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八条学園怪異譚

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第五十九話 時計塔の話その四

「あれは凄い絵でしたね」
「一回見たら忘れられないです」
「絵は上手下手はないのよ」
 茉莉也は芸術論も述べた、画力という概念を否定した言葉だった。
「実はね」
「えっ、関係ないですか上手下手は」
「じゃあ何が大事なんでしょうか」
「感性よ、それをどう観る人に訴えかけるかよ」
 それが大事だというのだ。
「芸術全体に言えることだけれどね」
「感性ですか」
「それなんですか」
「そう、その絵に込めたものもね」
 それもだ、どう観る者に訴えるかというのだ。
「だってムンクとかシャガールとか普通に観て上手って思う?」
「いえ、ちょっと」
「ああした絵はどちらも」
 ムンクだのシャガールだの聞いてだった、二人は微妙な顔になってそのうえで茉莉也に答えた。そうした画家達の絵はとてもだった。
「上手と聞かれましたら」
「ちょっと」
「そうでしょ、言えないでしょ」
「はい、ピカソも」
「ゴッホもそうですよね」
「それでもね、どの画家も世界的な評価を受けてるでしょ」
 それこそだ、美術史に残るまでにだ。
「絵はそういうものなのよ」
「上手下手の問題じゃないんですね」
「そういうのじゃ」
「そう、そこにあるものよ」
 感性なり訴えたいものだというのだ。
「画力は関係ないのよ」
「そうなんですね、だから小林先輩の絵もですか」
「上手下手じゃないんですね」
「私だって先輩の絵を最初観た時はびっくりしたわ」
 七生子がいないからだ、茉莉也も二人に言えた。
「内緒だけれどね、けれどね」
「あの絵にですね」
「感じられるものはあったんですね」
「あったことは確かよ」
 七生子の絵にだ、それが間違いなくあったというのだ。
「それでいいのよ」
「芸術はそういうものですか」
「そこに何があるかですね」
「だから上手下手は問題じゃない」
「そうなるんですか」
「そう、だから先輩の絵も今そっちの世界で凄い評判になってるのよ」
 茉莉也は二人にこのことも話した。
「凄いものがあるってね。絵画展も開かれるって話がね」
「出てるんですか、それも」
「個人の絵画展まで」
「そうよ、凄い話でしょ」
 絵を描く者にとって個人の絵画展を開くことは夢の一つである、菜生子はその夢も叶えられようとしているというのだ。
「これって」
「それはわかります」
「相当ですね」
 二人は驚きを隠せない顔で答えた。
「先輩の絵はですか」
「そこまでの評価を得ているんですね」
「そうよ、それでその先輩も来られるから」
「これまで泉を探すことの中で知り合った人達がですか」
「来てくれるんですね」
「お祝いにね」
 まさにそれにだというのだ。
「だから楽しみにしててね」
「わかりました、それじゃあ」
「その時は」
「やり遂げた後はお祝いがあるものよ」
 こうも言う茉莉也だった。
「一つの区切りとしてね」
「受験に合格した時みたいにですか」
「それがあるんですね」
「そうよ、それと一緒よ」
 受験の合格とだ、探検の成就は同じだというのだ。 
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