ジェイルハウス=ラブ
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第一章
第一章
ジェイルハウス=ラブ
その時俺は深夜のアスファルトの上に立っていた。
「やっちまったか」
全てが終わった後そう呟いた。その時俺の手には一本の血塗られたナイフがあった。
今さっき人を一人殺したばかりだ。理由はある。だがそれは俺には直接関係のないことであった。
御前はそれを聞いて何故、と思っただろう。だが俺にとってはどうしてもしなくてはならないことだったのだ。
俺は薄暗い中に生まれたらしい。らしいというのは俺には親というものがいないからだ。
親父もお袋も知らない。何でもコインロッカーに捨てられていたらしい。冗談のようだが本当の話だ。俺は生まれた時から誰にも必要とされていなかったのだ。だから捨てられた。
俺は飢え死にする一歩手前でロッカーから発見されたらしい。それは運が良かったのか悪かったのか俺にはわからない。だが見つかったことを感謝したことは一度もない。
孤児院で育った。周りは大体同じだ。どいつもこいつも捨て子だった。俺もそうだ。
捨て子の中でも色々ある。育てられなかった奴もいれば俺みたいに生まれてすぐに捨てられた奴もいる。一人一人境遇は違っている。それでその違いで喧嘩になる。孤児院は荒んでいた。
いつも喧嘩ばかりしていた。貧乏な孤児院だった。食うものも碌になかった。ただそんな中で俺は教会に行っていた。理由は簡単だ。この孤児院は教会が運営するものだったからだ。年老いた神父さんがやっていた。今にも倒れそうなヨボヨボの爺さんだった。後はシスターが何人かいるだけだった。本当に何もなかった。
荒む俺達を育ててくれた。いい人達だったのだろう。だが感謝する気にはやはりなれなかった。俺はこんな世の中が嫌いで仕方がなかった。生まれてきたのが嫌で仕方がなかった。 学校でもそうだった。小学校に入っていきなり喧嘩した。それから来る日も来る日も喧嘩ばかりしていた。当然俺はいつも一人だった。
孤児院の汚いベッドに寝ていても俺は一人だった。夢はいつも喧嘩や捨てられたコインロッカーのことばかりだった。まだ目も開けちゃいねえのにはっきり覚えている。そして俺を捨てた親父やお袋を恨んだ。顔も名前も知らないが憎くて仕方がなかった。
高校まで何とか出た。高校では何度退学になりかけたらわかりゃあしねえ。それでも卒業できたのは奇跡だった。どうやら神父さんが色々と手を尽くしてくれたらしい。もう死にかけなのに御苦労なことだとしか思わなかった。
高校を出て孤児院も出た。俺は家がなくなった。だが寂しいとは思わなかった。生まれた時から俺は一人だったからだ。
すぐに町の工場で働きはじめた。安いアパートも借りた。そこで俺は勝手きままな生活をはじめた。仕事は生きる為だ。ついでに今までやった悪事を続けた。カツアゲでも何でもやった。悪いとはずっと思ってはいなかった。俺は今までこうして生きてきた。そしてずっとこうやって一人で生きていくものだと思っていた。そうしたもんだと思っていた。それが間違っているんだったら証明してみせろと思っていた。
そうした日々だった。金はあった。だがそれだけだ。汚い金だ。それで生きてきた。職場でも俺は一人だった。そしてそれは死ぬまでそうだと思っていた。少なくとも俺はそれでよかった。死ぬ時もどうせろくなもんじゃねえだろうと考えていた。俺みたいな奴にはそれが相応しいと思っていた。あの時までは。
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