お正月
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第三章
「らしいけれどな」
「ああ、境内でゲームやるのってな」
「実はあるからな、昔から」
「というかそれが本業だったしな、お寺は」
「そうなんだよな」
俺達は全員寺の子だ、だからこうしたこともわかっていた。寺は昔は境内で賭場を開いていてその賭場の場を用意した礼の銭を貰っていたからだ。清水次郎長親分にしてもその手下に坊主あがりの者がいる位だ。
「だから人生ゲーム位はな」
「いいからな」
「だから親父お袋も言わないんだよな」
「境内でゲームをしてもな」
「そうなんだよな、まあ今は賭場は開かないけれどな」
戦前まではうちの寺でもやっていたと聞くが今はそんなことはない。
「それでもな」
「ああ、こうしてな」
「正月は集まって楽しもうな」
「酒もな」
皆、従兄弟連中でも集まるのは酒があるからだ。親戚のつながりも大事だがそれ以上に酒があるから集まる。
「あるしな」
「じゃあ飲むか」
「よし、こうしてな」
「どんどん飲んで遊ぼうぜ」
こうした話をしてだった、俺達境内にいる面々は飲みながら人生ゲームを楽しんだ、そして。
人生ゲームの後は酒盛りだった、夜のすき焼きの前に一升瓶を片手にもう出来上がっていた。
その中でだ、従兄弟の中で一番年長の姉ちゃんが言ってきた。
「ねえ、お正月だからね」
「お正月だから?」
「どうだっていうんだよ姉ちゃん」
「私達飲める面々の他にもね」
今ここにいるのは高校生以上だ、十五人はいる。
「小さい面子も呼ばない?」
「子供も?」
「小学生も」
「そう、外で遊んでる子もここに呼んでね」
この境内のご本尊のところでだ、そしてだというのだ。
「もっと賑やかにしようよ」
「小学生で酒はな」
「ちょっとまずいんじゃないの?」
「いいじゃない、私達だってはじめて飲んだ時はこうしてだったし」
俺もだ、正月に叔父さんの一人に場に呼ばれて飲ませてもらった。その時は刺身で宴会をしていたのを覚えている。
「だからね」
「小さい子も呼んでか」
「従兄弟連中全員で」
「そうしよう、じゃあ私が呼んでくるからね」
姉ちゃんは自分から動いた、そしてだった。
その小さな子達、俺達の従兄弟の中では小さな子達を全員呼んでだ、飲ませてみた。ただ皆小さいので一口だけだった。
そのうえでだ、姉ちゃんはその子達に尋ねた。
「美味しい?お酒」
「美味しくない」
「変な味」
「ジュースやコーラの方がいいよね」
「そうだよね」
これが子供達の返事だった。
「思ったよりもずっと美味しくないよ、お酒って」
「何でお兄ちゃんもお姉ちゃんもこんなの飲んでるの?」
「まずいのに」
「どうしてなの?」
「それが大人になると美味しくなるのよ」
姉ちゃんは酒で真っ赤になっている顔でその子達にこう言った。
「私達の歳になればね」
「その時になったら?」
「お姉ちゃん達の歳になったら」
「そうよ、姉ちゃん達もそうだったから」
それは俺もだった、はじめて飲ませてもらった酒は正直言ってまずかった、けれど今では一升飲める程だ。
だからだ、俺は小さな従兄弟の子達の言葉を聞いて思わず笑って言った。
「そうなんだよな、はじめて飲む酒ってまずいんだよな」
「それでもういいって思うんだよな」
「俺もそうだったよ」
「私もね」
従兄弟連中も俺の言葉に笑って手を叩いてこう返す。
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