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恋の矢

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第三章

「瀬戸内海で鮫の餌じゃ」
「だからそうした人には手を出さないのね」
「そうじゃ、わしはな」
「まあ誰も鮫の餌になりたくないからね」
「そうじゃ、けど彼氏持ちのあんたが何の用じゃ」
「今日のお昼、十二時半に第一体育館の裏よ」
 少女は時間と場所を指定してきた。
「来なさい、一人でね」
「ぼこるとかじゃないのう」
「そんなに不安だったら木刀でも警棒でも持ってきなさい、けれどね」
「必要ないっていうんじゃのう」
「そのことも言っておくわ」
 喧嘩やリンチの類の話ではないというのだ。
「けれど来ることよ、いいわね」
「強引じゃのう」
「とにかく話は伝えたから」
 少女は敦史の顔を見上げて告げた。
「わかったわね、この大男」
「わしは大男じゃったか」
「一八〇超えてたら充分でしょ」
 大男と言っていいというのだ。
「そうでしょ」
「まあ確かに小さいって言われたことはないのう」
「だったらいいわね、今日の十二時半に第一体育館の裏よ」
「あそこじゃな」
「絶対に行きなさい、いいわね」
 少女はまた敦史に告げた。
「この小椋結の伝言よ」
「あんた何処かの声優さんみたいな名前じゃのう」
「よく言われるわ」
「そうじゃのう、髪型はともかく顔も似てるわ」
「それもよく言われるわ、とにかくね」
「話はしたっちゅうんじゃな」
「そうよ、そういうことでね」
 その少女小椋結は敦史に言い終えるとすぐに踵を返して自分のクラスへと向かった。一人残った敦史は自分のクラスに入りながら首を傾げさせた。
「何じゃっちゅうんじゃ」
 具体的にどういうことかわからずに出した言葉だった、だがとりあえずは昼だった。
 昼飯を食べてからその第一体育館裏に向かった、携帯の時計を見ると。
「十二時二十五分か」
 時間はそうなっていた。
「あと五分あるのう」
 一瞬ちょっと時間を潰そうかと思った、だが。
 思い直してだ、こう言うのだった。
「ええか、海軍精神じゃ」
 ここでも広島だ、呉は海軍の街だからだ。
「五分前行動じゃ」
 こう言ってそしてだった。
 彼はその第一体育館裏に入った、右手に体育館の白い壁があり左手は茂みになており木も何本かある。
 そこに行くとだった、敦史は我が目を見張った。
 背は一五二程、長く伸ばした髪を綺麗に流している。口は大きく八重歯が見えている。目は大きく綺麗な感じだ。睫毛が長い。
 赤いスカートと黒いブレザーの下は白いブラウスと赤のネクタイだ、そして脚は黒のハイソックスで覆われている。
 その彼女の名は日笠優子、実は彼が振り切った相手だ。
 その彼女を見てだ、敦史は目を丸くさせて言った。
「な、何でここにおるんじゃ」
「ここにいるかって?どうして私が」
「そうじゃ、何でじゃ」
 こう優子に言うのだった。
「あんたが」
「何でって」
 優子は戸惑いながらこう彼に答えた。
「ずっと言おうと思ってたけれど」
「ずっと?」
「そう、ずっとね」 
 その言おうと思っていたことについてもだ、優子は言った。やや俯き顔を赤くさせながら。 
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