赤城と烈風
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防衛の要
14試局地戦闘機『雷電』、試製重戦『鍾馗』
前書き
改定前
史実では昭和14(1939)年、14試局地戦闘機の試作が三菱に指示されていますが。
設計陣は96式艦戦『強風』の改設計、12試艦上戦闘機の開発中で余力が無く辞退。
敵爆撃機を迎撃する邀撃機、局地戦闘機は必要不可欠です。
1936年の衝撃に拠る教訓は深刻に受け止められており、試作指示は同業他社へ委託。
局地戦闘機は陸上から発着する為、艦上機に特有の制約は皆無です。
経験の薄さは充分にカバー出来ると踏み、三菱ではなく川西飛行機へ発注されました。
これまで飛行艇と水上偵察機を製造して来た同社は、初の戦闘機開発に奮い立ちます。
菊原静男技師を中心とする設計チームを編成、最速の戦闘機実現を目指し発動機を選択。
空冷星型14気筒の金星を上回り、97式4発飛行艇の後継機に搭載予定の三菱A10火星。
重量も直径も大きい火星に拒否感を抱かず、積極的に大馬力を生かす途を選択。
火星の直径は1340ミリに達し、機首に装備すれば前方の視界は狭まります。
更に前下方が見えない為に着陸は困難となり、高い技量が要求される筈でした。
着陸時の速度も金星装備機を遙かに上回り、航空派将校達の猛反発を買いますが。
強烈な逆風と多大な困難にめげず、設計者達は根気良く説得を続けました。
英米の軍用機には火星より一回り大きく、大出力の発動機が装備される事は確実です。
金星を搭載すれば馬力が大幅に劣り運動性、速力、防御力が劣る事は避けられません。
日本航空隊は手も足も出ず、総崩れとなる危険があったのです。
地道な説得が続けられ、実地に飛行操縦体験が実施されました。
1936~7年に南樺太、北海道へ不時着し押収された捕獲機。
ソ連空軍の重爆撃機が、各地の航空隊に運ばれました。
視界の悪さと離着陸速度の高速化を代償に、想像以上の加速性能と防弾設備を実現。
発動機の差が機体性能に直結する実態が搭乗員達、1人々々に体感されました。
通信機の性能も眼を見張る物であり、搭乗員達は或る事実に気付きます。
個人技と一騎打ちに拘る日本機を圧倒した要諦、1936年のソ連空軍が駆使した魔術。
驚異の集団運動を体現する彼等は、以心伝心等と言う曖昧な物に頼っていませんでした。
確実に聞こえる通信機から具体的な指示を出し、集団戦術で日本機を圧倒していたのです。
不都合な真実を直視し得た搭乗員達は、潔く謝罪し川西の設計者達と和解。
彼等以上に強い発言権を行使し、軍担当者へ火星搭載機の早期実用化を要望。
各部隊の機体整備員達も熱意を以って、火星の整備調整技術を懸命に習得。
稼働率の向上に寄与する事となりましたが、逆に忌憚の無い意見も開陳しています。
設計者達が弟一線部隊から得た情報、加工されていない生の声は示唆に富む物でした。
身体を張り収集した膨大な経験値を充分に吟味、検討し設計に反映する筈でしたが。
発動機の馬力が機体の性能に直結する現実、鉄則は遺憾ともし難く開発は難航。
2千馬力級の発動機が必要と計算され、担当者は頭を抱えました。
爆撃機用に開発され最大の出力を誇る大直径の発動機、三菱A10火星も公称1400馬力。
14気筒の三菱A10火星を18気筒化、1900馬力の発動機を開発する計画が開始されました。
社内開発番号A19の試作品は1939年8月に完成、1940年6月には軍の審査運転が完了。
発動機直径はA10火星の1340ミリから1370ミリ、重量は725~860kgから1260kgへ増大。
史実の誉及びA20は1気筒当り50馬力、無理に無理を重ねた数値と思われますが。
1気筒当り36馬力/リットルで公称1730馬力、離昇出力1900馬力と堅実な数値です。
A19木星は大型で容積に余裕があり、A10火星に匹敵する稼働率が期待出来ます。
試作品は審査を無事終了し川崎、愛知の発動機製造部門に於いても製造が決定。
高い工作精度を要求される液冷発動機製造で鍛えられた川崎、愛知が製造した試作品。
他社生産のA19は性能審査試験に於いて本家、三菱純正品を上回る高い信頼性を実証。
三菱製は『木星』A型、他社生産は『誉』と呼称される事になりました。
『誉』の呼称は三菱社内にも川崎と愛知の発動機製造部門、同業他社の尽力を称え定着。
18気筒発動機の共同開発と同様、川西14試局地戦闘機の設計も陸軍との協力が実現。
土井武夫技師を中心とする川崎の設計陣が、垣根を越えて協力する事になりました。
爆撃機の迎撃を主任務とする為、メッサーシュミットMe109を参考に上昇力を優先。
垂直面の機動性を強調した邀撃機となり、国産メッサーとも通称されています。
熱心な意見交換と火を噴く討論検討が重ねられ、試作機が誕生するに至りますが。
武装は意見の一致を見ず紆余曲折の末、海軍の推奨する20ミリ機銃を断念。
装甲炸裂弾60発装弾のエリコン機銃を4挺、主翼に装備する予定でしたが。
弾道の直進性を懸念する陸軍担当者の要望が優先され、妥協案が成立しています。
前述の通り艦戦、軽戦は弾道性能の良好な12.7ミリ及び13.2ミリ機銃を装備。
主翼に2又は4挺を搭載していますが、6挺への増設を検討。
翼の強度が不足する為、4挺を超える増設は不可能と判断されました。
機首に2挺を追加装備する案も出ますが、前方視界の悪化と上昇力の低下を懸念。
陸軍は海軍が国産化に成功済みの制式装備、ホチキス艦対空25ミリ機銃に注目。
使い慣れた陸軍の機関銃と同様の構造と知り、固定機銃への改造を推進します。
25ミリ機銃弾の弾頭重量は250g、13.2ミリ弾52gの約5倍。
装弾数45発のコンパクトな弾倉を用い、主翼に2挺を搭載。
弾道特性はエリコン20ミリ機銃に遜色無いと判断されますが、命中は困難です。
対策として装弾数550発の7.7ミリ機銃も2挺、主翼に装備。
先に7.7ミリ機銃で射撃し弾道を確認、照準を合わせ25ミリ機銃を発射。
数少ない大口径弾を有効に活用する方針ですが、腹案も存在します。
欧州の空を縦横無尽に暴れ廻る邀撃機、メッサーシュミットMe109。
垂直面の機動性を強調したドイツ機に倣い、制空戦闘機としても活躍を期待。
武装は零式艦戦『烈風』、1式軽戦『隼』と同じ13.2ミリ機銃4挺に統一。
下瀬火薬の再現を狙い着火剤を増量した発炎弾、炸裂弾として使用。
敵機の装甲板へ着弾時に弾頭を点火し炸薬を飛散、機体の鋼鉄に付着させ科学反応を励起。
高熱を発生させ機体を炎で包み搭載する爆弾の誘爆、燃料タンクへの引火を期待します。
ソ連空軍主力戦闘機I-16等の高速機に対し一撃離脱戦法、追撃の可能な局地戦闘機。
火星を装備する試作機は1940年10月に完成、飛行試験で最高速度580km/hを記録。
機体外部の継ぎ目を補修、空気抵抗を軽減した実験機は最高速度626km/hを実現。
制式化は来年の予定ですが、13試局地戦闘機の愛称は『雷電』に仮決定。
陸軍は重戦闘機『鍾馗』と仮称、18気筒1900馬力のA19誉へ換装の計画も進行中。
海軍も採用を予定し試製『雷電改』と呼称、陸軍は『鍾馗』2型と仮称しています。
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