連邦の朝
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番外編 辺境の公爵
前書き
遅くなりましてすみません。
相も変わらない森と草しか見えぬ辺境を進み、トリステイン戦略情報局が作りあげた地図を片手に老人と二十代位の女性、女性の子供らしく見える吸血鬼姉妹の一行は、ガリア領中央部に空いたガリア非支配地域であり、地球で言うピレーネ山脈の亜人の住む土地に進んでいた。
「また、これは立派な崖だな。彼処に砦を建てて立て籠れば、城並みの固な防御を見せてくれそうだな。」
老人の格好をしている男…エスターシュは、年甲斐も無くはしゃいでいた。
元々、前王に軍略で勝てなかった事が心を蝕み国家転覆を画策していたが、トリステイン上層部に戦略家としての力を認められた事により、その傷が少しずつ良くなった。
その上、少なからず重みになっていた宰相の座も降り、ワイアットに大まかな目標以外自由にしてよいと許可されており、責任と資金を気にせずに大規模な事をしてもよいと言われてのびのびとこの計画に従事していた。
この計画は、自身が大きく携わったこともあり、かなり乗り気だった。
(この人は、一体何をしたいのだ?)
ヴィヴィアンは、フライを使い飛び回る気味が悪いほど上機嫌な上司を下から見上げながらこの辺境に来た理由を考えていた。
「母さん、大丈夫?」
アミアスがヴィヴィアンを気遣って聞いた。
「あぁ、大丈夫だよ。」
ヴィヴィアンは、頭を少し押さえながら答える。そんな、彼女たちの気持ちを知ってか知らずかエスターシュは、叫んだ。
「うん?あれか!!見えたぞ、奴等が来る。準備しろ!!」
口元を上げ相手を値踏みしながら言う様は、他国にも宮廷内でも恐れられたトリステインの宰相そのものであった。
ヴィヴィアン達は、エスターシュの指した方向を見ると空に小さな黒い点が蠢いていた。その点は、段々と大きくなり上下に動く人型の物体になった頃、この物体が正体に気付いた。
「翼人か!」
ヴィヴィアンは、大きな声を出した。
何故、ヴィヴィアンが驚いたか?一般的に翼人は、獰猛な種族と伝えられていたからだ。だが、彼ら、彼女らにしてみれば、人間の方が自分たちに積極的に攻撃を仕掛けてくる凶暴な存在だったりする。
少し翼人の歴史を話そう。
翼人は、始まりこそ同じだが、様々な種類つまる所人間で言う人種がおり、その中でも部族や地域、別れた里などにより、性格も風習も考え方も違う別の生き物である。
今、現在来ている翼人は縄張り意識が余り強くない穏健派で、そのせいで一番人間側に近い場所に見張りの様な形で追いやられた一族である。
見張りとは、言うものの人間側も翼人側も互いに警戒しあって行動している為に出会う事は、少なく、形だけの見廻りをするだけだった。
「そこで、何をしている!」
大きな声で叫んだ翼を持つ彼女は、持っていた弓を構えていた。
「いや、ある者を探していて。」
エスターシュの言葉は、嘘だと解っている筈のヴィヴィアン達でさえ真実を語っている様に見えた。
「人間などは、此方には来ておらん。早々にこの森から立ち去って貰おうか!」
警戒している翼人の威圧する言葉すら、魑魅魍魎、陰謀渦巻く宮中を征し操った実績を持つエスターシュの前には、効かなかった。
「私が探しているのが、何故人間だと?」
エスターシュが、翼人に問う。
「人間が、人間を捜すのが世の道理であろう。問いに答えたのだから、出ていけ。」
翼人は、変わらず高圧的な態度で自分達の縄張りから出ていけと迫る。
「フム、道理だな。しかし、君らを捜していたとしたらどうする?」
エスターシュは、鋭い言葉で切り返した。
「ならば、こうするまでよ!」
風を背中に貯めて魔法を打とうとすると同時に、更に弓に入れる力を強めた。
「なっ、何だと!!!」
ヴィヴィアンは、叫んだ。
「おい、女性が自ら気品を疑われる言葉使いをするものではないよ。」
余裕のあるエスターシュの言葉にヴィヴィアンは、苛ついた。
「何を言われるのですか?この状況はまずいでしょう。」
声を絞り翼人に聞かれないように話すが、若干焦りの見えるヴィヴィアン。
「お母様、大丈夫。私がいるから。」
ダルシニがヴィヴィアンの前に立った。
同時に、彼女の妹であるマミアスもヴィヴィアンの服の袖を強く握り、ヴィヴィアンを勇気付け様とした。
「話し合いに、来たのに野蛮だな。」
エスターシュは、懐からワイアットに持たされた爆竹と“鉄の筒”を取り出した。
エスターシュが、鉄の筒を構え出ている導線に火を灯し爆竹の塊を宙に浮かべ翼人に飛ばした。
「くっ……その程度で……。」
風の先住魔法を使い、爆竹を落とそうとしたが……その瞬間に、空気を切り裂く音と共に何が爆竹にぶつかり弾け飛んだ。
「あっ……。」
この時に空気が揺れ動き叩き落とされた翼人は、地面に落ちた。
「うん。これは、陛下に正規採用を打診すべきだな。」
叩き落とされた翼人を見ながらエスターシュは、微笑んだ。
「一体、これは?」
ヴィヴィアンは、信じられない光景に絶句した。
「お母様、大丈夫だったね。」
「私が出なくて良かったんだね。」
人でない双子の声が音が消えた辺りに染み込んだ。
後書き
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スランプ継続中。
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