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ユーノに憑依しました

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入院しました

 ユーノです、入院中です、ユーノです……。


「はい、ユーノ、あーん」
「……あーん」


 しゃりしゃりしゃりしゃりしゃり……ごくっと。


「ごちそうさま」
「うんうん、沢山食べて元気になりな」


 リーゼ・アリアが仕事の合間を見つけては病室に遊びに来るようになった。
 入院してからはナカジマ家が襲来したり、騎士カリムがシャッハを連れて訪れたり、リンディさんとクロノ、エイミィ、マリエルの四人が遊びに来たりと、
 騒がしい日々が続いている。


 ……マリエルにデバイスのデータが渡ったらしく、『デバイス技術者ディスってんのか?』ぐらいの勢いでお説教された。
 『デビルテイル』はまともな負荷軽減が出来るようになるまでマリエルが預かる事になった……俺のロマンデバイス……。

 スバルとギンガに渡した羽根だが、二人のデバイスとして登録されて大事にしてくれているらしい。
 普段は髪飾りとして利用して、デバイスとして使用する時はカートリッジが最低三発必要だとかで、緊急時以外使用禁止となった、
 まだカートリッジの負荷でかいからな、子供の身体には負担がキツイだろうし。

 それと、二人してクイントさんにシューティングアーツを習い始めたそうだ、『弱い自分は嫌だ、助けられるよりも助ける人になりたい』だってさ。
 病室に来る度にクイントさんが二人が可愛かっただとか、俺に二人の兄になれだとか、ナカジマ家に引き摺り込もうとしている。
 全力でNOと言いたい、闇の書を放置して遊んでられる程俺の人生は明るくない……いっその事レポートを見せて諦めて貰おうか?


「まーた難しい顔をしてるなユーノ、今度は何を考えてるんだい?」
「……早く海鳴に行きたいなーって」
「……またそれかい、どんだけ海鳴大好きなんだよ?」

「……この前の作戦で三人一緒だったけどさ、はやての事どうしてたの?」
「気になるかい? あの子、また入院したからさ、病院側に手を回してある」
「病院側って……こっちの事情を知ってるのか?」
「まさか、聖王教会からの派遣だよ、夜天の書として考えれば当然の処置だとさ」


 ……聖王教会としての得か。


「……闇の書をバラした事、恨んでる?」
「……んー、最初は計画を台無しにしてくれた奴って憎かったけどね、アンタのレポート読んで、救われるって解って……終われるんだって」


 ポロポロと涙を零してロッテが泣いてしまった……その込上げる感情を俺は共感してやれない。


「何でユーノまで泣いてるんだ?」
「……もらい泣きだ、お前が悲しい話するから」
「……助けてくれるんだろ? この悲しみを一緒に終わらせてくれるんだろ?」

「……気が向いたらな」
「……まーた、そうやって誤魔化す」
「コホン、宜しいでしょうか?」


 声がした所を見ると、入り口に騎士カリムが資料を持って立っていた。
 ロッテが素早く散らかってるテーブルの上を片付ける。


「いらっしゃい、騎士カリム、今日はどのようなご用件で?」
「良いニュースと悪いニュース、どちらがお好みですか? まあ、貴方にとってはどちらも良いニュースでしょうけど」

「んじゃ、悪いニュースから」
「ナカジマ家に引き取られた二人の戦闘機人、そのデータが何者かにコピーされ持ち出されました」
「へー、流石脳ミソ、仕事が速い」

「私にとっては感心できる事ではありません、身内から裏切り者が出たんですよ?」
「ロッサに追わせてないの?」
「もちろん追わせてます……それでも掴まるのはスケープゴートでしょうけど」


 ……世の中そんなに甘くないってか。


「貴方にとっては良いニュースだったでしょう?」
「まあ、おかげさまでナンバーズが製作されるだろうからな」
「……さて、良いニュースに行きましょうか」
「ふむ」

「ジュエルシードが眠っている世界の特定に成功しました」
「……マジ?」
「大マジです、入院生活も大変だったでしょう? 早速行って貰いましょうか……今から」


 ……今、何て言ったこの人?


「いやいや、レイジングハートも発掘してないのに、ジュエルシード掘れる訳無いやん?」
「安心して下さい、聖王教会が全力でバックアップします、それに海鳴に落ちるまで危険性が確認されなかったのでしょう? 発掘するだけなら問題ない筈です」

「それでも護身用のデバイスとか装備を用意しないとだな」
「デバイスのデータは見せて頂きました、貴方は既にデバイス無しでAランクに届いてますよね? それも総合Aではなくて陸戦と空戦、それぞれAランク相当の実力です」


 ……今度デバイスにデータの自動消去機能でも付けるかな。


「それでもデバイスが無いのは論外でしょ?」
「往生際が悪いですね、聖王教会からの特別直行便に乗せてやるから、さっさと行けと言ってます」
「俺、発掘のアルバイトしかした事ないもん、ロストロギア発掘する技術も権利も立場も全然揃ってないもん」

「言ったでしょう? 全力でバックアップすると、と言うか、もうしてるんです、貴方が現場責任者で申請してあります、頑張って来て下さい」
「……レイジングハート探しに行かなきゃ、うん、悪い夢だよコレ」

「シャッハ」
「はい」
「発掘が終わるまで現場責任者の『護衛』をお願いしますね」
「はい、全力で『護衛』します」


 ……シャッハ・ヌエラ、この人は陸戦AAAだった筈、現時点で逃走可能か試してみたい所だが……たぶん無理だ。



 観念した俺は強制連行されて空港から出て遺跡がある島に着いた訳だが、
 ……何時まで経っても迎えが来ないし、連絡も着かないので直接待ち合わせのホテルに向かう事になった。


「あの、騎士ユーノ」
「俺は騎士になった覚えはないが、何だ? シスターシャッハ?」
「遺跡の発掘でしたよね?」
「ああ、遺跡の発掘だとも」


 俺達が今居るのはクレーターになった古代都市、その遺跡だ。
 きっと上空から見れば綺麗なミルキークラウンが見れるだろう。


「此処の何処が遺跡なんですか? 私には立派な観光地にしか見えないのですが?」
「……シスターシャッハ、君が遺跡と言う言葉の響きに何を想像したか知らないし、過去に聖王教会の仕事でどんな遺跡に行ったかは知らない
 だが、もっと現実を見るべきだ」

「現実と言われましても、何故そこら中に人が居て露天があって、ケーキとか街の模型とかお土産が売られてるんですか!?」
「安全性が確保されていて、多少なりとも美術的価値があるなら、地元の観光協会が黙ってる筈ないだろ?」

「それを一般的には観光地って言いますよね?」
「……認識の違いだな、卵が先かなんて話は後にして、さっさと現地協力者の所まで案内してくれ」
「……分かりました」


 シャッハのデバイスから場所を調べて、ナビゲーションに従って進んで行くと、巨大な観光ホテルが見えてきた。
 ……ミッドとか都会ならともかく、ジュエルシードが眠ってるような古代遺跡都市に建てるにはデカ過ぎないか?


「あのホテルが待ち合わせの場所ですね」
「……なあ、シャッハ」
「? 何ですか?」
「権利書関係の再確認と、此処から聖王教会までホットラインは何時でも繋げるか?」

「……何か気付いた事でも?」
「いや、いくら観光に向いてるからって、あそこまで巨大なホテルの建設許可が良く出たな、と思って」
「……調べさせて見ましょう」


 シャッハが通信を始めたが……さて、どうなる事やら。


 ホテルに着いて受付に色々と聞いて見たが、約束の人物は此処に居ないらしい。
 このホテルには系列店も無く、他に泊まれる場所も無い。


「シャッハさんや、急に話が胡散臭くなっていませんか?」
「……現地協力者の方にも相変わらずです、連絡が取れません」
「……聖王教会の騎士達を呼んで、遺跡周辺の立ち入りを禁止した方が良さそうですね」


 聖王教会相手に喧嘩を売るアホが居るとは思えんが、現状はかなりヤバイな。
 コレもジュエルシードの情報を教会に渡したせいか、スクライアだけで発掘してればこう言う事にはならなかった筈だ。


「おや、貴女はもしかして聖王教会のシスターではないですか?」
「はい、その通りですが、どちら様でしょうか?」


 小太りの男、『称号:成金』って所だな、金ぴかのスーツに指輪だらけの手、タバコ臭いし近付きたくないな。


「私はこのホテルのオーナーです、ジュエルシードのお話でしたら私が詳しい話を知っています、最上階のオフィスまで来て下さい」
「失礼ですが、私達はこちらで現地協力者と会う約束をしていますので」
「いえいえ、私が現地協力者に依頼して貴女達をお呼びしたんですよ、シスターユーノ・スクライアさん」


 俺は女じゃねえッ! こいつ、協力者を拉致した張本人かッ!! しかも間違った情報を引き出してやがる。


『シャッハ、この怪しさ大爆発の成金を、今此処で捻り潰して良いかな?』
『何の証拠も無く取り押さえる訳には行きません、此処は話に乗ってみると言うのは?』
『シャッハは女性だから解らんだろうが、コイツ少女趣味だぞ、さっきからシャッハを見る目がヤバイ』

『嫌な視線は先ほどから感じては居るのですが、少女趣味とは何ですか?』
『……具体的には少女の唇を奪ったり、全身に唾液を塗り込んだり、更に酷い事をしたり』


 ……シャッハを中心にフロアの空気が、と言うか魔力と殺気を押さえてくれ!?
 うわ、成金がシャッハを見つめる度にシャッハからダイヤモンドダストがッ!?


「……分かりました、最上階のオフィスですね、伺います」
「それではご案内しましょう、その子はここで待ってて貰いましょうか」
「この子もお仕事できているので、一緒にお話をお聞きします」
「……そうですか、ではどうぞ」


 最上階に着くとそこはオフィスと言うよりは、成金自慢のフロアだった。
 無駄に高そうで、何が描かれてるか解らない絵や美術品の山。
 金ってのは有る所には有るもんだね。


「さあ、こちらに」


 成金が開いたドアの向こうには、ライトアップされた無色の水晶玉がセットされていた。
 近付いて確認してみたが、魔力の欠片も感じられない。美術品としての価値ぐらいしかないな。


「どうです、美しいでしょう? この私のジュエルシードを貴女が買い取って頂けませんか?」
「……どう言う事でしょうか? 私達はジュエルシードを発掘しに来たんです、売買の話に着いては既に決着している筈ですが?」
「いえいえ、こう言う事ですよ」


 成金を中心に魔法陣が展開された――アンチマギリングフィールド!?
 ……コイツ、AAAクラスの魔導師だったのか、この距離で魔力をまったく感知できないとは……魔力遮断系のアイテムを所持してるな。

 くそったれッ! バリアジャケットの装備を――


 ――パンッ!! 


 短い炸裂音と閃光、気が付けば俺は床に倒れて、背中と腹が燃えるように熱い、胸から込上げる大量の血を吐いた。
 成金の手には硝煙を上げる銃……フィールドを張った上での物理攻撃、理に適ってるな、大抵の魔導師はコレで即死だ。


「お子様には退場願おうか、此処からは大人の時間だ」
「貴方ッ!! 何て事をッ!! ……デバイスが起動しない!?」
「アンチマギリングフィールドと言えばご存知でしょう? 魔力の結合を阻害するフィールドです、デバイスの起動どころか魔力を練る事すらできませんよ」


 そう、フィールド内でのデバイス起動は難しい……だが、既に起動してあるデバイスなら話は別だ。


「……やってくれたなぁ、この糞成金がッ!!」


 腹に穴の開いた身体を無理やり魔力で強化して立ち上がる。


「馬鹿なッ!? 何故生きてる!? クソっ!!」


 銃の閃光と炸裂音が何度も響き渡るが俺にダメージは無い。
 緑色の魔力光で組み上げたシールドが全てを防いでいた。


「シールドだと!? 何故フィールド内で魔法が発動している!? 馬鹿な!? そんな馬鹿な事ある訳が……」
「カートリッジロード」


 『デビルテイル』の予備機、緑色の手甲が十二発のカートリッジを吐き出す。


「フィールドカウンター、ドライブ」 


 手甲が巨大な蜘蛛に変形して、足を大きく広げ、成金を蹴り飛ばした、そして俺とシャッハの上でテントの様に跨った。


「この結界の中ならデバイスの起動も魔力も練れる、回復魔法もオートで発動するから死ぬ事はない……出血が酷いや、後はよろしく」
「はい、後は任せてくださいッ!」


 シャッハのデバイスが起動したのを確認して、俺は意識を手放した。



 目を覚ますと一人の男が俺の顔を覗き込んでいた。
 ……この匂いとベッド、また入院生活か。


「おはようございます、『ユーノ先生』」
「……ロッサか、大丈夫なのか?」
「……大丈夫、とは言い難いのですが、ユーノ先生が大変な時に落ち込んでも居られないので」

「……そっか、アレからどうなった?」
「ジュエルシードは全て回収しましたよ、現地協力者も監禁されてましたが無事救出しました」


 ロッサの猟犬ならジュエルシードの発掘も監禁された人間の捜索も簡単だな、そして顔も見た事の無い現地協力者、乙。


「シャッハは?」
「無事ですよ、協会の仕事は暫く休ませました、ユーノ先生が起きるまで傍に居る、と聞かなくて」
「……まったく、自分の時間ぐらい自分の好きに使えば良いだろうに」

「……あまり女性の扱いが過ぎると、後ろから刺されますよ?」
「……その時は受け入れるさ、気付いてやれなくてゴメンってな」
「刺される前に何とかして下さいよ」

「無茶言うな、気付かないから刺されるんだろうが」
「もっと回りに目を向けて下さい」
「何を言わせたいか知らんが、俺は俺の為に生きる、周りを見ている暇なんて無い」
「……相当重症のようですね」


 起きたばっかりで頭が回ってないのだ、あまり難しい事を言わんでくれ。
 その時、壁を透過して黄色い魔力光が侵入してきた。


「騎士ユーノ、目を覚ましましたか!?」
「おー、この通りだ、しかし、シスターシャッハ、俺は騎士になった覚えはないし、入ってくるなら透過を使わず、ドアからノックして入って来い」

「……失礼しました……身体は大丈夫ですか?」
「本調子とまでは行かないがな」
「さて、僕はお邪魔みたいだし退散するよ」
「ああ、ロッサ無茶すんなよ?」
「……ユーノ先生に言われたくありませんね、それでは、また」


 ロッサの退出後、シャッハと二人になったが何も喋って来ない。


「何か食うか?」
「……いえ、今回の事は、申し訳ありませんでした」
「シャッハが謝る事なんて何一つ無いと思うんだが?」
「頭に血が上って態々敵の罠に掛かるなど……あそこは一度引いて、応援を待つべきでした」

「いや、頭に血を上げたの俺のせいだし、あそこで捕まえてなければ逃走してたろ、あの成金」
「……確かに、行方を眩ませて後でジュエルシードも回収して売り捌くつもりだったようです、何故あそこで私達の前に出てきたのか分かりません」

「……自分の性癖で自爆しやがったな」
「……どういう意味ですか?」
「……聖王教会のシスターで少女、ってのに悪戯してみたかったんだろ……後先考えられない程な」

「……凄く、複雑です」
「まあ、ある意味お手柄と言う事で」
「全然嬉しくありませんッ!」


 あーあ、完全に凹んでしまった。


「それじゃあ、シャッハ、今度お詫びとして、デートに付き合ってくれ」
「で、デートですか!?」
「ああ、テーブルマナーがちょっと不安でな、見てくれると嬉しいな」
「……わかりました、何処に出しても恥ずかしくない騎士として指導して見せます!!」


 ……何か要らない火まで付けてしまったような気がするが、まあ、元気になるならそれで良いだろ。
 一息ついたところで、遠くから廊下を走る音が近付いて来た――病院内は静かにしろよ。


「ユーノーっ!! あんた、またとんでもない負荷の掛かるデバイス勝手に使ったなーッ!!」
「ユーノ君っ!! こんなロストロギアみたいなパーツをデバイスとして申請しちゃ駄目ですよッ!!」


 ロッテとマリエルが部屋に乱入してきた……起きたばっかりなんだ、勘弁してくれ……。 
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