ソードアート・オンライン~黒の剣士と紅き死神~
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
After days
挿話集
妖精達の凡な日常②
前書き
ギャグ+ちょいシリアス
そしてフラグ
―アルン上空
「それで、あの2人はどこに行こうとしているんだい?」
「さぁ?」
「……この進路だと雑貨店が多いエリアね」
世界樹のある中央区画から少し離れたこの場所を好んで飛行するプレイヤーは少ない。時たま通るのはアルンを通過するだけのプレイヤーや雑多な地上を歩くのを面倒臭がる物臭だけだ。
ハンニャ、アルセ、ヴィレッタは各々の場所から合流すると、地上を歩くセインとシウネーを尾行し出した。
主犯のハンニャはともかく、両脇の少女2人は何故このような非マナー行為に手を染めているのか。
アルセの場合、セインがまだALO初心者の時に面倒を見たという過去がある。あるいみ弟(実際は歳上)のような存在にガールフレンドが出来たらそれは気になった。
一方ヴィレッタの場合、彼は彼女がPKとなってしばらくした後、初めて敗れた憎き怨敵……もとい、好敵手である。未だ勝敗は五分五分で互いの腹内まで読めるようになってきた最近では少しでも弱味を握っておきたいという不純な理由だ。
「あ、店に入るよ」
「あれは……確かギルドが出資したやつじゃ?」
「そだな。確かそれなりに高額な店だったはず」
3人は顔を見合わせると、無言で頷き合った。
『いらっしゃいませ』
ここはプレイヤー経営の店だが、それなりに広い店内各所にNPCが配置されている。
「す、凄いですね。確か店番のNPCを雇うのってかなり掛かりますよね?」
「ええ。実はここ、《オラトリオ・オーケストラ》がスポンサーをしている店なんです」
「え?とういうと……?」
「ここの店主は元SAOプレイヤーの方なのですが……生産職だったのに戻ってきた奇特な方なんです。腕は確かなんですけど……」
「へぇ……大きなギルドだと色んな事が出来るんですね」
他の大ギルドでも素材の売却や武具の生産が楽なように商人や鍛冶屋を抱えているギルドはある。オラトリオにもその手のプレイヤーは居て影で活躍している。
だが、他所と違う点は『望むのなら自分の店が出せる』という所だろう。ギルドから店を始めるための軍資金を貸し出され、商売を始める。
毎月売り上げの一部で借金を利子付きで返済していき、完済したならば後は自由。独立するも良し、そのままギルドの系列店として売り上げの数割を上納しながら所属するもよし。
この場合、後者が多いのは明白だ。仮にも有名大ギルドの傘下、何より魅力的なのは高級レア素材が安定的に低額で供給される事だ。
オラトリオ傘下で店を出すにはギルド内でそれなりの実績を出し、スキル熟練度のマージンをクリアしなければならないのだが、それもギルド内で修行できるという充実さ。噂を聞き付けた中堅生産職がこぞってオラトリオに入団申請するのも頷ける話だ。
―閑話休題―
「特典でギルド員対象の割引もあるので好きなのを選んで構いませんよ。僕が払います」
「え!?そんな……悪いですよ」
「遠慮すること無いわ。じゃんじゃん買わせちゃいなさい」
「で、でも……っ!?ど、どちら様!?」
現れたのは長身のシルフ。
白い生地の部屋着の上に紫色のローブを羽織ったどこか気難しそうな印象を受ける女性だ。
「こんにちは、アシュレイさん。ご無沙汰してます」
「ん。久しぶりだな、セイン君。あのバカ共は元気か?」
「ええまあ……そこそこ」
SAO生還者アシュレイ。彼の世界で裁縫スキルを誰よりも早く完全習得した奇人。女性プレイヤーなら知らぬ者無しとまで言われたカリスマ的存在であり、ALOでも生産職屈指の有名人だ。
「それで、誰が奇特な方だって?」
「……すいませんでした」
「分かればよろしい。それじゃあ、お嬢さんはこっちだ」
「え?あ、はい……」
セインを冷ややかに見ながら同時にシウネーを頭の先から爪先まで観察していたアシュレイはそう言うとシウネーの腕を取って店の一角に引っ張って行った。
ちなみにそこは、かなり良いお値段がするものが並ぶ一角だったりする。
「割引、してくれるかな?」
セインは財布の中身を思い出しながらタラッと一筋の汗を流した。
その時、店の戸がチリンと音を立てて開かれる。別に客足が少ない店でも無いため、ただの新しい客だろう。セインも最初は気にしなかった。
が、ふとその姿が目に入った。
種族はサラマンダーの女性プレイヤー。膝まであるだろう艶やかな赤毛を靡かせ、白いワンピースのようなインナーに要所のみを守る質素だが高級な革素材の防具。アルンを歩けば人目を引かずにはいられないだろう神秘的な美を体現したような人が居た。
「…………?」
自分を見詰めるセインに気がついたのか、その美しい赤毛を四肢に巻き込みながら振り向いた。
「…………っ」
セインは何も見とれていた訳ではない。いや、確かに綺麗な人だとは思ったが、単純な造形の良いプレイヤーなら知り合いに何人だっている。
「―――分かっちゃうのね、貴方ほどになると」
「…………」
「嫌ね、こんな所でPKなんてしないわ。私、Mob狩り専門だし」
クスクスと鈴のような綺麗な音程でその女性は笑う。
「知ってるわ、貴方の事。あの人が話してくれた……セイン君。ALO最初の《二刀流》使いにしてかつて《征服王》とまで言われた剣士」
「…………知りませんね。《征服王》と言うのはシルフではありませんでしたか?」
「ふふ、そうだったかしらね。ごめんなさい、変な事を言ってしまったわ。……それでは」
女性は持っていた服を丁寧に棚へ戻すと、数歩歩いてから立ち止まった。
「無粋よ、ハンニャ」
店の戸が勢いよく開いて何かが女性に向かって飛び込んでくる。
――ギィッン!!
次の瞬間、目にしたのは鬼のような形相で紅蓮の大剣を振り下ろそうとしているハンニャ。対するは先程のサラマンダーの女性。こちらは黄金の穂先が付いた三叉槍を片手で携えている。
ハンニャは剣を押し込もうとするが、女性は一歩も引かず、三叉槍の刃の間で大剣を受け止めていた。
(レーヴァテインをああも簡単に!?……いや、あれも伝説級武器なのか?)
よく観れば、セインの見たことがある伝説級武器同様、それら特有のオーラエフェクトをまとっている。
ハンニャがゾッとするような低い声で言葉を紡いだ。
「《妖精郷》に何の用だ、アルカディア」
「何の用だって……私だって、ALOプレイヤーよ?」
「惚けんな。《天界郷》からわざわざ《ビフレスト》を渡って《妖精郷》に来た理由を訊いている」
《天界郷》……ALO黎明期に発見されたフィールドダンジョン、《ビフレスト》の先にあると言われている場所。
ビフレストとは当時から最高難易度を誇り、その場所限定の死亡ペナルティーの重さから最古参プレイヤーが封印した魔境。
「買い物と世間話よ。最近こっちには来てなかったんだもの。向こうには他のプレイヤーが居ないし、せっかくMMOやっているのに寂しいじゃない」
言葉とは裏腹に両者は臨戦態勢へと移行していき、周囲の客は足早に遠ざかっていく。と、そこへ
「こぉぉぉぉぉぉらぁぁぁぁぁぁっっっ!!!!」
破裂音と共にハンニャと槍使いの女性が反対側に弾き飛ばされた。その中間値点には巨大な鋏が床に刺さった状態で鎮座しており、何かスキルを発動したのか、紫色のライトエフェクトをまとっている。
「ア、アシュレイさん……」
そう、一触即発の事態に割って入ったのは裁縫師のアシュレイ。確かにここは中立地帯のため、やろうと思えばPKも可能だ(かなり白い目で見られるが)。
しかし、ここはシステム的にも周知的にも彼女の領土だ。当然営業妨害に怒る権利があり、気に入らないのなら強制排除や追放も出来る。
「あんたら、私の店で何やってくれてんだ。ん?表でやって来い」
槍使いの女性から凄まじいオーラが零れたが、次の瞬間には最初の穏和な印象に戻っていた。
「……少し来ない間に面白い子達が増えたわね、ハンニャ」
「……ふん」
「ごめんなさい、アシュレイさん。ご迷惑をお掛けしました。あの棚の服とこの帽子を頂けるから?」
「客は歓迎する」
槍を仕舞った後、数秒トレードウィンドウを操作してその女性は去っていった。
……時は少し遡り。
店内に密かに潜入すべく、徐々に高度を落としていく3人。そんな時、先頭のハンニャが突如停止し、アルセとヴィレッタを制止した。
「っ!?……なによ!?」
「……あれは!!」
アルセはハンニャが気づいた事にすぐさま同じく警戒を現す。2人の視線の先にはどこか神秘的な雰囲気をまとうサラマンダーの女性が居た。
「……あの人が、何?」
このゲームに殺気を表すエフェクトがあるならば、広範囲を瞬時に焼き尽くしそうな形相をしている2人にヴィレッタが平然と話しかける。
彼女のPK行為に対する報復の為に憎悪を持って襲いかかられた経験もある彼女にとってこの程度はぬるま湯に過ぎない。
「《神滅戦姫》……聞いたことあるでしょ?」
「……あるわ。でも、架空の人物……って、まさか」
「無理もない。俺も新生ALOになってからは初めて見た」
ハンニャはそう言いながらレーヴァテインを実体化させる。
「ちょ……、ハンニャ!!」
「ヤツは何するか分からねぇ、お前らはここで待ってな」
そう言い残し、ハンニャその場から消えた。
「ふふ……」
家路をのんびりと歩きながら思わず笑みをこぼす。通常マップに出なくなって久しいが、随分とそこは様変わりしていた。
「再び起きたか《戦神》よ」
偽りの口調を消し去り、地の口調で独り呟く。
「SAOから《黒の剣士》《閃光》《紅き死神》《聖譚歌》達。ALOから《戦神》《征服王》《絶剣》《緑の双翼》、そして私……後2枠、間に合うか……?」
最悪外部に助力を求める必要がある。国内ではホークス、サジタリウス、七武狭。外様では騎士団、白象神。
「できれば現実世界の問題は仮想世界に持ち込みたくないのだが……」
考え事をしている間に目的地に到着した。アルヴヘイムからその上位マップであるアースガルドへ至るための難所、ビフレスト。いくら彼女と言えど、最古参プレイヤー達ですら近寄らないこの場所を上の空で進むことは出来ない。
「……今から心配しても仕方がない、か。……《グングニル》」
彼女の手に黄金の穂先を持つ三叉槍が出現する。
「『A』――其は最源にして頂。幾千の槍を以って神敵を打ち砕け――」
グングニルから発せられる黄金の光がその空間を塗りつぶしていく。古の秘言によって《原初》の姿を解放されたグングニルは輝きながら無数に分裂し宙に浮いた状態で、忠実な飼い犬のように主人が命令を下すのを待っている。
「行こうか、グングニル」
周りの空間が歪み、ビフレストのど真ん中に巨大な影が現れても彼女はまるで散歩するかのような歩調で進んでいった。
Side:???
ノーム領最北端、氷河エリア
「……なーんか忘れられてないかねぇ?」
特に根拠も無くそんな事をポツリともらす巨漢の剣士。その視線の先にあるのはアルヴヘイムの中心にある大都市アルン、そしてとある方法によって上位世界アースガルドへと繋がる橋、ビフレスト。
時同じくしてグングニルの使い手が謎の言葉を吐いていたが、勿論それが遥か遠いノーム領にいる彼に届いた訳では無い。
偶然か、それとも鋭すぎる直観から来る未来予測か…………。
「何故かルカは俺の事を毛嫌いするのか……いやはや、理解できないなぁ」
ふぅ。とため息を吐いている彼に頭上から声がかかる。
「お頭ぁ~。準備完了ですぜ!!」
「おーう。ご苦労さん……さて、出掛けるか」
手に携えていたロングソードを背の鞘にしまい、氷河エリアを海に向かって歩いていく。いや、海のあるはずの方向に歩いていった。
「ハチ、今日はどれくらい入ってる?」
「へい、お頭入れて15人です。飛べますね」
「阿呆……ウチらの秘蔵っ子をお天道様に晒してどうする。今回も領主閣下からの依頼を遂行するだけだ」
「ちぇ……言ってみただけっスよ」
彼らが見上げるのはノーム族が保有する魔導戦艦《フリングホルニ》。
普段は岸辺に浮かぶ不動オブジェクトだが、《鍵》を使う事によってその真価を発揮する事ができる。
「《ミスティルテイン》、今日も元気にお仕事しますか」
愛剣にそう語りかけ、巨漢の戦士は大海原に乗り出した。
後書き
さて、紅き死神オリジナル設定に関わる二本の伝説級武器とその使い手が登場。
サラマンダーのアルカディアさん、ノームの???さん。どちらもキーとなってくる人物なので、どうぞ忘れないでやってくださいw
相変わらずナゾいハンニャさん、レイ/螢となにか関係がありそうなアルカディアさん、そしてまだMobいノームの人。
まあ、アースガルドやらビフレストやら出してきた時点で作者が何をしようとしているのか分かっちゃった方も居るかもですけど……。ちょくちょくほのめかしていますし、ね?
少しヒント。キャリバー編、BBQ編、ダンジョンデート編、以上!←
分かっても感想板で洩らさないで下さいw
次回がセイン君、シウネーさん編の最後になる(予定)です。でわノシ
※3/1《グングニル》に関する部分を訂正。
ページ上へ戻る