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路地裏の魔法少年

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プロローグその6:運命との出会い(後編)なんじゃね?

 
前書き
ラッキースケベが許されるのは何歳まででしょうかね?
 

 

 「死ぃにさらしゃおんどりゃあぁぁぁぁ!!!!」」

 俺はアイアン・ウィルを突き出すと、目の前に居る黒い魔導師目掛けて突っ込んで行った。

 魔導エンジンが「ブオォォォォン!!」と呻りを上げ、デバイスの先から伸びる銀色の杭が力強く震えている。
 削岩機と良く似た俺のデバイスが砕く物は岩でも無けりゃアスファルトでも無く、敵の魔導師が張ったシールドやバリアだ。
 アイアン・ウィル曰く、凝縮された魔力を一点に集中する事によって対象の魔術構築を点で崩壊させ、併せて振動や回転などの運動エネルギーを付加する事によって構造的に脆くなった部位を連鎖的に破壊するとの事だが、俺の頭じゃ何を言っているのか全く分からん。
 とにかく、普通じゃ壊せない魔法のバリアとかをアイアン・ウィルは簡単にぶち壊す事が出来るらしい。

 それだけ出来りゃ十分。
 バリアをぶっ壊して、中に居る魔導師を引きずり出したら後は『キャメルクラッチ』でも『スピニング・トゥ・ホールド』でも『STO』でも好きな技をお見舞いしてやれば良い。


 俺はそう思ってアイアン・ウィルを突き出した訳なのだが、ここで予想外の問題が生起した。


 「ーーーぁぁぁ!!!……ってマジで!?」
 力いっぱいデバイスを突き出していた俺は思わずそう叫んだ。
 俺の渾身の一撃は魔導師が繰り出したアクロバティックな機動によってアッサリ回避されてしまったのである。
 クルンとスピンをしながら宙返り、俺の頭上を越えてそのまま背中に回り込む。
 体操選手もびっくりな鮮やかな機動だった。

 「…この!!」
 関心している場合では無い、俺は急いで旋回しようと身体を向けようとした。
 しかしながら、俺のデバイスはめちゃんこ重たい。
 振り返るにはどうしても避けられないタイムラグがあった。

 「……遅い」
 と囁く様な声が聞こえた瞬間、目の前に金色のビームの様な刃が振り下ろされる。
 ヤバい、直撃コースだ……。

 ≪プゥロテクショォオオオン!!!≫

 金色の刃が目の前で銀色の壁によって止められている。
 間一髪、アイアン・ウィルが展開したシールドがバチバチと音を立て、金色の魔力の刃を受け止めていた。

 よし!アイアン・ウィル良くやった!

 「うるぁあッ!!」
 俺は鎌を突き立てる魔導師に向かって薙ぎ払う様にアイアン・ウィルを振り回した。

 …が、向こうの方がやはり速い、しかも明らかに向こうの方が場数が多い。
 間合いを完全に読んでいる様で、軽く後ろに下がって俺の攻撃をやり過ごすと、再び鎌を振り下ろしてきやがった。

 ―ガキン!と金属同士がぶつかり合うような音を立てて魔力の刃と魔力の壁がぶつかり合う。
 「ぬぅッ!!」
 シールド越しに響く衝撃を俺は歯を食いしばって耐えると、再びデバイスを突き出す。
 そして再び回避され、更に一撃、二撃。
 ―バキン!ガキン!と連続的に伝わる衝撃が俺の身体を揺さぶった。

 「……なんて堅さ」
 三撃目を終えた所で、魔導師は頬に一筋の汗を流しながらそう呟いた。

 向こうは向こうで動揺しているみたいだが、かと言って俺の方が不利な状況である事には変わらない。
 こっちが一発かます間に向こうは三発以上ぶっこんできやがる……。
 近接から遠距離に攻撃をシフトされれば完全に手詰まりだ。


 俺は何とか離されないよう必死に喰い付いた。


 距離を開かれそうになれば間合いを詰めデバイスを振るい、回避されてまた一撃を喰らう。
 何度も何度も「ガキン!」「ベキン!」「ギャイン!」と言うシールドが殴られる音を聞き、その度に俺の体が揺さぶられる。
 シールド発生の基部となっている左肩のアーマーを伝ってビリビリと感じる痛みは、まるで連続で肩パンを喰らった時のよう。
 だが離れるもんか、頑丈さとしぶとさになら少しばかり自信があるんだ、それに……。


 「負けるかよぉッ!!!」

 俺は吼えた。


 確かに相手は強い、俺たちの中で桁外れの魔法の才能を持つ高町さんを負かすくらいだから相当なもんだ。
 スピードも魔法のテクニックも、戦い方も、恐らく経験も、俺なんかが足元にも及ばないくらい向こうの方が上なんだろう。

 だが、だからなんだ?
 そんなのは戦う前に相手にビビったヤツの言い訳だと俺は思う。
 始めちまった以上そんなのを言い訳にして降参するつもりも無ければ、むざむざ相手の思うようにボコられるつもりも無い。
 やるからにゃ全力でぶつかって、ボロボロになろうがどうなろうが、相手に一発叩ッ込むのが男ってもんじゃね?

 「っ!!」
 そんな俺に気おされたのかどうかは知らんが、魔導師は一瞬ビクっとなって鎌の動きを止めた。
 良く見れば、向こうは汗びっしょりになりながら肩で息を切らしている。
 あれだけ派手に鎌を振りまくっていたんだからそうともなろう。

 だが、俺にとっちゃチャンスだ。
 今まで好き勝手人の事をガッツンガッツン叩きまくってくれたな。
 俺はアイアン・ウィルを構えると背面の魔力スラスタを吹かし、銀色の魔力光を煌かせながら一気に魔導師へと向かった。

 これで何度目の突撃になるかはもう覚えていない。
 だが俺は、この突撃が「間違いなく相手のバリアを粉微塵に打ち砕く」事を確信した。
 こっちには最後の切り札が残っている!

 「ちぇいすとぉう!!」
 俺は武士や格闘家のような奇声にも似た掛け声を張り上げ、アイアン・ウィルを一気に突き出した。

 高速で振動する銀色の杭は黒い魔導師の空中バックステップによって空振りに終わる。
 だが、ここまでは俺の予想通り。
 問題はここからだ。

 「はあぁっ!!」

 魔導師はやはり少しバテていたのだろう、低下した気力を奮起するために声を張り上げ、持っていた得物の鎌を振り上げると一気に間合いを詰めて振り下ろした。
 ここも俺の思った通りだ。
 俺は突き出したアイアン・ウィルを力いっぱい引き寄せると左下段に構えなおす。

 その刹那、俺の肩に再び強い衝撃が走った。

 シールドで受け止められているとは言えかなり痛い。
 気を抜くと肩がバラバラになりそうな衝撃だが、それもこれで終わりだ。
 ここまで全て俺の予測通り、俺は思わずニヤっと笑みを浮かべるとアイアン・ウィルにこう言った。

 「モード変更!切断(カッター)フォーム!!」
 《よしきた!カッターモード、変ッ形ッ!!》

 俺の持っていたアイアン・ウィルが復唱すると、ガコンと音を立て変形を始めた。
 先端部の杭が引っ込み、覆っていたカバーが分解するとクルンと裏返るかのように他の部品に変化する。
 魔導エンジンだけを取り残し、機関部と外装が削岩機よりもスマートな印象を受けるフォルムに変形すると、先端部に逆さUの字のような板状のパーツが組み付きその周囲から無数の銀色の魔力で出来た刃が形成された。

 こっちの世界で言う「チェーンソー」に良く似た形に変化したコイツは、切断に特化したアイアン・ウィルの別モード。
 通称『切断(カッター)フォーム』である。

 「だっしゃぁあああ!!」
 《ぶるあぁぁぁ!!!!》

 肉を切らせて骨を絶つ。
 俺は魔導エンジンのスロットルを思い切り絞ると「ヴォオオオオオン!!」と言う喧しい咆哮を上げたそれを逆袈裟切りで一気に振り上げた。


 「!!」
 黒い魔導師がそれに気が付いた時にはもう遅い。
 高速で循環する銀色の魔力光が彼女のバリアをしっかりと捕らえ「ギャリギャリ」と音を立てながら左下から右上にかけ真っ二つに切断。
 残ったのはバリアを発生させた本人である魔導師の女の子だけ、向こうのデバイスは今も尚俺の肩のシールドにガッチリせき止められている。

 こうなりゃもう終わり。
 切り裂いたバリア越しに驚いた顔をする赤い目の女の子の姿。
 俺はアイアン・ウィルを掴んでいた右の方の手を離すと魔導師に向けて伸ばした。

 後は引きずり出すなり、ぶん殴るなり、締めるなり振り回すなり、止めの技は何でもOKだ。


 ……だが、どうしよう。
 とんでもない問題がたった今発生した。

 当初は高町さんが落とされたのを見て頭に血が上っていて何も考えていなかったが、今こうやって勝利も目前となった現在、冷静になって考えてみると……。 



 …………女子に手を上げるのってマズく無ぇか?



 マジでどうしよう、この先の事何にも考えてなかったんだけれど……。
 砕けたバリア越しに居る赤い目の金髪の女の子に目を合わせながら俺は考えた。



 ◆◇◆


 フェレット姿のユーノ・スクライアは襲撃してきた魔導師の『使い魔』らしき女性と戦いながら、少年の戦況を心配していた。

 工事現場の作業員にアーマーを装備させたような不恰好な友人は、身の丈に合わない大きく重たいデバイスを必死に振り回し相手に一撃を入れようと奮闘するが上手く行かない。
 それもそうだろう、ソーイチは近接特化型の魔導師と言えども対人戦闘の経験はほぼゼロ、加えて機動性は皆無に等しい重格闘タイプである。
 対する相手は経験豊富な上に機動力に優れたオールラウンダー。
 相性は最悪である。

 使い魔の猛攻を受け流しながら見る光景は「案の定」と言った所で、相手に攻撃をするも回避され、逆に相手の攻撃を受けるというものである。
 それでも、ソーイチの防御力が自分の張る防御魔法に匹敵或いは一部凌駕している事を知っていたユーノは少しだけ彼に賭けている所も合った。

 どの戦いでもそうだが、攻撃を加える瞬間というものが一番無防備になりやすい。
 所謂カウンターと呼ばれるそれによって涙を呑んできた格闘家や命を落としていった騎士の数は地球、ミッド、ベルカを問わず相当の数に上る事を知識人であるユーノは良く知っていた。
 決してソーイチの家に上がりこんだ際に読んだ「あし○のジョー」とか「はじめ○一歩」とかに影響を受けたのでは無い、断じてない。
 マルケスの名勝負のビデオを見た訳でもない。

 兎も角、格闘技マニアな友人は決して何の考えも無しにあの「非常にボディラインを強調させたバリアジャケットを身に纏ったセクシー路線の魔導師」にスッポンの如く噛り付こうとしている訳ではないだろうし、そうとなれば恐らくカウンター狙いの一撃を狙っているのではなかろうかと思っていた。


 そして、それは彼の予想通りの試合運びとなった訳である。

 「フェイトッ!!」
 使い魔が目を見開いて主の名を叫ぶ。
 それを見て、ユーノはソーイチ劣勢が覆された事を認識し、同時に自分の予想が的中した事を知った。
 
 ソーイチは中々に策士であった。

 数多の猛攻を鉄壁の守りで防ぎきり、スタミナ切れを起こした相手にあえて攻撃を加える事によって回避と連動した攻撃を誘発。
 そこで初めて姿を見せたデバイスの別形態で一気に決着を付ける。
 恐らく彼が防戦一方だったのはパターン化を狙っての事だろう。
 人間は学習する生き物だ、特に決まり事を延々と続けていくとそれに慣れて効率を上げようとするがそれは同時に突発的な事象に対して反応を遅らせる。
 疲労が蓄積していたのならなおの事だ。

 ユーノは聡明な頭脳でもって彼の戦いをそう分析していた。
 だが、そんな彼ですら勝利を目前としたこの戦いの結末を予測する事は出来なかったのである。


 「ソーイチ!」
 ユーノは彼の名を叫んだ。
 その声色は絶望でも無く、ましてや悲哀でも無い。
 勝利を確信した驚喜に満ち満ちている。
 ユーノは何より「なのはを落とした分まできっちり返してくれる事」を切に願い、彼の放つ最後の一撃に期待した。

 …したのだが、その一撃は繰り出される事は無かった。


 彼は知らない。
 日野槍一がこの瞬間思っていた事を。

 粗暴な言動が目立つ友人は実は女性に手を上げる事を良しとしない人物である事を。
 またそれを今頃になって思い出してしまった大馬鹿者である事を……。


 だが、この時ソーイチの右手はアイアン・ウィルのグリップから離れ「見る者によっては扇情的とも言えるデザインのバリアジャケットに身を包んだ魔導師の少女」に向かっていた。

 電光石火の如く押し合い圧し合いを繰り返しているソーイチの頭脳はそんな事などすっかり忘れている。
 だが、運動エネルギーという物理的な法則は冷酷にも主の意思から切離されても尚直進を続けていた。

 「フェ…フェイトォォォ!!!」
 使い魔の悲痛な叫びが辺りに響く。
 だが咄嗟の出来事に身体の動かない魔導師の少女は己に向かう少年の掌に恐怖し、咄嗟に目を瞑った。




 …………そして悲劇が訪れた。




 「あ!」
 最初に口を開いたのはユーノ・スクライアだった。
 その表情は何処か間の抜けたものであり、ポカンと開かれた口から発せられている。

 「ぁぁッ!!」
 次に口を開いたのは日野槍一。
 その顔は驚きと「やってしまった」という絶望感を組み合わせたもので、閉まる喉から搾り出すように声を漏らしている。

 「なっ!?」
 三番目に声を出したのは魔導師の使い魔だった。
 橙色の長い頭髪が目に付く年上の女性の姿に変化している使い魔は大口を開けて主である魔導師と槍一の姿を見つめている。

 「……ふえ?」
 最後に可愛らしくそう呟いたのは魔導師の少女。
 彼女は一向に来る事の無い衝撃を不思議に思って恐る恐る目を開いた。

 そして視界に入ったのは、「驚愕」と「絶望」と「気まずさ」とを組み合わせ尚且つ耳まで紅潮させている少年の顔。
 その瞳は少女のある所に向けられている。
 「何だろう」と思って少女が視線の先に顔を下ろし…………。

 そして時が止まった。

 槍一が伸ばした腕は少女に触れていた。
 確かに触れていた。


 心臓に最も近い位置、徐々にではあるが成長の兆しが垣間見えるなだらかな二つの丘の片方に。
 主の意思と勢いを失った槍一の右手は幸か不幸か彼女のその小さな胸の膨らみを「ふにっ」と掴んでいたのだ。


 「……っ」
 異性に、しかも、触られてはいけない部位を掴まれた事を認識した少女の顔が段々と赤みが増し茹蛸のように赤くなる。
 目には涙を蓄え、少女は少年の方に再び顔を向けると彼は慌てて手を離した。

 「……ち」
 槍一は慌てて口を開く。
 「違う!違う!これ事故!事故だから!いやマジで!!事故なんです……ってぶべら!!」

 その刹那、「ゴッ」という鈍い音と共に彼の頬に少女の持っていた黒いデバイスの黄色い猫目石のようなコアユニットがめり込む。
 全盛期の王貞治もビックリな見事な一本足打法によって振られたインテリジェントデバイス『バルディッシュ』がジャストミートし、槍一は勢い良く吹き飛ばされた。

 「でらべっぴん!!」
 意味不明な叫び声を上げて飛翔を開始する槍一。
 打球は真っ直ぐ伸びて海鳴市奥の裏山まで一直線。
 山の中腹部で土煙が上がったかと思うと1~2秒程して「ズドン!」という砲弾が炸裂したかのような音が響いた。

 「…大丈夫かいフェイト?」
 使い魔はそう言ってボロボロと涙を流す主を抱き寄せている。
 ユーノは思った「なんだこの状況は」と。
 非常に気まずい。

 「とにかくここからズラカるよ」
 そう言って使い魔は泣きじゃくる主を抱えて転送魔法を発動すると、何処かへと消えていった。
 敵ではあるが、この時ばかりはユーノも感謝した。


 そうして訪れる静寂。


 昏倒を続けるなのはと場外ホームランの打球の如く裏山までファーしたソーイチ。
 まずどちらを助けるべきか…。

 3秒悩んだ結果彼はなのはを先に助ける事にした。


 その後槍一を救助しになのはとユーノが裏山に訪れたのはそれから1時間が経過した頃であった。
 裏山に訪れた高町なのはは捲れ上がった土砂に埋もれた友人の姿を見て開口一番にこう言ったそうである。

 「……犬神家みたいなの」と
 
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