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老公爵

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第二章

「そして実際に来てくれるとは」
「宜しく御願いします」
「私は先は短い」
 もう七十五を越えている、政治家を引退したのも高齢からだ。
「僅かな間だけだが」
「共にですか」
「いて欲しい」
 こう言ってだった、彼はヴィルヘルミナを妻に迎え彼女も嫁いだのだった。
 だが、だ。周りはこの結婚についてこう言うのだった。
「若い後妻とはな」
「公爵もご子息がおられるというのに」
「また奥方を迎えられるとは」
「もう静かに余生を過ごされるべきでは」
「それを何故」
「奥方もな」
 ヴィルヘルミナの話にもなる。
「あの方もな」
「どうかと思うな」
「うむ、家と家のつながりだがな」
 貴族の結婚であることは皆わかっている、それは平民の間での結婚とはまた違う。
 それでだ、彼等もそうしたことはわかっているのだ。
「断れないがな」
「しかも相手がヴァルケッセン公爵だからな」
「古い家でしかも代々有名な政治家を出してるしな」
「あの公爵殿もエウロパの有力者だからな」
「だからな、伯爵家も断れなかったな」
「それはわかるけれどな」
「伯爵家にしてもいい縁談だからな」
 家と家の関係を考えれば、というのだ。
「しかしな、五十以上も離れてる年齢の相手と結婚か」
「恋愛関係とかないだろ」
「あくまで家と家の関係だろ」
「それはないだろ」
「全然ないだろ」
 こう話すのだった、そしてだった。
 彼等はこの結婚を家と家のつながりのものでしかないと見ていた、この結婚はエウロパの宿敵である連合においてはより酷い言葉で色々言われていた。不倫だの政略結婚だのこうした言葉で揶揄されていた。
 しかしヴィルヘルミナは身持ちが固かった、そうした話はなかった。
 だが公爵は老齢であり夜の生活はあまりしなかった、だがそれでもだった。
 彼女を常に傍に置きだ、こう言うのだった。
「いつもこうしていたい」
「いつもですか」
「そうだ、私は一人ではいられないから」
 それでだというのだ、若く美しい妻を見ながら。
「こうしていたいのだよ」
「そうですか」
「私は間も無くこの世を去るが」 
 それでもだというのだ。
「それまでの間だ」
「私と共にですか」
「いて欲しいのだ、だが」
「だが?」
「若し貴女が望むのなら」
 それならというのだ。
「他の人を愛してもいい」
「それは」
「そうだ、そうしてもいい」
 不倫、それを認めるというのだ。
「貴女が望むのなら。私は夜の生活があまりないからだ」
「そうですか」
「誰でもいい、貴女が望む相手ならな」
「そうですか、しかし」
「しかし?」
「私はしません」
 不倫はしないというのだ。
「このことは誓って」
「だが貴女は若い」
 そして彼は、というのだ。 
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