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久遠の神話

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第九十三話 炎の選択その十一

「国立のエリートとかになるとな」
「難しいことですね」
「難しいっていうか厄介かね」 
 中田は口の右端を歪めさせてシニカルに述べた。
「どうにも」
「どの国にもあることですね」
「人間でも神様でもか」
「はい、どうしても」
 聡美もだ、このことについては困った顔になった。
「ありますね」
「権威ってのとは無縁で生きられる人もいるけれどな」
「神にしても」
「そういう人はまた特別だろうな」
「中田さんは」
「権威を否定したいんだがね」
 このことは肩を竦めさせて言うことだった。
「中々それを意識せずにはいられないな」
「どうしてもですね」
「権威ってのは考えたり判断する基にもなるからな」
「余計にですね」
「難しいんだよ、これが」
 そうしたものだというのだ。
「俺にしてもな」
「中田さんもそうだとは思いませんが」
「いやいや、そう見えてもな」
 実は違うというのだ。
「俺もそうなんだよ」
「ご自身ではそう思われているだけでは」
「それがまた違うんだよ、自分ではな」
「そういうものですか」
「そうですか、それではご自身では」
「どうにもな」
 難しいと言ってだ、そうしてだった。
 中田は聡美にだ、あらためて言うのだった。
「まあ兄さんについてはな」
「問題ありませんね」
「すんなり受け入れてもらえるよ、期待しているからな」
「はい、それでは」
「頼むな、本当に」
 これまでの飄々としてかつ軽い感じは消えていた、切実な言葉だった。
「家族のことはな」
「お任せ下さい」
 聡美も切実な言葉で応えた、そのうえで。
 中田は聡美と別れ剣を持ちに行った、そこで汗をかき。
 そのうえで自分の家に戻る、今は誰もいないが。
 その家に家族が戻って来ると思うと自然に笑顔になる、それで楽しい気持ちになり夕食を作ろうとしていると。
 声がだ、彼に問うてきた。
「貴方もですね」
「ああ、あんたか」
「そうです、それでなのですが」
「戦いのことだよな」
「降りられるのですね」
「もうすぐ願いが適うからな」
 夕食の用意を中断させての言葉だった。
「だからな」
「左様ですか」
「ああ、あんたにとっては残念だけれどな」
「わかりました、それでは」
「怪物とか」
「闘ってもらいたいのですが、最後に」
「それには及ばないぜ」
 中田は声に笑って返した。
「もうな」
「及ばないとは」
「俺はもう闘いたい相手がいるからな」
「怪物ではなくですか」
「あんたの望む通りだよ」
「剣士とですか」
「闘いたいんだよ、最後の最後にな」
 こう声に言うのだった。
「そうしたんだよ」
「では」
「怪物は出さなくてもいいさ」
 やはり笑ってだ、声に言うのだった。 
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