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久遠の神話

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第八十二話 四人への準備その九

「それさえあれば」
「権藤さんの願いは適うんですか」
「首相になれるんですね」
「はい、この国では君主がいますね」
「天皇陛下がおられます」
「皇室の方々が」
 二人はすぐに聡美に答えた。
「あの方々がおられますので」
「それ以上はですね」
「なれません、とても」
 到底だというのだ。
「あの皇室にはこの国の神々、数多くの神々の守護があります」
「八百万のですか」
「その神様の」
「そうです、それに国民から受けている愛もありますので」
 それ故にだというのだ。
「誰もその座にとっては代われません、彼の野心もあくまで首相までです」
「それ以上は望まれていないんですね」
「首相までなんですか」
「そうです」 
 権藤の野心にも限りがある、そうした意味の言葉だった。
「彼は野心はあってもです」
「首相までなんですか」
「それ以上は」
「日本を太平洋で揺るぎない地位にすることは考えておられますが」
 だがそれでもだというのだ。
「ご自身の地位はです」
「首相までなんですか」
「そう考えておられます」
「野心にも限りがあるんですね」
 上城は聡美の話を聞いて何処かほっとした、権藤の野心にも限りがあると知ってそれで、である。
「そうなんですか」
「際限ない野心というものもありますが」
 そうしたものも実際にあるとだ、聡美は弓を止めて言った。最後に放った矢も的の中央を的確に射抜いていた。
「しかしです」
「権藤さんは限りがありますか」
「お父様も野心はおありでしたが」
 ゼウス、彼にしてもだというのだ。
「それでもです」
「ゼウス神の野心にも限りがあるんですか」
「天界の主です」 
 それがゼウスの座だ、三つの世界のうちの一つの世界の主なのだ。
 だがそれ以上はどうかとだ、聡美は二人に話す。
「しかし海や冥界にはです」
「行こうとしないのですね」
「海も冥界もお父様の世界でないとわかっておられるので」
 海はポセイドン、冥界はハーデスのものだ。ギリシアの世界はこの三柱の神々が三大神と言っていいのだ。
「ですから」
「その二つの世界には絶対にですか」
「入られません、ポセイドン叔父様とハーデス叔父様もです」 
 その海と冥界をそれぞれ治めている彼等もだというのだ。
「ご自身の世界だけで満足されています、ただ地上には来られますが」
「地上は誰の世界でもないんですか」
「人間の世界です、人間の世界にはです」
 神々は介入してくるというのだ。
「とはいっても侵略ではなく影響力の確保ですが」
「そうなんですか」
「しかし野心はです」
 それはというのだ。
「そこまでなので」
「神様にしても野心があってそれには限度があるんですね」
「そうです」
「そうなんですか」
「人間もまたです」
 権藤にしてもだというのだ。 
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