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久遠の神話

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第八十五話 消える闇その十

 権藤は次の朝起きて朝食の席で執事に言われた。
「旦那様、ニュースですが」
「何かあったか」
「旦那様の予備選の対立候補ですが」
「野党のだな」
「はい、あの方ですが」
「何か出て来たな」
「一つではありません」
 実に多くのものが出て来たというのだ。
「恐喝に暴行、それも数件ずつあります」
「噂は本当だったか」
「そのどれもがです」
 真実だったというのだ。
「事務所の方から密告者が出ました」
「事務所も庇わなかったか」
「庇いきれなかったのかも知れません」
 執事は今は憶測だがこう権藤に述べた。
「どうやら」
「そうか」
「詳しいことは」
「後で見る」
 権藤自身が、というのだ。
「会社に入ってからテレビでな」
「そうしますか」
「うむ、そうする」
 権藤は朝食を食べつつ執事に答える、その朝食は妻が作った粥と漬物という質素だが贅沢なものである。
「私でな」
「わかりました」
「しかしだ」
「しかしとは」
「このことは私にとって僥倖だな」
「対立候補のスキャンダルですから」
 それに他ならないというのだ。
「まさに」
「そうだな、確かにな」
「ではこれで旦那様の当選はですね」
「確実だ、早速だな」
 権藤はにこりともせず己の左手の薬指を見た。他の者が見ていればその指輪は一つしかなかった、しかし。
 二つある、その彼にしか見えないものを見て言うのだ。
「運が加わるとな」
「そうですね、では」
「しかしよくあの様な者を候補者に立てたものだ」
 権藤はその野党についても言及した。
「考えてみれば愚かな話だ」
「確かに。あの様な問題だらけの者を立候補させるなぞ」
「前からヤクザ者との付き合いが噂されていた」
 権藤は裏社会との関わりは避けている、それは倫理観からではなく裏社会の住人の危険性を熟知しているからだ。
「そこを衝けばな」
「どのみちああなっていましたか」
「絶対にな」
 権藤は冷静な声で言い切る。
「私も既にスキャンダルを幾つか掴んでいた」
「暴行に恐喝ですか」
「事務所の後輩やスタッフへの度が過ぎた暴行に暴言にだ」
 それに加えてだというのだ。
「芸能界での専横」
「数多いですね」
「幾つか掴んでいて機が来ればそれをマスコミ各社にリークするつもりだったが」
「それが、ですね」
「事前に出るとはな」
 このことを言う権藤だった。
「どちらにしろこれで私の当選は決まった」
「旦那様は議員になられますね」
「政治家としての第一歩を踏み出すことになる」
 まさにだというのだ。
「あくまで第一歩だ」
「議員になられることが成就ではないと」
「ほんの第一歩だ」
 それに過ぎないというのだ。
「私はこれからはじまる」
「首相になられてですね」
「そして私が日本に必要な政策を全て成立させてだ」
「日本を変えますか」
「日本は今よりも遥かによくなる」
 そう思っているからこそだというのだ。 
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