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緋弾のアリア 一般高校での戦い

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第9話 ヒステリアモード

 
前書き
今回は少し……というか凄く文が長いです。
しかも文章がメチャクチャの可能性があるので、分からなかったり分かりにくい箇所があったら、どんどん感想や文章の指摘を下さい。 

 



 ヒステリアモード。兄さんやサード風に言うならHSS――それは男なら『女を守るために強くなり』、女なら『男が守りたくなるような女になり、男心をくすぐるような仕草をするようになる』。
 つまり女のヒステリアモードは『弱くなる』のだ。
 そのことは前に俺とかなめによって実証された。
 しかし爺ちゃんは、女性版ヒステリアモードにも『強くなる』派生系があると言う。
 そのことをご飯のあと、偶然爺ちゃんと二人になったタイミングがあったので聞くと、爺ちゃんも詳しいことは知らないらしい。
 どうやら、遠山家にも一応女は生まれてくるのだが……そのヒステリアモードの性質上、その子供の名前などは先祖代々の巻物に記載されていることは極めて少ないとのことだ。
 ……まあ『守ってもらう』ヒステリアモードじゃ、先祖代々から戦闘まみれだった遠山家に名を残すのは難しいだろう。
 それでも爺ちゃんは、知っていることを全部話してくれた。
 その内容は俺の知っている『弱くなる』ヒステリアモードの事がほとんどだったのだが……
 けれでもほとんど情報はないが、情報がぜんぜんなかったわけではなく、女性版にも確かに『強くなる』ヒステリアモードはあると爺ちゃんは言った。
 その際に数少ない情報として教えてもらったこと。それは――
「お兄ちゃん。入るよー」
「……ああ」
 がらりら。
 ――と、湯船に浸かりながら現実逃避……もとい考え事をしていると、かなめがそう言い風呂場へと入ってくる。
 ぴたぴたとかなめはスノコの上を歩き、シャワーの前へ座る。
 ――体育祭の水上騎馬戦の時に着ていた、今風のスクール水着を着てな。
 そして俺も海パンを着用して湯船に使っている。
 もちろん体は洗って入っている。
 女性を優先するヒステリアモードで、いつまでも脱衣所にかなめを待たせるのことは出来ないので、昔開発した高速洗体術でな。
 なぜこんな事になったかというと……さすがにヒステリアモードでも俺は妹と風呂はヤバいと感じ、入るならせめてもの譲歩としてこうなったのだ。
 しかし……まさか妹に対して、
「かなめ。俺はかなめを信じてるよ。俺の可愛いくて大切な妹のかなめは、何も言わなくても俺の言おうとしてることが分かるって――そうだよね? かなめ」
 という風に、新幹線ジャックの時に白雪に使った『呼蕩(ことう)』を使う日が来るなんてな。
 今後使う機会がないことを祈ろう。
 お風呂に水着で入るという行為は、日本の温泉やこの家自慢の檜風呂(ひのきぶろ)に対する侮辱かもしれんが、こうでもしなきゃこの歳の妹と風呂なんて入れるわけがない。
 このことに関しては、今度、新年の初詣かなんかで神様にでも謝ることにしよう。
「それでお兄ちゃん。何か話しがあるんでしょう?」
 座って髪を洗いながらそう言ってくるかなめ。
 そのシャンプーの匂いに、少し血流が加速する。
 俺の買ってきたシャンプーをかなめも使っているはずなんだが……女子が使うとこうも違う匂いに感じるから不思議だ。
「ああ。かなめ――キミは爺ちゃんから聞いた、自分の中の『強くなる』ヒステリアモードの事で悩んでいるんだろう?」
「あはは、もしかしてお兄ちゃん。あたしがまたお兄ちゃんを襲おうと考えてるんじゃないかって来たの? それなら……」
「違うよ」
「え?」
 かなめは一旦(いったん)髪を洗うのを止めて、俺の方へきょとんとした顔で向いてくる。
 シャンプーが目に入らないように片目だけ開けてこちらを見るかなめは、兄の俺から見てもかなり可愛かった。
「俺はかなめの事を信じてる。かなめがそんなことするわけないってね。……かなめが悩んでるのは、もっと他の事なんだろう?」
 これがヒステリアモードの俺がたどり着いた結論だ。
 かなめが前に襲ってきた時は、『ヒステリアモードを扱えるようになって、立派な(ソルジャー)になる』という目標のうえだった。
 それ以外にもあったかもしれないが……それでも襲う気があるなら、その情報をもたらした爺ちゃんに即刻聞くはずだ。『どうやったら、そのHSSになれるの?』とでもな。
 けれどかなめは爺ちゃんに聞かなかった。
 よってかなめが俺を襲う確率はゼロに等しい。……まあいつもの態度から、じゃれ合いレベルで襲われる可能性はあるかもしれないが……
「…………」
「俺に話してごらん、かなめ。俺に出来ることなら、可愛い妹であるかなめの力になりたい。――だから、話してはくれないかい? かなめ」
「…………自分でもよく分からないけど……言葉にするんだったら、存在意義について考えてたのかな……?」
 先ほどもう使わないと思っていた『呼蕩(ことう)』を再びかなめに使い、かなめから悩みを聞き出す。
 こうでもしないと、かなめが悩みを言わないと思ったからだ。
 そう思った理由ははっきりしないのだが……それでもそう思ってしまった。
「存在意義?」
「……うん。あたし――ジーフォースはアメリカではサードに殺されたことになってる。それはお兄ちゃんも知ってるでしょ?」
「ああ」
 かなめはシャワーを出し、髪を流しながらそう言ってくる。
 その後、湯船に足を入れて来たので、俺もかなめが入れるだけのスペースを開ける。
「ありがと――サードにあたしが殺されたあの時の映像は、アメリカに流れていたらしくてね。これで晴れてあたしは『遠山かなめ』といて生きていけるようになった……」
 スペースを開けたことに対しお礼を言った後、俺とお風呂で向かい合いながら話すかなめの顔はだんだん曇ってきていた。
 それでも俺は黙ってかなめの言葉を待つ。
「……サードともその時に縁が切れるものだと思っちゃってたけど……転校の準備をしてる時に『部下としてはもう一緒にはいられないけど、兄妹としてだったらあってもいいんじゃないか?』って現れてから言われて、それでサードと一緒にお兄ちゃんを追いかけてきたの」
 ……かなめの意見を否定するわけじゃないが、サードのセリフは実際はもっと砕けて乱暴な言い方だったんじゃないか。そんなこと言ってるサードなんて想像できないぞ。
 だが、今のかなめの話しで大体の事が分かった。
「なるほどね。かなめが悩んでいることは大体(だいたい)分かったよ」
「えっ……でも、まだ話は途中までし……んっ」
「今までの話しで十分さ。あとはかなめの事を見ていれば、自然と分かるよ」
 驚くかなめの唇に――これ以上話さなくていいよ、と言う意味を込めて右の人差指を優しく置き言葉を止める。
「かなめは爺ちゃんから『強くなる』ヒステリアモードの事を聞いた後、こう考えたんだね。『あたしにも強くなるHSSがあるなら、再びサードの(ソルジャー)に戻れるかも』って」
「……!」
「そしてそれと同時にかなめは気づいたんだ。『自分は……ジーフォースはすでに死んでいる』って。だからサードの元へ――兵、または部下としては戻れない。それどころか戻ったらアメリカに自分が生きているのを公言するようなものだ」
 正直、かなめが本当にこう思ったのかは分からない。そんな確証も根拠もない。
 けれども俺はヒステリアモードによって導き出された推測を続ける。
 これより先は間違っていたとしても、俺が言ってあげないといけないと思うから。
「そしてそう考えたら再び『なら自分はどのように生きればいいのだろう?』って思ったんだね。『遠山かなめ』はどうやって生きていけばいいかって」
 俺が指を置いた状態でかなめが首を縦に振る。
 なので俺が手をどけると、
「……そうだよ。凄いね、さすがお兄ちゃんだ」
 関心と恥ずかしさが混ざったような顔でそう言ってきた。
「――ならかなめ。俺と一緒に探して行こう。丁度いいことに一般校に転校したんだ。生き方だって見つかるさ」
「……うん。ありがとう、お兄ちゃん。でも……」
「……気にしなくてもいいよ。武偵をやめても、かなめは大切な妹だ。もしアメリカにバレて襲ってきたとしても、戦ってやるさ」
「――っ!」
 『なんで気づいたの?』という顔で、少し泣きそうになるかなめ。
 気づかないと思っていたのかよ。バレバレだ。
 『自分がいない方が、お兄ちゃんは一般校でうまくいける』って考えてることくらい。
 そう。かなめは一般校に通う俺を、自分の戦いに巻き込むわけにいかないなんて考えていやがったんだ。
「だからかなめ。二度と『自分はいない方が良い』なんて考えないでくれ。俺だってアメリカにケンカを売ったんだ。今更かなめを狙う奴が来ようと変わらないさ。それに一般高校じゃ――」
「お、お願いお兄ちゃん! それ以上言わないで!」
 向かい合ってから目を合わせながらずっと話していたのだが、かなめは初めて目を逸らし、顔を赤くしながら両手で両耳を抑える。
 悪いな、かなめ。今の俺はヒステリアモード。
 こういう状況下(じょうきょうか)でも平然と言えてしまうのが今の俺なんだ。
 いつもは言葉が足りなかったり、照れくさくて言えないことも、それらを含めて今言ってやるよ。
 俺は右手でかなめの(あご)に手を置き、真剣に思いを伝えるために俺の目線に合うよう顔をあげ、顔を少し近づけ目をしっかり合わせる。
 その際に合気道の要領で、動揺しているかなめの動きを誘導し、耳を押せえてる手を離させる。
「お、お兄ちゃん! ちょっ、今こんなことされたら……!」
「――かなめがいないと俺が困る。……いいや。学校じゃなくったってかなめがいないと俺は困ってしまう。そういう自信があるよ。だから――俺と一緒にいてくれ。たとえかなめが戦えなくなろうと、ね」
 『たとえかなめが戦えなくなろうと』……この意味についてはおそらくだが……
 昼間かなめが俺の技について真剣に聞いてきたのには、俺のあの時感じた以外の理由がもう一つ隠されていたんだと思う。
 それは――いずれ来る先端科学刀(ノイエ・エンジェ・エッジ)の使用出来なくなってしまった時の為の戦う術の開発。
 かなめはアメリカには死んだと思われている。
 しかし先端科学兵装はアメリカが作っている。
 あの銃すらおもちゃ扱いしているサードが、刀をデザインとした先端科学兵装を作ってくれと言ったら、さすがにアメリカも怪しむだろう。
 それどころか、かなめが使用している武器を頼んだだけでも怪しむかもしれない。
 だからかなめは、今使ってる先端科学刀を失えば替えがきかないのだ。
 いや……もしかしたら俺に分からない燃料なんかを使っていて、それすら補充できずに使えなくなっている可能性だってある。
 そんな事を考えている時に『強くなる』ヒステリアモードの事を聞かされて、迷わないわけがない。
 しかしたとえ強くなっても、サードのところでも必要なければ、俺と一緒に転校した一般校でも必要ない。
 なら、俺はこの言葉は絶対に言ってやらなければいけない。兄として。
 さっきも言ったように『かなめが必要だ』と、
「大丈夫だから。もしかなめが危険なことが起こったら、俺が守るよ。絶対に」
 ヒステリアモードになれなかったとしても、俺たちと一緒に戦えなくなったとしても『守ってやる』と。
「――っ……こ、こんなの……反則……だよっ――!」 
 俺が言うことを言った次の瞬間。
 かなめはそう呟き、そして――
「……だ、ダメっ――兄妹でこんな……こんなことしちゃっ……」
 ……ぽろ……っ……ぽろぽろっ……
 急に泣き出し、前のように俺の胸にあて、俺を拒みながらそんな事を言ってくる。
 これは――かなめのヒステリアモード。
 どうやら、かなめの中で何かが限界を迎えてしまったらしい。
「……ごめんよ。かなめ。そんなつもりはないんだ」
 そう言ってかなめから少し距離をとる。
 そして同時にさっきまで風呂に入って考えていた、爺ちゃんが言った言葉を思い出す。
 ――女性のヒステリアモードは『二段階』存在することを。
 まず一段階目は『拒絶』。
 男心をくすぐり、男に『守ってもらう』。
 ここまでは今目の前で起きているのと同じく、前回もここで俺は部屋を出てしまったから、てっきりこのまま男に守らせるものだと思っていたが……
 実はその先があったのだ。
 爺ちゃんが言うには、女のヒステリアモードは男と違い『相手が一人』なのだ。
 分かりやすく言えば、俺のヒステリアモードはなる時にはアリアや白雪などの相手が必要となってくる。なる際には血流の違いなんかもあるけどな。
 けど女はその対象が比較的に一人なんだそうだ。
 その一人というのが特例がない限り、基本的には『好きな異性』ということらしい。
 なぜ一人なのかと言うと――理由は守ってくれる男が二人いた場合、二人が『弱くなっている』自分に襲われないようにするためらしい。
 簡単に言えば男の嫉妬で殺されないためだ。
 多分男からいえば『俺が守ってやるって言ったのに、なんで他の男もお前を守ることになってるんだ』ってことだろう。
 男は一人で女を守りたいと思う生き物だからな。
 だから『ベルセ』や『レガルメンテ』などと言った派生系が生まれたのだろう。
 他にも、男は一度に何人もの子供を女に産ませることは出来るけど、女は自分が産むから一度に一人の男の子供しか産むことが出来ないのも関係しているらしい。
 つまり女は、絶対とは言えないが『好きな異性』の前でしかヒステリアモードになることはほとんどない――が、それでも『守ってもらえる』という確証がない。
 だから『二段階』なのだ。
 そしておそらく……この二段階目が終えなければ、かなめが派生系に行きつくことはないだろう。
 守ってもらえる――ヒスれる相手がいないのに、派生系が生まれるはずもない。
 ……かなめ。お前がヒステリアモードで戦う為には、パートナーが必要なんだよ。
 しかも『強くなる』ヒステリアモード場合は、俺が出した予想によれば――男だけじゃダメなんだ。
 だからかなめ。お前に俺以外の好きな奴が出来るまで――

 ――俺がパートナーになってやる!

 強くなるためには男だけじゃダメだけど、まずはパートナーがいなければ話しにならない。
 かなめ……お前だってヒステリアモードで戦いたいよな。
 昼間言っていたように、サードの技をちゃんと見たいよな。
 だったらしばらくは俺がパートナーになって、お前を強くしてやる。やれるがどうかはかなめしだいだけどな。
 俺たちは兄妹で、俺はお前の兄貴だ。
 なら俺が遠山家の兄として――兄さんに俺が教わったみたいに――俺がお前に遠山家の技を教えてやる。
 先端科学兵装がなくても大丈夫なようにな。
 だから……
「かなめ……さっき俺が言った事を覚えているかい?」
「……え?」
 泣きべそをかいている『こっちのかなめ』にも、改めて言ってやる。
「かなめを絶対に守るって言ったことだよ。そんなことを言った俺が、かなめを襲うわけないだろう?」
「……本当に……本当にキスしたりしない?」
「ああ」
「……本当に……あたしを守ってくれるの?」
「ああ」
「絶対……?」
「絶対だ」
 そうやって何度も来るかなめの確認に、やさしく返事を返す。
 すると、しばらく確認を繰り返すうちに、かなめの警戒が解けてきているのが分かる。
 そして――
「えへへ……ありがと」
 俺が守ってくれる人だと確認し終わった途端に、そう言い俺に近づいてきて、体の体重を俺にを預けて甘えだした。
 ……なるほどね。
 泣きながら男心をくすぐり『この子を守りたい』と思わせ――そのあと守ると分かったら、甘えてその気持ちを強めると同時に継続させる。
 しかも多分、この甘えは俺が兄妹だからいきなりこんなスキンシップが激しいけど……他の男と自分の距離感で甘え方も違ってくるんだろうな。
 本当に罪作りなシステムになってるな。ヒステリアモードって。 
 そう感じながらも、
「かなめ。のぼせそうだから、そろそろ出ようか」
 かなめにそう言って、かなめが「いいよ」と承諾したのち、俺たちはお風呂をあとにした。
 ……さて、明日からはどうなるんだろうな。いろいろと。





 
 

 
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