無慈悲な時の流れ
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第二章
第二章
当然彼は退団となった。主砲を失った近鉄は勢いをなくした。西武に水をあけられていく。
「まずい・・・・・・」
近鉄ベンチを不安と焦燥が支配した。たまりかねた彼等は急遽として助っ人を呼ぶことにした。
だが海外ではもう間に合わない。その時たまたま中日の二軍で燻っていたラルフ=ブライアントという男に目をつける。
そして金銭トレードで手に入れた。
慌しく入団発表を済ませると彼はすぐに一軍の試合に参加した。そしていきなり打ちまくった。
「何だ、あいつは!?」
これに驚いたのが他のチームの投手陣であった。何処の馬の骨ともわからぬ男に打たれまくったのだ。そのバットがチームを甦らせた。彼は後半戦だけで三四本のホームランと七四打点を挙げた。まるで鬼神の様であった。
その彼がチームを最後まで生き残らせた。だが苦しいことには変わりがなかった。
そしてこのダブルヘッダーに挑んだのである。最早引き分けも許されない状況であった。
「勝てえ!勝って優勝や!」
藤井寺から駆けつけてきたファン達が叫ぶ。それは仰木の耳にも届いていた。
「行くで」
仰木はナインの方へ顔を向けて言った。
「はい」
彼等はそれに対し頷いた。先発は左腕の小野和義である。彼もまた悲壮な覚悟でマウンドに向かった。
「絶対に勝つ!」
彼はそう決意し投げた。だがその立ち上がりを攻められた。
まずロッテは二点を先制する。三番の愛甲猛がツーランホームランを放ったのだ。打球は珍しく満員になったスタンドへと消える。この球場は古臭く人気がないことでも知られていた。下には虫が歩き回りお化け屋敷と悪口を言う者すらいた程である。
「まずいな」
それを見て仰木は呟いた。だが小野はこの後立ち直り粘り強い投球を続けた。
近鉄は五回表に五番の鈴木貴久がホームランを放つ。彼はその持ち前のパワーをここで発揮したのだ。
だがロッテも粘る。このシーズン最下位のチームとは思えない戦いぶりであった。
七回裏に追加点を入れる。この状況での失点は近鉄にとってまことに痛かった。
「小野はこの回までやな」
仰木はそれを見て呟いた。
ロッテの先発は小川博。この試合で彼は好投を続けていた。
しかし八回表突如としてコントロールが乱れる。四球とヒットでランナーをためたところで仰木は出て来た。
「ピンチヒッター」
そして審判に対して告げた。
代打は村上隆行であった。強打で知られる男であった。
だが守備は悪かった。それはショートとは思えぬ程であった。
その為仰木により外野にコンバートされた。この試合ではベンチにいた。
その村上が出て来た。彼のバッティングは思いきりの良さと勝負強さが持ち味である。仰木はその二つに賭けたのである。
賭けは当たった。村上は見事左中間にツーベースを放った。これで同点である。
仰木はさらに攻めたてる。またしても代打を送った。かって二連覇を達成した時の左のスラッガーであった栗橋茂である。ベテランの技に期待したのだ。
だが彼はここでは三振した。一気にチームの熱気が醒めようとした。
しかし小川は連続して四球を出す。これでクリーンアップにまで回った。近鉄側の観客席は一斉に騒ぎ出す。バッターボックスにはあのブライアントが向かう。
「行けぇ、ホームランや!」
だが彼の長打は三振と隣り合わせであった。彼はその長打力と共に三振の多さでも知られていたのだ。
彼は三振に打ちとられた。そしてこの回近鉄は同点に追いついただけに終わった。
近鉄は八回から守護神吉井理人を投入した。もう一点もやるわけにはいかなかった。
吉井はそれに応えた。その回彼はヒットを許しながらも無得点に抑えた。
そして最後の攻撃である。この回得点できなければ近鉄の夢は費えてしまう。四番を打つオグリビーがバッターボックスに向かった。高齢ながらその打撃でチームに貢献してきた男である。
だが彼はショートゴロに終わった。観客席に絶望が漂いはじめる。
「やっぱり牛島を打つのは無理ちゃうか」
だがここで淡口憲治がツーベースを放つ。それを見た仰木はすぐに動いた。
代走を出した。俊足の佐藤純一である。ヒットが出たならばすぐにホームへ突入できるように、だ。
「頼むで」
仰木は佐藤の足にかけていた。だがそれを見たロッテの監督有藤道世もベンチを出た。
ページ上へ戻る