ふとした弾みで
しおりを利用するにはログインしてください。会員登録がまだの場合はこちらから。
ページ下へ移動
第七章
「今准教授の椅子が一つ空いているんだけれど」
「まさか」
「君さえよかったらね」
「准教授にですか」
「どうかな」
こうロナルドに言うのだった。
「それで」
「夢みたいな話です」
まずだ、。ロナルドは教授にこう返した。
「まさか、私が」
「いきなりだからっていうんだね」
「まだ若いですし、それに採用してもらったばかりで」
「それがアメリカだよ」
「アメリカですか」
「能力があれば誰でもすぐに身を立てられるよ」
「アメリカンドリームですか」
この言葉をだ、ロナルドはここで出した。
「それですね」
「そうだよ、まさにそれだよ」
「それじゃあ」
「チャンスは掴むものだよ」
自分のその手でだというのだ。
「じゃあいいね」
「はい、それじゃあ」
「この話受けてくれるね」
「お願いします」
強い声でだ、ロナルドは教授に答えた。
「それで」
「よし、じゃあこれからもね」
「論文をですね」
「書いてくれよ、学者はまず論文を書くことだ」
論文を書け、さもなくば滅びよ。学者の世界ではそれに尽きる。とはいっても中にはそうでない学者もいるのが現実であるが。
「その論文が優れていればね」
「身を立てられますね」
「その通り、それではね」
「はい、これからも」
本屋で偶然出会ったその一冊の本が総てを決めたのだった、彼の准教授への道を。
これだけではなかった、彼とエリザベートの仲はさらに進展していった、そして彼女から直接こう言われたのだった。
「結婚ね」
「それだけ」
「丁度同じカトリックだから」
結婚式や生活の様々なことでだというのだ。ロナルドはアイルランド人に多いカトリックでエリザベートもそうなのだ。彼女のルーツはオーストリアにありそれでなのだ。
ページ上へ戻る