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Missアニーの証言

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第二章


第二章

「俺は探してるんだよ」
「何を?」
「夢をな」
 そんなの特に考えたこともないがわざとこう言ってやった。
「いつもな。夢ってやつをな」
「夢を探してるの」
「そうさ、アメリカンドリーム」
 口からでまかせだ。カレッジを出たらトラックの運転手になろうと思っている。プレスリーが最初それだったせいもあるが俺にとっては最高にいかした仕事だった。大きな車を駆って広いアメリカのあちこちを行くってことが眩くて仕方がなかった。もうそっちの免許も取っていた。
「それを探してるんだよ」
「難しいことはわからないけれどさ」
 俺のそのでまかせを首を左に捻って聞いてるアニーだった。
「とにかく。夢が欲しいの」
「そうさ。幸せのな」
「それならここにあるわよ」
 ここでまた笑いながら俺に言って来た。
「ここにね。ほら」
「ほら!?」
「そう、ここ」
 そう言って自分のその風船を入れたみたいな腹をさすってきた。
「ここにあるわよ。あたし達の夢がね」
「風船にか?」
「何言ってるの、赤ちゃんよ」
 今の俺の言葉にはやけにふてくされてきた。今度はこいつの顔が風船になっちまった。
「赤ちゃんよ、あたし達のね」
「はっ!?」
 何を言われたのかわからなかった。それで思わず声をあげちまった。
「御前今何つったよ」
「だからさ。赤ちゃん」
 また言って来た。
「あたし達のね。赤ちゃんよ」
「馬鹿言え」
 周りじゃ仲間達がアニーの今の言葉に目を丸くさせて飲むのを止めちまっている。カウンターにいる黒人のマスターも一緒だ。何か店に流れているジャズの音楽まで止まっちまったようだった。
「何で俺なんだよ」
「俺なんだよって覚えてないの」
「何時俺が御前とそうなったんだよ」
 全然覚えちゃいねえ。大体俺が好きなのはガソリンスタンドのリンダだ。あの緑の明るい目がたまらねえ。確かに今ここで前にいるのがアニーじゃなくてリンダだったら。不意にこんなことを考えたりもした。
「俺は知らねえぞ」
「九ヶ月前よ」
 また随分昔の話だ。
「九ヶ月前よ。覚えてないの!?」
「だから何なんだよ」
 いい加減いらっとしてきて顔を顰めさせた。
「九ヶ月前に何があったんだよ」
「満月の夜」
「満月!?狼男かよ」
 マジでそう思った。とりあえず俺の話じゃないと思いたかった。
「そりゃ。狼かよ」
「違うわよ。だから、満月の日のパーティーにね」
「ハロウィンの時か?」
 不意に仲間の一人が言った。
「去年のよ」
「ああ、あの時か」
「そういやあの時満月だったよな」
 仲間達がここで一斉に言い出した。そういえば毎年カレッジじゃハロウィンにパーティーだ。それははっきりと覚えている。去年のやつなら俺も参加した。
「ほら、狼男になってたじゃない、あんた」
「そういやそうだったか」
 狼男の話を出したところでまたアニーに言われた。そんな変装をして遊んでいたことはまあ覚えてはいる。今は全力で忘れたいが。
「あの時はな」
「それであたしが魔女でね」
「御前が魔女だったのかよ」
「あんた、もうべろべろに酔ってそれでもあたしを送ってくれて」
「そうだったか」
「ハロウィンは金曜だったわ」
 こいつはこんなことまで覚えてやがった。当然俺は覚えてなんかいねえ。
「その時にさ。送ってもらって」
「それで?」
「あんたの青いクーぺで」
 右目をタイミングよくウィンクしてきやがった。
「狭い中で苦労したじゃない。狼男と魔女が」
「何だ、やっぱりそうかよ」
「御前等できてたんだな」
「これでわかったぜ」
 ここでもいいタイミングで皆が入って来た。
「父親は御前で」
「母親がアニー」
「これで万事解決ってわけだ」
「勝手に決めるんじゃねえよ」
 自然と俺の目が座っているのを感じた。
「そんなのよ。大体それが証拠になるのかよ」
「あたし浮気なんかしないし」
「その言葉がどれだけ信用できるんだよ」
 その座って目をアニーにも向けた。言っておくがこれは酒のせいで目が座ってるんじゃない。それとは別の理由で座ってる話だ。
 
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