正義と悪徳の狭間で
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導入編
麻帆良編
導入編 第5-M話 繰り返す者
マナに大体の大まかな合流予定時間と場所を指定したのち、地図を頼りに目的の場所にやってきた。
そこは木々に囲まれたコテージだった。
近くには小川が流れ、適度に日が射し込んでくる…とても私達の側の人間の住居には見えなかった。
一応表札を確認する…間違いない
カランコロン
呼び鈴を鳴らし、少し待つ。
その間にペンダントを引き出しておく
ガチャ
扉が開いた。
「どちら様でしょうか」
出てきたのは緑の髪をしたメイドだった、手元にある配達先情報とは似ていない。
それにしてもメイド…か、メイドにはなかなか愉快(ロアナブラ基準)な思い出がある。
「長谷川千雨と申します。エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様にお届け物です」
「…しかしあなたは中学生ですし、荷物も無い様ですが?」
メイドが言う。おかしい、アンブレラのペンダントは出している筈だ。
関係がない人間への配達ならともかく…仕方ない、名乗ろう。
「失礼しました、私はアンブレラ社の者で、レインとも名乗っております。
本日は春野アイシャ様よりの配達依頼により参りました。
エヴァンジェリン・A・K・マクダウェル様にお取り次ぎ願えますでしょうか」
そう質問の答えになっていない答えを返し、メイドをあまり不躾にならない程度に観察する…
ん?こいつは人間じゃない…かと言って、受取人が最上級の人形使いだとしても何か…
メイドも少し首を傾げる動作をした
「アンブレラ社の…老人がいらっしゃると…しかしペンダントは条件に…少々お待ちください」
メイドがペコリとお辞儀をして奥に下がる…頭にはアンテナにも見える髪飾り
まさかとは思うが今のってロボットか?
…まあいい。
受取人の従者人形らしいとわかれば十分、知る必要の無い事を突っつくのは良くない。
「お待たせいたしました、マスターがお会いになります。どうぞこちらへいらして下さい」
メイドに案内された先は人形がところ狭しと置かれた部屋だ。
…前情報なしならファンシー趣味で済むのだが、どこまでインテリアなのやら……十中八九、戦力だろうな。
部屋の中に一人、入口を見据える位置に座っている金髪の20代半ばに見える女性が口を開く。
「私がエヴァンジェリン・A・K・マクダゥエルだ。貴様がレインか、アイシャから聞いている」
「光栄です、マクダゥエル博士、アンブレラ社のレインと申します。この麻帆良では長谷川千雨と名乗っております」
彼女が受取人か。
アンブレラのデータベースでも普段は20代半ば位の女性の姿をとっていると…だが何か違和感が…
「…あ」
彼女が首から下げているネックレスを見る。
「どうした?」
そう言えばこっちに来る前に見せられた、
アイシャの高校時代の写真でも彼女はアレを着けていたな。
「いえ…事情は把握しました。失礼ですが外して頂けますか?一応規則ですので」
確かにアレは容姿を認識阻害と幻影魔法を併用しているから、認識阻害分をレジストしたせいで違和感を感じたのだろう。
「初回はそうだったな…ほら、これで良いな」
女性がネックレスを外すとその姿はあっという間に、データベースの写真そのままの10才位の少女になった。
やはり、魔法世界の金持ちの子供向けの成長アクセサリーだった。
これは成長度合いが調整ができる高価な代物だが、完全にオーダーメイド品なのでかなり値が張る。
年齢幅やその調整できる度合い、それにアクセサリーそのものの価値にもよるが、1年単位の10~20歳のまでで数万ドルは必要だった筈…まあ組織や稼ぎのいい人間な
ら買えないものではない。
魔法世界なら検問なんかで一発でばれる代物なので玩具以上の価値はないが、逆に地球の一般人相手に成長しない事を誤魔化すには素上がりでいい手段だと思う。
「ありがとうございます、確認いたしました。こちらが今回の荷物です、ご確認ください」
そう言って亜空間倉庫から封のされた箱と受け取りのサインをしてもらう紙を取り出して机に置く。
マクダウェル博士が手を動かすと何か、おそらく糸がきらめいて箱と紙を彼女の元へと運ぶ。
…やはりか、封印されているはずの現状でも、この状態ではとてもかなわない…まあ、戦う必要もない相手ではあるが。
彼女は箱の封印符に触れ、魔術的な錠を外すと箱を開け、中から紙を一枚取り出し、中身を確認している。
「確かに荷は受け取った、ご苦労だったな」
そういいながら受け取りのサインをし、また糸術で私に返してくれた。これで仕事はおしまいだ。
「それでは失礼します、マクダウェル博士」
「そんなに急がんでもいいだろう、少し世間話に付き合え」
いつの間にか先ほどのメイドがティーセットとイチゴのタルトを持って来ているのに気が付いた、それも二人分。
「あの、申し訳ありませんが、友人との約束がありますので…」
「ほう?何者だ?あの街からこちらにやってきてすぐに友人ができるとも思えんが」
その確証はきっとアイシャの時の実体験だろう、内戦中のアフガンから直接ここに来たはずだから。
「いえ、以前から親交のあった友人がこの街の住人だったとわかったので案内を頼もうと思った次第で…」
蛇ににらまれた還る所の話ではない、差しさわりがない範囲で機嫌を損ねないようにするべきだ。
「…龍宮コウキの所のマナ・アルカナか?確かあいつと親交があったはずだな」
かなり確信を持っているようだ…ならば誤魔化す意味はない。
「よくおわかりで…配達が終わり次第合流しようという話になっています」
「ふむ…マナ・アルカナ…いや、龍宮真名がこちらでの名前だったか、うん。
よし、龍宮真名と長谷川千雨をお茶に招待しようとおもう。アンブレラのレインではなく、麻帆良の新入生の長谷川千雨を、だ。
龍宮真名が誘いに乗らないようなら、ここに来るまでお茶でも飲んで待っていればいい、これでどうだ」
傲慢でわがままなはずの真祖の吸血鬼としては最大限の譲歩とみていいだろう。
「わかりました、電話してきます、逃げませんのでしばし退席させていただきます」
そう断って玄関でマナに電話をかける…三度目のコールで出た。
「レインか、配達は終わったんだな」
「それが…仕事は終わったんだが、お茶に招待されてしまったんだ、お前も一緒に」
「…詳しく話してくれないか?」
「ああ、世間話に付き合えといわれてな、友人を待たせてるといったんだが…その友人がお前だとばれた上に一緒にお茶会はどうだ、と誘われてしまってな…一応お前
が断るなら迎えに来てくれたらそれで解放されるって事だが…そうそう、想像がついてると思うが、相手はエヴァンジェリン・A・K・マクダウェルだ」
電話口のマナがうめいたような気がした。
「…闇の福音からのお誘いをむげに断るのも後が怖い…か、ならば付き合うしかないだろう、機嫌がよければ何か土産をもらえるかもと思っておくしかないな、招待を
受けよう」
マナがため息交じりに言った。
「わかった、住所はわかってるか?」
「ああ、知ってるよ、直ぐ向かう」
電話の向こうからため息が一つ…まあ、バラライカさんにお茶に誘われたとでも思っておこう…
バラライカさんのように(利権やもっと内側の仲間が絡まない限り)いい人だといいなぁ…
そう考えながら私もため息を一つついてマクダウェル女史の待つリビングに戻った。
「どうだった?」
「はい、高名な博士直々のお誘いですので招待をお受けするとの事です」
「それはよかった…が、なぜそんなに博士を押すんだ?」
「え?…いや、敬称は相手が所有している中で最高位のものを使用するのが礼儀なのでは?」
…だと、私はアンブレラのビジネスマナーで習ったんだが…
「ああ…日本語では特に師弟関係がないなら目の前で話してる相手への敬称は『さん』で十分だよ。
まあ、客相手に『様』付けで呼ぶ場合もあるし、王族、皇族相手はもちろん別枠だ」
そういってメイドの方を見る。
するとおいしそうなイチゴのタルトの隣に置かれたカップに紅茶が注がれる。
「まあ、飲むといい、ミルクと砂糖は用意してあるが、ストレートがお勧めだ。
それと呼び方だが、私はレインではなく、長谷川千雨を招待したつもりだ。
その立場なら年上相手だからとさん付けする位でいいんじゃないか?」
そういってマクダウェルさんは紅茶を一口飲む。
「ではいただきます、マクダウェルさん」
私も香りを楽しむように紅茶を一口いただく…さわやかな香りが広がる…たまにアイシャに入れてもらうダージリンティーと同じやつかな。
ロックならもっと詳しくあてられるのだろうが。
「いい香りですね、ダージリン…ですか?」
「うむ、正確にはダージリンを基調にしたブレンドティーだ、本来はダージリンを水増しした半分インチキ商品らしいのだが、アイシャがケーキに合うと送ってくれて
な」
うん、知ってる。私が目利きしきれずに買ってきたのが最初だからな…まあ、結果的によかったが。
そんな具合でお茶を堪能していると呼び鈴が鳴らされる…マナが到着したのだろう。
メイドが玄関に向かい、少ししてマナを連れて戻ってくる。
「お招きに預かり光栄です、マナ・アルカナ、あるいは龍宮真名です。一度お会いしたことがある筈ですね」
そういってマナは軽く会釈した。
「座るといい、龍宮真名、たしか二年ぶりだったかと記憶している。ついでに紹介しておくとそのメイドは私の従者の絡繰茶々丸だ」
促されるままにマナは私の隣に座った。そして絡繰茶々丸とやらがタルトと紅茶を持ってきていた。
「知っていると思うが、ここ十数年ほどこの街に軟禁されていてな、外の話が効きたいんだ」
その後しばらく、紅茶とタルトを楽しみつつ、機密に触れない範囲で私とマナは紛争地域や背徳の街の事を話した。
マクダウェルさんは楽しそうにそれを聞き、たまに質問もしていたのだが、三杯目の紅茶を注いでもらったあたりでとんでもない事を言い出した。
「そうそう、言い忘れていたが、私と茶々丸はお前たちと同じクラスに通う事になる。まあ、クラスメイト同士仲良く行こうじゃないか」
「クラス…メイト…だと?」
マナを見る。同じくわずかな動揺がみられる
「ほう、そんなに変かな?長谷川千雨、龍宮真名」
「いや、だってあんたは先月博士号を…」
「ああ、取得したし、博士課程もちゃんと修了した…私をこの街に拘束したのはサウザンド・マスター様だというのは知っているな?」
黙って頷く。
「では、その呪文が登校地獄と言う呪いである事は?」
「いや、でもそれって卒業したら自動的にとけるんじゃ…」
あれはそういう呪いのはずだが…
「ああ、普通はな。だが中等部の三年で呪いはとけず、あのバカ(ナギ)が迎えに来てくれる事を信じながらもアイシャと同じ高校に進学し、3年を過ごした。
そこでタカミチ坊やと同級生になって三人でつるむ様になった、高校を卒業しても呪いはとけなかったがな。
アイシャは大学にいかずにあちらに帰っていった…ここまでくればもはやヤケクソだ、開き直った、ならば最後まで卒業してやる、とな。
念のため受験してあった麻帆良大学の文学部に進学し、学部、修士課程、博士課程で各一年飛び級して六年で博士号もとった!それでも駄目だったんだよ!」
「…な、なるほど、それは災難ですね」
マナが押されぎみで言う。
まあ、封印された経緯も知っているので恋心に付け込まれてドジ踏んだ故の自業自得でもあるが、災難だなとは思う。
「…すまん、つい熱くなった。
実は、博士課程まで終わってもダメだったとわかった時、いっそ今度はのんびりと大学生活を楽しむか…とも思ったがとっくの昔に入試なんざ終わっててな。
そんなわけでめでたく中学生まで逆戻りして麻帆良で学生生活二週目スタートと言うわけさ…
来年また大学受験をするかどうかは決めてないが、なかなか愉快なクラスのようだからな、また中学生をしてもいいかとは思ってる…とにかく、そう言うわけだ、茶々
丸共々よろしく頼む」
「よろしくおねがいします、いやよろしく、エヴァンジェリンさん」
そういう私に彼女はどこか嬉しそうにこう答えた。
「ああ、よろしく、千雨」
後書き
お正月休みも終わりですので草稿までかけてるところまで進んだら更新速度が落ちますのでご容赦を・
エヴァが実は博士というのはあとで(大学時代の)人間関係関連で少しだけ効いてきます…大勢に変化はありませんが。
原作改編の一環です、おもにタカミチと元同級生というあたりの整合性のため、加えて以下の理由ですね。
退屈なら進学すればいい(経緯から考えて中等部固定で登校地獄がかかってるとは思いにくい)のに、
なんでエヴァはずっと中学生してるのかな~と思ってました、そして進学を妨げると考えられる問題のは容姿が成長しないこと位、学費は中学校にしても同じだし、コレクションの一部を手放せばそれくらいなんとでもなりそうですし…
むしろ、ナギのセリフからこういう社会に沿って暮らす事の方がしっくりくるのですよね。
ここで明言しておきますが、オリキャラと原作キャラのカップリングはロアナプラ編で出てきたアイシャとエヴァです。
そして進学させたのはアイシャとの愛を育む時間を稼がせたかったから、です。
少なくとも、中学の途中から現時点まではラブラブです、エヴァちんよくばりなのでナギも手に入れるつもりでしたが。
なんか、エヴァは子供が産めない(と、私は思っている)のでナギの子供をアイシャに生ませて三人で育てるとか妄想してました…とかいう設定。
パートナーが若干どころかどっぷり闇の住人である事を別にすればエヴァは充実した学生ライフを送ってきていて、それなりに社交性も育まれています。
アイシャの差し入れで多少は魔力補充しているものの基本は幼女なので病弱ですが。
なのでうちのエヴァは原作開始時よりは丸いです…まあ、授業に対するやる気のなさは大学まで行っちゃった手前原作以上ですが。
ここは、千雨というかレインがエヴァとかかわるために理由付けをしているうちに膨れ上がったネタです。
いつかUQホルダー編という遠い遠い未来(笑)に到達できたときの仕込みでもありますね。
多分出てこないので過去のエヴァの修学旅行に関するネタ
・中学校の修学旅行はいくつか試して麻帆良の境界を超える為に電車に乗ったら弾かれて辛うじてアイシャが脱出させる(さもなくば電車の後ろからミンチになった上に車掌さんのいる運転席を破壊して弾き出される所だった)。
エヴァが精神的ショックで寝込んだ為にアイシャは一緒に欠席
・高校は色々試して越境には成功したが数分で呪いによる強迫観念と副作用で体調を崩して参加できず。原作通りの手で行ける、という事は推測できたが、特別の事情もないのに不可能…結局アイシャとお休みしてにゃんにゃんしてた
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