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久遠の神話

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第八十一話 バトルゲームその五

「しかしだ」
「倒さなくてもなんですね」
「それはそれで楽しい」
 同じ相手と何度も戦う、それもまただというのである。
「俺はただ戦いを楽しみたいだけだ」
「だから剣士の戦いも」
「願うことはただ一つ」
 まさにだ、それは。
「永遠の戦いだ」
「戦い続けることですか」
「ただそれだけだ、金も権力もいらん」
「そのどれもですか」
「そうしたものには興味はない」
 それも一切だ、これだけ見れば加藤は無欲だ。
 しかし完全に無欲な者なぞこの世にはいない、それは加藤も同じで彼の欲はそうしたはっきりとしたものではないのだ。
 そしてだ、その欲に対して彼は。
「戦いにはな」
「あくまでなんですね」
「俺は貪欲だ」
「ご自身でもわかっておられるんですね」
「そういうことだ、ではだ」
「それではですね」
「今日はこれで終わりだが」
 また次の時にはというのだ。
「楽しませてもらう」
「修羅の道ですね」
「修羅道か、死ねばだ」
 その時になってもだというのだ。
「そこに行きたいものだな」
「修羅になられてもそれが」
「いいものだ、俺にとってはな」
 果てしなく戦うその世界に転生してもだというのだ。
「むしろ俺は修羅になりたい」
「果てしなく戦う存在にですか」
「それになれれば最高だ、そのことも言っておく」
「ですか」
「ではまたな」
 ここまで言ってだ、加藤は上城に背を向けた。そして今彼に最後に言う言葉は。
「次はより楽しませてもらう」
「次ことは貴方を」
「止めるつもりなら全力で来ることだ」
 上城に背を向けて前に進みながらの言葉である。
「それが楽しめるのだからな」
 この言葉と共に闇夜の中に消えた、場に残っていたのは上城と樹里だけだった。その樹里が戦いを終えた上城に声をかけてきた。
「お疲れ様、けれど」
「うん、あの人はね」
「止めることは難しいわよね」
「そう思うよ、僕もね」
 上城は加藤が去った方を見ている、そのうえで樹里に答える。
「あの人についいては」
「ただ戦いたいだけの人だから」
「そうした人はね」
 金や権力ならその手に握れば満足する、しかしなのだ。
 戦いたい、永遠にそうしたいという欲望、それはというと。
「厄介だよ」
「そうよね、ある意味において純真だし」
「あの人は純真だよ」
 上城は加藤のそうした面も見ていた、既に。
「心に汚いものはね」
「ないわね」
「殆どね」
 完全に清らかな心の者もいない、それは加藤もだ。
 だからだ、こう言ったのだ。
「確かに刃物みたいな人だけれどね」
「白銀の刃物かしら」
「そうだね、あの人はね」
 強く鋭く輝くだ、それだというのだった。
「そうだね」
「刀なのね」
「そうなるね、僕は刃物そのものと言っていい人と戦ったんだ」
「それで斬られなかったのは」
「それなりに強くなったってことかな、僕も」
「そう思うわ」
「そうだね、けれどね」
 それでもだとだ、ここでこうも言う上城だった。 
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