『八神はやて』は舞い降りた
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第2章 赤龍帝と不死鳥の騎士団
第18話 悪魔の証明
前書き
・改変あり
アーシア・アルジェントは、違和感を覚えていた。同時に、胸騒ぎを感じてもいた。
きっかけは、八神はやてが言い放った一言である。
『何をふざけたことを抜かしてやがる……調子に乗るなよ、焼き鳥風情がッ!!!』
普段の姿からは、考えられないほど、はやては、激昂していた。
原因は、フェニックスの末裔だという悪魔――ライザー・フェニックス――の言動であることは、明らかだった。
しかしながら、彼女が、おいそれと安い挑発を受けるとは、どうしても思えない。
(はやてさんは、いつも理知的で、飄々としていました。ライザーの挑発に関しても、いつもの彼女なら、軽く流せたはず。計算の上で、挑発にのったようにも見えません)
アーシアにとって、「八神はやて」という人物は、凛々しい言動に相応しい泰然とした女性だった。
さらに加えて、グレイフィアの提案に乗っかり、彼女は、レーティングゲームに参加を決めてしまった。それも、本人の身柄を賭けにしてまで。
リアス・グレモリーは、勢いに流されたようにみえる彼女の判断に、憤慨していた。
しかし、レーティングゲームの参加に関して、アーシアの眼では、冷静に考えて上での決定に見えた。
(やはり、ライザーの言動が気に障ったということ……?その後は、落ち着きを取り戻していたように思えます。つまり、ライザーを倒す算段が既にできている?)
アーシアたちグレモリー眷属に対し、はやては、『秘策がある。戦力として当てにしてくれると嬉しい』と、不敵な笑顔で述べた。
なおも、詰め寄るリアスたちに対し、はやては、詳しい説明を続けた――
――神器『夜天の書』を「完全な状態」で使うことが許されている。つまり、『夜天の書』の一部といっていい、5人の八神家一同が参戦できるということだ。
はやて自身を加えれば、リアス・グレモリーたちは、6人の追加戦力を得たことになる。
したがって、人数は合計で、12人になる。ライザーを加えたフェニックス眷属は、総勢16人。彼らは、数の面で圧倒的な優位に立つことが出来なくなる――と、はやては説明した。
理路整然と述べられた理由に、反論する術はみあたらず、リアスは、不承不承とだが頷いた。
彼女の個人的な事情に巻き込んでしまい、申し訳なく思っているのだろう。
だからだろうか。情に厚いグレモリー眷属らしく、万一勝負に負けた時、ライザーから身を守るため、グレモリー眷属の一員にならないか。と、提案してみせた。
だが、はやては、その申し出を一蹴している。
『「好きにしろ」とボクから言い出したのだよ?悪魔は、契約が絶対と聞く。何の覚悟もなく発言したわけではない。その程度は、弁えているさ』
そう強く述べ、リアスを説得した。表情は、一切悲観しておらず、余裕さえみられた。
リアスたちも毒気が抜けてしまい、とりあえず、全員で強化合宿を行うことを決定してから、解散になった。
(私と距離を置くときに感じる壁。いえ、グレモリー眷属の皆に対しても一線を越えないようにしているように思います。家族の方たちと過ごす姿を見れば、違いは明らか)
しかし、リアスの提案を蹴った時、はやての瞳に一瞬だけだが強い感情が浮かぶ。
一瞬だけ映ったその感情をアーシアだけは、見逃さなかった。
彼女瞳に過ったそれは――憎悪。
(あのとき、瞳に映った激しい憎悪の感情。しかし、それ以外で不審な態度は見られなかった。部長との付き合いも長いときく。日頃親しい姿も見ている。ならば、私の勘違い……?)
なぜ、アーシアたちと距離を置こうとしているのかは、わからない。
いや、はやて自身わかっていないのかもしれない。
アーシアが、余所余所しくなった理由を尋ねた時、はやては、適当にはぐらかしていた。
そのときの様子を思い返すと、彼女自身戸惑っていたように思える。
しかしながら、より深刻なのは――
ライザーを拒絶したときの態度。
私たちと適度に距離を置こうとするときの態度。
―――――この二つは繋がっているのではないか?
それに気づいたとき。アーシア・アルジェントは、云い様のない不安が身を襲った。
(杞憂であることを祈ります。しかしながら、今後、注意した方がいいのかもしれません)
悪魔になったいまも、身を焼くような痛みに平然と耐えながら、彼女は神に祈り続ける。
最近になって、彼女は、他者だけではなく、自身の幸せについても、祈るようになった。良くも悪くも、グレモリー眷属の温かさが、彼女を変えたのだろう。
いまのかけがえのない日常が続きますように。
大切な人たちと平和に暮らすことができますように。
――――その姿は、まさしく、聖女のような悪魔だった。
◇
ずーん。
いまのボクの心境はその一言につきた。
制御不能な衝動に押し流されレーティングゲームへの参加が決定。
不覚だった。
大勢の前で実力を披露することになるので避ける予定だったのだ。
ヴィータたちにも叱責され心が折れそうになる。
が、すぐに励まされレーティンゲームには絶対負けない、守ってみせる、といわれほろりときた。
そんなみんながボクは大好きだ。
自分の身まで賭けた以上、万一にも負けるわけにはいかない。
大丈夫だとは思うが、準備に余念がない。
「マスター、あの魔法を使うのですか?」
「ああ、もちろん。相手は不死鳥フェニックス。ならば、この魔法以上の切り札はあるまい」
ライザー・フェニックスの不死性は脅威である。
まともに戦えば苦戦は免れない。
だがしかし、ボクには夜天の書がある。
夜天の書に記録されていた膨大な魔法を習得することで、ボクはいくつかの必殺技を編み出していた。
レーティングゲームで初披露することになるだろう。
微妙な顔をするリインフォース。
不安かい?と聞くといいえ、と答えられる。
なぜ、微妙な顔をするのか問うと、名前が……いえ何でもありませんと言われた。
この魔法を使うたびに微妙な顔をされる。
かっこいい魔法なのにね。
「アーシア・アルジェントとの仲はどうですか?」
まるで話題を切り替えるように言ってくる。
ボクの悩みを的確につかれた。
あーうー、と言葉を返すことができない。
妹のようにかわいがっていたアーシア・アルジェントのことを、ボクは避けている。
理由は自分でもわからない。
何か隠しているのですか?と問われるも、既に心中をすべて話してあった。
アーシア・アルジェントから受ける印象が依然とまるっきり変わってしまったとしか答えられない。
堕天使から救出する前と救出した後の彼女が、別人のように思えるのだ。
「悪魔を恨んでおられるのではないですか?」
それは、ボク自身気づいている。
最近の悩みでもあった。
「そうかもね。昔のこととはいえ、そう簡単に吹っ切れるようなものでもないし」
「では、ときおりリアス・グレモリーに向ける憎悪の感情に気づいておられますか?」
「え?」
答えに詰まる。
憎悪?リアス・グレモリーに?
ばかな、彼女には世話になりっぱなしだ。
はぐれ悪魔に父を殺されサーゼクス・ルシファーに保護された。
彼女と出会ったのは、そのすぐあとのことである。
一つ年上のリアス・グレモリーは、ボクのことをずいぶん心配してくれた。
「……部長とは仲良くしているじゃないか」
そう言いつつも、どこか自信を持てない自分がいるのに気付く。
もう10年近い交流があるにもかかわらず、サーゼクス・ルシファーにいい印象を持てない自分を思い出す。
同じように、リアス・グレモリーに信愛の感情をもっていないことにも。
どこかで線引きしている。
その線引きがどこにあるのかわからない。
「憎悪の感情が微粒子レベルで存在している……?」
言われて初めて気づいた、
いや、よそう。
別に悪魔と戦争したいわけでもなし。
それよりいまは――――
「――――このサイキョーの魔法を特訓しなくては!」
なぜ、微妙な顔をするの?
後書き
・聖女のような悪魔のような聖女さん。
・以前は、「他人の幸福」ばかり祈っていましたが、主人公たちと触れ合い、「自身の幸福」も祈るようになりました。
・サイキョーの魔法の詳細は、本番までナイショ
・恋愛要素はないつもりです。
・あえてヒロインを列挙するなら、リインフォースとアーシアあたりかと。
ページ上へ戻る