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恋の矢

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第五章

 だがその考えもだ、どうしてもまとまらなかった。
 優子の言葉を思い出して戸惑うばかりだ、それで。
 実はどうしようか殆ど考えられなかった、授業中も呟くばかりだった。
「何をどうすればいいんじゃ」
「さっさと答えなさい」
 女の先生が彼のところに来て言う。
「一五八二年何が起こったの?今日本史の授業よ」
「ああ、告白の答えじゃ」
 こう先生に返す彼だった。
「それじゃな」
「何言ってるのよ」
 先生は彼の返事に呆れて返した。
「一五八二年よ、わかるでしょ」
「三日後じゃのう」
「だから三日後って何?」
「受けるべきか受けざるべきか、折角振り切ったのにのう」
 自分の席に座ったまま言う敦史だった、そして。
 その中でだ、こう言うのだった。
「何で言うてくるんじゃ、そんなのありか」
「ねえ、カープ最後の優勝の年は何時?」
 先生も流石に彼をおかしいと思った、それでカープファンの彼にこう問うたのである。
「それは何時かしら」
「三日後じゃ」
 だが返答はこれだった。
「いや、二日後になったわ。時間が来るのは怖いのう」
「駄目ね、これは」
 流石に先生もこれで匙を投げた。
「じゃあ放置ってことで」
「放置したらまずいのう」
「これはどういうことなのよ」
 先生も訳がわからない、それでだった。
 今敦史は周りかわ異様に思われていた、明らかな異変だった。
 その異変を見てだ、それで何が起こったのか不思議に思うのだった。
 しかしだ、時間は必ず進む。そうしてだった。 
 この日もあれこそ上の空のままだった、そうしているうちに。
 また一日過ぎた、その日が来てだった。
 彼はだ、まず家でこう言うのだった。
「運命の日じゃのう」
「運命?ドラフトの?」
「どう答えればいいんじゃ」
 母にもこう返すばかりだった、心ここにあらずという目で。
「ほんまに」
「あんたどうしたのよ」
「行くか、学校に」
「あんた今トランクス一枚よ」
 起きたてでそうなっているのだ、それで母も言う。
「それで行くの?」
「ああ、着替えなな」
「とにかくどうしたのよ」
 母もどういう訳かわからない、だがだった。
 彼はとにかく学校に言った、この日はこれまでにも増してだった。
 夢うつつでぶつぶつと呟いている、あまりにも異様で。
 周りはだ、こう話すのだった。
「三日後とかあれこれ言ってたけれどな」
「今日は特に酷いな」
「一体全体どうしたのよ」
「これまで新しい恋に生きるとか意気込んでたのに」
「それが急にああなった」
「どういうことか」
 本当に訳がわからなかった、しかし時間はこのまま過ぎてそしてだった。
 昼休みになった、ここで敦史に迎えが来た。結が。
 結はこうだ、敦史の前に来て言って来た。丁度クラスを出ようとしていた彼女のところに。
「わかってるわね」
「ああ」
「行くわよ」
「今回も案内役か」
「優子あれで引っ込み思案なのよ」
 ここでだ、こう言った結だった。
「中々ね、告白とはね」
「出来ないっていうんじゃな」
「前のあれも凄く勇気出してなのよ」
 そのうえでの告白だったというのだ、結は敦史を例の場所に案内しながら話す。 
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