ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第60話 夢見心地
攻略会議も漸く終わった。
今回の作戦については、納得はまだまだいっていないキリトだったけど、とりあえず 頭を冷やす為にも、1度ホームへと帰ろうとしていたその時だ。
「そうだ……キリトに良い情報やろうか?」
リュウキがキリトに話しかけていた。
基本的にリュウキにはホームと言う概念がない、だから、この後の時間潰しは適当にすませる。この層を探索するのも良いし、他の層にも行っていい。何をするのかは、その日の感覚次第だった。
因みに この時は、終わって直ぐだった事、外でキリトと会ったから、と言う事でキリトと一緒にいたのだ。
「……ん?? なんだ?」
キリトはリュウキの方を見ながら興味津々に聞き返した。
リュウキの情報……それには興味がないわけがないのだろう。いや、このアインクラッドにて、興味のない者などいる筈が無い、とさえ思える。確かにリュウキは色んな方面に疎まれたりもしているが、嫉妬の念を向けているのが大半だ。……口先ではなんと言おうと、そんな奴らも皆が当てにしているのが、アルゴの攻略本に記された、リュウキの情報だったから。
……つまり、リュウキの口から語られる、と言う事は最新情報だという事、内容によっては、大金になりかねない情報となるかもしれない。
だが 実の所キリト自身は、大金自体には全然興味は無いが。リュウキの情報自体には、大層気になっているのだ。
「あー……まぁ、期待しているようで悪いが、そこまでのものじゃない。あれだ、今日の気候設定の事だよ」
キリトが、期待している事はその表情から、そして目から十分に伝わったリュウキ。
とりあえず、肩透かしの可能性を 釘を刺しつつ、リュウキは指先を上に向け、くるくる回しながら続けた。
「ん? 今日の気候設定?」
『そこまでのものじゃない』と言われても、リュウキのそれは正直説得力が無い。どれだけレアなアイテムでも、情報でもこれまでで、あっりと公開したり、譲渡したりしているのだから。
だからこそ、興味津々なのだ。最後まで訊かないと判らないだろう。
リュウキはその後も続けた。
「今日はな…、アインクラッドでの最高の季節の、更に最高の気象設定なんだ。……多分 年に1度の日だ。横になると結構気持ち良いぞ。……この世界で言う高級宿、ん……セルムブルグに多いかな。その中のスイートクラスなんて、まるで目じゃないくらいに気持ち良い。ほら、……今も 良い風だ」
リュウキは目を瞑り、笑みを見せながらながらそう言った。
確かに心地よい風が頬横を通り過ぎる。
「んー……あれ? でも それって、今日だったのか? 確か、気象設定の情報はアルゴも扱っていたと思うけど、ん……、確か明後日と聞いていたけど……?」
キリトがそう聞き返した。この気象設定の情報は一応出回っているのだ。
発信源は勿論、言葉の中にある通り、《鼠のアルゴ》から。だが、内容が内容だけに、そこまで人気がある情報ではなく、値段自体も他の情報に比べて極めて低い部類に入る。だが、アルゴの情報は信用出来るから、キリトはそう聞き返したのだ。
「ああ、アルゴが間違っている訳じゃないさ。……だが、気象設定は間違いなく今日だ。……設定、システムといっても、僅かなズレがあったりするんだ。 それも天気、気象設定、その程度のモノならズレることは多々あるんだろう。……何よりも容量を喰う 重要なイベントって訳でもない、平たく言えば、ただの気象設定だからな。現実世界の天気予報だって、外れる事があるだろ?」
リュウキは、手を翳し風を感じる。……その指と指の間を吹き抜ける風をまるで掴むように握り……そして手をポケットの中へしまっていた。キリトはその姿を見てニヤリと笑う。
「はは……それも、またいつもの《視た》ってヤツか?」
「……ああ、そうだな」
キリトの問いにリュウキは否定しなかった。
この《視る》については、リュウキは別段隠しているわけじゃないし、キリトはもう知っているから。
「……やっぱり、便利なもんだな……そのスキル? オレにも教えてくれよ」
キリトは物欲しそうに言っていた。
だが、間違いなく、10人中10人が、キリトの反応をするだろう。彼の視るスキル?は、それ程までに魅力的なのだ。
その事で、リュウキは暫く考えると。
「そうだな……。ん、約12年間だ。延々プログラマーの仕事。いや、別にプログラマーじゃなくても良い。IT系の仕事なら何でも良いだろう。今だったら、特にフルダイヴ関連の仕事の方が効率良いかもしれない、な。 因みに俺のこれまでの経験から、その期間を集中的にやっていけば何とかものになるかもしれないぞ? 結果的に言うと、それがオレが、この世界を……、いや デジタルデータの全てを見通せる様になるまでにかかった期間だと言えるかもしれないから。……ここを出たらやってみるかキリト。何点か紹介しても良いぞ?」
リュウキは、キリトにニヤリと笑いながら言った。それを聞いていたキリトは、みるみる内に顔色を悪くしていく。
「はは……それはやっぱ遠慮しとくわ」
キリトは両手を挙げ早々に諦めていた。実は、この何度目のやり取りかわかったもんじゃないのだ。中身を聞けば尋常じゃない程の期間だから。それに、並みの仕事量じゃないとも思えるからだ。
「でも、興味あるんなら、一回やってみても良いぞ。SAOクリアしたら……な。たまには良いもんだと思うぞ? 《プレイする側》から《製作側》に行くのもな。」
リュウキは笑っていた。
だが、キリトは渋い顔を変えずに首を振る。確かに興味が全くない訳じゃないが、今は学生の身分だ。仕事の事等考えたくもない、と思うのは自然だろう。
「悪いが今は考えてられないかな。……俺は生涯ユーザーでありたいって思ってるし。何よりそんな頭、オレには無いしな」
「まぁ……だろうな……。正直 この話だって 何度言ったか判らんし」
「むかっ……」
リュウキが返し、そしてキリトが悪態つく光景もよくみるが、やはり……2人とも仲が良いようだ。
それは、まるで兄弟のように。
「(……あの時の事が嘘のようだ。良い、笑顔だ)」
キリトはそう思っていた。思っているあの時とは勿論。
「(レイナには、本当に感謝だな……。……ありがとう)」
また、風に手を当てて目を瞑っているリュウキを見て、キリトは心底そう思っていた。レイナと相談した事も、間違いなかった事だと、思いながら。
~第59層・ダナク~
圏内町外れの草原にて。キリトは木の陰で……寝転んでいた。リュウキが言っていたように今日の設定は非常に良いものだと直に感じていた。そして、この草原の草と土は、非常に柔らかい。だから、横になると、本当によく判る。
そして、この場所も昼寝するのに最適だ。開けた場所であり、辺りを見渡せるから襲撃される心配も無いだろう。そして大きな木が立っており其れが木陰になってさらに心地良いのだ。
そんな時……キリトに近づく者がいた。
「……何してんの?」
近づいてきたのは、赤と白のコスチューム。それは血盟騎士団の正装。閃光の異名を持つアスナだった。
「あはは……こんなトコでお昼寝? まあ、それもキリト君らしいけどねー……♪」
そして、その傍らには同じくレイナもいた。
《双・閃光》ここに降臨と言うヤツだろうか。キリトは片目を開けて確認をした。
「なんだ……アンタらか」
キリトは確認すると、同時に直ぐに目を閉じた。
確かに、レイナには感謝しているけれど、もう何度も言った事もあり、更に今はこの気候を心ゆくまで楽しみたい、と言う欲求が勝ったようだ。
「ちょっと レイ? 笑わないのっ。それに攻略組みのメンバーが今も必死で迷宮区に挑んでるんだよ? それなのに……、なんで アンタは 呑気に昼寝してんのよ?」
「う~ん……まぁ確かに、だよね? でも、何でこの場所なの? お昼寝なら宿のベッドだって良いと思うし……圏内とは言え一応気をつけた方が良いよ? う~ん、まぁ キリト君なら、言われるまでもなく
、大丈夫だと思うけどさ」
レイナは基本的に中立が多いのだが……どうやら、今回はレイナはどちらかと言うとアスナよりの意見だった。ここにリュウキがいないから、だろうか。
「今日はな、アインクラッドで最高の季節の……、最高の気象設定だ。ある敏腕プレイヤーのお墨付き。 こんな日に迷宮に もぐっちゃもったいない。それに宿なんか比べ物にならない程に気持ちいいんだから」
キリトは、目を瞑ったままそう返していた。
その言葉を聴いて更に呆れるアスナ。
「はぁ? 幾らソロだからってそんなk「いや、もう1人いるぞ?」え……っ?」
アスナの言葉を遮るようにそう言うとキリトが指を上に指した。その指された先、頭上の木の大きく太い枝が並んでいる部分に寝転んでいた者がいたのだ。
つまりこの場にはキリト以外にももう1人いる。
「あっ……ホントだ。って、リュウキ君?? ……リュウキ君まで。はぁ……」
視界に入ってきたのは間違いなくリュウキだ。
レイナもアスナと同様に……流石に呆れていた様だ。リュウキまで、寝ているとは思ってなかったようだ。何時も何時も迷宮区とかに潜っている人だから。でも、それも良いって思う。いつもいつも迷宮区に篭っているよりはずっと、……それに、本当に随分と表情も柔らかくなったから。笑顔も見せてくれる事が多いから。
「おいおい、オレを巻き込むなよキリト。……それに怒られるのはキリトだけで良いだろ?」
リュウキは見つからない様に、ちゃっかりと隠蔽スキルをも 使って気配を殺していたのだが、キリトが指を指したせいで、視界的に見つかってしまったのだ。2人の看破のスキルも優秀だから、と言う理由もあるだろう。
だから、観念し リュウキは ゆっくりと身体を起こした。
「もう! 2人とも! こうして一日無駄にした分、現実での私達の時間が失われていくのよ? もっと真剣にっ!」
アスナが怒ったようにそう言うが、それには納得出来ない様で、リュウキは直ぐに言葉を返した。
「……オレはな。別に失ったとは思わない。……たとえこんな状況になったとしても、この世界が。……SAOが、もう一つの現実だ。オレにとっては……な。それに、ここに来たからこそ、《得たモノ》だってあるだ。―――……悪い物じゃない」
リュウキはそう答えた。
「えっっ!?」
レイナはその言葉に注目した。問い詰めたい衝動に駆られてしまう。そんなレイナだったのだが、リュウキは、それ以上は何も言わなかった。
「(うぅ……、気になるなぁ……、なんだろう、リュウキくんの、得たものって……)」
レイナは少しソワソワとしていた。横から見たら挙動不審以外の何者でも無い。仕方がないだろう。レイナは、リュウキの言っていた《得たモノ》が凄く……すごーく気になったから。
「ん? レイ? どうしたの…?」
アスナは、そんなレイナを見ていたがレイナは、首を左右に素早く振り。
「なっ……なんでもないよ! お姉ちゃん!」
慌ててそう言っていた。
「……リュウキの言うとおりだ。オレ達が生きているのはここ、アインクラッドだ。……ホラ、日差しも風も……こんなに気持ち良い」
キリトも肯定した。そして、木々の間から風が靡いてきた。最高の設定に相応しいものだ。太陽は温かく……そして、風は何より心地よい。
「確かに……な」
リュウキも同意していた。
「ほんと?」
「そうかしら?」
2人ともまだ信じていないようだ。
「なら、物は試しだ。寝転がってみな……直ぐに判る」
キリトはそう言い、再び睡眠体勢に入る。
「そう、その通り……だ。……百聞は一見にしかず……百見は一感にしかず……。判断する材料にすれば良い……」
リュウキも同様だった。アスナとレイナは……2人の気持ちよさそうな姿を見て。
そして、温かな日光と心地よい風のブレンド……それを感じて。
何よりも、本当に気持ちよさそうに目を瞑る2人を見て、ついつい………。
そして、数十分後の事。
「ん………」
まず目が覚めたのはリュウキだった。
寝るといっても彼にとっては30分ほど休憩の様なもので、熟睡はしていない。如何に対処に自信があるとは言え、開けた場所だとは言え、ある程度は野宿するのは危険なのだ。だからこそ、少ない時間だけの休憩だ。
それだけで十分。だが……その休憩時間。1人しかいるはずの無い木の上に、誰かがいたのに気づいた。
「ん……?」
自身の隣で眠っている者がいた。
もうほんのあと少しで、その身体は、リュウキに密着しそう。その手は、行き場を求めているかの様に、伸びていた。……しがみつきそうで、少し離れている絶妙な距離。
「ん……っ……すぅ……すぅ……」
傍にいるから、規則正しい吐息が聞こえてくる。完全に熟睡をしている様だ。……直ぐ横にレイナが横になっていた。確かに、やってみれば判るとキリト達は言ったが。
「やれやれ………。確かに横になってみろとは言ったが……。上に上がってこなくても良いだろうに。……まぁここの方が風は感じやすいが」
リュウキは、ため息を出していた。
どうやら……レイナは、結構寝返りとかするみたいで、結構見ていて危なっかしい。だから、リュウキはレイナを抱きかかえて、木からゆっくりとおろしてやった。衝撃を与えぬように……。眠りから覚めないように。そして、下に降りていくと。キリトの隣には、アスナがいた。いや、正確には違う。……アスナも熟睡をしていたのだ。
「……はは、しかし 姿だけじゃなく、変な所が似てるな。この2人は」
2人のその気持ちよさそうな寝顔を見てそう呟いた。
「んん……?」
次に、キリトが目を覚ましたようだ。
「ああ、おはよ。キリト。」
リュウキはキリトにとりあえず挨拶をした。キリトは、目を擦り、声がした方を向く。
「ああ………おは……って はっ?」
そして、挨拶を……しようとした時、この状況に気がついた。傍で寝ているアスナとレイナがいる事に。アスナとレイナが寝ている事のは判る、だがなぜこの状況になったのかは。ちょっと……判らない様だ。
「これ、どういう事だ?」
「……そう言うなよ、それにキリトが言ったんだろう? 寝転んでみればわかるって」
リュウキは、苦笑いをしながらそう言うけど、キリトも言いたい事があった。
「それを言うなら、リュウキだって言っていたじゃないか。百聞とか、百見とか、一感とかって」
とまあ、そう言うことだ。
つまり、2人がここで眠ってしまったのは、とりあえず自分達のせいと言う事で纏まった。
「しょうがない……か」
リュウキはキリトを見た。キリトも重々承知のようだ。
「ああ。そうだな。一応は しておいた方が良い。2人は完全に落ちているようだから。簡単には目を覚ましそうにない」
キリトは頷いた。このまま放置するのは危険だからだ。2人は特に野宿を経験しているわけでも無いだろう。眠るときは安全な宿でのはずだから。
「……いつ何処ででもろくでもない連中はいるもんだ。くだらん思い付きをするくらいなら、もっと別の部分で発揮すりゃいいもんだがな……」
そう言いながら、仕切りの柵の上に座った。
「だな。睡眠PK……か」
キリトもリュウキの傍へ来た。
「そうだな。とりあえず、2人が起きるまで……だ。誘っといて このまま放っておくのは流石に悪い」
「……オレもそのつもりだ」
2人は頷きあって、一応見張りをする事にした。直ぐ起きるだろうと思えたが……その後、彼女達が起きた時には、もう日は沈みかかっていた時間だった。
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