渦巻く滄海 紅き空 【上】
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二 幕開け
中忍選抜試験会場となる、木ノ葉隠れの里忍者アカデミー301教室。
そこには各国から集まった多数の受験者がひしめき合っていた。
担当上忍はたけカカシの激励を受けた、第七班の少年・少女達は301教室へと足を踏み入れた。
「……」
「な…なによ…これ…」
忍びの多さに圧倒される三人。同時に戦慄を感じていた彼らは、黒髪の少年に近づく影に気づかなかった。
「サスケ君おっそ―い♡」
黒髪の少年―うちはサスケの背中におぶさるように抱きついてきたのは、長い髪の勝ち気そうな少女。七班と同期の下忍―第十班の山中いのである。
「サスケ君から離れーっ!!いのぶた!」
「あ~ら、サクラじゃな~い。相変わらずのデコりぐあいね。ブサイクー♡」
「なんですってー!!」
彼女につっかかるのは、先ほどまでサスケの隣にいた桃色の髪の少女―春野サクラ。
二人がサスケを巡る恋のライバルであることは、一目瞭然である。
そしてこの騒動に、完全に蚊帳の外となった金髪少女に声をかける者がいた。
「なんだよ、こんな面倒くせぇ試験…お前らも受けんのかよ」
「シカマル!?……それにチョウジも!?」
金髪少女は嬉しそうに、いのと同班であり幼馴染でもある少年達に近づいた。
「…よお、ナル。久しぶりだな」
「元気だった?」
「おう!」
金髪少女―波風ナルは、ニシシと笑う。少女らしくないが懐かしいその笑みに、黒髪を頭のてっぺんで一つに結っている少年―奈良シカマルと、お菓子を食べ続けているポッチャリした少年―秋道チョウジは嬉しそうに目を細めた。
ほのぼのとした雰囲気の中に、ナルに向かって突然人影が跳び付いてきた。
「ひゃっほ~みーっけ!」
いのと同じようにナルの背中におぶさってきたのは、犬を頭に乗せている茶髪の少年。
「キバ!」
「これはこれは、皆さんお揃いでぇ」
茶髪の少年―犬塚キバは、ナルにおぶさるように寄り掛かったまま、へらへらと笑った。
「どーでもいいけど、いい加減離れろよ。メンドクセー」
手慣れているのか、シカマルが顔を顰めながら、ベリッとキバをナルからひっぺがす。
「こ…こんにちは…」
「……」
キバに続いて声をかけてきたのは、同じく同期であり第八班の下忍達である。
黒髪の引っ込み思案な様子の少女は、日向宗家の跡取りとして生まれた―日向ヒナタ。
丸いサングラスをかけ、無口で何を考えているかわからない少年―油女シノ。
ちなみに、キバから解放されたナルはキバの忍犬―赤丸を構っている。
「何だ…お前らもかよ!…ったく」
シカマルが如何にも鬱陶しそうに言い放つ。
「く~成程ね~。今年の新人下忍9名、全員受験ってわけか!」
調子よく言うキバは、サスケを挑発する。
「さて何処まで行けますかねぇ、オレ達…。ねェ、サスケ君?」
「フン。えらく余裕だな、キバ」
自信たっぷりに振舞うキバに、サスケは鼻で笑う。
「オレ達は相当修行したからな…お前らにゃ負けねーぜ!」
「うっせーてばよ!サスケならともかく、オレがお前らなんかに負けるか!」
キバの言葉に過剰に反応したナルはキバに吠える。赤丸がキバの傍へと行ってしまったのが、彼女が不機嫌になった理由ではないだろう……たぶん、おそらく、きっと。
「ご、ごめん…ナルちゃん…。そんなつもりでキバ君も言ったんじゃ…」
キバの後ろで控えていた少女―ヒナタが、彼女に小声で謝る。
「お!ヒナタァ!久しぶりだってばよ!」
すぐに機嫌を治したナルが、ヒナタに満面の笑顔をみせる。
憧れの人であり、初めての親友でもあるナルの笑顔を見たヒナタは、顔を真っ赤にして俯いた。
「シノも久しぶりだってば。元気だった?」
「ああ…久しぶりだな、ナル…」
表情の変化が読めない・何を考えてるか解らない、ということからシノを苦手に思う者が多いが、ナルだけはシノといると落ち着くため、さほど苦手ではない。
むしろ唯一シノの表情を読める下忍である。
八班と仲良く会話している最中に、ようやく一段落ついたのか、いのとサクラが割り込んできた。
「ナル~。前々から思ってたけど、なんでこんなダボダボの服着てんの~」
「そうね。いのと違ってあんた可愛いから、もっと女の子らしい服にしたらいいのに」
「さりげなく人を馬鹿にすんじゃないわよ、デコリン!」
再び喧嘩を勃発しそうな状況は、ナルの一言によって回避された。
「…可愛いのはサクラちゃんやヒナタのことをいうんだってばよ?」
「あら、わかってるじゃない」
「ナ、ナルちゃん…//」
可愛いと言われて満足げに頷くサクラと惚けるヒナタを、じと目で見ながら、
「ちょっと、私はぁ~」といのはナルを睨んだ。
「いのは綺麗なんだってば。三人とも将来美人さんになるってばよ!」
にっこりと屈託のない笑顔で言い切るナルに、その場の下忍仲間は癒される。
「おいおい、こいつら褒めたって、な~んもでねえぜ…グエッ」
余計な茶々を入れたキバが、瞬時にナルを除く女性群に沈められた。
(はぁ~あ。ナルが男じゃなくてマジ良かったぜ…)
地に沈んだキバに「ご愁傷様」とつぶやきながら、シカマルは心底そう思った。
女でもこのフェミニストぶりである。男だったら…、あまり考えたくない。
「おい、君達!もう少し静かにした方がいいな…」
キバの二の舞を恐れるあまりに、会話が途切れたちょうどその時、声がかかった。
「君達が忍者アカデミー出たてホヤホヤの新人9名だろ?可愛い顔してキャッキャッと騒いで…まったく。ここは遠足じゃないんだよ?」
「誰よ~アンタ?エラそーに!」
いのが、声をかけてきた幾らか年上の青年に不満の声を上げる。
「ボクは、カブト。それより辺りを見てみな」
「辺り?」
カブトの言葉に、サクラは恐る恐る辺りを見渡す。
すると、すぐ傍にいる、四本の縦線が刻まれた額当ての忍び達がこちらを睨んでいる。
「君の後ろ…アイツらは雨隠れの奴らだ。気が短い。試験前で皆ピリピリしてる…どつかれる前に注意しとこうと思ってね」
気の短い奴らの視線に、押し黙ってしまったサクラ達を見て、カブトは苦笑した。
「ま!仕方ないか…右も左も分からない新人さん達だしな、昔の自分を思い出すよ」
「カブトさん…でしたっけ…」
「ああ…」
「…じゃあ、あなたは二回目なの?」
「いや…」
サクラの問いに、カブトは首を振った。
「…七回目。この試験は年に二回しか行われないから…もう四年目だ…」
「へー。じゃあこの試験について色々知ってんだ…!?」
「まあな」
カブトは少し誇らしげな表情を浮かべると、忍具ポーチから数枚のカードを取り出した。
「へへ…じゃあ、可愛い後輩にちょっとだけ情報をあげようかな。この認識札でね…」
聞き慣れない忍具に、サクラが首を傾げて尋ねる。
「認識札?」
「簡単に言えば、情報をチャクラで記号化して焼き付けてある札のことだ」
そう言いながら、カブトは数十枚の認識札を床に置いた。
「この試験用に情報収集を四年もかけてやった…札は全部で200枚近くある」
彼は一枚の札をクルクルと回転させ、チャクラを注ぎ込む。
「…何やってるのー?」
「見た目は真っ白だけどね…この札の情報を開くにはー」
すると、軽い破裂音と共に白煙が撒き上がった。
「ボクのチャクラを使わないと、見ることが出来ないようになってる…例えばこんなのがある…」
認識札からは、隠れ里の位置などの地図が棒グラフとして立体的に浮き出ている。
「今回の中忍試験の総受験者数と総参加国、それぞれの隠れ里の受験者数を個別に表示したものさ」
認識札に興味をもったのか、サスケが尋ねる。
「…個人情報が詳しく入ったものはあるのか…?」
「フフ…気になる奴でもいるのかな?」
さも当然であるかというように、カブトは口角を上げた。
「勿論、今回の受験者の情報は完璧とまではいかないが、焼き付けて保存している。君達のも含めてね。その気になる奴について、君の知ってる情報を何でも言ってみな…検索してあげよう」
「木ノ葉のロック・リーって奴だ」
サスケが口にした名前は、中忍試験会場に向かう途中で、彼が負けてしまった相手であった。
「なんだ、名前までわかってるのか…それなら早い」
すぐにカブトは一枚の認識札を引き出した。
「見せてくれ」
ロック・リーの情報に、サスケ達は耳を傾ける。
聞き終わったあとの彼らの表情は、少々強張っていた。
「木ノ葉・砂・雨・草・滝・音…。今年もそれぞれの隠れ里の優秀な下忍がたくさん受験に来ている。ま、音隠れの里に至っては近年誕生した小国なので情報は余り無いが…それ以外は凄腕の隠れ里だ」
「な…なんか自信無くなってきましたね…」
不安げに眉を下げたヒナタが呟く。
「つまり…此処に集まった受験者は皆…」
「そう!各国から選りすぐられた下忍のトップエリート達なんだ。そんなに甘いもんじゃないですよ」
そう締めくくるカブトの言葉に、サクラ達は、エライ場所に自分達は来てしまったんじゃないかと緊張し始めた。
一方その頃―
「なにをしている、多由也」
「ナルトを探しているに決まってんだろ」
周囲を注意深く見渡す深紅の髪の少女―多由也に、白髪の少年―君麻呂は呆れたような目を向けた。
「…ナルト様は時間通りに来るお方だ。遅刻など万に一つもない」
「そりゃそうだろーけどよ」
多由也は険悪な目で君麻呂を睨むと(やっぱりコイツは気に食わねえ…)とぼやいた。
その時、教室の隅にいた騒がしい集団の中から、一際大きな声が教室中に響き渡った。
「オレの名前は波風ナル! てめーらにゃあ負けねーぞ!」
教室内にいる下忍達全員を指差しながら吠えるのは、あのナルト似の金髪少女。
その目立ちっぷりに、君麻呂と多由也は頭を抱えた。
(なまじ似ているだけに、キツイな…)
(あのバカチビ…中身はまったく似てねェな…)
内心失礼なことを考えていた二人は、騒がしい集団の中に顔見知りがいるのに気づいた。
「あれ…カブトが今叫んでたガキ共に接触してるぞ」
「ふむ、額当てからして木ノ葉の忍びだが…。器候補・うちはサスケの情報収集じゃないか?」
小声で話しながらも、多由也と君麻呂の両眼は先ほど啖呵を切った金髪少女を捉えている。
「さて…やりますか…」
そのような喧騒の中でも、顔面を包帯で覆った男の小さな呟きを二人は聞き洩らさなかった。
一応同じ音隠れの下忍三人が、音隠れの里を小国扱いしたカブトが気に食わなかったのか、なにかしら行動を起こそうとしている。
「あのヤロー共、何する気だ…」
「カブトさんが音のスパイだと知らないのだろう」
そうこうする間に、教室天井ギリギリの高さまで跳んだ音隠れの一人―ザクが、カブトに向かってクナイを投げた。
―その時 一条の金の矢が奔った。
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