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正義と悪徳の狭間で

作者:紅冬華
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導入編
麻帆良編
  導入編 第8-M話 騒がしき人々

アイシャにメールを送り終わった頃、マナも荷物の運び込みに到着した。

…と言っても、戦場を飛び回る彼女の事だ。基本的にリュックサック1つ分もあれば最低限は事足りてしまう。
さすがに寝具は毛布一枚ではなく、ベットと布団だし着替えや趣味の品も充実してはいるものの、荷物は多分少ない方だろう。
…私と同じく、荷物の大半が武器やトレーニング用品である、量は当然私の方がけた違いに多いが。

あと、刹那が帰ってきた時は私と刹那が名前で呼び合ってる事に多少驚いていた。

その日は刹那の指揮でジャパニーズカレーライスを作ってみた。
真名はNGOの炊き出しの手伝いか、野生動物を捕獲して、さばいて焼くか煮るだけの料理ならできるらしい。
私は料理を殆どした事がない、一応サバイバル術として野生動物の捕獲なんかはやった事あるが、基本食べる専門だ。

結果は…うん、タイで外国人にカレーと呼ばれる料理とは違っていたがおいしかったよ、やはり旨いな日本の食品は。

とりあえず、家事の分担は食事当番がマナか刹那がメインで、私は必然的に掃除やゴミ捨ての割合が多くなった。

この日の夜、私はアンブレラの技術指導一覧に料理教室がないか、つい検索してしまった。
さすがにそんなものはなかった(しいて言うなら、ある地域の文化を含めた語学教室にオプションでついているくらい)が、アリスが初心者向けの料理本を見つけてきてくれたので購入しておいた。
どうしても必要なら普通に表の料理教室にいけばいい。




翌日、教室に集合した後、出席を取って校庭に整列、入学式となった。
入学式は学園全体に配信される学園長の話があって、各校校長の短い話が合って、挨拶はそれで終わりだった。
正直、式典はもっと長引くと聞いていたのでとてもうれしい。



再度教室に戻り、色々と説明を受けたり、クラスの役職とやらを決める。
担任は高畑先生なのだが、周りを見渡すとその理由がよくわかる。

…なんというか、物理的に普通の人間には抑えられない面子なのだ。

私かマナのどちらかだけでもうお腹いっぱいになるだろうに、刹那、エヴァンジェリンさん、絡繰さんが確定、
さらに別に二人ほど堅気レベルではとても抑えられないのがいる。

一人は…たぶん戦闘員の類、もう一人は中国系で…バトルジャンキーの毛がある格闘家かな…恐ろしい事に後者はどうも、堅気っぽい。

さらに、小っちゃかったり大きかったりしたりするのがぽろぽろいる。
まあ、小さい方は発育が遅いで通じるけどな、まだ13だし…多分。

「さて、堅い話はここまで、自己紹介と行こうかな」

「「「待ってました!!」」」

クラス中から一斉に声が上がる。結成初日に驚くべき結束力である…私は参加してないので念のため。

「じゃあ、僕からいこうかな」

そういって高畑先生から自己紹介を始める…そういえば年齢は言ってないが、この人、戸籍上はまだ25歳くらいの筈だけど…見えないよな。
高畑先生は私達の担任で、英語も担当する、他の先生に比較して出張で麻帆良を留守にする事が多いかもとの事だが…多分出張って討伐任務か何かだ。
アイシャ曰く、向こうが正面切ってやりあってくれるなら、正規軍の魔法騎士を一個小隊ぶつければやっと勝機が出てくる。
でも、たぶん搦め手とか、色々やってくるからよっぽどいい指揮官が率いてないと負ける。
というくらいの実力らしいので大抵の雑多な組織は一捻りだろう。

そんな感じの事をかんがえていると先生の自己紹介が終わり、出席番号順に順番に各自自己紹介をしていく。

マナも刹那も無難(?)に自己紹介をこなしていく。

さっき気になった一人はクー・フェイという中国人留学生で…なんか、師匠に武者修行に行ってこいとか言われて日本を選んだら麻帆良に来る事になったそうな。

で、戦闘員と踏んでた方はなんかニンニン言ってやがる…ニンジャか?たしか表では純粋な諜報員としてのニンジャと混同して認識されている気を用いた隠密戦闘集団もいたのは事実らしいし…



「では、つぎは長谷川君、いってみよう」

高畑先生の紹介にノリノリのクラスメイトがワーワー騒ぐ。
方向性はともかく、にぎやかでお祭り好きな連中にはイエローフラッグで慣れている。

「はじめまして、長谷川千雨と申します。日本人ですが、麻帆良に来る前はタイで暮らしていました。
日本の文化や常識に少し疎い所がありますが、ご容赦いただけると幸いです。
こちらの食べ物はとてもおいしいので、いろんな物を食べるのが楽しみです。
これから三年間よろしくお願いします」

そういってペコリとお辞儀をした。

「ありがとう、次はマクダウェルくんだ」

次はエヴァンジェリンさんか…
そんな感じで自己紹介は続き、30人全員の自己紹介が終わった。



「さて、これで今日は解散なんだけど…」
「では、少し先生と皆様にご提案があるのですがよろしいでしょうか」
「と、言う事で雪広君に交代しよう」

ん?なんだろうか、先生は想像がついているようだが。

「それでは、改めましてクラス委員長を拝命いたしました雪広あやかです。
一部の方々と相談した結果、クラス結成を記念してパーティーを開催する事としました。
自由参加で、会費は500円、お菓子代と飲み物代にいたします。
常識の範囲内で軽食を持ち寄って下さっても結構です。
場所はこの教室、参加する方は14時半にここに集まってください」
「いいんちょ~バナナは軽食に入りますか!」
「バナナは持ち込んでくださっても結構です」
「おすすめのお菓子とか良いんですか」
「手料理とかもいいんでしょうか」
「お団子とか買ってきてもいいんやろか」
「はい、市販品でも手料理でも持ち込んで構いませんわ。
但し、パーティーですので皆さんで分ける事を考慮してくださるようにお願いします。
それと、持ち込まない方への非難や強制は厳禁ですわよ」
市販品も有りか…何か少し買ってこよう。



わいわいがやがやと賑やかに質疑応答を済ませたのち、一度解散となった。
「それじゃあみんな、またあとで会おう。
何を持ち込むかは自由だけど、初日からお説教はさせないでくれよ」
高畑先生が釘を刺してから教室を出ていく。
…さすがに酒は持ち込まないぞ?すごく魅力的な考えだが。

「さて、二人はどうする?私は参加だ」
「お嬢様も参加するようなので参加します」
マナも刹那も参加するようだ。
「もちろん参加するぞ、昼食を食べてから何か買いに行こうと思う。
…で、そのお嬢様がこっち見てるけどいいのか?」
ちらちらと刹那の大事なこのかお嬢様こと近衛木乃香が神楽坂と話しながらちらちらコッチを見ている。
「ええ…この前言われたように確かにいずれ関係改善は必要でしょうが…その…」
「ああ、わかってる。ただ、必要なら協力してやれることもあるってだけさ。
食堂棟か商店街で飯にしようぜ、その後寮に荷物をおいて買い出しだ」
「そうだな、だがまだ腹具合がもつなら先に寮に戻ろう、この時間だと多少でも込み具合がマシだろう」
「そうですね、私はまだ大丈夫です。かなり食べ物も集まりそうなので、菓子パンとかだけでも良いかもしれません」
「そうだな、揚げパンとかでも良いな。なら先に帰ろうか」
さて、何を買いこもうか…お菓子でもいいし、串焼きでもいいな。
…お茶菓子と言えばカノム・サーリー(カステラみたいな)とか、カノム・トーンイップ(卵黄とシロップを固めたお菓子)とかが好きなんだけど、たぶんこっちには無いし。



そういうわけで、寮に荷物を置いた後、私たちは揚げカレーパンで昼食を済ませた後、商店街で買い出し品を選んだ。
そして教室に戻ってきてはっきりと理解した、買いすぎたと。

一応14時20分には戻ってきたのだが、そこにはお団子、ケーキがホールで複数、サンドイッチ、おにぎり、

卵焼き、からあげ、中華饅頭に点心…そしてバナナ。
はっきり言おう、幾ら成長期とはいえ、おやつどころか夕食まで済ませても余る位の食糧が並んでいる。
そんな中に刹那は関西風の桜餅、マナはナッツの缶詰、私は焼き鳥をそれぞれ加える。

「ああ、桜咲さん、長谷川さん、龍宮さん…あなた方も持ち寄ってくださったんですね」
少しすこし疲れた感のある声で雪広が言った時さらに食べ物の増援が到着した。

「すまない、品物を選ぶのに少し時間がかかった」
そういうエヴァンジェリンさんは日本茶と急須を持っており、その後ろに綾瀬と、二つの違う和菓子屋の包み(関東風桜餅とイチゴ大福だった)を持った絡繰がいた。

「みなさんのお気持ちはうれしいんですけれども…量を調整するべきでしたわ」
それはおそらく、この場の人間の総意を代弁した言葉だと思う。





「それじゃあ、乾杯」
「「「乾杯~!」」」
あまりの食べ物の量に混乱も起きたが早めの夕食まで兼ねたパーティー(そして残りは持ち帰りで夜食や朝食等に)と言う事になり、ばか騒ぎが始まった。

「それにしても…買い過ぎた」
「まったくだ、団子ではなく、ナッツの缶詰にしておいてよかったよ」
そんな事を話ながら蒸籠に入った肉まんに手を伸ばす。
「旨いな」
「これを買ってきた奴にどこで買ったか聞いておかないとな。
きっと他の商品も旨いだろうし、また食べたい」
「ありがとうございます」
「四葉だっけ?あんたがこれ買ってきたのか?」
「ふふふ、そうではないよ」
そういって話に入ってきたのは超鈴音だった。
「それは私達が学園祭で出店を計画している点心店の試作品ヨ。
つまり、それは五月を中心に私達が作ったもので、買ってきたものではないヨ」
「ほう、確か6月下旬だったな…
芝麻球(ジーマージュウ)や小龍包(シャオロンパオ)や葱油餅(ツォンユーピン)なんかも出すのか?」
「できればいろいろと品揃えは充実させたいと思っていますけれども…」
四葉が少し申し訳なさそうに言った。
「品ぞろえはこれから二か月の売り上げでどれだけ資金と協力者を得られるか次第ヨ。
ただ…葱油餅は少しばかりマイナーではないかなと…」
資金…か

「チャオ、この肉まんを幾らで売るつもりだ?」
「現在から準備期間までは宣伝も兼ねて1つ100円、これでも薄利だが利益は出る。
学園祭でも同じく中華饅は1つ100円で食べ歩き向け、他は店舗で飲茶形式を基本に考えてるヨ」
話だけでも聞いてみる価値はありそうか。
「よかったら今度、事業計画を見せてくれ、それ次第では出資又は融資してもいい」
あくまで勘だが、こいつはやり手の匂いがする、
バラライカさんや張さんのように、本当に必要なら何でもやるタイプの。
「それはうれしいネ、でも中学生が個人で出すには少し規模が大きいヨ?」
「心配するな、見込みがあるようなら10万円位なら出資してやれるよ。
夏休みまでに返してくれるならその10倍融資してやってもいいぜ?
当然配当や利息はいただくけどな。」
そして逃げたら地の果てまで追いかけて、ばらしてでも取り立てるけどな。
「はっはっは、目標にしていた運転資金を一人でポンと貸してくれるとか言われると笑しかないヨ」
「えっと…うれしいですけど大丈夫なんですか?」
「まあ、ちゃんと返してくれるならば、な」
正直、裏社会からの収入や両親の遺産を自由に使えるならそのさらに10倍程度は楽に動かせるし。

「ならば、資料を用意しておくから、今度の土曜日にでも詳しく話をするヨ」
「では、よければお昼をごちそうさせていただきますね」
「了解した、土曜日の昼だな、楽しみにしてる。マナも来るか?」
「…まあ、千雨が融資するのなら少し私からも貸してもいいが…いいのか?」
「むしろウェルカムヨ、ぜひお願いするネ」
こんな感じでパーティーの初めの方はビジネスの話をして時間を過ごすことになった。

少しして話に入って来るやつがいた。
「や、ちょっといいかな?」
「これはこれは、朝倉サンだったね」
初等部から報道部に入っていると言っていた朝倉和美だった。
「いやさ、この肉まん美味しいな~と思ってたらそれがクラスメイトの手作り品で、
しかも学園祭には店舗としての出店も計画してるっていうじゃない。
その話をしてるっぽいしぜひ取材させてくんないかな~って思ったんだけどいいかな?」
「ふむ…出店計画の詳細公開はまだ少し早いネ。
出店計画の詳細の公開を麻帆良祭特集号まで待ってくれるなら私は問題ないヨ」
「私もかまいませんよ」
超と四葉は取材了解か
「なら、私はよそに行こうか。後はまた土曜日に食事しながでも話そう」
ジャーナリストという連中はどうにも…な、互いのために距離を取るべきだ。
「あ、うん…ごめんね」
席を立って移動しようとする私とマナに朝倉がそういった。
「気にすんな、それがお前の商売だろ?記事を楽しみにしてるよ」
出資や融資を考えてる身としては良い記事になってくれれば宣伝費も浮くからな。



「一番、明石裕奈歌いまーす」
適当に雪広委員長や高畑先生、エヴァンジェリンさんなんかと談笑しながら食べ物を楽しんでいると、
一番賑やかな一角からそんな声が上がり、歌が始まった。
その後も名乗りと歌が続いていく。
「…にぎやかだな、あいつら」
酒も入ってないのに本当に賑やかなこった。
まあ、暴力や飲み比べが伴わないのはつまらないが平和でいい事なのだろう。
「よし千雨、おまえも歌え」
「は?」
エヴァンジェリンさんが変な事を言い出さなければ平和だったのにな。
「アイシャからお前は歌がうまいと聞いている、いい機会だから歌え」
「いや、こっちの歌はほとんど知らないし」
「『London bridge is falling down』や『Twinkle, twinkle, little star』、
あと『Grandfather's clock』あたりなら英語のままでもメロディーはわかると思うぞ」
マナめ、いらん事を…

「まあ、私もぜひお聞きしたいですわ」
「なになに?次は千雨ちゃんが歌うの?」
「英語の勉強にもなるし、僕からもお願いしたいな」
チッ賑やかなところから見つけられちまったし、高畑先生の後押し付かよ。

「はぁ…わかったよ、じゃあ『Twinkle, twinkle, little star』いくぞ。
確か「きらきら星」だったかな、悪いが日本語の歌詞はよく知らんから英語で行くぞ」
押し上げられた教壇上で私はそう宣言して歌い始めた。

…案の定、さっきまで賑やかに合の手入れてた連中が静かになった。
音を楽しむ曲ならともかく、わからん歌詞でアカペラの歌を聞いてもつまらんだろうに。
そう思いつつも、全力で歌を歌い上げる。

そして拍手、それも一等大きな
「千雨ちゃん歌上手だね!」
「次、夏祭り歌って!」
「夕焼け小焼けとかも!」
「え?」
どうやら、私の歌は案外受けたらしい。
…まあ、酒場の連中とは好きな歌が違ってもおかしくはないが…ここまでか?

その後、何曲かアンコールをさせられた後でマナに聞いた所によると、
『アイツほどじゃないが、相当上手い部類に入るといつも言っているだろう?』
だ、そうな。
事あるごとに歌わせられそうだが、たぶん本気で断れば無理強いはしない連中だろうし、まあいいか。





 
 

 
後書き
タカミチの実力については、ラカンの強さ表を参考に、魔法騎士団一個小隊を14名、単純な足し算ではない事、完全に同時にぶつけられず、連携の隙を突かれることを想定して…という感じです。何で一個小隊が14名かって?w

どーも向こうの編成が分からないんですよね。
アリアドネーの戦乙女旅団を基に推定してみると、セブンシープ分隊が6名で編成されていて、見習いを定数より少ない人数で編成するとは考えにくいので(まあ、指導が普通ついてるよね、というのは別にして)、6名が定数としました。
箒レース等から考えて最低の編成単位は2名で1班、それが3班で1個分隊なのかな、と。
で、クルトとの一件で、セラス総長が引き連れれているのが絵によると14名、これを二個分隊+小隊長班と考えるとちょうど一個小隊という事になります。

…と、言ったところで別の問題が。記憶喪失の夕映がネギとの遭遇に至る件で、分隊長のエミリィが先輩から騒ぎの鎮圧を命じられた時、分隊を率いて、ではなく4,5人連れて、と言われてるんですよね。
アレ?お祭り時の特別編成かもしれないけど、結構アバウトな編成と組織運用してらっしゃる?
また、彼女たちは士官候補生ですし…彼女たちが航空戦力のように運用されるのであれば一般的な歩兵の編成には…
と、なっちゃうわけです。

まあ、それを言っちゃうとメセンブリーナ連合の重装魔導装甲兵とか見た目、歩兵科っぽいし、飛んでる描写が見つけられなかったんだけど兵科ってどうなってるん?空中戦艦に対抗できる陸上兵器?陸戦隊とか拠点での攻防用?とかってなるので深く触っちゃいけない気もしますが。


え?レインの個人資産?
厳密には決めてませんが、本人が稼いだ分だけで10万ドルくらいは余裕でありますよ?両親の遺産は別にしても。
 
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