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久遠の神話

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第九十一話 戦いでも得られないものその九

 巨人の拳を燃やし動きを鈍くさせた、衝撃がその動きを鈍くさせたのだ。
 それにより拳が届く時が遅れた、これによりコズイレフは難を逃れ着地できた。しかしそれjで終わりではなかった。 
 左手を潰された巨人は憤怒の顔で彼を見下ろしていた、それで今度は右手に持っている槍で彼を上から突きにかかった。その突きはというと。
 アスファルトをまるで豆腐の様に潰していく、しかも一撃ではない。
 二擊三撃と続く、それで執拗に攻撃して来る。コズイレフはその巨大な槍の突きを左右に跳んでかわす。それを見て。
 スフィンクスは彼にだ、こう言って来た。
「拳を防いだのは見事だったわ」
「さっきのだね」
「ええ、けれどね」
「巨人は死んではいないね」
「見ての通りよ」
 実際に今槍を繰り出してきている、それでコズイレフを倒そうとしてきている。
「健在よ」
「そうだね」
「そして防いでかわしているばかりだと」
「倒せはしないね、巨人は」
「どうするのかしら」
 スフィンクスはコズイレフを探る様にして言ってきた。
「どうして倒すつもりかしら」
「それはね」
「それは?」
「確かにこの巨人は強いよ」
 今の槍にしてもだ、一撃受ければそれで終わりだ。直撃を受けずともかわしたその傍に衝撃を受ける程である。
「けれど無敵じゃないね」
「どの怪物もそれは同じよ」
「そうだね、じゃあ」
「どうするのかしら」
「この怪物を倒すには」
 巨大な、あまりにも巨大なこの怪物をだ。
「やり方がない訳じゃないから」
「ではそれを見せてくれるかしら」
 スフィンクスは彼に冷静に言う。
「今から」
「それじゃあね」
 コズイレフも応える、そして。
 また槍の一撃をかわした、巨人は今は槍で攻めることしか考えていなかった。頭に血が上りそれしか考えられなくなっていたのだ。
 足は動かしていない、その足にだった。
 コズイレフは駆けそしてだった、右の太腿鎧の垂れと垂れの間にある僅かな隙間にだった。
 己の大刀を刺した、そして刺したそこからだった。
 熱を注ぎ込んだ、己の熱を。すると。
 血が忽ちのうちに沸騰した、その沸騰を受けてだった。巨人は身悶えし心臓や脳まで焼かれそうしてだった。
 倒れた、如何に巨人といえど全身の血が沸騰しそれで心臓や脳までやられてはたまったものではない。悶絶してだった。
 巨人は全身を苦悶で動かしてだった、それから。
 消えた、そのうえで。
 後には金塊を残した。コズイレフはその金塊を見ながらスフィンクスに言った。
「これだけの金塊でもね」
「貴方が一生暮らす分があるわね」
「僕は働くけれどね」
 それだけの黄金が手に入ろうともだというのだ。
「それでもね」
「そうするのね」
「うん、僕が働くことを見ていると」
 それでだというのだ。
「家族が喜んでくれるから」
「ここでも家族なのね」
「僕はそうだよ」
「家族の笑顔が見たいのね」
「人は顔は覚えているものだから」
 心の中に残る、そうしたものだからだというのだ。
「家族の顔は特にね」
「そして笑顔もまた」
「家族は人間だから絶対に何時かはいなくなるよ」
 人は死ぬものだ、そして去るものだ、コズイレフにしてもこの絶対の摂理はわかっているのだ。だがそれでもなのだ。 
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