二分の一の神話
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第一章
二分の一の神話
行きつけの喫茶店で先輩にこんなことを言われた。同じ部活の先輩でアルバイトでコンビニの店員さんもしている。
「人は一人じゃないのよ」
「二人で一人ですか」
「あら、わかるの」
「よく言われることですから」
それでと返す私だった。
「つまり彼氏がいて、ですよね」
「そうよ、彼氏がいるといないのとでね」
「全然違うんですね」
「一人だと半分でしかないの」
先輩は私にこのことをさらに話してくる、私もその話を聞いた。
「二人で一つになるの」
「じゃあ私も」
「彼氏まだよね」
「はい、まだです」
欲しいけれどいない、これが今の私だ。
「つまり今の私は」
「そう、言ったわ悪いけれど」
「半分ですね」
「そう、この前までの私もね」
「この前までっていいますと」
「彼氏出来たのよ」
先輩は私ににこにことしてこうも言って来た。
「遂にね」
「あっ、そうなんですか」
「いいわよ、彼氏がいると」
「よく聞きますけれど」
「女の子は彼氏が出来てからよ」
本当に心から嬉しそうに私に言う。
「だから貴女もね」
「彼氏を作るんですね」
「誰かいればね。合コンなり何なり出会いの場を設けてね」
「出会いですか」
「出会いがないとはじまらないでしょ」
「それもそうですね」
「何なら紹介するけど?」
先輩は彼氏が出来た喜びから私にこう提案してきた。
「どう?それは」
「いや、そこまでは」
「いいの」
「とりあえず今は自分でどうにかしたいです」
「そうなの」
「ただ、半分なんですね今の私は」
私は先輩にもう一度このことを尋ねた、心で確かめたかったからだ。
「そうなんですね」
「そうよ、まだね」
「彼氏が出来てやっと」
「一つになれるから」
「わかりました、それじゃあ」
私は先輩の喜びの顔と一緒にこのことを心に刻み込んだ、そうして。
彼氏を作ろうと思った、けれどいざ思ってもそれでもだった。
相手がいない、これといって。
相手に求めることは特に高くないつもりだ、学校の成績やスポーツはこれといって問題にはしなかった、私も人に言える程じゃないからだ。
求めるものは性格だった、乱暴でなくて浮気をしなければそれで充分だった。
けれどそういう人がいない、それで私はクラスメイトにこう漏らした。
「ちょっとね」
「ちょっとって?」
「先輩に言われたの」
「いつも一緒にいる部活の先輩によね」
「そう、言われたの」
こうその娘に切り出した、場所はその喫茶店だ。
向かい合って一緒のコーヒーを飲みながら私はこう彼女に言ったのだ。
「彼氏を作ったらって」
「いいんじゃない?」
クラスメイトは私の言葉にそのまま返して来た。
「それも」
「いいのね」
「ええ、私はいないけれど」
こう前置きしてから私に答えてくれる。
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