ソードアート・オンライン〜Another story〜
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SAO編
第57話 悪夢の仕事
~現代 アインクラッド 第51層 愚者の森~
場面は、現在に戻る。
レイナはリュウキを包み込むのを解放していた。
それは恥かしくなった、と言うのもあるが、彼のことを真剣に聞こうとしたからだ。
「……サニーのメッセージ。それは今の仕事について書かれてた。その……仕事の【裏】の事が書かれていたよ」
リュウキの表情は暗い。だけど、傍にレイナがいてくれたおかげで、こんなにも心が強くあれた。……闇の内を話すことが出来た。リュウキは今そう思えるんだ。
《あの時》の記憶を呼び起こそうとしているのに、安心出来たから。
■裏の話■
それは、システムの流用の事だった。これは正規に依頼されたものじゃなく。あくまでその医療の目的は表向きのものでしかなかった。
サニーは、依頼者と会った時から良い印象じゃなかったらしい。
サニーがいる場所。リュウキと同じような施設の所長の電話を聞いたらしいのだ。その下卑た声を、確かに訊いた。……だけど、訊けたのは、一部分だけだった。詳しいことは判らないが、ただ悪い事をしていると言う事だけは理解したのだ。そこでサニーは、所長のコンピュータにハッキングを施した。
本当の目的はなんなのか?
依頼者とのやり取りの記録等、隅々まで調べた。……一体今回の事、今回のシステム開発で何をしようとしているのかを。
「レイナ。フルダイブの技術は……。後の後継機のこのナーヴギアの電子パルスのフォーカスを脳の感覚野に限定して照射してから仮想の環境信号を与えている。と言うのは知ってるか?」
リュウキは、自身の頭を指差す。
現実世界で、頭にある筈の代物であるナーヴギアを指差して、レイナにそう聞いた。
「うん……。私も少しだけなら聞いているよ。お姉ちゃんとも調べた事もあるから」
レイナは頷いた。
このゲーム、ハードは、彼女の兄がしきりに誘っていたんだ。説明を受ける内に、これは一体どういうもので、どうやってこの環境を生み出しているのか?
凄く気になったんだ。
元々、レイナとアスナ、2人とも勤勉な性格だったから知りたい事は知りたかったんだ。だから、調べてみた。
100%理解したか、と言われれば首を横に振るが、大体の構造、現象は理解出来たつもりだった。
「なら、話は早い。……ナーヴギアのその枷を取り払ったらどう言う事になるか。想像出来るか?」
「え……? か、枷?」
「ああ。……脳の感覚処理以外の機能を……、思考から感情、記憶まで制御できる可能性があるって事だ。……その為にはかなりの高性能の演算能力を用いたコンピュータ。そしてそれを昼夜問わず制御する為のシステムの構築。それが必要だった。……オレ達技術者はそれの為に利用されたんだ。話によれば、普通の技術者より、オレとサニーだけで、数年分のカットが出来るらしいんだ」
「なッッ!」
レイナはその言葉に絶句した。
人の感情にまで、制御をする?
そんな事をすれば、その人がその人でなくなる事だってある。更に、自分の記憶、これまでの思い出、それを操作なんかされたら……擬似人格だって埋め込む事が出来る。
何より、大切な思い出を奪われてしまう事だってありえるんだ。
殆ど、ファンタジー、SF世界での話だと思えるが、それが実際に出来るとしたら?とてつもなく、恐ろしい研究だという事、それは直ぐに理解する事が出来た。
「そ……そんな事赦されるはずがないっ……。そんな……そんな事をするなんて……」
まるで、悪魔の所業とさえレイナは思えていた。人が人を殺す、そんな研究にも絶対に匹敵する。
他者の手で、誰かを制御するなんて、同じ人間の所作じゃないから。
「……勿論だ。オレだって、レイナと同じ気持ちだった。……だけど、サニーに言われるまで気がつかなかったんだよ。……ただただ大好きなコンピュータと遊んでいるだけの子供だったんだ。ぬけていたって事だ」
リュウキはそう言って苦笑いしていた。そして、リュウキは一頻り笑った後、目つきを鋭くさせた。
「……だから、今回の件、潰してやろうって思った。正義面したこれまた子供っぽい理由で……さ。サニーとは、仕事以外でも内密に連絡しあってね……。システム構築の一環で全てを破壊するプログラム。コンピュータ・ウイルスも2人で同時進行で作ってた。その研究の全部台無しにしてやろうって考えて……。連鎖を起こす事が出来れば裏にいる連中達にも広める事が出来る。……オレは、オレ達は何でも出来るって思ってた……」
目つきを鋭くさせていた後、リュウキは表情を暗めていた。
「……でも、やっぱりたった2人だけじゃ厳しかったんだ。今回のその仕事に携われる時間、期限も迫っていたから。……だから オレ達はある事をした。それが……ネットワーク上でのコミュニティーだよ」
リュウキは苦笑いしていた。
「え……? それって、ゲーム内でのチーム……所謂、ここSAOで言うギルドみたいなもの?」
レイナはそう聞き、リュウキはその言葉に頷いた。
「その通りだよ。コンピュータ関連。ITに強い者で構成された場所で、そこで仲間を募ったんだ。勿論、ちゃんと素性は隠しながらね。自分達もそうだけど、今回の仕事の事も」
そこで、何人かの仲間が出来た。等しくコンピュータに詳しく話もわかる。リュウキとサニー。2人には心強い仲間が出来たと内心嬉しかった。特にリュウキは、今回の事 綺堂にすら話をしてはいない。
心細いとも思っていたのだ。
綺堂の事を疑っていたわけじゃない。疑いたくも無かった。爺やと呼ぶ相手を疑いたくなかったんだ。だけど、ウチの所長と綺堂は、よく一緒にいるから……、どうしても言えなかった。
少しでもバレる危険性があるなら回避する事には越した事は無いし、何より自分なら何とかできる。自分とサニーの2人なら何とかできるって思っていたんだ。
だけど。
「……話も着々と進んでさ、そして、ある程度信頼出来たと思って、打ち明けたんだ。今回の事……。皆驚いていたけど、皆 賛同してくれたよ。そして、仲間たちと実際に会う約束もした。だけど……そこで会ったのは良く知る人だったよ。……オレがいた施設の所長とサニーがいた施設の所長。そしてその後ろに、多分無関係を装って集っていた仲間達、いや、オレ達が勝手に仲間と思っていた奴らがいたんだ」
「ッ………」
リュウキのその言葉は一番重く、暗いものだった。
そして、同時にレイナはわかった気がしたんだ。
なぜ、リュウキが一人を好むのか、どうして、頑なにソロを貫くのか。どうして、時折ギルドの皆を見て……悲しそうな顔をするのか。なのに、どうしてギルドに誘われても入らないのか。
そして、フードを被って自分を偽ろうとするのか。全ては、その過去に繋がっているんだ。
『……仲間が信じられない』
それは、彼の脳裏に刻まれてしまった。
「……これでも、大分変わったと思うんだけどな。キリトとも、パーティを組んだ時もあるし、……BOSS攻略でもそう。オレは結構参加しているだろう? 別に問題ない」
リュウキは、レイナに笑って聞かせる。
レイナの表情から、何を考えているのか、リュウキは大体理解出来ていた様だ。
でも レイナには、その表情は、ただ無理に笑顔を作っている様にしか見えなかった。
「でも当時オレは……、とても驚いたよ。何故なら、全部……全部ばれていたんだから。かなり慎重にしていたつもりだったんだけど……。ネットワーク上では兎も角、子供が大人に隠し事なんて、直ぐバレるんだって思い知らされた」
リュウキは……更に表情を暗めた。同時に後悔の念も醸し出していた。
「……当然さ、連れ戻されたよ。内容を知った時点で、粛清の可能性もあったと思うけど、オレ達の能力がそれ程必要だったらしい。……完全に監視された。……メールのやり取りとかも全部。だけど、所々穴はあってさ、……少しなら サニーと話せたけれど……。連中のサニーの方への仕打ち。それが酷かったらしいんだ」
全体的に、リュウキの能力より、サニーは少し劣っていた。だからか、必要以上に制裁を加えていたらしいんだ。
例え、サニーが《壊れてしまっても》リュウキはいると考えていた様だ。そんな絶望的な状況だったけど、サニーは、必死に抗った。悪魔の仕事を終わらせない様に、その場所でたった1人ででも、抗い続けたんだ。
だからサニーは。
「最後のやり取り、……メールの内容がこうだった。オレが『守ってあげられなくてゴメン……』って送ったのに対して……、サニーは、『大丈夫……大丈夫だから……。私は駄目かもしれないけど……リュウキは抗い続けて。こんなの……こんなの絶対認めちゃ駄目だから……』と返ってきたよ。……それ以降、サニーとの連絡は全く取れなかった。……取れなくなったんだよ」
リュウキは、この時表情はそのままに……涙を流した。
「リュウキ君……」
レイナは何も言えなかった。だから……だから……。
「リュウキ……君……」
「ッ………」
泣き続ける彼を、いっぱい、精一杯抱きしめる事しか出来なかった。
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