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『八神はやて』は舞い降りた

作者:羽田京
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第1章 悪魔のような聖女のような悪魔
  第11話 悪魔のような聖女

 
前書き
・主人公、ナンパするの巻。 

 
 アーシア・アルジェントにとって、心が休まるのは、教会の外を歩き回るときだけだった。
 もともと、彼女は、教会つまり天使陣営に所属していた。
 癒しの奇跡を起こし、聖女として相応しい振る舞いを幼いころから強いられてきた。


 しかし、とある日。傷ついた悪魔が、彼女の前に現れる。
 心優しき彼女は、その悪魔を治療してしまう。
 杓子定規な天界(異界にある天使陣営の大地)のシステムは、彼女を破門した。
 地上の信仰・奇跡を司り、破門も行うシステムに、情の入る余地はなく、彼女に容赦しなかった。
 破門された彼女は、掌を返したかのように、教会関係者から「悪魔」と非難された。


 ――悪魔のような聖女


 聖女でありながら悪魔を助けた彼女を揶揄した言葉である。
 結果的に、教会から追放されてしまったが、悪魔を治療したことを彼女は後悔していない。
 信仰を否定しているわけではない。
 彼女は『聖女の微笑(トワイライト・ヒーリング)』という神器をもって生まれた。
 日夜、人を癒してきた彼女にとって、患者の出自はどうでもよいことなのだ。
 彼女は、彼女なりの信仰と信念をもっていた。
 それが、たまたま、教会の教義と相容れなかったに過ぎない。


 その証拠に、彼女はいまでも、教会で祈りをささげている。
 行くあてのない自分を、保護してくれている堕天使たち。
 彼らが自分を利用して何かしようとしていることには、気づいている。
 ――気づいてはいるが、どうすることもできない。


(わたしは、とても弱い)

 
 内心で嘆息する。


(わたしがもっと強い心をもっていれば、教会の庇護をうけられなくても、人を癒すことができたかもしれない)

 
 しかしながら、教会の中での生活しか知らないアーシアにとって、外の世界は全くの未知であった。
 一人暮らしなどとてもできず――――利用されるとは知りながらも、堕天使に保護されざるを得なかった。


(怪我で苦しむ人たちを助けたい。わたしの願いはただそれだけ。主よ、どうかわたしの願いをききいれてください)

 
 過酷な環境の中でも、彼女は祈りを止めない。
 

 ――祈り、癒す。

 
 それが、彼女の全てであった。
 ふと、昨日会った青年のことを思いだす。
 たしか、兵藤一誠という名前だっただろうか。
 日本語での会話に不自由している彼女にとって、久々の会話は、とても楽しかった。
 人の温かさに触れあうことで、思わず助けを求めたくなるほどに。 


(――でも、彼を巻き込んではいけない)

 
 転生悪魔のようだったが、荒事が得意なようにはみえなかった。
 優しい彼は、きっと自分を助けようとして――死んでしまうだろう。
 そんなときだった――


『おや?お嬢さん。日本は初めてなのかい?あてどなく彷徨っているようだが、ボクが町を案内してあげよう。なあに。ずっとこの町に住んできたんだ。安心するがいい』

 
 悪魔言語ではない、本物の英語で声をかけられた。
 振り返ってみると、亜麻色をした肩にかかるくらいのショートカットの女性――――彼女はどうみても日本人だ――――が、話しかけていた。
 付き添いという名の監視役の堕天使が、止めようとするが、あっという間に、観光することになってしまった。
 なんだかんだで、その堕天使も退屈していたらしく、楽しんでいたようだ。
 アーシアも、つかの間の幸福を味わうことができた。
 こちらに人懐こい笑みを浮かべる少女。


 ――八神はやては、再会の約束までして、去って行った。





 アーシア発見。


 やはり、顔色はすぐれないようだ。
 深呼吸して、突撃。ナンパに成功。
 張り付いていた堕天使も、話のわかるヤツで、いっしょに町を見て回った。
 アーシアと会ったとき、なぜか、なつかしさを感じた。
 彼女とは初対面のはずである。
 念のため彼女に尋ねたが、以前に会った記憶はないと答えた。
 帰り際には、少しだけ元気がでたようにみえたが、沈んだ顔をした理由を尋ねたボクに対して、


『ありがとうございます。もう、私は大丈夫です』


 と、綺麗な笑顔で返答した。
 明らかに、嘘だとわかった。
 が、他人を巻き込みたくない、彼女なりの気遣いだと分かる。

 
 それは、とても優しい嘘だろう。
 ――彼女は、自分自身よりも他人を優先するのだから

 それは、とても残酷な嘘だろう。
 ――彼女は、頼れる人がどこにもいないのだから


 なんとかしてやりたい。と、ボクは改めて思う。
 アーシアは必ず救う。救ってみせる。
 だから、もうすこしだけ待っていてほしい。
 きっと、兵藤一誠たちが助けてくれる。もちろん、ボクたちも。
 最近彼女のことが気になって仕方ない。
 どこかなつかしさを感じて、放っておけない。
 疑問を持ちつつも答えは出なかった。 
 ……とはいえ、アーシアも待つだけでは退屈だろうから、お姉さんが傍にいてあげよう。
 

 ――明日は、ゲームセンターに連れて行ってあげよう。

 ――なに、遠慮することはない。費用は、お姉さんもちだから。

 ――そこの付き添いの方も、いっしょに如何かな?





 その後、数日の間、アーシア(おまけで堕天使)と、遊んで回った。
 短い期間だったが、お互いの距離はだいぶ近づいたように思う。
 ボクも、「遊んであげる」のではなく「いっしょに遊ぶ」ことで、楽しんでいた。
 八神家では、末っ子だったからだろうか。
 お姉さん風を吹かせるのは、存外よいものだった。


 ――ヴィータに言ったところ、姉の心得とやらを3時間近く語られて大変だったが


 そして、先ほど、サーチャーから重要な情報が送られてきた。
 アーシアを利用しようとしている堕天使陣営のエクソシスト――フリード・ゼルセンが、行動を起こしたのだ。
 過激な異端視問を問題視され、教会から追放された彼は、血に飢えた性格破綻者だ。
 サーチャー越しでさえ、ひしひしと感じられた。
 そんな彼が、契約するために悪魔を召喚しようとした人間を嗅ぎ付けた。
 後は簡単、召喚主を殺そうと動くだけだ。


(ザフィーラ、頼んだよ)

(お任せください)

 
 行動の予想は簡単だったので、フリード・ゼルセンをザフィーラに追わせている。
 召喚主は、兵藤一誠を呼ぼうとしているようだ。
 たしか原作では、彼は現場について、惨殺死体をみてしまう。
 硬直した無防備な彼を、フリード・ゼルセンが攻撃し、止めをさそうとする。
 その直前にアーシアが登場し、兵藤一誠の助命を嘆願する。
 しばし対峙するが、リアス・グレモリーたちが、魔法陣を使い転移してくる。
 不利を悟ったフリード・ゼルセンは、アーシアとともに逃亡。
 堕天使の気配が接近してきており、リアス・グレモリーたちも撤退する――という流れだったはずだ。


 ボクは、召喚主の殺害を防ぐべくザフィーラを向かわせたのだ。
 現に、いまザフィーラが、シールドを展開して召喚主を守っている。
 しばらく、にらみ合いが続いていたが、そこに兵藤一誠が到着。
 ザフィーラを知らない兵藤一誠は、うかつに動けず、三つ巴になっている。

 
(リアス・グレモリーが異常に気付いた。すぐに、転移してくるから備えておいて)

(了解しました)

 
 すぐに、魔法陣が輝いて、リアス・グレモリーが登場。
 フリード・ゼルセンとしばし問答が続き、アーシアが彼の背後から現れる。
 兵藤一誠は、こちらに来るように呼び掛けるが、彼女は拒否した。
 複数の堕天使が接近してくる気配に気づいたリアス・グレモリーは、撤退を決意。
 そのまま、魔法陣で転移し、兵藤一誠は、ザフィーラが抱えて退いた。


(兵藤一誠を部室に届けてきました。このまま帰還してもよいでしょうか)

(お疲れ、ザフィーラ。今日のポトフは自信作なんだ。早く帰ってきておいで) 


 ――――かくして、アーシア・アルジェントを巡る物語は加速していく

 
 

 
後書き
・アーシアになつかしさを感じる主人公。ナンパの常套句ですね。
 
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