が言うと、ヴァイスは快く頷き、
「まかせとけ。これぐらいならおやすい御用だ。……けどよ聖、あんまし無理はすんなよ? なのはさん達が心配なのはわかるけどな」
「ああ。無理はしねぇよ。……ヴァイス、ティアナ達のことも頼んだ」
「おうよ! 新人共もきっちり拾ってきてやるから、お前は安心して嬢ちゃんを取り戻して来い!!」
聖は頷くと、ゆりかごへ向けて飛び立った。
……待ってろよ。ヴィヴィオ!!
旧市外ではエリオとガリュー、ルーテシアとキャロの戦闘が激しさを増していた。
ルーテシアは究極召喚を行使し、自身が所持している最強の召喚獣、白天王を召喚しており、キャロもまた自らの究極召喚獣、ヴォルテールを召喚していた。
二体の巨大な召喚獣達は互いにその巨体をぶつかり合わせながら戦っていく。衝撃が対峙する二人の下にまで伝わるが、ルーテシアとキャロは向かい合っていた。
「ルーちゃん! 目を覚まして!! これ以上やったら貴女が!」
クアットロの介入があってからもキャロは諦めずにルーテシアに呼びかけていた。しかし、クアットロによって自我を操られてしまったルーテシアはそれに聞く耳を持ってくれなかった。
だが、彼女の瞳からは涙が溢れ出ており、瞳の奥はとても悲しげであった。
ガリューと睨みあうエリオは今のガリューの状態に目を覆いたくなっていた。なぜならば、ガリューの腕からは鋭い剣が突き出ており、その剣には真っ赤な血がついていた。
四つの瞳からも血の涙が溢れ出し、彼自身も相当辛いのだということが伝わってきた。
すると、キャロからエリオに対して念話が送られた。
(エリオ君)
(うん、わかってる)
エリオはキャロの言葉に頷くと、ストラーダからカートリッジを吐き出させた。
「行くよ、ガリュー! これで君を止めてみせる!!」
言ったと同時に、エリオの足元に魔法陣が展開されストラーダからも魔力の放出が始まった。魔力が放出されたことにより、ストラーダには推進力が追加され、圧倒的な速さでガリューへと詰め寄った。
「はああああああああっ!!!!」
咆哮を上げガリューにストラーダを叩き付けるエリオだが、ガリューもそれを冷静に受け止める。
しかし、建物が老朽化しているためか、その衝撃で屋上の床が砕け落ちた。
瞬間、ガリューに隙が出来たのをエリオを見逃さず、彼はもう一度ストラーダのカートリッジをロードした。
「聖さん! 教えてもらった技を使わせてもらいます!!」
叫んだエリオはストラーダを構えその全身に雷光を纏った。その影響か袖が肩まで吹き飛ぶが、エリオはお構いなしに雷光を纏う。
「白雲流!! 幻瞬閃撃!!!!」
本来であれば平地で使い、相手に突きを放つこの技だが、今は落下中でありエリオの全身には雷光が纏われ、さらにはストラーダによる加速もついているため、通常の技とは比べ物にならないほどの突進力と破壊力が生まれていた。
「でやああああああああああああっ!!!!!」
雄たけびを上げながらガリューに突撃するエリオに対し、ガリューは空中であるためなす術がなく、エリオの一撃をモロに喰らった。
そのままガリューは地面に落ち意識を失った。エリオは肩で息をしながらその姿を見つめるが、彼の周りには放出し切れなかった雷光がバチバチと瞬いていた。
エリオがガリューとの戦闘を終えたとき、キャロもまたルーテシアとの戦いを終わらせようとしていた。
頭上ではフリードの放ったブラストフレアと、ルーテシアの二体の地雷王の放った雷撃がぶつかり合っている。
別の場所でも白天王とヴォルテールが互いの砲撃をぶつけ合っている。
「ルーちゃん……!」
自らの召喚獣たちがぶつかり合う中、二人も負けじと魔力を送り続ける。しかし、その時ルーテシアのデバイスに亀裂が生じた。
その好機を見逃さず、キャロはもてる魔力を限界まで引き出し最後の一押しを仕掛けた。それにより、ヴォルテールは白天王に競り勝ち。フリードも地雷王に打ち勝った。
だが、競り負けたルーテシアは仰向けに倒れ、気を失ってしまった。
「ルーちゃん!!」
キャロが駆け寄り、ルーテシアを抱きあげるものの、まだコンシデレーションコンソールの影響が出ているのか、ルーテシアは苦しみだしてしまった。
さらに、主であるルーテシアが気を失ってしまったためか、召喚獣たちが混乱をし始めてしまったのだ。
「このままここにいたら危ない……フリード!!」
キャロが呼ぶと、フリードは咆哮をしキャロとルーテシアを背に乗せた。途中、エリオも乗せ三人は召喚獣たちから距離を置いた。
「キャロ、ルーの召喚獣達は……」
「うん。ルーちゃんの精神状態が不安定になってるのもそうだけど、主からの信号が送られなくなって凄く混乱してる」
「じゃあ何とか止めないと!」
「白天王の方はヴォルテールがとどめてくれるから、エリオ君は地雷王の攻撃を止めて。私とフリードもサポートをするから!!」
「了解!!」
エリオは立ち上がると、ストラーダを構えた。フリードとヴォルテールもまた自身のやるべきことに了解したのか大きく吼えた。
その二人の様子をスカリエッティのアジトで拘束させられた状態で見つめていた。すると、二人の戦う様を見ていたスカリエッティが大きく笑った。
「いやはや、随分と君が育てる子供達は強いじゃないか。まさかルーテシアを負かすとはねぇ……ククク」
その隙を狙い、フェイトが自らを囲っていた赤いケージを断ち切った。しかし、フェイトは肩で息をしておりかなり苦しげだ。
「ほう……それが君の奥の手というわけかい? 確かに凄まじいものだが……かなり消耗するようだねぇ。AMFが濃いここで使うには向いていないと思うが」
「黙れっ!!」
スカリエッティの声を聞くまいと、フェイトは怒りを露にしながら怒鳴るが、彼はそれを気にした風もなくデバイスをはめ込んだ右手を動かした。
それによりまたしても床から赤い線が飛び出し、あっという間にフェイトを拘束してしまった。普段のフェイトであればこの程度の拘束ならば、受けることはなくすぐさま抜け出せたはずだろうが、AMFが濃いこの状況下ではそこまでの反応が出来ないのだろう。
「くっ!?」
「フフフ、いい表情だ。……テスタロッサ執務官、私と君は似ていると思わないかい?」
「なに……!?」
「まぁ聞きたまえよ。私は彼女等ナンバーズをその他にもエシェクと言う生体兵器。君は君自身が見付だした自分に反抗することのない子供達。ほら、既にこの時点で共通点が見つかったじゃないか。それを自分の都合のいいように作り上げ、自分の思うように行動するようにしているじゃないか」
スカリエッティの言葉がフェイトの心に突き刺さる。自分では決してエリオやキャロたちのことをそんな風になど扱っていないと考えていたが、もしかすればスカリエッティの言ったとおり、エリオ達を自分の思うように作ってしまっていたのかもしれないという不安が彼女の心に暗い影を落とした。
それでもフェイトは頭の中でそれを否定しスカリエッティを睨みつける。
「その顔は違うと言いたそうだが……違わないよ。私がそうであるように、君もまた彼等を自らに逆らうことがないように育て上げ、そして戦わせているじゃないか。今がその言い例だ。これは君の母君もやっていたことだろう?」
「違うっ!! 母さんはっ!!」
「そんな人じゃない、かい? ククク、確かに君の母君、プレシアも最初は人々が幸せになるためにと研究をする人物だった。だが、結局は禁忌を犯し君と言う存在を生み出したじゃないか。そうだね、君の母君が加害者か被害者かで言えばどちらかといえば彼女もまた被害者だろう。だけどね、彼女は結局自分以外の人間は自分が良い様に使える駒だとしか思っていなかっただろう? 十年前のジュエルシード事件で君はそれを実感しただろう?」
肩を震わせながら告げるスカリエッティに対し、フェイトは唇を噛んだ。
母を侮辱された悔しさがこみ上げるが、言葉が出てこないのだ。
「そのくせ君達は自分に向けられる愛情が薄れることに対してはかなり臆病だ。何度も言うが、実の母親がそうだっただろう。そんな彼女から生み出された君なんだから、君もいずれあの母親のようになるよ絶対にね。間違いを犯すことにただ怯え、薄っぺらな友情ごっこにすがりつく……なんとも滑稽じゃないか」
寒気がするような笑みを浮かべながら告げるスカリエッティの瞳は、まるで蛇のようだった。獲物を弱らせ、最終的には飲み込んでしまう。そんな蛇のようだった。
そんな蛇の巧みな話術と、心を抉るような言葉の数々。それらの影響によって、フェイトの心は壊れてしまいそうだった。
しかし、
『そうだな。確かに滑稽かもしれない』
そこにいるはずのない、フェイトが心のそこから好いて、惚れこんでる一人の男性の言葉が響いた。
「おや、エシェク? どうしたんだいその姿は? まさか聖王の力を使っているというのかい?」
『ああそうだ。ドゥーエも倒した。あとはゆりかごの中にいるヴィヴィオを助けるだけだ!』
「ほうほう。ドゥーエが負けたか……それは実に残念だ」
口ではそういっているものの、顔は全くといって良いほど残念そうではなかった。
すると、聖の声を聞いたフェイトが彼の名を呼んだ。
「ひじ……り?」
弱弱しい声で彼の名を呼ぶフェイトに聖はそれを見て笑みを浮かべながら告げる。
『なんつー顔してんだよお前は。いいか? エリオやキャロがお前のいいように育てられてると思うか? 残念ながら俺はおもわねぇ!! あいつ等は自分の意思でルーテシアと戦うことを選んだ、それはお前に影響されてかもしれない。けどな、それはお前が命じたことじゃない!! あいつ等が選んだことだ!! そうだろ、エリオ、キャロ!!』
聖が言うとフェイトの前に通信画面が現れ、エリオとキャロがフェイトに告げた。
『聖さんの言ったとおりです。フェイトさん、僕達は自分で自分の道を決めました!』
『フェイトさんは居場所のなかった私に暖かい場所をくれました。そして、たくさんの優しさもくれました!』
『機動六課に入ってなのはさんやヴィータ副隊長、シグナム副隊長、聖さんに鍛えてもらって』
『守るということの大切さを教えてもらいました!!』
『『フェイトさんは何も間違っていません!!』』
二人は声を合わせてフェイトに告げる。フェイトはそれにハッとするがそこへさらに聖が付け加えた。
『いいかフェイト、人間なんてのは間違って当然の生き物だ!! それをいちいち気にしてたら埒があかねぇ!! 間違ったら次につなげろ、二度と同じ間違いをふまねぇようにな! もし、それでもテメェが道を踏み外すって言うんなら……俺が!! いや、俺達が!! ぶん殴ってでもテメェを正してやる!! だから戦えフェイト!! 自分が信じる信念のままに!!!!』
一際大きく言い放った聖の言葉にフェイトは涙を零しながらも、消えかけた光をその双眸に燈した。瞬間彼女の体が金色の光に包まれた。
「ありがとう……。聖、エリオ、キャロ。そうだね……私にはこんなに優しい人たちがついていてくれる。薄っぺらな友情じゃなくて、もっともっと強いものでつながってるんだね」
光の中で三人に礼を言いながらフェイトは愛機であるバルディッシュの名を呼んだ。
すると、バルディッシュもそれに呼応しフェイトのバリアジャケットの形を変えていく。
先ほどまでは全身を覆う、防御も考えられたフォームだったものが肌の露出が多くなり、防御を全て度外視したようなフォームへと形を変えた。
このフォームをフェイトは真・ソニックフォームと名付けており、その速さたるや聖王状態の聖以上の速度が出せ、まさにその姿は雷光に等しい。
さらに、先ほどまで一本だったバルディッシュが二本に増え二刀流となった彼女はバルディッシュを構え魔力を霧散させた。
その姿を見たトーレが傍らにいたセッテに告げた。
「セッテ、焦るなよ。あの形状からして防御は完全に無視している。一撃を打ち込めればこちらの勝ちだ!」
「はい」
トーレの指示にセッテは静かに頷くとスローターアームズを構える。トーレもまた自らの武装を構えた。
その二人を見ながらもフェイトはまさに雷光と呼べる速さで駆ける。二人もそれに反応し飛び上がるが、セッテは一瞬で眼前に躍り出たフェイトになす術がなく、スローターアームズを使う暇なく打ちのめされてしまった。
「セッテ!!」
トーレが心配げな声を上げるが、そこへ聖が告げた。
『よそ見してる暇はねぇぞトーレ』
「っ!?」
その声にトーレが前を向いたときには既に遅く、フェイトがバルディッシュを振りかぶり、トーレに向かって振り下ろそうとしていたのだ。
「はああああああああああっ!!!!」
「ぐぁっ!!」
何とか武装で防いだものの、衝撃を堪えることが出来なかったトーレはそのまま床に叩き付けられ、数度バウンドした後にうつ伏せに倒れた。
そんな彼女達を見てもスカリエッティは顔色一つ変えず向かってくるフェイトを再度拘束しようと糸を出現させるが、フェイトはそれを容易に切り裂き、スカリエッティとの距離を詰める。
その最中、フェイトは二本になったバルディッシュを一つにした。
「バルディッシュ!! ライオットザンバー・カラミティ!!」
答えるようにコアを光らせたバルディッシュは形を変え、一つの長大な大剣となる。
「せやあああああああああああ!!!!!」
気合を込めてフェイトは渾身の力でザンバーを振り下ろした。スカリエッティは冷静にそれを受け止めるが、質量や力が違いすぎるためか、彼のデバイスには亀裂が入った。
「あぁ、君やエシェクのあの力欲しかったなぁ!! だが、私の野望はまだ止まらんよ!!」
最後の最後までスカリエッティは狂気に満ちた笑みを浮かべるも、フェイトはザンバーを彼から離し、それを横から思い切りスイングした。
壁に叩き付けられ埃が舞うが、フェイトは彼のもとまで足を運ぶと、
「ジェイル・スカリエッティ……貴方を逮捕します」
力強く告げたフェイトはスカリエッティにバインドを施した。フェイトは息を整えると、聖に回線を開いた。
「ありがとう、聖。でもその姿は?」
『今は説明してる暇はない。後でゆっくり話す。そっちはもう平気か?』
「うん、大丈夫」
『わかった、俺は今からゆりかごに向かう。そいつ等のこと頼んだぜ』
「了解。……ねぇ聖? さっき言ったことって本当?」
『……ああ。ホントだよ。お前が間違えそうになったら何度でも手を伸ばしてやる』
聖は小さく笑いながら言う。フェイトもそれに笑みを返すと聖に告げた。
「じゃあ、ヴィヴィオのことよろしくね」
『任せとけ!!』
そういい残すと聖は通信を切った。
「がんばって、聖」
最後にそう告げ、フェイトは後始末を始めた。
ゆりかごの中にてクアットロがモニタを開きながら残念そうな声を上げた。
「あーららぁ。まさかドクターたちも負けちゃうなんてぇ。……でもまぁいいかしら。何せこっちには聖王陛下がついてるわけだし」
残忍な笑みを浮かべながら言うクアットロのモニタには、聖と同じく聖王の力を身に纏ったヴィヴィオと、満身創痍のなのはの姿があった。
後書き
とりあえずはライトニング隊のほうはシグナム残して終了……。
いやー長いw
さて次はスターズとシグナムですなw
そしてその次がいよいよ決着でございます!!
ゴールが見えてきましたが、最後までお付き合いいただければと思います!!
感想などありましたらお願いします
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