俺の異世界転生記
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四日目 昼
宿屋を出ると、道すがら俺に注がれる視線が強くなっていく。どうやら決闘の話が既に町中に流れているようだ。
(わざとなのか意図的なのか定かではないが、熊男からすれば俺を公衆の面前で完膚なくまで叩き潰すチャンスと言う訳だ。そして、敗北を噛み締めている俺に手をさしのべ、仲間にする、とでも思っているのだろうな。)
だが、俺の道にそんなストーリーは無い。必ず勝つ。
広場へ向かう道を開けるように群衆が割れていく。まるでパレードに出るサーカスになったように感じ、その光景に溜め息を吐きつつも俺は歩みを進めた。
(広場が見えてきたな.....やはり、人が多い。今さらだが、面倒な事になった)
広場には予想通り、とは思いたくなかったが、思った通り広場にはたくさんの住人が決闘を観戦しようと押しかけてきていた。中にはミールもいた。
「おっ!来たかッ!遅ぇから来ないと思ったぜ」
こんな大衆が集まっているのに、来ない訳にもいかないだろう。だが、これから仕事だ。さっさと終わらせて、依頼を受けに行かせてもらう。
「ふん、精々余裕ぶってな。どうせすぐにその自信、叩きおれるんだからな!おい、シルッ」
ガンスの後ろで待機していたシルフィがゆっくりとした足取りで俺とガンスの間に立つ。
「じゃ、ルール説明よ。1、相手を殺してはならない,あくまで戦闘不能にすればそれで勝ち。2、魔法、武器の使用は自由。3、外野の助けを借りない、1対1で正々堂々戦う事。以上、理解した?」
無論だ。
「シンプルでいいじゃねぇか」
「.....問題、なさそうね。じゃ、ルーキーもガンスも頑張ってね。特にガンス、負けたら....分かってるわよね?」
シルフィはそれだけ言うとギャラリーの輪まで下がる。
「両者、構えて!」
シルフィの声にギャラリーが騒がしくなる中、ガンスは真剣な面持ちで背中に背負った真紅のバスターソードを抜き、両手で構える。俺は毎度と同じように輝彩滑刀を腕から出し、ボクシングのような構えを取った。
俺の腕を見て、驚きの声が上がるが、それよりも観客は試合を見たいのかシルフィを急かすように怒号を上げる。シルフィは煩そうに片方の耳を押さえると顔をしかめながら、叫ぶように言う。
「初め!」
その声に先に動いたのは、ガンスだ。見るからに重そうなバスターソードを振りかぶり、俺に向かって、一文字に放とうと走る。
「これを食らって、てめぇの愚かさを悟りなァ!ヤクモォ!」
ガンスは剣の射程距離に入るとバスターソードを振るう。すると剣が真っ赤に燃え上がった。
(なるほど....これは恐らく魔法の一種。それか、この剣自体が魔法を付加された剣なのかどちらかだろう)
迫る剣を眺めながら、俺はそんな感想を抱いた。
「ヤクモッ、避けてェ!」
外野から聞きなれた声が響く。
(言われなくても、分かっている。だが、敢えてそれをしない。なぜならしなくてもガンスの攻撃は『当たらない』。そして、次に奴が気付くのは敗北し、決闘が終わりを迎える)
俺が薄く笑みを浮かべると背後に黄色の人型スタンドが現れる。
決着は着いた、THE WORLDッ。時は、止まる。
キィィン.....!
騒がしい喧騒が止み、全ての生物、風、太陽、地球ですら動きを止める。無論、ガンスの動きも同様に。
俺は首の手前で赤く燃えている剣をそっと押し退けると背後に控えるザ・ワールドが拳を下から突き上げるようにガンスの胴体に打ち込む。
ドガッ!
ガンスの腹に加減されているとはいえ、かなりの一撃が入る。
悟るのはお前の方だったな、ガンス......これが、世界だ。
俺は両手の輝彩滑刀を腕に終い、人差し指を立てる。
10秒....そして、時は動き出す。
「ぐぉ!?」
時が動きだし、ガンスは後方のギャラリーに向かって吹っ飛んでいく。
ドォン!
派手な音を立てて、ギャラリーに突っ込んだガンスは住人達を押し出すように倒れた。
驚くギャラリー、声を失ったように硬直するガンス。誰もが、何があったのか理解出来ていなかった。故に恐怖した。
「ゲホ、ゲホッ!ヤク、モ、な、何をしやが、った....?」
答える義理はないが、敢えて言うなら魔法を使った、それだけだ。だが、今は決闘は俺の勝ち、知るのはその事実だけで充分だろう?約束は果たした、俺は行く。
「待て!ヤク、モ.....」
「ガンス!?」
気絶しただけだ。加減はした、肋の5、6本は折れただろうが、傷は浅い。
俺はそれだけ言い残すと静寂を残す広場を出て、ギルドに向かう.....
「ま、だだッ!ヤクモォ!」
(どうやら今日の仕事は長引きそうだ.....)
俺が振り向くとそこには剣を支えに立つガンスが居た。
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