季節の変わり目
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何者
そのまま僕たちは検討に入ったが、僕はまさに蚊帳の外だった。打った者だけが分かる一手一手に感心しっぱなしだった。それだけじゃない。僕は、佐為さんに何かむずがゆい気持ちを持っている。初めて進藤に会ったときみたいに、何が何だか分からない、強者に対しての疑問、怖さ。
外で風がごうごうと唸って窓を叩いている。からからに乾燥して落ち葉が互いに流され、飛んでいく音に寒さを感じた。検討はとっくに終わり、佐為さんが帰るのもすぐのようだ。
思った通り、一分後には彼はそろそろ帰るといい、正座して疲れたのだろう、手をついて立った。マフラーを巻く彼に「送ります」と言ったら、「ありがとうございます、でも大丈夫です」と綺麗に返された。
「佐為さんといろいろと話がしたくて」
こういうとすぐに願いを受け入れてくれた。お父さんは玄関まで佐為さんを見送った。お母さんは佐為さんに「また来てくださいね。この人のこんなに満足した顔、久しぶりなのよ。」それを聞いて思わず笑いたくなった。お父さんの顔はいつもと変わらない。でも確かに、厳密に言えば、満足した顔をしている。僕は何秒かお父さんに見惚れていた。
外に出た瞬間、冷気が僕たちを襲ってきた。今日は特に寒い。厚手の手袋をして家の門を出た。寒いにもかかわらずわざとゆっくり歩きながら、こう始めた。
「ほんの数年前に碁を始めたなんて信じられません」
本音だった。碁を習い始めて二年でプロになる人もいるけれど、隣を歩くこの人は圧倒的にレベルが違う。
「本当に部活や本だけで勉強していたんですか?」
「はい。あとネット碁とか」
ネット碁。
「ネット碁を始めたのはいつです?」
「二年生になってからですよ。初めはとっても緊張していて対局どころではなかったです」
思い出し笑いを浮かべる佐為さんに愛想笑いをしている暇はなかった。二年生になってから、というのは
「4月からですか?」
「え、そうです」
重なる。お父さんとsaiとの対局。しかし、saiは
―「藤原さんの名前、佐為でしょう?昔、ネット碁で話題になった人物と同じ名前の音なんですよ」
―「珍しい名前ですからね」
―「僕も最初あなたの名前を聞いた時、saiかと思ったんです」
―「全くsaiの、棋力には、及ばない。・・・が、あの子しか、考えられないんだ。名前に、進藤との関
わり、ネット碁」
―「でも進藤と彼が出会ったのは今年の夏でしょう。saiが最後に対局したのは去年の4月だ」
―「待て・・・。俺はsaiが進藤に関わりがあると思ってきた。だが、あの子が進藤と今まで全く関わり
がなく、それでいてネット碁を打っていたという考えはできないか」
違う。佐為さんが碁を始めたのは高校一年生の中頃から。最低でも中学三年の7月から碁を始めていないといけない。一年・・・足りない。
また手がかりを失って僕はうなだれた。この少年が嘘をつくとは思えない。佐為さんの瞳はあまりにも純粋すぎる瞳だった。
「あと、私も聞きたいことがあるんです」
垂れた頭をあげて横を向くと、少し小さな声で聞いてきた。
「ヒカルって、何者ですか?」
それを僕に聞くのか。僕でさえ分からないのに。
これから展開していく話を思うと、ごくりと唾を飲んだ。
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