ジプシー=ダンス
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第二章
第二章
「どうですか、セビーリアの料理は」
「お見事」
俺はホテルに帰りながらそれに答えた。
「予想以上でしたよ」
「しかも安かったでしょ」
「あんなに食べたのにね」
もう腹一杯だった。ステーキとパエリアの他にも色々頼んで食べたからだ。
「あれだけで済むなんて」
「フランスとは違いますからね」
この言葉である。
「気取るのは嫌いなんですよ」
「そうですか」
「それで楽しく食べた後は」
「シェスタですね」
「はい、じゃあ私も少し休みますので」
「はい」
俺達は一旦ロビーで別れた。白い大理石の入り口をくぐればそこは何かアラビアンナイトに出て来るみたいな場所だった。丸いアーチにアラベスクの色とりどりの模様で飾られている。それを見ていると何かスペインじゃなくてアラビアの何処かの国にいるような気分になった。何でもスペインは昔イスラム教徒の勢力圏だったらしくてこうした文化がまだ残っているらしい。spれでも吹き抜けのホールの終わりに見える青い絵はキリスト教のものだった。
「何か変わった感じだな」
俺はワインに酔った頭でそう思った。何かこのスペインの感じに興味が沸いてくるのを感じていた。
「眠くないしな」
シェスタしようという気にもなれなかった。何か他にスペインを思わせるものはないかと思いだした。
そう考えると何かホテルを出たくなった。そしてふらりと街に出てそのまま歩きだした。
街中はシェスタの時間のせいか人がやけに少なかった。黄金色の太陽の光と白い家々、そして黒い影の中を俺は歩いていった。
オレンジの香りがするのどかな感じの街だった。そんな街中を歩いているとふと裏通りが目に入った。危ないかなと思ったがそこへふらふらと入って行った。
そこにも誰もいなかった。誰もいない裏通りを一人歩いている。やはり危ないと思い帰ろうとした。その時だった。
「おや」
俺の目に一人の少女の姿が入った。黒く長い髪に浅黒い肌、そして情熱的な黒い眼を持つ少女だった。
独特の彫をしていて顔立ちは整っている。白い胸と背中が大きく開いた上着の上から黒い服を羽織っている。そして赤く長いスカートを履いていた。
その姿で踊っていた。何かを忘れるかの様に。ダンスの練習かと思った。
不意に俺の姿に気付いたのだろうか。動きを止めてきた。
「あっ」
俺はそれを見て何か申し訳ない気がした。といっても日本語が通じないのはわかっていた。
少女は動きを止めるとそのまま姿を消した。裏通りのさらに小路に入って行った。後には誰もいなかった。俺は彼女の姿を見失うとすることがなくなった。仕方なく表へ出てセビーリアを見て回った。いい街だったがそれ以上にあの少女のことが心に残った。ダンサーか何かなのだろうかと考えながらだった。
暫く歩き回ってホテルに戻った。暫く何となくぼうっとしているとガイドさんがやって来た。
「ゆっくりされましたか?」
「街を見ていました」
「シェスタはされなかったのですか?」
「どうにも目がさえていて」
俺はあの少女のことは伏せてこう述べた。
「それで」
「左様ですか。けれど気を着けて下さいよ」
「治安ですか?」
「そうです、ここは日本ではありませんからね」
スペインは今の日本よりも治安が悪い。治安が悪くなったと言っても日本はまだいい方なのだ。スペインはそれと比べるとやはり悪いのだ。
「ひったくりも多いですしね」
「そうなのですか」
「まあそこんところは気をつけて下さい」
「ええ。ところで夜は」
「女の子がどうとか言っておられましたね」
「そんなお店ですか?」
「表と裏両方がある場所ですよ」
ガイドさんはそう言うとニヤリと笑ってきた。
「これはセニョリータには決して教えない場所です」
「それでは」
「はい、それです」
ガイドさんは実に流暢な日本語で話してくれた。それにしても本当に日本語が上手い人だと思った。
「宜しいですか。まずはフラメンコ」
「はい」
「それが表で裏は」
「宴と」
「そういうことです。では少ししてから行きましょう」
「少しですか」
「スペインの夜は長いのですよ」
今度は何か思わせぶりな笑みだった。
「何かとね」
「ではまた」
「はい。またワインを楽しみましょう」
「ワインが多いですね」
これには少し驚かされた。
「ワインは情熱の飲み物ですよ」
「いや、それでも」
「スペインは情熱の国。だからこそワインが飲まれるのですよ」
「ではまた」
「そうです。楽しみましょう」
「わかりました。では」
「まあ後でね。ゆっくりと」
俺達はとりあえずは日本のことを話したりして時間を潰した。それが終わってからようやくガイドさんの紹介する店に入った。木と白い壁の店だった。前にステージがある。テーブルに着くとやはりワインが出て来た。肴はチーズに生ハムだった。
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