【完結】剣製の魔法少女戦記
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第五章 StrikerS編
第百四十八話 『公開意見陳述会(6) レンの心の傷、癒しなす乙女』
前書き
早く書き上がったので日曜ではないですが投稿します。
今回はレンの心情を描いて見ました。
では、どうぞー。
Side シホ・E・S・高町
「ラン、レン、ギンガ…すぐに向かうからそれまで耐えて…!」
反応が帰ってこないが、それでも思念通話で語りかけを続けながら、私達は狭い通路を進んでいく。
敏捷が高いアルトリアとネロ、そしてスバルの三人が先行して進み、唯一移動手段に乏しいティアナを私が抱えて空を飛空する。
その時だった。
「ッ! 奏者よ、この近くのエリアにサーヴァント…らしき者の気配がするぞ! 気を引き締めよ!」
「らしき、って…やっぱり…?」
「うむ。余にもこの気配がサーヴァントなのか、それとも人間なのか、検討がつかないぞ。あぁ、なにやらむずかゆくてイライラしてもどかしいぞ!」
《エンペラー、少し落ち着こうよー?》
「…う、うむ。すまぬ、アエス。余の理解できぬ事態につい取り乱してしまった…許せ」
ネロが唸っているのをアエスがマイペースになだめている。
そして、私達の足も警戒のために止まってしまった。
「…アルトリアは、わかる?」
「いえ、私はサーヴァントから融合騎に変化した際の影響で他のサーヴァントの気配が少しは分かるのですが、ですがよく感じられなくなってしまったのです。
役に立てずに申し訳ありません、シホ…」
「いえ、気にしないで、アルトリア。…分かったわ。全員、全周囲警戒! 円陣を組むのよ!」
「了解いたしました!」
「うむ。承知したぞ、奏者よ!」
「了解です!」
「ッ! わ、わかりました!」
アルトリアとネロからは強気な返事。
ティアナもちゃんと返してきてくれたが、遅れて返事をするスバルはギンガ達が心配なのだろう、少し焦り気味に了解してきた。
焦る気持ちは私も当然ある。
でも、だからこそ余計に取り乱さずに落ち着いて行動しなきゃいけない。
そうしないともしも予測もできない事態に遭遇した時にすぐに対処ができずに後手に回らざるえないからだ。
その事をスバルに言葉で丁寧に指導してあげると、スバルは分かったらしく呼吸を整えて落ち着きを取り戻した。
「よし! それでこそよ、スバル!」
「はい!」
そして私もアンリミテッド・エアを双剣モード――ツヴィリングフォルム――を展開していつ敵がやって来てもいいように腰を落として構える。
…そして急に辺り一体が静かになり、代わりに緊張感が立ち込め出して、誰が鳴らしたか唾を飲み込む音が私の耳に入ってきたと同時に、
「来るぞ! アエス、ゆくぞっ!!」
ネロの雄叫びとともに天井が突如として崩落した。
「おんどりゃあーーー!!」
崩落して出来た天井の穴から何者かが飛び出してきた。
荒い音色を出しているが声からして女性なのは確かである。
姿はランサーの報告と同じ出で立ちで顔まで覆い隠すフードを着用していた。
振り上げている手には長物が握られていた。
その得物とは…。
「…あれは、方天戟?」
私が解析を即座にかけている間にもその方天戟の刃は先頭でアエスを構えているネロへと迫る。
そして方天戟とアエスが衝突する。
ガァンッ!と激しい音が響き渡り、
「ぬっ!」
ネロの少しくぐもった声が洩れる。
「オッ? 受け止めたか」
「少し重いが、余はまだまだ余裕だぞ!」
「なら、どんどん行かせてもらうぜ!」
それからフードの女性は身長以上はある方天戟を難なく振り回し、斬りつけ、刺突、薙ぎ、払いと変幻自在に攻撃を変えまくってネロを追い込む。
「ぐっ! なかなかやりおる!」
「ネロ! 援護します!」
アルトリアがすぐにネロ一人では分が悪いと踏んだのか横から風王結界を振り下ろす。
だが、フードの女性はニヤリと八重歯を覗かせて、
「一人だろうと二人だろうとオレの相手じゃねーよ! おらぁー!!」
方天戟を横に構えて盛大に薙ぎ払いを繰り出した。
その薙ぎ払いはすぐに衝撃波となって襲いかかってくる。
それに晒されたネロとアルトリアは、
「くっ! やはり、この女性はサーヴァントか!?」
「どうにもアエスでは荷が重いかもしれんな!」
《そ、そんな~!?》
なんとか剣を盾にして持ちこたえていた。
そして攻撃が一時止んだ瞬間、アルトリアとネロは見計らっていたかのように同時に私達の方へと振り向いて、
「シホ、スバル、ティアナ! 私とネロがこの場は食い止めておきます!」
「後は余達に任せてラン達を助けにいくのだ!」
アルトリアとネロがそう言ってきた。
「あ、アルトリアさん!」
「ネロさん…!」
スバルとティアナが同時に二人の名前を叫んで心配の表情をする。
でも私は、
「…行くわよ、二人とも」
即座に二人を信じてこの場を任せる決断をした。
だけどスバルとティアナはすぐに納得できなかったのか私の方に顔を向ける。
「…ぁ」
しかし、ティアナから洩れた声に今、私がどんな顔をしているのか理解してしまった。
きっと今の私はかなり苦悶の表情をしているのだろう、そして二人は無言になった。
「…行くわ!」
「「はい…」」
二人は力なく返事をしてきた。
そして私は再びティアナを抱えて、スバルとともに進みを開始する。
わざと見逃してくれているのか知らないけど、こちらにはフードの女性は一切攻撃をしてこなかった。
アルトリア、ネロ…私達が戻るまで無事でいてね!
そう心の中で語りかけた。
二人も私の想いが伝わったのか、二人とも笑みを浮かべてコクリと頷きをして送り出してくれた。
二人の想いに感謝しながらも、
「急ぐわよ!」
「「はい!」」
狭い通路を駆け抜けて行った。
◆◇―――――――――◇◆
Side レン・ブルックランズ
「あ、ああ………」
目の前でラン姉さんがトレディの手によって倒されてしまった…。
その光景がどうしてもあの時の…僕とラン姉さんの村を崩壊させた時の男の姿とかぶってしまう。
まだ小さい頃に体験した恐怖、野良の魔術師の手によって故郷が壊滅させられてしまい、お父さんとお母さんも殺されてしまった…。
他にもたくさんの知り合いが殺されて行く様をこの目で見た。
でも、僕はもちろん、ラン姉さんもなにもできずに無力感を味わい悔し涙を流したあの悲しい記憶。
それからシホさん達と出会って保護責任者になってもらい、一緒に住むようになってから少しずつだけど心の傷は次第に癒えていった。
そしてあの悲劇な事件のような事をどうにかできる力…魔術とそれを扱うための勇気と知識を教えてもらった。
機動六課では仲間も増えて、力も付けてきて、心も体も強くなって成長してきている。
そう、思っていた、はずなのに…。
勘違いしていたんだ。
いくら力をつけても、心を覆っていたメッキが、僕が心の底から強くなろうと願わなければ、もろくなってすぐに剥がれて壊れてしまう定めなんだ。
こんな些細な事で僕の心の傷は再度開いて広がってしまい、弱気で泣き虫な姿の頃の僕に逆戻りしてしまった。
心の奥底から恐怖が芽生えてくる。
ラン姉さんを助けなきゃいけないのに、僕は…!
体が震えて、動けない!
そこに、
「チンク姉、トレディ姉! 援護しに来たぜ!」
「来たっスよ!」
そんな…!
新たに援軍が二人も増えるなんて!
どうにか、どうにかしないと…!
そう思って体を動かそうと思うのに、もう一人の自分が『諦めろ』と耳元で囁く。
「………さぁ、レンさん。あなたも私のもとに…」
「こ、来ないで…!」
トレディがそう声をかけてくるが、僕は恐怖から地面に手をつきながらも後ずさるしかできない。
「…なんだ、こいつ? 戦意が喪失してるぞ?」
「かっこうの獲物っスね」
「………仕方ありません。ランさんがやられてしまい、頼りの相棒も機能停止寸前…これは当然の結果です。
………二人とも、私はランさんを捕縛していなければなりません。お願いします」
「わかったぜ!」
「さっきの奴らに比べればちょろい仕事っス」
気絶させられているラン姉さんを武器の鞭で吊るしているトレディの代わりに、新たに現れた二人がジリジリと僕に迫ってくる。
なんて、無力なんだ、僕は…。
無力感と絶望に苛まれている僕は、このままラン姉さんと同じ末路を辿るんだ…。
でも、その時、
「諦めちゃダメよ! レン君!」
ッ! この声は、ギンガさん!
俯かせていた顔を上げると、あの眼帯の女の子の攻防を無理やり切り抜けてきたのだろう、傷だらけのギンガさんが僕の前に走りながらやってきた。
ザッ!とブリッツキャリバーを滑らせて、その勢いのままに僕を抱える。
そしてその場を離脱しようとしているみたいだ。
でも…!
「ら、ラン姉さんが…!」
「…ごめんなさい、レン君。今はあなたを助けるだけが私の精一杯なの…!」
ギンガさんの悔しそうな声が聞こえてきた。
それで僕は反論の言葉は出なかった、出すことさえ許されなかった。
アウルヴァンディルが砕かれ、心も折れてしまっている今の僕は文字通り足枷、役立たず…それ以外の何者でもないのだから…。
「逃がさんぞ! IS、ランブルデトネイター!」
眼帯の少女が逃がすかと言わんばかりに迫ってきて、ナイフを数本放ってきた。
それで僕はなけなしの気力と魔力を振り絞ってアウルに集めて、
「ゴメン、アウル…! プロテクション!」
《…プロ、テク、ション…》
いつもの滑らかな音声が嘘のようにアウルはノイズ混じりの言葉を発する。
そしてすぐに見て分かるほどにヒビだらけのプロテクションが展開されて、でもナイフは少し止まっただけて、すぐにパリンッ!と砕けてしまい、そのうちの一本がギンガさんの背中に刺さってしまった!
次の瞬間、ギンガさんの背中で爆発が起こった。
「ああっ!? くっ、ウアアアアーーーッ!!」
ギンガさんの心からの叫びとともにウィングロードを駆け抜けて行き、なんとか撤退することが出来たのか戦闘機人の追っ手はこない。
それでもギンガさんは僕を壁際に下ろした後、そこら一体を念入りに目を配り警戒している。
僕はというと、アウルに目を落とし、さらに後悔の念に駆られてしまっていた。
アウルは先ほどのプロテクションで限界をとうに超えてしまったのだろう、プスプスと煙を上げて完全に沈黙してしまっていた。
「…ゴメンね、アウル…ゴメンね…」
反応を返してくれない相棒に、僕は涙を流しながら、それでも言葉をかけ続けた。
そしてギンガさんが少しして戻ってきた。
「…ッ、レン君…大丈夫…?」
ギンガさんは苦悶の表情をしながらも僕の事を心配してくれた。
「…はい…大丈夫、です」
「それは本当…?」
真剣な表情をしてギンガさんが僕の目をまっすぐ見つめてくる。
その綺麗な瞳に、僕のボロボロの心の内のすべてを見透かされてしまうと恐怖してしまい、目をつい逸らして下に俯いてしまった。
情けない…。
いつもラン姉さんやシホさん、アルトリアさんにネロさん…他にもいろいろな人達に強くなろう、って言い聞かされてきて、僕自身も必ず強くなろうって努力してきたのに、
「…僕は、やっぱり弱虫なんです…」
「………」
ついに思いの丈を言葉に出してしまった。
ギンガさんはただ無言。
僕は不謹慎にもギンガさんが無言でいる事に感謝してしまった。
「…親と故郷を無くしてから僕の心には虚無感がありました。
それを弱気な性格でさらに強固にして、でも同じ境遇のラン姉さんが一緒にいたから、僕はなんとか前向きに頑張ってこれた。
なのに、そのラン姉さんが捕まってしまって、相棒のアウルも…やられてしまって、僕の心は、木っ端微塵に折れてしまいました…」
「………」
思いの丈を表に出すたびに、さらに情けなさが粉となって僕の心に降り注ぐ。
でも言葉を続ける。
「…そして思うんです。僕は、ラン姉さん達のただの重荷なんだって…。いない方がいいんじゃないかって…」
「レン君…!」
パンッ!
ギンガさんに頬を思いっきり叩かれてしまった。
幻滅、されちゃったよね…。
でも、ギンガさんは叩いた後、僕の両頬に両手を添えてきて、
「情けなくたっていいじゃない? 重荷になったって、いいじゃない?」
「えっ…?」
少し意味がわからなかった。
でもギンガさんは言葉を続ける。
「重荷は一人で持てなかったのなら、みんなで持って支えればいいのよ。レン君の家族であるランも、シホさんも、アルトリアさん、ネロさんも………きっと嫌な顔をせずにレン君の重荷を一緒に背負ってくれるわ」
「で、でもこんなもの背負ってくれたって…!」
「…そう、後ろ向きにならないの。支え合う、それは家族として当然のことよ。
なら、レン君の重荷を背負ってもらう対価に、レン君がランやシホさんの重荷を背負えるようになろうとは思わない…?」
シホさん達の重荷を、僕が背負う…?
「それができたら、どれだけ嬉しいだろう…」
「それをただの夢で終わらせないのよ。ちゃんとした形にしなきゃ…」
「形に…」
「レン君なら、きっとできるわ。あなたは確かに弱虫だけど、それでもいいじゃない。
弱虫は弱虫なりに出来ることがきっと見つかるわ。
そして、もしそれでもまだ道に迷うことがあるのなら…」
ギュッ…。
「あ…」
「私が一緒に探してあげる…」
ギンガさんが僕を優しく抱きしめてくれながらそう言ってくれる。
それで僕はまた涙を流す。
でも、これは悲しい涙じゃない。
嬉し涙だ。
ギンガさんの優しさに僕の心は振るい出されるような想いに駆られる。
そしてなぜか胸が『ドキンッ!』と高鳴った気がした。
この気持ちがなんなのか、まだ分からないけど、もっと浸っていたい気分にさせられた。
「…僕は、まだ、頑張れるでしょうか?」
「レン君が諦めない限りね」
「はい…。少し、勇気が湧いてきました」
「そう。よ、かったわ…」
バタンッ…。
「ギンガさん!?」
ギンガさんは突如として倒れてしまった。荒い息遣いをしていて苦しそうだ。
見れば背中から血を流していて少し血だまりができていた!
どうして今まで気づかなかったんだ!?
それでどうにかしようと思った矢先に、
「…見つけたっスよ?」
「ったく。探すのに苦労したぜ!」
先ほどの戦闘機人二人が現れた。
さっきまでの僕だったら諦めていたかもしれない…。
けど、もう弱音を吐きたくない! 諦めたくない! ギンガさんは僕が守るんだ!
そして立ち上がり、二人を睨む。
「…こいつ、さっきまでのガキか? まるで別人じゃねーか?」
「僕は、もう諦めないって決めたんだ! 戦う手段が無くても抵抗して見せる!」
「ほう…いい度胸じゃねぇか! なら今度こそ完璧に心を折ってやるぜ!」
「あちゃ~…ノーヴェの変なところが感化されちゃったっスね…」
あちらの二人がそれで構えてきたが、弱虫でもいい…最後まで強くあろう!
「―――その思いを大切にしなさいね、レン…」
その時だった。
僕の背後からもっとも尊敬している人の声が聞こえてきたのは。
その人は、
「シホさん!」
「よく頑張ったわね、レン。…さて、私の家族達を痛めつけてくれたお礼をしなきゃね?」
「「ッ!?」」
シホさんは戦闘機人の二人に視線を向けて構えるのだった。
後書き
あれ…?
レンとギンガのカプが出来上がってしまう予感が…。
フードの女性はわかりやすいかもしれません。
それではご意見・ご感想・誤字脱字報告をお待ちしております。
では。
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