ゲルググSEED DESTINY
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第七十七話 決意を新たに
現在ストライクフリーダムはジャンク屋やアメノミハシラの技術スタッフ、そしてパイロットであるキラ自身の手によって修理が行われていた。
「つまり、このストライクフリーダムのドラグーンは第二世代の普遍性を得たドラグーンにも関わらず、パイロットである貴方に合わせた調整によって独自性の高いものに仕上がっているという事ですか……兵器として普遍性を無くすというのは正気を疑いますが、一騎当千用というのならあながち間違いでもないんでしょうねぇ――――」
アメノミハシラの技術スタッフは割と常識的な人間のようであり、ストライクフリーダムの設計を知れば知るほどキラ専用機として造られたこの機体がいかに異常な機体なのかというのを認識していた。
「はい、でもこれだけ特化させた性能を用意してもザフトの機体は同等かそれ以上の性能を引き出していると思うんです。このデータを見てください」
そう言ってキラは自分が戦ってきた相手のデータ、月面のデスティニーインパルスとオーブのリゲルグとマーレ専用ゲルググの戦闘データとそれを解析したものを見せながら調整する。
「うひゃー、すげえぜこいつは。バックパックだけじゃなくて両肩の内部にそれぞれ三基もバーニアを取り付けてんぞ」
流石のロウもこの技術に驚きながら吟味していく。パイロットの質で見ればキラと同等なのはマーレだけだが、機体の性能とパイロットの戦い方によってストライクフリーダム相手に五分の戦いを繰り広げている。
「ちょっとロウ、サボってないでこっちも手伝ってよ!」
「サボってなんかねえよ、データ見てるだけだっての!」
『それをさぼっているというのだぞ!』
仕事をさぼってキラの出したデータを吟味するロウに文句をいうキサトと人工知能搭載コンピュータのハチ。それに対してこれも仕事の内だと言い張って争う二人と一機?を見てキラは呟く。
「仲良いんですね――――」
「ん、ああ――――まあこいつ等とも長い付き合いだしな」
キラはその様子をみて少しだけ羨むような表情をする。自分もアスランとは仲が良かった。それでも今は敵同士になってしまっている。アスランの言う事もわかるのだが、だからといってキラとしては受け入れられない。事実、議長はデスティニープランという政策を提言してきたのだ。
「どうして、こんなことになってしまったのだろう……」
未だに消息が不明のラクス――――生存はもはや絶望的だとキラですら思っている。ヒルダ達クライン派の何人かはまだ決まったわけではないと、エターナルが沈んだ様子を見ていないと言っているがあのコロニーレーザーに巻き込まれたのだとしたら助かる見込みなどありはしないだろう。
「そんなしけた面すんなって――――」
「でも、僕たちが道を見誤らなかったら、こんなことにならなかったんじゃないかなって、そう思えるから」
実際、二年前の大戦終了時に彼らが全員自分たちの所属すべき場所にいれば、このようなことにはならなかったかもしれない。名を隠してオーブに住んでいなければと――――もちろん、絶対に止めれたとは言えないし、二年前のあの時、キラ達は心に大きな傷を負ったのだ。すぐに本来いるべき立場にいたとしても、精神的に余計苦しむことになっただろう。
「道なんて自分で決めるものだ。どれが正解ってのはその時になるまで分からないだろ?王道ばかりが道じゃないぜ。友達と喧嘩したっていうならとことん付き合ってやればいいんだよ」
そう言ってロウは機体の修理に戻っていった。
「――――そうですね、分からなくても、分かり合おうとする努力を止めたらいけないんだ。戦争を止めるために、本当の平和を掴むために、僕たちは戦う」
改めて戦う覚悟を決めたキラは再び自機のOS調整に戻るのだった。
◇
『はーい、マユでーす。でもごめんなさい――――』
久しぶりにマユの携帯電話を開いてその留守電に登録されている声を聞く。
(これまでの事を後悔……してるんだろうか?)
少なくとも全くしていないわけではないだろう。本当に後悔していないならそんな風に考えることもないはずだ。
「なあ、マユ……俺は如何すればいいんだろうな。戦争がなくなるのは良い事だって思う。でも、議長の言ってる事は間違ってるわけじゃないけど――――」
案内された部屋の一室は殺風景なものだ。元々、メサイアは軍事要塞であり、機能したばかりの場所なのだから部屋が簡素だというのは当然と言えば当然だが、そういった部屋の殺風景な様子が逆に心をささくれさせる。
「やっぱり、俺は……」
結局、シンはあの場で結論を出すことが出来なかったのだ。黙り込んでしまい、議長が悩むというのであれば一度よく考えると良いと言って退出する様に命じた。
シン自身、デスティニープランが悪い提案だと思っているわけではない。寧ろ、これまで戦ってきて、目を通して見てきた世界は酷いありさまで、シンの平和への想いは何度も裏切られてきた。同時にそんな風に苦しんでいるのは自分だけじゃない。ただ明日へと生きるのに精いっぱいな人達も沢山見た。そう考えると、こんな世界を変えようというのは決して悪い事ではないと思っている。
「与えられた運命を生きることが幸福だって議長は言った……でも、それで救われない人達はどうなるんだ?与えられた運命そのものが報われることのない運命だったならそれこそ――――どうすればいいんだろう?」
そんな風に不幸になる人達がいると思ったからアスランは議長に反発を抱いたのではないだろうか。そうであっても戦争のない世界が欲しいと思ったからレイはアスランを撃とうとしたのではないだろうか。
どちらも絶対に正しいなんてことはないし、かといって間違っているわけじゃない。でも、自分にその選択肢が突き付けられたというのなら果たしてどちらを選ぶのが正しいと言えるのだ?
「俺が……俺が本当に欲しかったのは……」
『自分の非力さに泣いたものは誰でもそう思う。だが、その力を手にしたときから、今度は自分が誰かを泣かせるものとなる。それを忘れるな。勝手な正義をふるうだけなら、ただの破壊者だ。それは分かってるんだろ』
『いつの時代でも、変化は必ず反発を生む。それによって不利益を被れば、明確な理由はなくとも、ただ不安から異を唱える者が必ず現れる。議長のおっしゃる通り、無知な我々には、明日を知る術などないからな……だが人はもう、本当に変わらなければならないんだ。でなければ、救われない』
二人の言葉が思い出され、頭の中で反芻される。変わらなくてはいけないのか、それともこんな変わり方は間違っているというのか?
そうやってしばらく悩んでいたが考え込んでいても仕方がないと思い、一度頭を切り替えるために一旦部屋から出る。メサイア内部の説明はシンもされていないかった為、立ち入り禁止区域以外を適当にぶらついているだけだったのだが、いつの間にかデスティニーが待機していたドックにまで来ていた。
「俺は、こいつで――――」
格納庫に来て自分の乗った機体であるデスティニーを見上げる。こいつで俺はいったい何人の人を殺してきたのだろう。そう思ってその場に立っていると後ろから肩を叩かれた。
「よ、何やってるんだ。こんな所で?」
「ハイネ――――」
後ろから肩を叩いてきたのは一緒にこのメサイアに来ていたハイネだった。
「まだ悩んでるのか?」
「ああ、俺どうしたらいいかわかんなくなってきて……議長の言ってる事は正しいと思える。でも、正しいことを行おうとしても否定する人たちはいて、なんでって考えて――――きっと、正しい事って誰かにとっては正しくないことで――――それで、議長が創ろうとしていく世界ってそんな人たちを全員否定して創り上げていく平和なんじゃないかって思ったから……」
「――――難しいこと考えてるんだな」
ハイネはやれやれといった風に溜息をつく。確かにシンの言っていることは事実だ。一方から見た正義は反対から見て正義に映るわけではない。そして、議長のデスティニープランは他者の自由を奪う世界であり、能力を認められない、或いは定められた運命が享受できないものを否定する世界となってしまう。
「だったら、ハイネはどんな風に考えているんだ?」
「俺は、良くも悪くも実直なザフトの軍人だからな――――上から受けた命令は絶対だったし、破ろうって思う気にはなれない。それが間違っているものだって気付かされて、その時になっても俺は自分の立場に固執しちまう。そんな器の小さい人間なんだよ」
「え、そんなことないって」
意外な言葉を聞いたようにシンはハイネに対して驚愕を露わにする。
だが事実、前大戦のヤキン・ドゥーエでの戦いの際、結局ハイネの立場はザフトの一パイロットに過ぎなかった。核を撃ってきた連合は非道の輩だと思うだけで自分たちの方が何をしていたかについてなんて頭の中から排除していた。
ジェネシスを撃った時の様子は今でも脳裏に焼き付いている。アレを行ったのは自分たちだ。だが、そうしなければ戦争を終わらせる事なんてできなかった。そう今でも自分で自己の正当化を図る言い訳をしているのだ。
「そう思うなら、きっと格好つけて誤魔化してるからさ。他人に否定されるのが怖いからな、俺は」
アスランとハイネはそういう所で違う。アスランは自分に常に問いかけているのだ。正しいのか間違っているのかを。だが、ハイネはそれをしない。自分たちが間違っているなんて思いたくないから。戦争なんだと上からの命令だと自分に言い聞かせ、だから戦い続ける。ハイネにとって割り切れという言葉はある意味そういう事でもあるのだ。
けど、何も自分以外の誰かがそうであるという理由になって良いわけではない。だから、ハイネはシンに対して自分が出来ない事を託すように言う。
「どんな道を選んだにしても、それはお前自身が考えたうえで出した結果だ。誰も否定される言われはないっつたら嘘になるが……お前自身が選んだ道をお前が否定しちまえば何のために戦ったのかが分からなくなる。ありきたりな言い方しか出来ねえが、お前も――――自分が今、後悔しない道を選べよ」
「――――そうだよな……ありがとう、ハイネ。少しだけすっきりした」
(狡い奴だよな……俺は)
自分が出来ない事をさも出来るかのように他の人にはやれるだろといって押し付ける。あまりにも卑怯だ。悪人だと罵られても仕方がない。何より、そんな風に自嘲ぎみに自責の念に駆られて自分の罪を誤魔化していることが許せない。
(それが分かってても何一つ自分からは行動しないんだけどな……)
そんな事を考えながらも裏切ることも変えようとすることもしないハイネはシンとしばらく話した後で部屋に戻っていくのだった。
◇
『どういうことだ?』
「……一応何がとは聞いておく」
『惚けるな!軍から排斥されそうになっているとはどういうことだと聞いている!!』
ミネルバの通信室の一室にてアスランはジュール隊の旗艦ボルテールにいたイザークと通信していた。そして、案の定イザークはアスランを怒鳴りつけていた。
『いったい何をしたら貴様はそう何度も軍から追われそうになるというのだ!』
「いや、そんなに何度も追われそうになっているわけじゃないが……」
言い訳は聞かんとばかりに憤慨した様子を見せてイザークとは話にならない。ディアッカが何とか宥めることで話を元に戻す。
「俺達が今すぐ軍から排斥されそうになっているってわけじゃない。だが、黙っていれば敵として扱われることになるだろうし、俺自身としても黙っているわけにはいかない……これはミネルバのグラディス艦長も同意見だ」
『つまり、今この時期に俺達に対して貴様が通信を掛けたのはお前の味方をしろということか?』
面倒な言い回しを好まないイザークはハッキリと目的を言えとばかりに聞いてくる。アスランとしては遠回しに話したかったのだが、流石にそう聞かれれば応えざる得ない。
「――――そうだ。イザーク、俺達に協力してくれ」
通信越しに頭を下げる。沈黙が漂い、イザークとアスランはどちらも微動だにしない。そうした中で一番最初に折れたのはディアッカだった。
『わかったよ、イザーク。協力してやろうぜ?お前だって色々考えてたんだろ?』
「ディアッカ……」
『うるさい!協力すればいいんだろう、協力すれば!ただしアスラン!俺に命令はするなよ!今は貴様が隊長というわけではないんだからな!!』
二年前にアスランが隊長をしていたことをまだ覚えているのかイザークがそう言って釘を刺す。ディアッカはやれやれといった様子が通信画面越しに映り、アスランも同様の気持ちでその様子を見ていた。
『だが、少なくとも俺とディアッカは協力してやるがジュール隊として協力するというわけではない。あいつらにもそれぞれの思いがある。お前の言うように未来を殺す世界になるのだとしても、議長を信じて動くものもいるだろう。説得するつもりではあるが強制はせんからな!』
「わかっている。そのあたりの裁量はお前に任せるさ。元々お前の隊なんだからな」
その後もアスランとイザークはアカデミー時代や二年前のクルーゼ隊に所属していた時のように懐かしい気持ちを感じながら旧交を温めるように話し合っていた。
後書き
原作主人公三人のそれぞれの現状。一人一人の場面が出てくることはあっても一話で全員のシーンがあったのはこれが初かも?
キラ→ストフリの改修とロウによる励まし。
シン→何らかの方向に決意した様子。
アスラン→イザーク達との対話。
原作主人公達が前向きになってきましたし元主人公(笑)のクラウ君はもう退場しても問題なさそうね(ゲス顔
おまけのNGシーン
『わかったよ、イザーク。協力してやろうぜ?お前だって色々考えてたんだろ?』
「ディアッカ……居たのか?」
痔悪化『……(´・ω・`)』
『うるさい!協力すればいいんだろう、協力すれば!ただしアスラン!貴様の為に協力するわけじゃないんだからな?あくまでもこれは俺個人の意志なんだからな!』
『ツンデレ乙(*´ω`*)』
『黙れディアッカ!』
炒飯『……(´・ω・`)』
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