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Fate/InterlaceStory -剣製の魔術師-

作者:nayuta
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第三話 ~定義の履き違え~

 翌日の晩、魔術の鍛練のために瞑想をしていた士郎は突然その場から飛びずさった。
 その直後――立てていた野営テントが外から放たれた銃弾によって使い物にならなくなってしまう様子を眺めながら士郎はため息をはいた。
 しばらく野宿を決め込もうと作った……その次の日にそれが壊されたのだ。よく知るサーヴァントにも幸運値が圧倒的に低い者が二人ほどいたが、彼らにも負けていないのではないのだろうか。
 ――とはいえ、銃弾の対象が誰であれ巻き込まれていることは確かなため、思考を切り換え周囲に神経を集中させながら走り出す。
 状況はすぐに理解できた。
 銃弾は確かに自分に向かって飛んできているが、それは自分を狙っているわけではなく、距離にして三十メートル前方の一組の男女に向けてのもの。
 ……まあ、巻き込まれている自分が死のうがどうでもいい事に変わりのない撃ち方なのだが。

 ――そんな事を考えながら速度を上げて彼らの横に並ぶ。

「……やれやれ。何処へ行っても俺には平穏な生活がおくれないのか?」
「巻き込んでしまった事はすまない!――っていうかこんな所に人が住んでいることじたいがおかしいからな」
「こんな森の中に学生が一人、それもサバイバル生活してるなんて誰にも考えられないわよ!」

 ごもっともだ。
 苦笑しながらも、士郎達は近くの遮蔽物に身を潜める。
 相変わらず銃声は止むことなく、その音源は次第に近くなってくる。このままでは取り囲まれるのも時間の問題だろう。

「――で、どうする?こうなれば袋叩きも時間の問題だろう。……何なら俺が打って出るが」
「……君がか?」
「こう見えてもこういった状況には慣れていてな。……君も突っ立ってないで援護してくれると助かる」

 そう言うや士郎は遮蔽物から飛び出し、跳躍する。後ろから声が上がるが、それに反応してる暇などもうない。

「―――投影・開始(トレース・オン)

 外套の中から取り出すようにそれぞれの手に六本の黒鍵を投影すると、間髪いれずに投擲した。それらは狙い違わず追っ手の持つ銃に着弾し、鉄甲作用によって破砕した。
 ――その一連の動きを見届けた男は即座に行動を開始し、武器を失った者達を瞬く間に鋼糸で縛り上げる。

「――お前は…」
「話なら後にしてくれ。今はこの連中の処置が先だ」

 どう考えてもそこらにいる一般人ではない士郎に、男は警戒しながら問い詰めようとするが、彼の言う通り、優先順位を考え直し一先ずは携帯端末機を取り出した。



 通報して到着した警察に連行されていく連中を遠巻きに見届けると、士郎と男は静かに向き合う。沈黙が辺りを包むなか、それまで瞳を瞑っていた士郎がようやく口を開いた。

「――不毛な争いを避けるためにも、ここは話し合いを望みたいのだが」
「…そうだな。俺としてもそれが最善だと思う」

 着いてくるように視線で伝えた男――高町恭也(たかまちきょうや)は側にいた女性――月村忍(つきむらしのぶ)を連れて足を進める。
 士郎はまさか彼らから話し合いの場を設けてくれるとは思いもしなかったのか、一瞬の間呆けていたが、そのまま後に続いていった。
 


 -Interlude-



 案内されたのは月村邸である月村忍の屋敷だった。互いの名を交わしたとき、高町恭也の名を聞き、同姓である高町士郎の事が頭に浮かんだが、立ち振舞いといい重心の運びが似通っているために親族もしくは関係者であることは間違いない。
 だがここでその事を語るのは得策ではないため士郎は黙っていた。

「――さて、そろそろ本題に入るぞ……と言いたいところだが。その前にその不快な暗示を納めてくれ。それは話し合いをする態度ではない。そうは思わないか?月村忍よ」

 ――すっ…と士郎が瞳を細めた瞬間、その部屋の空気が凍りついた。
 確かに忍は彼の動向次第で力を行使しようとしていた。
 ――だがそれは士郎も然り、二人の応対次第によっては実力行使もじさない事を明確に示していた。

「――どうして……分かったの?」
「生憎とな。これまで君以外にもこういった手段を使ってくる者達に相対した事など数えきれないくらいにある。お陰かどうかは知らんが外部からの侵入に対しては敏感になっていてな、…それに言っておくがこの外套を出し抜いてまで暗示をかける事など不可能だ」

 そう言って羽織っている紅い外套を示す士郎。忍はそれを見て、ため息をついて瞳を閉じた。
 ――なるほど。確かにあの外套は作りが違う。何か特別な加護に守られていて、暗示が身体に侵入する前にその外套がそこで遮断するからだ。

「すみません。確かに話し合いをする態度ではありませんでした。非礼を詫びます」
「いや。君の行動もある意味当然だからな。気にしなくていい。――それはともかく君達から聞きたいことはないか?俺の事は複雑な事情でな、先に答えられる範囲で答えてからにしようと思う」
「――なら聞くけど、どうしてあんな森の中に住んでいたの?」

 ―――そう。
 なぜ高校に入る前辺りの少年が、街でもない人気の無い森の中で暮らしていたのか。

「………俺にはもう家族がいないのでな。当てがない以上こうしてあそこで身を潜めて生きていくしかなかったんだ」

 嘘は言ってない。
 それは士郎の瞳を見るとすぐに分かった。……分かったのだが、忍は眉を潜めていた。
 ――それとは別に何か別の理由があるような気がして。

「……そう。じゃあ今まで貴方は何をして生きていたの?先の戦闘時の動きからして一般人な筈がないわ」
「何をして生きてきた……か」

 その言葉を噛み締めるように呟くと、士郎は瞳を瞑った。
 その横顔は何かを懐かしんでいるようにも、そして悔やんでいるようにも見える。

「――なりたいものがあった。そのためか今までの大半を紛争地帯への介入に費やし戦い続けていたな。全ての人が笑っていられるような…そんな世界にするために」
「――成る程な。道理で戦闘に手慣れていた訳だ」

 納得したように恭也は頷くが、その瞳からは未だに険を宿したまま。
 士郎の経緯については信用に足るものだが、それだけでは警戒を解くには至らない。
 士郎の戦闘の一部始終が彼には見えていたのだが、不可解な部分があったのだ。
 
「――あの時、外套から六本の剣を抜き取っていたな。あの剣……『どのようにして』出したんだ?あのような長剣、どんなに隠蔽してもお前の身長で隠しきるのは不可能だ」
「……やはり無理があったか。――まあ当然と言えば当然だが」

 士郎は自身の背丈を見て改めて苦笑する。
 元々本来の身長で隠せるのがやっとといった所だ。それを今の身で六本――どう考えても柄か刀身の一部がはみ出るに決まってる。
 改めてこの携行手段の非効率性を実感しながらも、彼に緊迫した様子は見られなく、逆に覚悟を決めた様子で姿勢を正した。

「――信じるか信じないかは任せるが俺は魔術師…いや魔術使いといった存在でな。魔術という神秘を行使する存在だ。あの時の剣は投影魔術というもので取り寄せただけに過ぎない」
「……魔術師、ね」

 普通なら一笑に伏すであろう彼の言葉に、恭也は納得した。でなければあの剣についての説明がつかないからだ。
 
「相当に閉鎖的な人種でな。正直なところ何処に籠ってるのか見当もつかない。顔を合わせた事はあるが、そのどれもが俺を始末するために追ってきた連中だったから……な――」

 ……そう。
 いくら一子相伝の伝承魔術と言っても、世界中に魔術師が多く存在することは知っていた。
 倫敦に魔術師を教育する場である時計塔という拠点が存在するくらいだ。
 一時的であったが魔術の師である遠坂凛が士郎をそこに連れていこうとしたこともあった。
 士郎はそれを断り自分なりに世界を回っていたのだが、皮肉なことにそこの封印指定の執行者達に追われる事になったのだ。

「――いいのか?そんな事を俺達に話して」
「ああ。俺は秘匿に関してはさほど重要に思ってるわけではないからな。言い忘れていたが魔術使いは魔術師と違って目的のために神秘を行使するだけの人種だ。故に俺は人助けの為には神秘の漏洩もいとわなかった。――まあこれが命を狙われるようになった所以だろうがな……」 
 
 我ながら自分の馬鹿さ加減に呆れるよ――そう苦笑しながら士郎は窓の外から天の星空を眺める。
 ――その経過で月村邸の至るところに仕掛けられていた銃器や罠に出来るだけ気がつかないふりをしながら。
 
「――事情は分かったわ。そこまで話してもらったのにこちらは何も無し……なんてのはフェアじゃないもの。――いるんでしょすずか。こっちに来なさい」

 忍の呼び掛けに隅でビクリと震えた気配がし、そしてそこからおずおずとおとなしそうな雰囲気の娘が彼女の隣にやって来た。

「お詫びに私からも秘密を明かします。私や隣にいるこの子――すずかは夜の一族と呼ばれている吸血鬼なの」
「……吸血鬼?」

 思わず問い返した士郎に恭也の腰が少し上がった。
 普段の士郎にしては珍しく驚いたような、そして険しい反応が現れたからだ。
 そこまで言うと忍はすずかに少し強い視線で促す。これは彼女の問題ではなく妹であるすずかにこそ触れてほしいもののようだ。
 不安そうにこちらを見ていたが、すずかは少しずつ自身のことを話はじめた。
 彼女は夜の一族としての血を受け継いでおり、身体能力などは常人よりも相当に高く、生きるためには血を――特に異性の血を吸う事が必要なのだという。
 だがすずかは人から直接吸った経験などなく、輸血用の血液などを融通してもらって血を摂取する事で体調を保っていて、そうした秘密を親しい友人にも話していないとのことだ。
 そこまで聞いた士郎は疑問に思っていたことを尋ねる。

「――話は分かった。その上で聞くが……血を吸われた人は吸血鬼になるのか?」
「ううん。ちょっとした貧血になるだけ。しばらくら倦怠感に包まれるとは思うけど…」
「そうか……」

 その言葉に士郎は安心したように頷く。

「血を吸う化け物なんて……普通の人は怖がりますよね…」

 今にも泣きそうな顔ですずかは士郎を見る。こんな事など聞かなくても分かりきった事だろう。
 普通の人なら必ずその問いに肯定を示すか、もしくは自分を避けるかのどちらかを選ぶに決まっているからだ。
 そんな気持ちを持っていながらも答えだけはほしい彼女は静かに士郎の顔をうかがっていた。
 必死に何かを堪えているのか、身体は小刻みに震えていて、両手はきつく握り締められていた。

 ――ああ。そのために彼女は苦悩していたのだろう。きっと今までも寂しい思いをしたのだろう。
 ……だけど彼女は一つ理解できていない部分がある。

「――それを聞いて安心した。間違いなくすずかは化け物なんかじゃない。そもそも化け物とは理性を持ちながら人を弄んだりして快楽を得る存在の事だ。――未だに血を吸う事に嫌悪感を持ち躊躇しているような優しいすずかとソレは大きくかけ離れている」
「でも血を吸うのですよ?これが化け物じゃないなんて…」
「それでも、だ。すずかはすずかであって決して化け物などではない。それとなんだが……君が化け物なんだったら俺も化け物と言うことになる。――――――――俺も吸血鬼なんだから」

 これには全員が驚いていた。
 ――そんな彼らに構わず士郎は自身の事を紡ぎ出す。
 元々は人間だったこと。
 だがある時に瀕死の状態に陥り、それを知り合いの吸血鬼が士郎を吸血鬼化することによって命を救ったこと。
 そしてそれから300年余りの時間を生きてきたことなど――。

「言い忘れていたが俺は吸血鬼の中でも死徒と言ってな。血を吸う事によって相手を人形のように操ることも可能だ。……どうだ、俺の方がよっぽど化け物に相応しいだろう?」

 その言葉にすずかははっきりと首を横に振って否定する。
 そんな彼女に士郎は満足気に微笑んだ。
 
「――それでいい。その通り、俺は自分を化け物とは思わない。それはすずかや忍も同じで、君達が吸血鬼だという事実は今も、この先もどうあっても変わらない。ならばそれを受け入れた上で前に進んでいけばいい」

 何かを思い、何かに葛藤し、そして何かを必死に溜め込みながらこちらを見る彼女の頭に手を乗せ、優しく撫でる。

「今のが俺の答え。すずかはすずかだけの答えを見つけていかないとな」
「私の……答え?」
「ああ。悩んでいるときは好きなだけ悩めばいい。ただ君は化け物じゃない。それは答えを見つける云々の前に断言出来る。―――だからさ、自分の事を化け物だなんて言うのはやめてくれ。もう一度言うけど…すずかはすずか。普通に笑顔が似合う、可愛い女の子なんだから」

 最後に自身が思っていた本心からの言葉を口にすると彼女は泣き出してしまった。
 きっとこれからも悩むときはあるだろう。すずかが吸血鬼だという事実はこれから何があろうと変わらない現実なんだから。
 だがもう彼女は後悔だけは絶対にしない――そんな確信を士郎は持った。
 泣き終わったあとのすずかの表情は、何かを振り切ったかのように晴れやかな表情をしていたからだ。






  
 

 
後書き
遅れてすみません。
それではどうぞ。


※当作品を執筆していくなか、kurochi様の小説『Fate/AnotherStory-錬剣の魔術使い-』と似通って来ている事に指摘され気づきましたが、その後御作者様に相談し、この範囲の程度ならと許可をいただきました。
これからはそんなことが起こらぬよう善処して参りますのでよろしくお願いします。 
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