魔道戦記リリカルなのはANSUR~Last codE~
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Epos18恋乙女狂想曲~I like you? No, I love you~
†††Sideはやて†††
みんながリンドヴルムって人たちを迎撃するために居らんその間、わたしはすずかちゃんの家に泊まりに来ることになった。すずかちゃんのお家はホンマに大きくて、お嬢様やってことがよう判る。
すずかちゃんの家に泊まりに来たんはわたしだけやない。なのはちゃん、アリサちゃん、フェイトちゃん、アリシアちゃん、シャルちゃん、みんなも一緒や。同い年の女の子だけのお泊り会なんて初めてやから、ホンマに嬉しい。
夕ご飯はみんなで一緒に作ってドキドキ。みんな一緒にお風呂に入って洗いっこをしてドキドキ。すずかちゃん達から学校での出来事を聴いてドキドキ。新鮮なドキドキばかり。
『はやてちゃん。シャマルです。リンドヴルムの迎撃が完了しました。みんな、無事ですから安心してください』
泊り用の客室でみんなとお喋りしとる中、シャマルから思念通話が来た。わたしは『うん。良かった』って心底安堵する。みんなは余裕で勝つから安心して、って言うてたけどやっぱりどこか不安やった。でもそれも晴れた。
シャマルの思念通話に遅れて『はやて、おやすみ!』ってヴィータからの元気な挨拶も来たし。わたしはみんなに『おやすみ、また明日な♪』思念通話を送った。みんなから『おやすみさない』って返って来た挨拶に心がほんわか。やっぱり家族と話せるんは嬉しいものやな。みんなに挨拶をして思念通話を切る。
「でさ、あたしはこう思ったわけよ。はやて。あんた、うちの聖祥に転入して来なさい」
「命令形って・・・、アリサちゃん」
アリサちゃんがいきなりそんなことを言いだした。すずかちゃんがやんわり注意。わたしが反応する前に「それいい♪」アリシアちゃんが諸手を挙げて賛成の意を示す。そんなアリシアちゃんを窘めるんはフェイトちゃんで「さすがにそんな、ねぇ。無理だよ、きっと」ってアリシアちゃんの頭を撫でた。
アリシアちゃんは「もう、妹扱いしないで」って頭を振るった。驚いたことにフェイトちゃんはお姉さんやなくて妹さんで、アリシアちゃんの方がお姉さんやった。双子さんらしいけど、どう見てもアリシアちゃんの方が妹さんで、小学1年生くらいにしか見えへん。うん、ちっちゃくて可愛くてギュって抱きしめたい。
「はやて? なんか失礼なこと考えなかった?」
「うぇ? ううん、なんも考えてへんよ。ちみっこくて可愛ええなぁ、とか、ギュってしたい、とか、小学1年生にしか見えへん、とか思うてへんよ?」
「思いっきり思ってるじゃん!」
「つい本音が・・・」
「本音とか言った!」
アリシアちゃんがベッドの上でジタバタ暴れ出した。あちゃあ、アカンのやな、やっぱり子ども扱いするんは。謝ろうとしたところで、「やっぱり誰でもそう思うよね~」シャルちゃんがベッドに上がってアリシアちゃんを抱きしめて頭を撫でまわす。
「シャルぅ~!」
みんなの中で体が一回り小さいアリシアちゃんはシャルちゃんにされるがまま。
「にゃはは。アリシアちゃんって、言ったらまずいけどマスコットキャラみたいだから」
「実際にクラスでマスコット扱いだよね・・・」
「そうそう。それどころか上級生の女子にも人気だし。アリシアの何が惹きつけるのかしらね?」
シャルちゃんだけやなくて、床のカーペットに座ってたすずかちゃん達もベッドに上がって、アリシアちゃんの頭を撫で始めた。
「なのはもすずかもアリサもイジワル! フェイト、お姉ちゃんを助けなさい!」
揉みくちゃにされてたアリシアちゃんはついに妹のフェイトちゃんに助けを求めた。フェイトちゃんは「え、あ、うん・・・」アリシアちゃんに群がっとるすずかちゃん達の側へ歩み寄って行って「・・・よしよし」フェイトちゃんもなでなでに参加した。
「ちょーーーーーっ!?」
まさかの裏切りにアリシアちゃんは絶叫。わたしも参加したいなぁって思うたから車椅子移ろうとしたところで、「フライハイトタクシーです♪」なんとシャルちゃんがベッドからカーペットに座るわたしの側まで跳躍してきた。運動神経・身体能力がすごい。そんなシャルちゃんは「わわっ?」わたしをお姫様抱っこ。
「シャルって本当に力持ちよね」
「ゴリラ?」
「失礼な!」
「お返しだよ~♪」
アリシアちゃんとシャルちゃんのやり取りにみんなが笑う。シャルちゃんは「お返しのお返しだ!」って言って、「そぉい!」わたしをベッドに放り投げた。一瞬の浮遊感に「ひゃっ?」短い悲鳴を上げてしもうた。ボフッとわたしはフワッフワな柔らかベッドに背中から落下。
「さぁ、皆の衆。生意気な年長者に思い知らせてやれ。くすぐれぇぇぇぇーーーー!」
「「「「「へ?」」」」」
「にゃんと?」
シャルちゃんもピョンとベッドの上に飛び乗ってアリシアちゃんを撫でる・・・ことなく脇に手を差し込んでくすぐり始めた。真っ先に乗るのが「よしっ、やったろうじゃない」アリサちゃんで、アリシアちゃんのパジャマの裾を捲ってお腹をくすぐり始めた。
「きゃははははは! ダメ、お腹、ダメぇぇーーー!」
顔を真っ赤にして涙を浮かべながら悶えるアリシアちゃん。さすがにそれは可哀想やってことで、くすぐりに参加してへんわたしらが2人の蛮行を止める。
「――で、えーっと、なんでこんなことになっちゃったんだっけ?」
「はやてちゃんの転入の話から、だったかな?」
「うん、確かにそうやった」
「でも本当に出来るの? もし出来るのなら、みんなで協力してはやてがちゃんと学校生活を送れるようにするから」
「そうね。悠々自適なスクールライフを約束するわ」
「わたしも手伝う」
アリシアちゃんに頬をこねられたり引っ張られたりしとるシャルちゃんもそう言ってくれた。
「どうせなら同じクラスに転入できるようにしたいよね。というかシャルのほっぺ柔らかーい」
みんなと話しながら、聖祥に転入できるかどうかを考えてみた。グレアムおじさんに頼んでみよかな。みんなと一緒ならきっと楽しい学校生活になるはずや。それに、ルシル君も出来たら一緒に。ルシル君の知能やったら小学校の勉強なんて面白くなくて、つまらへんものかも知れへんけど。でも一緒に通えたらええなぁって思う。それからわたしらは寝落ち限界まで喋って・・・。
「ふわぁ。アリシアちゃん、寝ちゃったね・・・」
「なのはも落ちそうね・・・。ふわぁ、あたしももう限界かも」
「明日も学校だし、もう寝る事にしよう・・・」
「さんせ~」
「異議なし、や」
わたしも、いつもベッドに入る時間を超えて起きとるからいつ寝落ちしてもおかしくない。とゆうわけで、寝落ちする前に「おやすみ~」挨拶を交わして、みんな仲良く雑魚寝で眠ることにした。
ガサガサってゆう衣擦れの音に「ん・・・?」目を覚ました。と、「あ、起こしちゃった? ごめんね」なのはちゃんがそう謝ってきた。よく見ればアリシアちゃん以外のみんなが起きとって、動き易いジャージで身を包んでる。
「ううん、ええよ。みんなどうしたん?」
「これからちょっと特訓をね」
シャルちゃんの返答に「特訓?」って訊き返す。シャルちゃんは「そ♪ 見学してみる?」って答えてくれたから、わたしは頷き返して一緒について行くことにした。わたしらは顔を洗ってから庭に移動。すずかちゃん達はそれぞれ準備運動をして、起きたばっかで鈍った体に熱を持たせ始める。準備運動が終わると、みんなが木刀を手に取って素振りを始めた。それはまるでルシル君やシグナムのようや。
「でもなんでこんなことを・・・?」
「勝ちたい人たちがいるんだ」
誰とも言わずにわたしがそう訊くとフェイトちゃんがそう教えてくれた。
「とっても強い人たちで、でもきっと優しい人たち。だから止めたい。お話をしたいの」
続いてなのはちゃん。見た感じ、なのはちゃんの素振りの型は素人のもんやないことが判る。ルシル君とシグナム、2人の騎士の素振りと同じでブレが少ない。
「話変わるんやけど。なのはちゃんって、武術の心得とか・・・?」
「あ、うん。うちのお父さんが御神流っていう剣の使い手で。お兄ちゃんもお姉ちゃんも御神流の剣士なんだ。私は残念ながら運動神経がダメダメで習うことは無かったけど。でも見ていたから。それに、今ではシャルちゃん達と何度も試合ってるから」
シャルちゃんの素振りは完全に剣士としてのもんや。アリサちゃんやフェイトちゃんも良い腕やって事が判る。みんなが素振りを終えたら、なのはちゃんとフェイトちゃん、アリサちゃんとすずかちゃんってゆう風に2人1組に分かれて木刀を打ち合い始めた。
すずかちゃんもまたすごい運動神経で、アリサちゃんの木刀をちゃんと目で追って対応してる。すずかちゃんはみんなの中でも運動神経が飛び抜けてるって話で、見た目のおっとりさんからは判らへんな、ってアリシアちゃんと話してた。
「シャルちゃんは参加せぇへんの?」
「わたしは先生のようなものだから。最後の最後で1対1でわたしがみんなの相手をするの」
そう言ってシャルちゃんはみんなの動きを注視し始めた。そしてシャルちゃんの言うように、シャルちゃんとの模擬戦へ移るんやけど、「あれ、すずかちゃん?」だけがわたしの側に来て、「私もけ・ん・が・く♪」って用意されてたタオルで汗を拭く。
「寒かったら先に中に入ってる?」
「ううん、最後まで見させて。うちの家族もな、ああいう風に模擬戦をするんよ」
「ルシリオン君とシグナムさんだね」
家族の名前はもうみんなに伝えてある。もちろん魔法関係のことは話してへん。すずかちゃん達は一般の子らやでな、話すわけにもいかへん。っと、「ホンマにすごいなぁ、みんな」なんてゆうか小学生で出来るような動きやあらへん。
(まるで魔導師みたいな・・・。なんて、そんなわけあらへんな)
そうしてシャルちゃんはアリサちゃんを、なのはちゃんを、フェイトちゃんを順々に打ち倒した。そんなシャルちゃんを見て、シグナムとどっちが強いやろ?って考える。家族贔屓で見れば、シグナムの方が強いって思う。うん、そんですごく仲良うなりそうや。朝の模擬戦が終わった後、ようやく起きたアリシアちゃんを含めたみんなで朝風呂に入ってから朝食も済ませて、そして・・・。
「「「「「お世話になりました」」」」」」
すずかちゃんのお姉さんの忍さん、そしてすずかちゃん付のメイドのファリンさんに、みんなでご挨拶。
「ううん。また来てね、みんな。はやてちゃんも♪」
「お待ちしてますぅ~♪」
忍さんとファリンさんに微笑みかけられたわたしは「あ、はい! その時はまたお願いします」強く頷く。すずかちゃん達はこれから学校って事でもう制服姿に着替えてる。シャルちゃんは私服で、純白のワンピースにケープ、そして毛皮の帽子パパーハってゆう格好や。
「それでは、私がこれから皆さんをお送りしますので、どうぞお乗りください」
車を回してくれたノエルさんの案内に、わたしらは車に乗り込む。まずはすずかちゃん達を学校に送って、次にシャルちゃんがお世話になっとるフェイトちゃんの家、最後にわたしの家ってゆうルートとのこと。
「あ、ねえ、みんな。今朝の広告で見つけたんだけど。海鳴市内に最近、スーパー銭湯が出来たみたいなんだけど・・・」
すずかちゃんがポケットの中から1枚のチラシを取り出してわたしらに見えるように翳した。
「海鳴スパラクーア、新装オープン・・・?」
「露天風呂、サウナは6タイプも? あと、炭酸泉・・・」
「座湯、滝湯、水風呂、岩盤浴、寝湯も」
「泡風呂、紅茶風呂・・・、え、紅茶?」
「バイブラバス、ジェットバス・・・? いろんなお風呂があるんだね」
「ふ~ん・・・え? 電気風呂? 何コレ、拷問の一種?」
「あはっ。そんな電気風呂なんか・・・マジ? 」
フェイトちゃんとアリシアちゃん、それにシャルちゃんは外国の子なこともある所為か、日本のお風呂の種類の多さに驚いてて、アリシアちゃんとシャルちゃんは電気風呂に若干引いてる。そうゆうわたしも驚きや。紅茶のお風呂ってどんなんやろ。とゆうか、いくらくらいするんやろ、紅茶の茶葉・・・。
「にゃはは。違うよ、2人とも。電気風呂というのはね・・・えっと、ピリピリして気持ちいんだよ・・・たぶん。あ、でも体には良いみたい、低周波マッサージ・・みたいな?」
なのはちゃんが電気風呂の効能について自信なさげな説明。最後の、たぶん、はホンマに小さな声やった。あと電気風呂ってメーカーさんが公式に効能は不明って出しとるよなぁ、確か。
「でね。今日みんなで一緒に行かない?ってお誘いなんだけど」
わたしらは一度顔を見合わせたから「ぜひ!」すずかちゃんのお誘いを受ける答えを告げた。それから「うちの家族も一緒でええかな?」って訊いてみた。
「うん、もちろんだよ♪」
「ていうか、都合がつかないってこともあるけど、未だはやての家族の1人としか会えてないわね、あたし達」
「そう言えば確かにそうだよね。はやてちゃんをすずかちゃんのお家まで送って来てくれたのもシャマルさんだったし」
昨日は、いつも留守番の回数が多いシュリエルもリンドヴルムってゆう人たちの迎撃戦に参加するってゆうことでルシル君らの作戦会議なようなものに一生懸命参加してたからなぁ。
「うん。そやからこの機会にみんなにわたしの家族を紹介したいなぁ、なんて」
「私たちもちゃんとご挨拶したいもんね。私も誘ってみる」
「じゃあわたしはエイミィを誘ってみる」
「リンディ・・さんはたぶん仕事で忙しいと思うから無理、かなぁ・・・。一応訊いてみよう」
なのはちゃんはお姉さんの美由希さんを、アリシアちゃんとフェイトちゃんはそれぞれ一緒に暮らしてる家族の人を誘うようや。と、そんな時、「はやて、はやて」シャルちゃんがわたしに顔を近づけて来た。
「ルシリオンももちろん連れて来てくれるんだよね♪」
シャルちゃんのお目当てはルシル君。シャルちゃんはなんでかルシル君にご執心。それも名前を聴いただけで、や。シャルちゃんはその人と初めて会った時、それかその人の名前や声を聴いた時に感情に大きな乱れが出た時、それは前世のシャルちゃんと関わりのあった人との再会をした事で起こる現象、って話を聴いた。まぁそれも確定情報やないらしいけど。
「でもさ、ルシリオン君って男の子でしょ。1人寂しく男風呂って大変じゃない?」
すずかちゃんの言う通りや。ザフィーラも一緒に連れてけば良いんやろうけど、ザフィーラってお風呂苦手やし。無理に誘うのもなんや悪いしな。そんなことを思うとると、「そこはほら、クロノを連れて行けばいいんじゃない?」アリシアちゃんがそう言うた。
「でもクロノってお風呂に入ってる時間すごく短いよ。私やアリシア、リンディさんにエイミィは30分とかだけど、クロノってサッと入ってササッと出て来るし」
「あ、うちのお兄ちゃんもそんな感じだよ。男の子ってみんなお風呂の時間早いのかなぁ?」
なのはちゃんがわたしの方を見ると、それに倣うようにみんなはわたしを見てきた。ルシル君の入浴時間のことを思い返して、「30分くらい、やなぁ。綺麗好きやから」って答える。ルシル君は髪も長いしその手入れに時間を掛けてそうや。そんでわたしらは今晩、スーパー銭湯にみんなで遊びに行って、その後はみんなで外食しようって約束をして一旦お別れした。
「――お待たせしました、はやてお嬢様」
「ありがとうございます♪」
一晩ぶりの我が家に到着。門前にはすでにシグナム、ヴィータ、シャマル、シュリエルが待ってくれとった。そんで改めてノエルさんに送ってもらった事のお礼を言うて、笑顔でノエルさんとお別れした。
「おはよう、シグナム、ヴィータ、シャマル、シュリエル。朝ご飯はもう済んだか?」
「おはようございます、はやてちゃん。朝ご飯は私とシュリエルで用意してみんなで食べました」
「おかえりなさい」
「おはよう、おかえり、はやて♪」
「おかえりなさい、主はやて」
「ただいま、みんな」
ルシル君とザフィーラは家の中で待ってくれとるんやな。ヴィータに車椅子を押してもらいながら家の中へ。リビングに入るとそこに居ったんは「ただいま、ザフィーラ」だけやった。
「おかえりなさいませ、我が主」
「うん。・・・ルシル君は・・・?」
みんなに訊ねる。するとみんなは俯いて口を閉ざした。
「ルシル君はどないしたん? 家に居るんやろ?」
「はい。居ることは居るんですけど・・・」
シャマルがルシル君の部屋の方に目をやってから、そう言い難そうに答えてくれた。
「何があったん?」
「我々の口からはお伝え出来ません。ルシリオン個人の事情ですので」
「ルシル君の事情・・・」
昨夜ルシル君とリンドヴルムの人たちとの間に何かしらの複雑な事情があったんかもしれへん。わたしがルシル君の部屋に向かおうとしたらヴィータが「アイツ、しばらくそっとしておいてくれ、って言ってた」って止めてきた。
「うん。でも・・・」
それでも心配なんや。ルシル君が引き籠るような事態なんて異常事態や。ルシル君の側に居りたい、そんな思いが強くなる。そやからヴィータの制止を振り切ってリビングを出ようとした時。
「どっっっせぇぇぇ~~~~~い!!!!」
ルシル君の部屋からそんな大声と一緒にバッチーーンって肌を叩くような音が聞こえてきた。わたしらがそれに驚いて硬直しとると、「ん? おお、はやて。おかえり」ルシル君がリビングにやって来た。頬が手の形に真っ赤に腫れとる。さっきのバッチーンってゆう音はアレが原因やな。
「ルシル、くん・・・」
「??・・・どうした?」
「え、あ、ううん。ただいま、ルシル君」
ルシル君は微笑みを浮かべてくれた。いつも通りのルシル君で安心した。さてと。安心したところで、「みんなに今晩の予定を伝えるよ」って、すずかちゃん達とした約束を伝えた。そしたらみんなは無言になってもうて。
「えっと・・・まずかったか?」
「い、いいえ。そうですね。一度、主はやてのご友人の方々にご挨拶をするべきですね」
「そうだな。いっちょ行くとするか」
「ですね。はやてちゃん、夕ご飯はどうします?」
「みんなで外食しようか、って決めてあるんよ」
割り勘って提案したんやけど、お勘定はすずかちゃんとアリサちゃんが持ってくれるって聞かん坊やったから、わたしやなのはちゃん、フェイトちゃん、シャルちゃんも折れることに。アリシアちゃんだけはレストランでタダ飯だぁ~、とか言うて喜んでたけどな。
「それでなザフィーラ。夕ご飯は外食やからザフィーラもついて来てほしいんやけど。ザフィーラがお風呂苦手ってことは知っとるよ。お風呂入らんでもサウナとかマッサージチェアとか在るで、それで時間でも潰してもらえると・・・」
「お気遣い感謝します、主はやて」
「そう言ってもらえて嬉しいよ・・・。あ、そうや。ルシル君にどうしても会いたいって子が居るんやけど。イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト――シャルちゃんいう子なんやけど」
「・・・そっか。じゃあはやての家族として恥ずかしくないよう、気を付けないとな」
笑顔を浮かべるルシル君に頭を撫でられて、「ルシル君もみんなも、最高の家族やよ♪」わたしも笑顔で胸を張って言う。わたしの家族は日本一、世界一、次元世界一や。みんなもそれぞれ頷いて同意してくれた。
†††Sideはやて⇒イリス†††
今朝の約束通り、わたし達は新装開店したっていうスーパー銭湯、海鳴スパラクーアへとやって来た。エントランス前ではやてたち八神家を迎えに行っているノエルさんの車がやって来るのを待つ。通学組のなのは達はアリサの家の車で、わたしとエイミィ、そしてなのはのお姉さんの美由希さん、お兄さんの恭也さんは、すずかのお姉さんである忍さんの運転する車でやって来た。
「みんなごめんな、お待たせや」
「はやてちゃん!・・・わぁ♪」
車椅子に座るはやて、そしてこれまでずっと話でしか聞いたことのなかった八神家が勢揃いしていた。と、「っ!」ほら、来た。鼻の奥がツンとして急に泣き出しちゃいたくなる。
「えっと、もう1人家族が居るんやけど、その子は今ノエルさんに付いとるから、合流する前にまずこの娘たちの紹介をさせてもらうな。右から順に・・・」
「八神シグナムです。本日はお誘いいただきありがとうございます」
凛々しい顔立ち、長い髪をポニーテールにしたのがシグナム。
「なのはちゃん達のお兄さん、お姉さんとははじめまして、ですよね。八神シャマルです」
「私は八神シュリエルリートと申します」
銀髪。わたしが本能的に好んでる髪色、そして深く、でもとても綺麗な紅色の瞳をしたのがシュリエルリート。
「あたしはヴィータ、八神ヴィータだ」
一番小さく生意気そうなのがヴィータ。
「我――いや、私は八神ザフィーラ。よろしく頼む」
筋骨隆々とした厳ついのがザフィーラ。最初に聞こえた一人称については深く追求しないでおこうっと。なのは達も自己紹介を返していって最後に、「はじめ、まして・・・」流れる涙を指で拭ったわたしが自己紹介をする番。
「イリス・ド・シャルロッテ・フライハイト、です」
シグナム達と握手を交わす。と、また涙が溢れて来た。先日はやてから、わたしの突発的な感情の揺らぎについてはもうシグナム達に伝えてあるってメールは受けたけど、「ごめんなさい」って一応謝る。すると「我慢しなくてもいい」ってシグナムがわたしの頭を撫でた。
「あのっ、ありが――」
「おーい!」
「お待たせしました、みなさん!」
お礼を言おうとしたとことで、ノエルさんと男の子の声が届いた。そっちの方を見て、「・・・っ!」わたしの意識は軽く飛びそうになった。
「「「「あっ!!」」」」
なのはとアリサとすずか、あと恭也さんも大きな声を上げた。
「シグナム達はもう自己紹介を終えたのかな?」
「うん。あとはルシル君だけやよ」
「そっか。では。はじめまして、そしてそこの子たちとお兄さんには久しぶりです、八神ルシリオンといいます。どうぞルシル、と呼んでください。はやて、シグナムたち共々よろしくお願いします」
ルシリオン――ルシルはなのはとアリサとすずか、恭也さんとはすでに顔見知りみたい。どうしてなのかが激しく気になる。なるけどそれ以上に・・・。
――さようなら。またどこかでね、私の初恋――
脳裏に過ぎるわたしの知らない想い。解らない。だけどそんなことどうでもいい。その想い以上にわたしは・・・好き、その蒼と紅の虹彩異色の瞳が。好き、その長く綺麗な銀の髪が。好き、その微笑みが。好き、あなたが――ルシルの事が・・・大好き。
「うわぁ。イリスちゃんの異性の好み、どストレートの子キタァ。実在したよ、本当に・・・」
「ルシ、ル・・・」
エイミィがなんか言ってる。わたしはフラフラとルシルに歩み寄って行く。そんなわたしに「君が、イリス、だよな。俺に会いたかったってことらし――っ!?」声を掛けてきたルシル。わたしは彼が言い切る前に抱きついた。そんなわたしの突然の行為にみんなが絶句したのが空気で判った。
「好き、大好き。一目惚れ? ううん、違う、そんなものじゃない。好き、ううん、それ以上。愛してる。あなたを愛してる、愛してます。わたしの全てをあげたい、捧げたい、受け取ってほしい、貰ってほしい。わたしは運命を信じてる。その運命が告げてる。ルシル。あなたはわたしと結ばれるべきなのよ!・・・チュー❤」
「むぐ・・っ!?」
呆けてるルシルの唇にわたしの唇を重ねる――うん、早い話がキスをした。耳や頬、顔どころか、全身が熱くなる。だって初めてだもん。でも後悔なんてない、満足大満足なのだ。
「へ?・・・え・・あ・・、あ、アカーーーーン!!!」
はやてが自分で車椅子を進ませてわたしとルシルの間に割って入って来た。ここでみんなが再起動。
「シャ、シャルちゃん!? い、いいいいいき、いき、いきなり何してるの!?」
「キキ、キキキ、キスして・・・こ、こここ、こんな公衆の面前で!!」
「「はわわわわ!」」
顔を真っ赤にしたなのはとアリサにはそう怒鳴られて、すずかとフェイトもまた顔を真っ赤にさせて両手で自分の顔を覆ってる・・んだけど、指を僅かに開けてその隙間からこっちを覗き見。アリシアや大人組は、わたしの行為に対して驚きの中にも面白そうって感じで見守ってくれてる。そして八神家。シグナム達はどこか懐かしそうな風にわたしを見てる。以前に似たような事でもあったのかも・・・。
「シャルちゃん! ルシル君は、あの、えっと・・わたしの家族やし、そのな、そやから・・・!」
「うん、判ってる。ルシルははやての家族で弟。なら、わたしがルシルの恋人――ひいては将来、夫婦になっても問題ないと思うんだけど」
「っ!・・・あ、う・・・それは・・・!」
はやては気付いてない、自分の想いに。ルシルに向けているのは家族愛だって勘違いしてる。本当は異性としてルシルのことが好きなんだって考えてない、思い至ってない。だからああして言い淀むことになった。ごめん。はやてには悪いと思う。こんな形で自分の想いを自覚させたくなかったよ。でもわたしは誤魔化したくない、引きたくない、譲りたくない、負けたくない、勝ちたい、だから・・・攻めるよ。
「わたしはルシルが好き、ううん、愛してる。顔合わせは今日、この瞬間だった。でもそれだけで十分って言えるほどにこの想いは確かなもの。もしかしたらこの想いは前世のわたしの影響かも知れない。でもその想いはもうわたしのもの。だから、負けないよ」
はやてに指を差して宣言。口をパクパクさせてたはやてが「わたしかて――・・・っ!」そこまで言ったと思えばハッとして口を噤んだ。今ので完全に気付いたのかも。ルシルへの想いに。
「はーい、ストップ! あまりに急すぎて思考停止していた」
ようやく動き出したルシル。そんな彼ははやてを庇うようにわたしの前に立ちはだかった。ズキッと痛む胸。今はそれでしょうがない。ここは「すぐにとは言わないから、返事はちょうだい」引こう。
「すいませんでした。わたしの用は終わりましたから」
わたしは引率の忍さん、恭也さん、美由希さん、ノエルさんに頭を下げる。エイミィはどっちかと言えばこちら側だからノーカウント。
「あ、うん。じゃあみんな。行こうか」
忍さんと恭也さんとノエルさんが先頭を歩き出して、わたし達も続いて歩き出す。最後にエイミィと美由希さんが「いやぁ、お姉さん達ビックリしちゃったよ~」ってルシルに絡みながらついて来る。エントランスを潜って料金をわたしたち全員分の料金を払いに行くノエルさんを見送る中、「ちょっとちょっと。あんた、一体何考えてんのよ」アリサが睨みを効かせて訊いてきた。なのは達もそれぞれうんうんって頷いて、アリサと同じ事を思っているって示す。
「そういうなのは達も、いつルシルと知り合ったのよ。恭也さんもルシルの事を知ってるみたいだし」
「えっと。私たちは、シャルちゃんやフェイトちゃん達と公園でお別れした後、帰り道で私がぶつかっちゃったって話なんだけど・・・」
PT事件後のことね。じゃあ「恭也さんは?」って訊き直すと、なのはは首を横に振った。と、そんな時に「あのな」はやてが話に参加してきた。ちょっと意外だった。しばらくはわたしと話をしたくもないって距離を取られるかもって思ってたけど・・・。
「今年の夏、レジャープールに行った時に恭也さんが監視員として、ルシル君を止めたんよ・・・」
けどやっぱりわたしを意識しているようでチラチラとわたしを見ながらも話してくれた。ルシルが男物の水泳着で出て来た。それはそうよ、ルシルは男だから。
「でも、ルシル君のその外見から女の子に間違われてな。上半身露出した、ちょっと危ない女の子やって思われたんや」
ヴィータに車椅子を押されてるはやてが後方――エイミィに「肌スベスベ~♪」、美由希さんには「髪もサラサラだよ~♪」って触られまくって困惑してるルシルに目をやって、わたし達も倣ってルシルの方へと振り向く。
「・・・ぷふっ! くく・・・あーっはっはっはっはっ! 確かに間違われても仕方ないわ!」
「ちょっとアリサ。失礼だよ。確かに・・・可愛い女の子みたいだけど」
「フェイトちゃんも何気に失礼だよ・・・。ほわぁ、でも可愛い・・」
「えっと、ごめんね、ルシル君。私も、可愛いなぁ、って思っちゃうよ」
アリサはルシルの外見に大笑い、フェイトとなのはとすずかは男に許されざる褒め言葉を言っちゃった。当然ルシルが「やめてくれ。割と本気で」大きく溜息を吐いた。
「ルシルって家事とかも出来るの?」
「なんでも出来るよ。料理に洗濯に掃除、ホンマになんでも」
「生まれてくる性別間違ってるんじゃないの?」
フェイトの質問にはやてが答えて、続いてアリシアがそう言うものだから、「それだけは言われたくなかった!」ってルシルはその場に崩れ落ちた。
「みんなー! 支払いは済んだから、これから自由時間にするわね。集合は今から1時間後の19時、ここエントランスで」
忍さんからそう伝えられたわたしたち子ども組は「はーい!」と元気よく返事。ここでルシルとは一旦お別れ。恭也さんとザフィーラの3人で男性用脱衣場へ。わたし達は女性用脱衣場へ。脱衣場はすごく広くて、段差もスロープだから「さすが新装開店、ナイス・バリアフリーや♪」はやてはご機嫌。ここで空いているロッカーを探すために分かれる。そういうわたしも「綺麗で使いやすい」ロッカーに脱いだ服を畳んで置いていく。
「ヴィータ。ここは家とは違うんだ、脱ぎ散らかすな」
「判ってんよ、うっせぇなぁ。ちゃんと片付けるからいいじゃんよ」
「初めからきちんとするべきだ。公共の場でのマナーだぞ」
「・・・うるせぇなぁ~。これくらい大目に見ろよ」
「いいや。お前は人としての心構えが足りん。それにヴィータ。お前は日頃からだらしないところが多々ある。気を付けろ」
「ああもう、チクチクとうっせぇな」
「うるさく言われるようなことをしているお前が悪い。言われたくなければしなければいいだけのことだ」
なんかシグナムとヴィータのケンカっぽいやり取りが聞こえて来るんだけど。側に居るアリサとすずかを見ると、「ヴィータちゃん、まだ小さいのにすごい躾けられているんだね」すずかが驚きを見せた。
「ヴィータっていくつかしら。6歳くらい?」
ロッカーから顔だけを出してシグナムとヴィータの様子を伺う。通路を隔てた向こう側のロッカーのなのはとフェイトとアリシアも同じように様子を伺うために顔を出してる。
「ちょっとおっぱいが大きいからって良い気になんなよ! 胸ばっかしに栄養をやってっから、そうやって心のゆとりが無くなってるつってんだよ、このおっぱい魔神!」
「んなっ! 貴様・・・! そこに直れ! レヴ――」
「止さないか、お前たち!」
下着姿のシグナムと半裸のヴィータの間に割って入ったのは、全裸なシュリエルリート。その堂々とした仁王立ちに――というよりは、「大きい」シグナムより大きなその胸に釘づけなわたし。
「うわぁ、綺麗・・・」
「うん。女神さまみたい・・・」
「見てるこっちが恥ずかしくなっちゃうかも・・・」
「ていうか、他のお客さんからの視線が集中しちゃってるんだけど・・・」
「おお!・・・はぁ」
なのはとすずかはうっとり、フェイトは顔を真っ赤にしてチラチラとシュリエルリートを見る。アリサはキョロキョロと辺りを見回して若干引いてる。アリシアは凝視しつつ自分の胸のまな板っぷりに肩を落とす。
「ちょい待ち。シュリエルも色々とアウトや」
ここで体にタオルを巻いたシャマルと、彼女にお姫様抱っこされたはやてが止めに入って、シュリエルリートにタオルを手渡した。ここでようやく「失礼しました!」自分が素っ裸ってことを思い出した彼女は慌ててタオルを体に巻いた。
「シグナムとヴィータも何してんの。アカンやろ、ケンカなんてしたら」
「すみません」「ごめん、はやて」
しょんぼりするシグナムとヴィータ。ホントにはやてが一番偉いみたい。まぁ、そんな騒動があったけど無事に浴場へ入る。わたし達はその広さと様々なお風呂に「おお!」歓声を上げる。わたしは早速「アリシア!」に声を掛ける。と、「オーケー! 電気風呂だね!」アリシアは強く頷いてわたし達の目的のお風呂、電気風呂を目指す。
「みんな、また後で♪」
「フェイト。お姉ちゃんが居ないからって羽目を外しちゃダメだよ~♪」
「外してるのはアリシアだよ・・・」
「シャルちゃんもあんまりはしゃいじゃダメだよ~」
フェイトとなのはの呆れた声がわたしとアリシアの背中に向けられた。みんなと別れて捜索。電気風呂はすぐ見つかった。人気が無いのか誰も入っていなくて、周りを気にせずにリアクションが取れる。さて。アリシアと一度顔を見合わせる。
「シャルからどうぞ」
「いやいや。年長者のアリシアからどうぞ」
「「どうぞどうぞ」」
お互いに譲り合う。と、そんな時「どーん♪」そんな陽気な声と一緒にわたしの背中が押された。
「「のっ!?」」
押されたのはわたしだけじゃなくてアリシアもで、一緒にドッパーンと電気風呂の中へ。うん、覚悟も無く急に、突然に、他人の手で。
「「ぷはっ! いったい誰――と、おおう、ビリビリくるぅ~~❤」」
想像より優しい電気が全身を流れる。これ筋肉痛とかに効きそう。落ち着いたところでわたし達を押した犯人に目が行く。落としたのは「ヴィータ!」だった。ニッシッシって満足そうに歯を見せて笑っての仁王立ち。
「どんな感じなんだ、電気風呂って」
「知りたかったら・・・」
「ヴィータも入れ!」
アリシアと一緒にヴィータの両手を取って、「うおっ?」ヴィータを引き摺り込んでやった。
「ぷはっ。危ないだ――お? おお? おおう!」
怒鳴る寸前だったヴィータが電気風呂に反応、口を閉ざした。3人一緒に電気風呂に使って「ほぉ~」大きく息を吐く。これは癖になりそう。聖王教会の大浴場にも取り入れてみたいなぁ。そんなことを考えていると、「そういやさ、イリス」ヴィータが声を掛けてきた。
「んー? あ、わたしのことはシャルって呼んで」
「おう。じゃあシャル。なんでルシルにあんなことをしたんだ?」
「・・・なんでって。恋したから、好きだから、愛してるから。キスは愛を伝える一番の方法だよ❤」
ヴィータの小さくも可愛くピンク色な唇に人差し指を当てると、「っ!」ヴィータは頬を赤らめて顔を背けた。
「でもあまりに急すぎだよ、シャル。しかもはやてにあんな挑発というか宣戦布告と言うか、さ」
「はやて、結構気にしてるんだよな。戸惑ってるって感じ」
「でしょうね。八神家をちょっと引っ掻き回しちゃうかもだけど。でもはやてにも自覚してほしかった。同じスタートラインに立ちたかった。わたしがルシルを手に入れた後で気付いて後悔してほしくないから」
「そっか」
「ちゃんと考えてたんだな~。あたしらもはやてにどうやって想いを自覚させるか、自覚させていいのか、迷ってた。でもこうなっちまった以上はもう引き返せねぇ」
ヴィータが湯船から立ち上がって、頭の上に乗せてたタオルを体に巻くと「それだけが訊きたかったんだ。あんがと」片手をヒラヒラ振って去って行った。
後書き
ヤクシミズ。
ようやく表側の八神家となのは達が邂逅を果たしました。そして初っ端からフルスロットルなイリス。周囲を憚らずに大胆告白&キス! 彼女の暴走は今、始まったばかりなのである。そして次回。裏側の八神家となのは達が衝突します・・・という曖昧な予告をします。
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