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とあるの世界で何をするのか

作者:神代騎龍
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第二十四話  常盤台の寮


 結局、御坂さんはカートゥーンっぽいウサギのキャラクターがプリントされたTシャツを選んでいた。超電磁砲アニメでの柄を覚えていないので同じかどうかは分からないが、多分こんな感じの柄だったと思うので大きく流れが外れるようなことはないだろう。

 その後、元々の予定だった俺と初春さんの夏服選びに入ったのだが、俺の服選びにはなぜか佐天さんをはじめとして、初春さんや御坂さんまでが色々な服を持ってきて俺を着せ替え人形にするという状態になっている。

「うんうん、やっぱり神代さんにはこんなのが似合うねー」

「佐天さん、それだったらさっき私が選んだ服のほうが良かったじゃないですか」

「それだったらこんなのはどう?」

 佐天さんに薦められたキャミソールとジーンズを試着してみるが、俺としては姫羅の時ぐらいスカートを履きたいと思っているので、この服を購入することはないだろう。これを選ぶくらいならその前に初春さんが持ってきたワンピースのほうがまだ良かったとは思うのだが、それでも俺としては遠慮したいと思うようなフリフリのレースがあしらわれた物だった。そして御坂さんが持ってきたのは白井さんへのプレゼントと同じTシャツ、そして同じようなキャラクターのプリントされたスカートだった。

「白井さんとペアルックさせる気かっ!」

 こんな感じで二十分ほど三人の着せ替え人形をした後、結局俺は自分が選んだ服を何着か購入し、初春さんも佐天さんに選んでもらった服と自分で選んだ服の二点を購入していた。





「これから御坂さんはどうするんですか?」

「そうねえ、特にすることはないんだけど……」

「はいっ! それだったら御坂さんの寮を見てみたいです!」

 セブンスミストを出てからしばらく歩いたところで佐天さんが尋ねると、御坂さんの返事を聞いた初春さんが挙手しそうな勢いで発言した。

「えぇー? うちの寮に来たところで別にたいしたものなんて何もないわよ?」

「そんなことはありません! 常盤台の寮というだけで凄いんです!」

「わ……分かったから。初春さん、落ち着いて。うちの寮で良いんだったらいくらでも案内するから」

 初春さんに向かって御坂さんが答えたが、初春さんの常盤台に対する憧れというかお嬢様に対する憧れというものに圧倒されて、さすがの御坂さんも了承してしまっていた。

「へー、常盤台の寮かー。どんなところか楽しみだねー、初春」

「はい! 今まで何度も白井さんに頼んでいたのに全然見せてもらえなかったけど、御坂さんのおかげでようやく念願が叶います!」

 どうやら佐天さんも多少は興味があるようで、初春さんと二人でテンションを上げている。

「だったら、ウチはどうしよう……」

 元々この時のために姫羅の身分証とかも用意してもらったわけだが、俺が本来男であるということを三人とも知っているので、当たり前のように常盤台の寮へついて行くのはおかしいだろう。

「あ……そうでした」

「あ……忘れてた」

「うーん、そうだったわねぇ」

 なぜか……いや、やっぱりと言ったほうがいいのか、初春さんをはじめとして佐天さんも御坂さんも、俺が本来男であるということは意識してなかったようである。

「それじゃー、ウチは帰るかな」

 常盤台の寮は見てみたいが、現状で寮へ付いて行けるような状況を作り出すことなど出来ないので、名残惜しくはあるものの俺だけここで抜けさせてもらうことにした。

「うーん、まあ、しょうがないですよねー」

「そうだねー」

 初春さんと佐天さんが残念そうにつぶやく。御坂さんだけは少し考えている様子で少し遅れて口を開いた。

「ところでアンタの身分証ってどうなってるの?」

「騎龍と姫羅で別々に持ってるわよ」

 質問に答えると御坂さんはまた少し考えてから話し始める。

「それなら帰った時にちょっと寮監に聞いてみるわ。身分証が女性なら多分問題ないはずだからね。それに男でも例えば家具を搬入する業者の人とかなら入っても問題にはならないし、兄弟とかが来ることもあるから寮内自体は男性に見られても大丈夫なようにはなってるのよね」

「へー、そうなんですかー」

 御坂さんの説明で初春さんが感心したようにうなずく。

「だから、神代さんが今の格好で入る分にはそれほど問題ないと思うのよね。まー、寮監に聞いてみないと分からないけど」

「な……なるほど。それじゃー、寮までは付いて行ってみるわね。駄目だったらその場で帰ればいいし」

「そうですねー。そうと決まれば、早速行きましょう!」

 なんか物凄く都合の良い展開に若干引きつつ、常盤台の寮まで行ってみることにした。俺と違って初春さんはテンションが上がってノリノリである。





「うわぁ、今から中に入れるんですね。ドキドキします」

 移動中もテンション上がりっぱなしの初春さんだったが、常盤台の寮の前に到着すると最高潮に達していた。いや、もしかしたら中へ入った時に更に上があるのかもしれないが……。

 中に入ってみると、郵便物や新聞を受け取るボックスが並んでいたり、部屋番号と居住者名が書かれた表札とインターホンだと思われる端末があったりと、造りは普通のマンションとそれほど違わないようだ。御坂さんがそのまま内側の扉の横で少し手を動かすと、内側の扉が開いた。御坂さんの手の動きから暗証番号を入力したというわけではなさそうだったので、恐らく指紋か手のひらの静脈か網膜辺りでの認証なのだろう。

「ちょっとこの辺で待ってて」

 御坂さんをはじめ、初春さんと佐天さんも中に入ってしまったので、俺はどうしようかと考えていたのだが、御坂さんがそう言うので内側の扉をくぐったところで待つことにした。御坂さんが一番近くのドアをノックし中に入ってしばらくすると、御坂さんと一緒に寮監さんが出てくる。

「ほう、お前があの雌雄同体か」

 それが寮監さんの第一声だった。

「いやいや、性別選択が可能なだけで、男か女かのどっちかなので雌雄同体ではないです」

 思わずツッコミを入れそうになってしまうが、何とか途中から持ち直して普通に答える。

「そうか、それは済まない。それでは身分証を確認させてもらおうか」

「はい」

 寮監さんも俺がツッコミかけたのを気にする様子はなく俺の身分証を確認すると、この寮内で男にならないということ、そして常に御坂さんと一緒に行動することを条件に許可を出して貰った。

 御坂さんの部屋に行く前に寮内の施設を案内してもらうことになったのだが、常盤台の寮ということで勉強に関連する図書室や、さすがお嬢様といった感じの茶道・華道の部屋、そして能力開発に関するトレーニングルームなどもあって、寮としてはかなりの充実ぶりである。そして、初春さんや佐天さんの関心は茶道・華道の部屋や、食堂の豪華さといったお嬢様的雰囲気の方面に向いていた。

「いやー何というか、さすがに豪華だねぇ」

「さすがお嬢様の園、凄いです!」

 ただ、関心の方面は同じでも感想のほうは違っているようである。佐天さんは豪華さに呆れている感じで、初春さんは豪華さに感動している感じだ。

「でも、無駄に豪華にしてるってわけでもないんだよねー。ちゃんと、使うべき部分にお金を掛けているって感じで良いねー」

「そんなことまで分かんの?」

 俺が初春さんや佐天さんとはまた違った方向で感心していると、微妙に疑っている感じで御坂さんが聞いてきた。

「ん? まー、分かるっていっても見える部分だけね。例えば壁紙とかドアとかは完全耐火仕様だし、耐震とかの構造上どうしても必要な柱の大きさだと見栄えが悪い場所なんかには柱の周囲に細かい模様を彫って見栄えよくしてあるし、階段の手すりとかも女子寮だけあって細めなのに充分な強度が確保できて燃えにくい栗の木を使ってるし、窓は防音と断熱効果に優れた二重ガラスで、割れても飛び散らないように表面がフィルムで覆われてるし、まだ他にもあるんだろうけど今気付いてるのはそのぐらいかな」

「そんなことまで分かんのっ!?」

 俺が説明するとさっきと同じ言葉で御坂さんに驚かれた。

「うん。多分間違ってないと思うけど……どうです? 寮監さん」

 御坂さんに答えつつ柱の影からこちらを伺っている寮監さんに聞いてみる。

「ほぉ……なかなかやるな。ああ、全て合っているぞ」

「ぅげっ……、ど……どうしてこちらに?」

 寮監さんが出てくると御坂さんがしどろもどろになりつつ尋ねる。俺は当たり前に分かっていたので普通に寮監さんに話しかけてしまったが、よく考えたら普通ではなかったようだ。もしかしたら、別の意味で寮監さんに目を付けられてしまったかもしれない。

「うむ、寮内を案内しているようだったのでな。少し様子を見に来てみただけだ」

「そ……そうでしたか。今のところ特に問題はありません!」

 尾行がばれた後だというのに態度を全く変えない寮監さんに、御坂さんが敬礼しそうな勢いで答える。まぁ、御坂さんにしても初春さんや佐天さんにしても、寮監さんが尾行してきたことを知らないのだから別に態度を変える必要もないのだろう。

「それでは、余りハメを外さないように。ああ、そうだ。『神代姫羅』を連れて来る分には今後私の許可は必要ないからな」

「あ、はい。了解しました」

 寮監さんが去る前に一度俺のほうを見たとき、眼鏡が一瞬キラッと光ってちょっと怖かった。そして、御坂さんはやはり敬礼しそうな勢いで答えていた。

「いやー、さすが神代さん、目の付け所が違うねぇ」

「それに寮監さんが来てたことにもすぐ気付いてましたしね」

 寮監さんの姿が見えなくなったところで佐天さんと初春さんに感心されてしまった。御坂さんのほうはほっと一息ついたといったところだろうか。

「まぁね、最近ちょっと建築関係に凝ってるから。それから、寮監さんは茶室を出たときぐらいからずっとこっちを見張ってたよ」

「えっ、そうなの!?」

「そうだったんですか? 気付きませんでしたー」

「うんうん、全然気付かなかったねぇ」

 俺が答えると御坂さんは驚き、初春さんと佐天さんは普通に返してくれた。初春さんと佐天さんに関しては、俺が学校で普通に先生が来る前に気配を感じて「先生来るぞ」って教えることもあったので、寮監さんに気付いていたこと自体には余り驚かなかったようだ。

「ま……まあ、それじゃー、部屋に行こうか」

「はいっ! 楽しみですー」

 何とか気を取り直した御坂さんが提案すると、初春さんは勢いよく返事をしていた。





「おじゃま」

「しまーっす」

 御坂さんがドアを開けると中から白井さんの声が聞こえたので、佐天さんと初春さんが顔をのぞかせながら挨拶をする。その瞬間、中に居る白井さんのうめき声が聞こえたが、俺はまだ廊下に居たのでその瞬間の白井さんの顔が見られなかった。

「お姉さま……。初春や佐天さんはともかく、どうして神代さんまで……」

「たまたま街で会ったのよ。買い物にも付き合ってもらったし、一度寮を見てみたいって言うから連れてきたんだけどね。あと、神代さんはちゃんと寮監に許可を貰ってるわよ」

「そうでしたの……」

 白井さんの疑問に御坂さんが答えると、アニメ通りに白井さんは自分の妄想の世界に入り込んだようだ。確か、夜の港でコート姿の御坂さんが「私達は二人で一つ、初春さん、佐天さん、これからもよろしくね」みたいなことを言っていたと思う。

「そう言えば神代さん、おしゃれなこの部屋も色々考えられて造られてるんですか?」

 白井さんが妄想にふけっている間、初春さんと佐天さんはさっきまで見てきた寮の感想を言い、御坂さんが謙遜するという展開になるはずだったのだが、なぜか矛先が俺に向いてきた。

「あー、うん。壁紙とかなら材質の問題だからどれだけおしゃれにしたところで耐火性能は変わらないし、使われてる木材もそこそこ丈夫で耐火性にも優れた木を使ってるし、窓にしても廊下と同じで断熱効果が高いものを使ってるし、ドアの上にも明り取りの窓が付いてて採光性も充分だし、多分見た目以上にお金掛けてると思うよ」

「まー、当然そうかー」

「やっぱり常盤台の女子寮です。凄いです」

「今まで住んでてそんなの考えたことなかったわ」

 俺が答えると佐天さんは納得の様子で、初春さんはやっぱり感動した様子だった。御坂さんは知らなかった様子だが、普通そこまで知ってて住んでる人って少ないのではないだろうか。

「ずっきゅーん!」

 こちら側はアニメと微妙に違う展開だったが、白井さんのほうはアニメ通りの展開を迎えたようで、御坂さんの後ろにばたりと倒れた。しかし、妄想の中の声だと思っていたから実際に声を発した時はちょっと驚いた。

 心配する初春さんに白井さんが「大丈夫ですの」と答え、御坂さんに擦り寄りながら「何のおかまいも出来ませんが」なんて言っている部分はほぼアニメ通りだと思う。そして、その時視界の隅に捉えた佐天さんの行動にも見覚えがあった。

「あら、何をしていますの?」

「いやー、友達の家に来たらまずはガサ入れでしょ」

 ここまでアニメ通りっていうのはある意味驚愕なのだが、俺が居るというのに佐天さんは白井さんの下着を取り出し広げて見せたのである。というか、佐天さんも初春さんもこの時点では御坂さんの下着だと思っているはずなのだが……。

「エロスっ!」

「あちゃー」

 多分アニメ通りの佐天さんの一言に俺は額を押さえてうつむいた。俺が男だということをここに居る全員が知っているわけだから、俺がそのまま女性用の下着を見るのはまずいだろうと思ったのだ。

「さ……佐天さんっ!」

 ここで佐天さんに注意する初春さんが俺のことを気付いたのかと思ったのだが、ただ単に下着を出したことへの注意だったようだ。結局、白井さんも俺が居ることを完全に無視して下着類を披露し、最後に御坂さんの下着を取り出して頬をつねられていた。

「あっ、そうだ、御坂さん。私、アルバムが見たいなー」

「おー、定番だねー」

 やっぱりというか当然というか、アニメ通りに初春さんが提案したところで俺はようやく顔を上げた。御坂さんは初春さんのほうを向いているのだが、白井さんの頬はつねったままである。それにしても白井さんは両手で窓を拭くパントマイムでもしているかのような動きをしているのだが、つねっている御坂さんの手首辺りを掴んだほうが良いのではないだろうか。

「うわー、可愛いー」

 御坂さんが写真データの入った端末を取り出すと、それを初春さんが操作して後ろから俺と佐天さんで覗き込む。小学校の入学式から始まって、確かアニメでは数枚表示されただけで終わっていたのだが、実際には1万枚を超えるほどの写真が入っており、その中から適当に選んで見ていた。

「でも、ちょっと意外」

「何が?」

 佐天さんの呟いた一言に御坂さんが反応する。それに対して佐天さんも言葉を選びながら答えるが、佐天さんが御坂さんに対して持っていた、『最初からエリートのお嬢様』というイメージが写真に全然なかったということである。

「私だって最初はレベル1だったし、全然普通の子だったって」

「……へー……」

 やはり佐天さんはレベルというものがコンプレックスなのだろう。御坂さんの言葉にも視線を写真に戻して相槌を打つだけだった。

「それじゃー、次は白井さんのですね」

「ええ、喜んで……と申したいところですが、生憎と(わたくし)アルバムは持ち合わせておりませんの」

 初春さんが白井さんに話しかけると、白井さんはアルバムを持ってない理由を熱弁し始める。その時、やはり俺は視界の隅で佐天さんの行動を捉えていた。

「これじゃん」

「ぎゃーっ!! それは駄目ですのっ!」

 佐天さんが白井さんのアルバムを見つけると白井さんが大慌てで取り返そうとしているが、意外にも佐天さんはアルバムを片手で持ちつつ反対の手だけで白井さんをあしらっていた。

「ぅゎぁー……」

 なぜかタイトルが『お姉さまのHIMITSU』となった上に最後ハートマークまで付いていて、裏には巨大なマル秘のマークまで入っている白井さんのアルバムの中を見ると、御坂さんの盗撮写真がずらりと……っていうか、ちゃんと並べろよって思うほど乱雑に貼り付けられていた。しかし、確か禁書目録のほうで一方通行と戦う頃の話では、エレクトロマスターの微弱電波で動物達と触れ合えないみたいなことを言っていたと思うのだが、この中には御坂さんが猫に餌を与えているっぽい写真があった。

「黒子っ!!」

 白井さんはやっぱり御坂さんにつねられ、御坂さんが手を離すと、白井さんは御坂さんに対する想いを語ってその後で尋ねる。

「お姉さまは今日が何の日だか覚えてませんの?」

 白井さんの問いかけに対して御坂さんはしばらく考えるが、出てきた答えはやっぱりアニメ通りだった。

「あー、今日は初春さんと佐天さん、それに神代さんと出会ってからちょうど一週間目の記念日だ!」

 いや、俺が居る分だけアニメとはちょっと違っていた。しかし、その言葉を聴いてズッコケる白井さんは多分アニメのままだと思う。

「いやー、まだ一週間なんですねー」

「何だかもう、ずっと前から友達でいる気分でしたー」

 初春さんと佐天さんが御坂さんと話しているが、このままだと白井さんが冷た~いおしるこを飲みながらいじけてしまうので、俺は白井さんの話題を出すことにした。

「あの銀行強盗事件以来、白井さんと一緒にいても事件に遭遇してないんでほっとしてますよ」

 基本的にはアニメで展開を知っていたものの、白井さんを見たときの二回は郵便局と銀行の強盗事件に両方とも巻き込まれているのだ。某、体は子供頭脳は大人の名探偵かっ! と思ってしまうほどである。というか、この後学舎の園で常盤台狩りの眉毛女事件にも遭遇するし、セブンスミストの虚空爆破やらレベルアッパーやら、その後も事件続きなのだからあながち間違ってはいないのか。

「黒子と一緒で事件って……この前の銀行強盗だけじゃないの?」

「そうですわ。神代さんと出会ってから遭遇した事件といったらこの前の銀行強盗ぐらいしか……あっ!」

「そうです、白井さん。あの郵便局強盗の時の被害者の一人ですよ」

 御坂さんは郵便局の中には居なかったので当然俺が居たことを知るはずもないのだが、白井さんはジャッジメントとして郵便局内に居た被害者の名前ぐらい見てないのだろうか。と思っていたら、何とか気付いたようだ。少なくとも初春さんはその時点でジャッジメントではなかったので知らなかったとしても仕方ないと思うのだが、この前話しているので俺が郵便局強盗事件に巻き込まれたことを今は知っている。

「うん、だから白井さんはウチの騎龍の姿も一応見てるはずなんだよねー」

「うっ……全然覚えておりませんの……」

 俺の言葉で白井さんが少しだけ申し訳なさそうに返してくる。

「それは別にいいんだけどさ。あの時、強盗の拳銃が発射された直後、白井さんって、犯人の確保と、郵便局内の一般人の安全、どっちを優先した?」

「そ……それは……」

 俺のことを覚えているかどうかなどはどうでも良く、それよりあの時のことでやはり白井さんには言っておかなければならないと思ったので、少し威圧感を出しながら一言ずつ区切って白井さんに尋ねる。すると、白井さんは少したじろぎながら言葉を詰まらせた。

「まぁいいわ、本当に聞きたいのはこっち。最後に白井さんが強盗に言った言葉があるわよね。自分の信じた正義は決して曲げない……だったっけ? その言葉に偽りはないわね?」

「勿論ですの!」

 ここで一度思い出させておけば、後で初春さんと仲違いする話が緩和されるのではないだろうかと思って聞いてみた。そして、俺が思った通りの答えが返ってきたので安心する。まぁ、初春さんとの約束の話は俺が知っているはずのない話だから、そこを出せないというのが少々残念なところではある。

「そう、なら大丈夫ね。今後も初春さんと一緒にジャッジメント頑張ってね」

「当然ですの」

 そこまで言ったところで俺は冷た~いおしるこの缶を開ける。本来のアニメでは白井さんが飲んでいたやつなのだが、残っていたのがこれとハバネロパイナップルというとんでもない名前のジュースだったので、ハバネロパイナップルのほうを白井さんに押し付けたというわけである。

「そう言えば、あの時の光線って凄かったねー」

「あの光線には本当に助けられましたの」

「あの光線って何?」

 今度は少し話題をずらしてみると佐天さんが乗っかってきた。

「私が絶体絶命のピンチに陥った時に助けてくださったかたがいらっしゃいましたの」

「外からだと中の様子が分からなかったんですけど、外には別に何かしたような人は居ませんでしたよ?」

 白井さんが答えると初春さんが更に付け加える。恐らく事件直後に白井さんから外で何かしていた人が居ないか聞かれていたのだろう。

「でも、あの光線は間違いなく外からでしたの」

「そうねー、確かに外からだったわよね」

「それって何か都市伝説みたいじゃないですかっ!」

 白井さんと俺が言うと佐天さんは目を輝かせる。やはり佐天さんは都市伝説が好きみたいだ。とまぁ、そんな話を初春さんや佐天さんそして白井さんとしていると、御坂さんだけが「へー、そうなんだー」とか「す……すごいわねー」とか、微妙に引きつった顔で相槌を打っていた。

 郵便局強盗事件の話から都市伝説へと移り変わったところでインターホンが鳴った。『自棄汁粉(やけじるこ)』の展開は見られなかったというか、俺が自分で潰してしまったわけだが、白井さんが事前に注文していた品の配達まではいくら俺でも回避不可能である。

「はーい」

「宅配便です。208号室の白井黒子様のお部屋でよろしかったでしょうか?」

 御坂さんが対応すると、アニメの通りに宅配便である。白井さんの様子から見ても媚薬を頼んでいるということで間違いないのだろう。

「はい、それで品物は?」

「パソコン部品となっておりますが……」

 すでにこの辺りから俺は噴き出しそうになっていて、一生懸命こらえる状態になっている。

「送り主は?」

「えー、有限会社、愛と漢方の絶倫媚薬様からです」

「って、そこを明記してどうしますのっ!!」

 ここまで来ると噴き出すのを必死でこらえるといった状況だ。しかし、状況も展開も知っている俺と違って、初春さんと佐天さんは状況も把握できていないようで、不思議そうに顔を見合わせていた。

「黒子~? 媚薬なんて何に使うつもりなのかしらねー?」

 怒り心頭の御坂さんが電気を帯び始める。

「えーと、あのー、それはー……」

「アンタのその変体性質を治すには、相当な荒療治が必要なようねー。真っ黒焦げになりなさいっ!」

 白井さんが何とか言葉をつむごうとしているが、御坂さんを納得させられるだけの言い訳など出来るはずもなく、白井さんに御坂さんの電撃が見舞われた。

「ひゃっ!」

「きゃぁっ!」

 ドアが吹き飛ぶほどの衝撃に、初春さんと佐天さんの悲鳴が上がる。普通にこんなものを喰らったらまず助からないだろうと思うのだが、白井さんはテレポートで逃げているので大丈夫のはずだ。それを分かっているのか、御坂さんは勢いよく廊下へと飛び出す。

 俺と初春さんと佐天さんも顔だけ出して廊下を覗いてみるが、すでに白井さんが寮監さんに倒されていて、御坂さんが走る格好のままで固まっていた。

「寮則を守れないやつには罰が必要だ。そうだろう? 御坂」

「は……はひっ!」

 アニメよりも展開が早い気がするのだが気のせいだろうか。それはともかくこの後のプール掃除は見ることが出来ないので、少しアニメと違う展開になるように布石を打っておくことにする。

「あのー、すみません。今、白井さんに宅配便が来てるんですけど、白井さんがその状態だと受け取れないと思うので、寮監さんが変わりに受け取るってできますか?」

 アニメではどうなっていたのか知らないが、プール掃除で白井さんが『パソコン部品』入りのドリンクを御坂さんに飲ませようとしていたことから、白井さんが荷物を受け取っていたのだと思うのだが、それを寮監さんに任せることでこの後の展開が変わってくるはずだ。

「ああ、そのくらいなら問題ないな」

「それではお願いします。『有限会社、愛と漢方の絶倫媚薬』からのパソコン部品を白井さんの代わりに受け取っておいてください」

 俺の提案を了承してくれた寮監さんに、受け取る荷物の送り主名を微妙に強調して伝えた。

「あ……アンタ、鬼畜ね……」

 俺が寮監さんに言った言葉を聞いて、御坂さんは俺に向かって呟いたのである。
 
 

 
後書き
お読みいただいている皆様、ありがとうございます。
かなり遅れて申し訳ありません。
年末は忙しかったので、ほぼ今年に入ってから書き始めました。
自分が読んでてアニメと同じ展開の部分は大体読み飛ばしてしまうので、同じ部分はなるべく入れないようにと思ってはいたのですが、同じ部分を全て『アニメ通り』で済ませるとアニメを知らない人が困るだろうということで、このような形になっています。
これから展開がアニメから少しずつ離れていくので、ある程度離れればそういった部分が楽になるかなーとは思っていますが……^^;

なお、最後で寮監さんがアニメよりも早く駆けつけたのは、神代姫羅が居るので近くで監視していたためです。


2015/01/30 表現の変更、回避不能→回避不可能
 
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