カンピオーネ!5人”の”神殺し
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ルリム・シャイコースとの戦い Ⅲ
「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・グッ・・・!」
アーグラ廊から遠く離れた、とある民家の裏。そこに、男がもたれ掛かっていた。
草薙護堂である。
彼は、全身から滝のように汗を流し、息を荒くしていた。脇腹と背中からは夥しい量の流血をしており、顔色が悪い。
―――が、そんなことは些細な問題である。こうしているうちにも、彼の【ステータス改竄】の『治癒』によって、傷口が塞がり続けているのだから。
・・・問題は、別。
彼の両腕である。
「クソ・・・治らない・・・!」
あの一斉射撃の瞬間、彼は『神速』を装填していた。多少の被害は無視し、当たれば即死する光の柱だけを避ける為に、全力で走った。【黒の戦士】モードを使用出来れば、また違った選択肢があったのだが、聖句を唱える時間もなかったのだ。
・・・が、いくら神速でも、あの弾幕を全て避けるのは不可能である。そもそも、神速とはその性質上、細かな制御が聞きにくいという弱点がある。雨あられと降り注ぐ白い光と、反対側から襲いかかる氷の刃群。それらは、確実に護堂を蝕んでいた。
最初は、脇腹に刺さった氷の刃。恐ろしい勢いで飛来したその刃は、カンピオーネの頑丈な体をいとも容易く食い破り、凄まじい衝撃を彼に与えた。
痛みを覚悟していても、どうしても足は鈍る。その瞬間を、光に狙われたのだ。
彼の左腕も、右腕と同じように氷へと変換されてしまった。
同時に、背中にも刃が突き刺さったのを切欠に、護堂は撤退を選ぶ。女の子も近くにはいないし、今のこの状況では自分が圧倒的に不利だ。『治癒』で治せるとはいえ、その時間を相手が与えてくれる訳がない。それに、上空にそびえる巨大な氷山。あの攻略法を思いつかない限り、彼は常に挟み撃ちを受けるのだ。
刹那にそこまで考えた護堂は、痛む体を無視してアーグラ廊から逃げ出す。神速を維持したままでなら、あの敵からも逃亡出来るはずだと考え。
―――結果として、護堂の行動は最適解であった。
何故なら、”イイーキルス”から放たれる白い光によって氷へと変化させられた物質は、『治癒』で修復出来る代物ではないからである。
神速の使いすぎで痛む心臓と硬直する体。それを癒すために使った『治癒』は、体の不調や怪我は直してくれても、この両腕を治してはくれなかった。
「ぐっ・・・なんなら効く?・・・『解呪』とかどうだ・・・?」
心臓の痛みが大分マシになったので、腕の治療を優先しようとした護堂。正直、両腕が使えない状況でルリム・シャイコースに襲われれば一巻の終わりである。逃走の切り札である神速はもう使えないし、腕が動かないために、無線機を起動して鈴蘭たちに助けを求める事すら出来ないのだから。
両腕を治すことは、最優先事項へとなっていた・・・のだが。
「ダメ・・・か!」
『治癒』でも『解呪』でも、何の成果も出ない。未だに彼の両腕は、透き通る氷のままである。
「せめて連絡が出来れば・・・!」
護堂には、圧倒的に知識が足りなかった。大抵のことを出来る、万能とも言える権能を持っているが、それを生かすための知識と経験が足りなすぎる。
そもそも、神殺しとなってからたったの数日で、クトゥグアやらルリム・シャイコースやら、数多くの神話大系の中でも、特に凶悪な連中と戦っているのが異常なのだ。最初がナイアーラトテップ、次がクトゥグア、その次がルリム・シャイコースと、ここまでビッグネーム揃いの一つの神話の神々と連続して戦ったのは、恐らく彼が始めてだろう。
せめて、アドバイスを受けられればいいのだが、唯一の連絡手段を起動出来ない状態。向こうからの連絡を待つしかない状況だ。
「・・・詰んだ、かも・・・?」
彼にできるのは、一秒でも早く鈴蘭たちが連絡してくれることと、護堂が死んでいないことに気がついたルリム・シャイコースが探しに来るのが遅くなることを祈るだけであった。
『護堂君。・・・護堂君!無事か!?』
三十分後。
疲労もありウトウトしていた護堂に、待ち兼ねた連絡がやってきた。
「その声は、翔輝さん・・・でしたか?ええまぁ、無事と言えば無事なんですけど・・・。鈴蘭さんはどうなりました?」
先ほどまでは鈴蘭が通信の相手だったのに、何故翔輝なのか?それが分からずに困惑する護堂。彼の質問を聞いた翔輝は、暗い声で答えた。
『あの女の子をそっちに送ってすぐにダウンした。精神的にヤバイ状態になったんで、戻ってきてもらったんだ。今は治療を受けてる。しばらくは目を覚まさないだろう。』
「な・・・!だ、大丈夫なんですか!?」
『命に別状はない。ただ、精神攻撃だからな。少なくとも、今日中に完治はしないだろう。・・・つまり、』
「・・・助けはこない、と・・・。」
『・・・すまない・・・!』
翔輝が謝る事ではない。祐里が大変な状態にあったというのは護堂も知るところだ。その彼女を助ける為に、危険を犯したのだから、責められるわけがないだろう。その事を、護堂はよく理解していた。
「いえ。・・・ん?つまり、あの女の子は一人でここにいるんですか?」
『そうだ。発信機を付けているから、無線機の青いスイッチを押してみてくれ。空間に投影される。』
(そんな機能まで付いてるのかよ・・・)
護堂は呆れた。色々規格外な人たちだとは思っていたが、たかが数センチの大きさの機械が、これほどまでに高性能だと誰が思うだろうか?
神との戦闘に耐える耐久力、どれだけ離れても通信が乱れることは滅多にないし、おまけに空間投影モニター付きだと言われた。オカルトの世界に足を突っ込んだ気で居たが、実はSFの世界だったのだろうか?
と、そこまで考えて、大切なことを話していないことに気がつく護堂。
「あ、すいません。実は、腕が治らなくて・・・。どうすればいいですかね?」
『なんだと!?・・・詳しい話を聞かせてくれ。』
護堂は、ルリム・シャイコースとの戦いの途中で現れた巨大な氷山の事、氷になった腕が『治癒』や『解呪』で治らないことを話した。
『・・・ちょっと待ってくれ。リップルラップルを呼んでくる。』
そう言って通信を切る翔輝。護堂は、リップルラップルとは誰だったかを思い出そうとしていた。
(・・・確か、あのちっこい女の子だったか?・・・船に乗ってた誰かの子供だと思ってたんだが・・・)
でも、そういえばエリカとのキスを撮影されそうになった事件とか、まつろわぬクトゥグアとの戦いを前にした作戦会議とかに参加していた気がする。
「・・・まさか、幹部の一人だったのか・・・?」
『そのとおりなの。私は幹部の一人なの。偉いの。褒め称えるといいの。』
「うおおお!?」
自分の独り言を聞かれて驚く護堂。通信の相手は、気にすることもなく話を進める。
『さっそく本題に入るの。恐らく、巨大な氷山というのは、”イイーキルス”のことなの。あれは、ルリム・シャイコースの持つ神具なの。・・・というか、奴の主な攻撃手段はそれなの。”イイーキルス”さえ無力化出来れば、そこまで怖い相手じゃないの。―――で、”イイーキルス”の白い光を喰らったのなら、『治癒』や『解呪』でどうにか出来る訳ないの。』
「それは、どうしてだ?」
見た目が小学生くらいの小さい女の子なので、言葉遣いもそれなりになってしまう護堂だったが、相手はあまり気にしていない様子。
『あの光は、『当たった物質を氷に変換する権能』なの。肉が凍るんじゃなくて、肉が氷という物質になるの。『治癒』は、破壊された物質を治す能力で、『解呪』は現在受け続けている力を解除する能力。どちらも効果はないの。』
権能により変質した物体は、まつろわぬ神を倒しても元には戻らない。その権能を受けた時点で、変化が完了してしまうからだ。これでは、『解呪』が効く訳がない。
「・・・なら、腕を元に戻す方法は・・・ないのか?」
軽い絶望を覚えながらも、護堂は尋ねる。が、彼女はアッサリと否定した。
『方法はあるの。』
「なっ!?そ、それは何だ!?」
『腕を破壊すればいいの。』
「・・・は?」
彼女から告げられた言葉に、意識が追いつかない護堂。
『氷になっている部分の腕を破壊すれば、『治癒』で再生出来る筈。新しく生やせばいいの。』
「・・・・・・・・・。」
おいおい、と彼は独りごちる。何よりも嫌なのは、ああ、そうか。こんなに簡単な事だったのかと感じてしまった自分のことだった。
こんな人間離れした方法を、試す間もなく成功すると感じてしまった自分が嫌だった。腕を新しく生やすなんて、俺はナメック星人やバクテリアじゃないんだぞなんて考える。
が、そんなことを思っていても仕方がなかった。いつ、ルリム・シャイコースに発見されるかわからないのだ。
護堂は無言で立ち上がると、今まで寄りかかっていた家の壁を向いた。
「スゥ~・・・!」
深く深呼吸をした護堂は、歯を食いしばり―――
「ウラァ!!!」
右腕から、壁に力いっぱい体当たりをした。ご丁寧に、『剛力』まで装填して。
「が、あああああああああああああ!?」
ガキン!!!
甲高い音が鳴り響き、右腕が完全に破壊される。砕け散った氷の破片が、剥き出しになった傷口に深く突き刺さり、想像を絶する痛みをもたらした。それと同時に、止まっていた血が流れ始め、間欠泉のように勢いよく吹き出す。
「・・・ッ!・・・・・・ッツ!!!」
言葉にならない叫びを上げながら、護堂は『治癒』を装填する。即座に効力を発揮したその能力は、彼の右腕を根元から再生し始めた。
「はァ・・・!はァ・・・!もう一丁!!!」
まだ完全に治ってもいないのに、彼は左腕も破壊する。またもや痛みと戦いながら、彼は両腕の再生を終えたのだった。
『だ、大丈夫か護堂君・・・?』
「・・・フラフラしますよ・・・。」
数分後。両腕の再生を完全に終えた彼に、翔輝が恐る恐る尋ねた。
『それは多分、血が足りなくなっているの。ドクター特製の増血薬を転送するから、使うといいの。』
「あはは・・・ありがとう。」
あの変人の作った薬を使うのは怖いが、背に腹は代えられない。他に方法もないのだ。素直に甘える事にした。
因みに、鈴蘭のように人を転移させるとなると、莫大な呪力が必要だが、小さな物くらいなら、簡単に転送することが出来る。『投函』の魔術もあるくらいだし、それのちょっとした応用である。
「・・・増血薬って、時間がかかりますか?」
『一時間くらいはかかるの。それがどうかしたの?』
普通、増血が一時間で終わるわけがない。まぁ、そこはドクターマジックである。神の雫も先ほど祐里に使用したので在庫を切らしているし、鈴蘭が倒れている為、新しく作ることも出来ない。
「それなら、さっきの女の子の所に行ってくる。・・・きっと、心細いだろうしな。」
”イイーキルス”への対処法は未だに分からないが、焦っても仕方がない。それよりも今は、こんな魔境に一人放り出されて不安になっている筈の女の子を安心させよう、というのが護堂の考えだった。
『分かったの。行ってくるといいの。』
「うん。この青いボタンを押せばいいんだな?」
押すと同時、空間に投影される鮮明な地図。あまりの技術力に呆れながらも、彼は走ろうとし・・・
『エリカにチクってくるの。護堂が女の子を堕とそうとしているって。』
「おい!?」
そんなんじゃないと弁明しようとするも、切られた無線はその後繋がることはなかった。
後書き
あと一、二話と言ったな。
・・・あれは嘘だ。
となってしまいそうです。いや、どうなるかはわかりませんが。・・・今回の話だって、ここまで説明長くなるとは思っていませんでしたし。
あ、HHG―女神の終焉―終わらせました。いやー、やっぱりあの会社のはキャラが可愛いですね。嫌いなキャラが一人もいない。ストーリーはちょっと物足りなかったけど、最初から燃えゲーじゃなくて萌えゲーだし、そこまで気にしてません。
オフィーリアとエルアリアは特に好きです。そろそろ、論理回路のほうも書き進めたいですね。
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