Element Magic Trinity
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ロック オブ サキュバス
「よせ!火竜、海の閃光!暗殺ギルドなんかに関わっちゃいけねぇ!」
「コイツ・・・人殺しを仕事にしてんのか?」
暗殺ギルド・髑髏会の特別遊撃部隊、三羽鴉の1人(1羽?)、梟と戦おうと戦闘態勢を取るナツとティアにシモンが叫ぶ。
「そんな仕事がある事自体が気に入らねぇな。依頼者がいるってのも気に入らねぇ。ギルドとか言ってんのも気に入らねぇ」
ゴォォォォォ・・・と炎がナツの拳から、肩から、体中から噴き出される。
「あら、奇遇ねバカナツ・・・私もこの手の人間は嫌いよ。悪を正義と見る愚か者・・・歪んだ正義を掲げる戦士・・・汚れた戦士。一種の愚者ね」
ナツの炎のように目には見えないが、ティアの言葉が段々と氷のように冷たくなっていく。
相手を凍らせる冷たさから、相手に凍傷で火傷を負わせるほどの冷たさに。
横に立つナツと比べたら明らかに華奢な身体から発せられる殺気が、勢いを増していく。
「気に入らねぇからぶっ潰す!かかってこいや、鳥ーーーー!」
「悪い芽は早めに摘み取っておくべきね。裁かせてもらうわ、鳥頭!」
イライラをぶつけるようにナツが叫び、そんじょそこらの人なら一発で怯むような圧倒的な圧を込めた言葉をティアは放つ。
―――――――が、それを聞いたナツは少し不思議そうな顔をしてティアに目を向けた。
「何言ってんだティア。お前は黙って下がってろって」
「はぁ!?何を言い出すのかと思えば、下がってろですって?冗談じゃないわ。愚者を目の前にして放っておける訳ないでしょ!それに相手は暗殺ギルドの伝説の部隊の1人。アンタ1人じゃ・・・」
そこまで言いかけ、ハッとしたように口を閉じる。
俯き、照れたように頬を染め、もごもごと呟く。
「そ、そのっ・・・心配、だし・・・」
帽子で顔を隠し、戸惑いや照れを隠すように髪を指に巻き付ける。
それを聞いたナツは不思議そうに首を傾げ、ぽん、とティアの頭に手を乗せた。
「大丈夫だって。お前の事は、俺が守ってやっから」
ナツにとっては「仲間だから」という意味で発した言葉なのだろう。
が、『誰かに守られる』という事を、このプライドがギルド1高いであろうティアが許すはずもなく。
「嫌」
「は?」
「別に守ってもらう必要なんてないわ。自分の身くらい自分で守れるもの。誰かに守られるなんて真っ平御免よ!」
先ほどの珍しく素直で可愛らしい照れはどこへやら。
一瞬で本調子を取り戻し、いつものプライドの高いティアに戻っていた。
それを見たナツは溜息をつき、ティアの頭から手を離す。
「とりあえず、こいつァ俺の獲物だ!手出すなよ!」
「・・・仕方ないわね」
これ以上口論をしても意味がないと悟ったのだろう。
呆れたような困ったような表情で溜息をつき、ティアはハッピーを抱え、シモンに寄り添うように座った。
「ホホウ。若いな、火竜。この世には生かしておけぬ悪がいる」
梟がそう言うと、ロケットが一気に噴射する。
「貴様も海の閃光もその1人。死ぬがいい」
そう言い、先ほどのアルカのようにクラウチングスタートの構えを取ると――――
「ジェットホーホホウ!」
ナツに向かって拳を構えた状態で、一気に飛んだ。
その拳はナツの腹に決まる。
「ナツ!」
「火力なら・・・」
ハッピーが叫び、ナツは梟の腕を掴む。
「負けてねぇぞ!」
そして力任せに――――
「オラァ!」
回転するように投げ飛ばした。
投げ飛ばされた梟は再びロケットを噴射する。
「!うおっ」
無防備だったナツの右足首を掴み、一気に飛翔する。
そのまま塔の廊下の天井近くまで飛び、ナツの足首を離した。
重力に倣ってナツは落ちていく。
床にナツが顔から直撃する―――――前に。
「大海抱花!」
床から水の花が咲いた。
その花は一瞬にして開き、落下するナツを綺麗にキャッチする。
そのままゆっくりと、ナツは足から着地した。
「ああもう!アンタを見ていると危なっかしくてヒヤヒヤするわ!」
「ティア!」
右人差し指と中指を揃えた状態でそう叫ぶと、ティアはナツに駆け寄る。
「下がってろといったけど、やっぱり放ってはおけないわ。言っておくけど、アンタじゃないわよ?放っておけないのは。だから、私も戦わせてもらう」
有無を言わさぬ。
その言葉が何よりもしっくりくる口調でそう言い放つと、宙を飛ぶ梟を睨みつける。
「ホホウ。なかなか面白い2人だ。これは久しくやりがいのある仕事だな。ホホ」
その様子を見ていたシモンは、震えながら口を開く。
「三羽鴉・・・噂以上だ・・・こんなのが3人もいるのか・・・」
梟の駒。着物を着た駒。ギターの駒。双子の駒。
塔の中で起こる戦いをチェスに見立てるジェラールは、梟の駒で城壁のような駒を倒した。
コォン、と、駒同士が当たる音が静寂の中に響く。
「情けねぇなシモン。ゲームは始まったばかりだぞ」
カタッ、と倒れた駒を見てそう呟く。
続いて梟の駒の前には、ドラゴンの駒と女王のような駒が立ち塞がった。
「次は梟VS・・・ナツ・ドラグニル&ティア=T=カトレーン。うーむ・・・ナツとティアにはここまで来てもらいてぇんだがな・・・少し分が悪いか・・・」
「ナツーー!」
「ナツさーん!ティアさーん!」
「ティアー!」
ルーシィとジュビア、ルーの声が響く。
「ナツは耳いいから、結構遠くにいても聞こえてそうなんだけどね」
「ガジルくんと同じね。だったら鼻もいいハズよ」
「ティアの場合は魔力で相手を察知出来るから、姿が見えなくても解ると思うよ」
ルーシィの言葉にジュビアとルーがそう返す。
「『くん』付け?」
「ジュビアは何でルーシィさんとルーさんと3人でナツさんを探してるのかしら」
「スルーですか」
「仕方ないよ。だってグレイがそう言ったんだし・・・」
溜息をつきながら、ルーが少し前のグレイの言葉を思い出す。
『俺はやっぱりエルザが気になる。あのショウってのとでけーの、それからアルカを追う。ナツとティア探しは3人に任せるわ』
――――という訳で、ルーシィ、ジュビア、ルーの3人は、グレイと別れナツとティアを探しているのだった。
「グレイ様の頼みなら仕方ないけど、恋敵と2人っきりにするなんて、どんな修羅場を期待してるの?」
「あたし、全力で無関係なんだけど・・・な、仲良くしましょ」
「僕もいるんだけど・・・」
ジュビアはグレイに惚れている。
その為、本当はグレイと行動を共にしたいのだが、そのグレイに任されたナツとティア探しには恋敵(だと思い込んでいる)ルーシィがいる(ルーの事はすっかり忘れている)。
だからか、少し・・・いや、かなり不服なのだ。
「!」
すると、そこに音が響き渡る。
ギャイイイイイ・・・ギャギャイイギュイイン・・・と。
「な、何、この騒音!?ギター!?」
「何コレー!うるさいなぁ、もう!」
「ジュビアは上手だと思うわ」
「本当・・・ズレてるわね、アンタ」
「人の趣味は人それぞれだよぅー!」
あまりの騒音に耳を塞ぐルーシィとルー。
その騒音は徐々に近づいて来て、それと同時に人が1人。
「あ!」
ルーが指さす。
ぶあん、と長い髪が揺れ、ぐりんぐりんと頭を回し、ギターを演奏しながら、その人は1歩1歩近づいて来る。
「ヘイ!ヤー!ファッキンガール!エァーンドファッキンボーイ!」
登場と同時に長い髪を振り回す。
「地獄のライブだ!デストロイアーウッ!」
「うわっ、髪ながっ!」
「すっごーい・・・こういうの何て言うんだっけ?パンク?」
「ジェラールの言ってた4人の戦士?」
ルーシィの言う通り、その男の髪は地面につき引き摺れるほど長く、ルーの言う通り、見た人10人が納得するパンクファッションだった。
「暗殺ギルド髑髏会!おい!スカルだぜ!イカした名前だろ」
そう言い、男は自分の名を名乗る。
「三羽鴉の1羽、ヴィダルダス・タカとは俺の事よ!」
名乗ったと同時に、ヴィダルダスは一気に顔を上げ―――――
「ロックユー!」
その長髪を6本ほどの束に分け、一気に3人に向かって放った。
「ひぃ!」
突然向かってきた髪の毛をルーシィは避ける。
ルーシィに当たり損ねた髪はバキバキと壁に亀裂を入れた。
「やぁ!」
再び襲いかかってくる髪を逃げるように避ける。
「わわわっ!」
ルーも攻撃する事を忘れ、風を纏い天井近くまで跳躍する。
着地すると、別の髪を避ける為に再び跳躍した。
「!」
髪の一束がジュビアを襲う。
が、その髪はジュビアの胸辺りをすり抜けた。
「面白れぇボディしてんなァオイ!キャハハハハ!」
「ジュビアの体は水で出来ている。しんしんと」
「頑張れジュビア!あたしムリ!」
「よぉーし!女の子1人に戦わせるなんてティアに怒られちゃうからね!僕もいっくよぉー!」
柱に隠れたルーシィを守るように前に立つと、ルーは左手をヴィダルダスに向ける。
ルーシィに攻撃を仕掛けたらその髪を切り刻んでやる、という事だろう。
「ジュビアにはいかなる攻撃も効かない」
そう言うと、ジュビアは右手を自分の前に持ってくる。
「水流拘束!」
その右手をヴィダルダスに向けると、その足元から水が溢れた。
「ロック!?お前もROCKか!?」
拘束を別の意味だと勘違いするヴィダルダスは、一瞬にして水の球体の中に閉じ込められる。
ジュビアが右手を横に振ると、ヴィダルダスは全体的に水で覆われた。
「口ほどにもない」
「さすが元エレメント4!敵にしたら怖い」
「ううん・・・まだ終わってないよ」
ジュビアが呟き、ルーシィが歓喜の声を上げる中、ルーは珍しく冷静に呟く。
その瞬間――――――
「!」
ジャバァ、と。
水流拘束がヴィダルダスの6束に別れた髪の毛だけを覆った。
「やっぱり、ね」
ルーが呟く。
ザババババ・・・と海のような音を立て、水流拘束だった水は、その姿を徐々に消していった。
「な・・・」
ジュビアが驚愕している間に、水は全て、蒸発したかのように消え失せる。
「ふっ」とヴィダルダスは微笑み―――――ふわさっ、と、髪を揺らした。
「ジュビアの水流拘束が・・・消えた!?」
「そしてキモい!」
術者の意思が無い限り敗れる事のない水流拘束が消えた事に驚愕するジュビア。
ふわさっと髪を揺らす仕草がこれ以上ないくらいに似合わず、ぞぞ・・・と震えながら自分の身を抱くルーシィ。
「寝グセには水洗いがいいんだぜ。朝シャンはよくねぇ、髪を傷める」
「貴様・・・どうやって水流拘束を・・・」
そう。
先ほど説明したとおり、水流拘束は術者の意思がない限りは破れない。
ファントムとの抗争の際のグレイのように凍らせるか、相手がジュビアと同じ水の魔導士でその水を利用するかなどをしない限りは、である。
その為、そのどちらにも当てはまらないヴィダルダスがどうして水流拘束を破ったのか・・・それはジュビアにとって疑問だった。
その疑問に、ヴィダルダスは意外に親切に答える。
「俺の髪は液体を吸収する。油やアルコールはごめんだぜ?髪が傷んじまう」
つまりは―――――
「『水』が・・・効かない?」
「そんな・・・」
「こうなったら『風』を操る僕しかいないねっ!」
ルーが張り切って左手に魔力を込めるが、それを綺麗にスルーして、ヴィダルダスはルーシィとジュビアを見つめた。
「それにしてもいい女だな、2人とも。へへっ」
それを聞いたルーシィは――――
「出たよ!いつもの」
「な・・・何の事?」
「可愛いってのもトラブルのもとって事」
「むぅ・・・ロキに続いてライバル出現だぁ!」
自意識過剰なルーシィ。
ルーはスルーされた事には怒らず、ヴィダルダスがルーシィを『いい女』と言った事で、勝手にライバル視していた。
ちなみに彼の中ではロキもライバルの1人である。
「ど・ち・ら・に・し・よ・う・か・なっ・じ・ご・く・の・あ・く・ま・の・・・」
すると突然、ヴィダルダスは2つのもので迷った時に誰もがするであろう仕草を始める。
すっすっすっ、と指を動かし、ルーシィとジュビアを交互に指差していく。
「い・う・と・お・・・」
完璧に言い終えた時、ヴィダルダスの指が差していたのは―――――
「り!」
「!」
――――――ジュビアだった。
「決めたぜ!お前が今日のサキュバスだ!」
「サキュバス?」
聞き慣れない言葉に戸惑うジュビア。
「ロック・オブ・サキュバス!ヘイ!ヤー!」
ヴィダルダスのギターが鳴り響く。
すると、ジュビアに異変が起きた。
「ああ・・・あ・・・な・・・何!?この音!?」
「ジュビア!どうしたの!?」
「一体何が・・・!?」
突然のジュビアの異変に、ルーシィとルーは戸惑う。
「イヤ!やめて!入ってこないで!」
先ほどまで上手だと言っていたヴィダルダスのギターの音に、ジュビアは明らかな怯えを見せる。
耳を押さえ、恐怖し、怯え―――――――
「ああああああっ!」
絶叫した。
「水女はここまでだな」
ギターの駒が、水瓶の駒を倒す。
「それと同時に・・・」
「ジュビア!」
「大丈夫!?」
絶叫するジュビアを覆う魔力にルーシィとルーは少し怯みながらも叫ぶ。
「トリコになりな」
口角を上げ、ヴィダルダスが呟く。
煙がゆっくりと晴れ、そこに佇むのは――――――
「地獄地獄地獄ゥ!最高で最低の地獄を見せてやるよメスブタがァ!」
先ほどまでの暗い色のコートではなく、ヴィダルダスのようなパンクファッションに身を包んだ――――明らかに様子のおかしいジュビアだった。
「ジュビア・・・?え・・・?どうなってんの?」
「何が起こったの・・・?訳解んないよ・・・」
そんなジュビアを見たルーシィとルーは、驚愕に顔を染め、言葉を紡いだ。
カタン、と。
鍵の駒と犬の駒が倒れる。
「星霊使いと風の元素もアウトだ」
後書き
こんにちは、緋色の空です。
ナツの「守ってやっから」は書いてて自分が恥ずかしくなりましたね。
で、素直に守られないのがプライドの高いティアさん(笑)。
多分、ティアを守っても文句を言われないのはクロスくらいな気がする・・・。
感想・批評、お待ちしてます。
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