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東方虚空伝

作者:TAKAYA
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第二章   [ 神 鳴 ]
  二十四話 神々の戦 喪失

 なんだろうこれ?
 あかいものがとびちっている……
 なんのおと?
 ひめいのようなものがきこえる……
 いしきがもうろうとしてるはずなのにめのまえのこうけいははっきりみえる

(どうしたんだ!白輪殿!)

 え?

(止めて!楓さん!)

 え?わたし?
 水の刃が河童の一人の首を刎ねた。鮮血を撒き散らしながら仰向けに倒れ、ゆっくりと塵になっていく。
 そこでようやくこの光景を作り出しているのが自分だという事に気付いた。

 これはなに?これはなに?これはなに!なんなの!なんなの!

 私は叫び声を上げた。しかしそれは音として響かず霧散する。目の前の惨劇は止まらず次々に味方を傷つけていく。

(や、止めてくれ!楓殿!)

 そう懇願する男神を無数の水槍が貫く。

 いやーーーーーーッ!!!!わたしじゃないのッ!わたしじゃないッ!わたしじゃないッ!

 またしても私の叫びは響かず、代わりに男の声が聞こえる。

(いやはや素晴らしい!さぁ楓様!大和の為にもっと貴方の御力を御振るいください!)

 確か斎賀と言う名の大和の神。そいつが嬉しそうに私にそんな事を言っている。惨劇は更に続き刃の一つがにとりさんの肩口を切り裂いた。傷口を押さえながら私を見る目には…恐れが宿っていた。

 ちがう……ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!ちがう!
 そんなめでみないで!わたしじゃない!わたしじゃない!わたしじゃない!わたしじゃない! わたしじゃない!
 たすけて!たすけて!たすけて!たすけて!すわこさま!すわこさま!すわこさま!すわこさま!さき!さき!さき!さき!さき!たすけて!たすけて!たすけて!

 私の嘆きを無視するように惨劇は続いていく。血潮と悲鳴が上がりその様はまさに阿鼻叫喚。その光景から目を逸らす事も意識を閉ざす事も出来ないまま私は声にならない慟哭を続けた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 敵部隊への奇襲を行っていた僕の所に不意にスキマが開き中から顔を青くした紫が飛び出し胸に飛び込んできた。

「どうしたの紫?何かあったの!」

 僕の問い掛けに紫は声を震わせながら、

「…河上の陣が…楓が…」

 …味方を殺してる…

 一瞬紫が何を言っているのか理解できなかった。紫が開いたスキマに河上の陣の光景が映し出される。そこには味方に容赦無く水刃を荒れ狂わせる楓の姿。
 理由は分からない、でも状況が最悪な事だけは確かだ。

「っ!?紫!あっちとスキマを繋いで!その後怪我人を回収して本陣に送る事!あとルーミア達に防御陣を捨てて第二防衛線まで下がるように伝えて!」

「う、うん、分かったわお父様…」

 この後の情勢を予想して紫に指示を出す。
 河上の陣の建て直しは恐らく不可能。あそこを捨てるという事はつまり敵が制空権を取り戻すという事。
 そうなればこのまま防御陣を敷いていても各個撃破されるだろう。それなら全軍を集中して敵軍を受け止めた方がマシだった。
 あくまでマシと言うだけで不利な事には違いない。とりあえず今は楓だ。一体何があったんだ?スキマを通りながら予想を立てる。
 裏切った?まず在りえない。他の神ならまだしも楓が諏訪子を裏切って得をする事は無い。
 じゃぁやっぱり何かしらの能力で操られている可能性が高い。操作系か支配系の能力かは分からないけど厄介だな。
 敵の能力の対処を考えながらスキマを抜ける。目の前には楓が放った水刃がにとりを切り裂こうとしている瞬間だった。
 刀を抜き放ちつつ全速力でにとりの前面に躍り出る。迫る水刃を跳ね飛ばし攻撃を放った楓とその隣にいる男と対峙した。

「…七枷様…」

 にとりは憔悴した感じで呆然と僕を見ている。多分この状況に頭の方がついて行っていないのだろう。

「…紫、回収は任せたよ」

 僕がそう言うとにとりや他の生き残った者達がスキマの中に落ちていった。その場に残ったのは僕達三人だけ。
 そして男が喋りだした。

「今のは何です?もしかして今のが貴方達の奇襲攻撃の正体ですか?」

 さすがに今の光景を見れば疑うか。まぁ正直に答える義理はないけど。

「さてね、そんな事よりその子返してくれないかな?大切な子なんだよ」

「仰っている意味が分かりませんねー。返せも何も彼女は自らの意思でこちらに居るのですよ?ねぇ楓様」

 僕の問いに男はいやらしい笑顔を浮かべながらそんな事を言う。自らの意思でね…笑わせてくれるよ。

「そうなの?じゃぁなんでその子は泣いているんだろうね?」

 僕の言葉通り楓は無表情で涙を流していた。そんな楓を見ながら男は、

「きっと嬉し涙でしょう!わたくしの為に!いや、大和の為に尽くせる事を喜んでいるのですよ!」

 芝居がかった動きをしながらそんな事を声高に叫んだ。反吐が出るとはまさにこの事だろう。まぁなんとか相手の能力の推測は立った。
 おそらく複数には使えない。使えるならすでに僕に使用している筈だから。楓の涙からして身体を支配するのであって精神を乗っ取る類では無さそうだ。
 これなら直接能力者本人を叩けばいい。精神を支配する能力の中には自分が死んだ瞬間に相手に乗り移る奴もいる。

「君の戯言にこれ以上付き合う気は無いから」

 そう言って一気に距離を詰める。しかし、

「甘いのですよ!楓様!!」

 男がそう言った瞬間、楓の足元の水が螺旋を描きながら槍の様に僕に迫ってきた。幅が二メートルを超える水の槍が蛇の様な動きをしながら僕の命を狙う。
 それだけではなく三十センチ程の円盤状になった無数の水刃が周囲を取り囲んでいた。回避に専念しながら僕は疑問を抱く。
 おかしい、確かに楓は諏訪の中で一番格の高い水神だった。けどこれ程の力は無かった筈。
楓の攻撃に追い立てられている僕を嬉しそうに見ていた男がこっちの疑問を知ってか知らずか話し出す。

「驚いていますね?実はわたくしの能力で楓様の御力を限界無く発揮させているのです!」

 予想以上に最悪な能力だった。
 抑制機能と言う言葉がある。これは様々な事に適用する言葉だが人の筋肉で説明すると、人筋肉使用は高くて六割程、理由は脳が制限をかけているから。それは何故か、際限なく全力で筋肉を使用し続ければすぐに筋繊維が壊れる為だ。限界を超えさせないために働く機能それが抑制機能。
 つまり人が限界を超えて動けば身体を壊す。では神や妖怪が限界を超えればどうなるか?存在が壊れるのだ。簡単に言えば形を保てなくなって消滅する。
 あの男が操っている相手の抑制を意図的に外せるという事は、長引けば楓が消滅してしまう。
躊躇してはいられない。

傲慢(ルシファー)!」

 左手に現れる小太刀。それと同時に空中に十数個の三十センチ四方のブロックを創り出しそれを勢いよく楓と男の周りの水場に叩きつけた。轟音と共に水飛沫で互いの視界が塞がる。

「なっ!な、何です!何が!」

 突然の状況に男は慌てふためいている。たぶん楓はあの男の命令がなければ動かない筈。
なら男の視界さえ奪ってしまえば反撃はされない。こっちは気配で何となく相手の位置が分かる為視界が塞がってもさして問題じゃない。
 僕は刀をしまい一気に距離を詰め水飛沫を抜ける。楓の丁度正面に飛び出し右掌打を当て楓を後方に吹き飛ばす。念の為の処置だ。

「え?なっ?」

 そして呆気に取られている男の胸板に傲慢(ルシファー)を突き立て一気に引き抜いた。紅い鮮血が舞う。
 “楓の胸元から”

「え?」

 男の後方で起き上がろうとしていた楓の胸に紅い彩が広がる。男の方を見れば傷以前に服にすら刺した後が無い。
 何が?何で?何故?僕の脳内に疑問の嵐が起こる。

「は、はは…お、驚いていますね!わ、わたくしの能力は操っている者に傷を転写する事がで、出来るのですよ!」

 男は尻餅をつきながらそんな事を叫ぶ。最悪だ!完全に僕の落ち度だ!男を無視して倒れた楓の元へと急ぐ。

「楓!しっかりして!」

 抱き起こしそう声をかけた。自分の行動が白々しく感じる。僕があの男に放ったのは必殺の一撃だ。それを転写したという事は絶対に助からない。

「………」

 楓が何かを呟いていた。

「楓…何を…」

 そう言いかけた僕の耳に今度は楓が何を言っていたのかはっきり聞き取る事ができた。

「…すみません…ごめんなさい…すみません……諏訪子様…」

 謝罪。自分がした事に対して?違う楓は何も悪くない!悪くないんだよ!楓の胸元は真紅に染まりその瞳からは光が消えていく。そして身体から蛍の光のようなものが次々と舞い上がった。神が死ぬ時に発生する現象だ。

「……諏…訪子…様……早…希…何…処…」

 僕の腕の中で楓が中に手を伸ばす。でも今彼女の求めている人物は此処にはいないんだ。そっと楓の手を取った。なんという偽善。彼女を死に追いやった僕に本当はそんな資格は無いのに。
 僕の思いとは裏腹に楓は安心したように少し微笑むと完全に光の粒子となって散っていった。





□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 あ、危なかった!死ぬかと思った!あの男に言ったように操っている者に傷を転写できる、ただし一回だけだ。しかもそれを使えばその人物は二度と操れなくなる。
 と、とりあえずあの男が向こうに行っている内に此処から逃げなければ!戦って勝てる相手じゃない!わたくしはこんな所で死んではならない存在なのだ!
 わたくしがその様に逃げの算段をしていると、

「おお!やるではないか斎賀殿!本当に一人で此処の陣を落とすとは!」

 援軍!おお!天はわたくしに味方した!これで恐れる事は無くなった!ハハハハハッ!見えるぞ!わたくしの輝かしい未来図が!この功績で愛しの天照様の側近として侍るわたくしの姿が!
 援軍さえいればあの男を操れるはず。わたくしの能力は相手に名乗らせる事で発動する。あの馬鹿な女の様に操ってあげましょう!
 わたくしは今だこちらに背を向けて膝をついている男に声をかける。

「あーこほん!そこの貴方もう勝ち目はありませんよ?大人しく投降した方が賢い生き方ですはい!と言う訳ですので貴方のお名前を伺ってもよろしいですか?」

 わたくしの問いに男は背を向けたまま答えた。

「……錦月庵」

 掛かった!すぐに能力を発動するが何故か手応えが無い。どういうことだ?

「……なるほどね、やっぱり名乗らせる事が発動条件か。聞き方が怪しかったからもしかしてと思ったんだよ」

 男は振り返り困惑していたわたくしを見ながらそんな事をほざいた。

「楓は真面目だから素直に答えたんだろうね」

 男はその場を動かず話を続ける。その隙に援軍で来た者達が男を包囲する。

「これは戦だ、楓が死んだのは仕方の無い事。僕の作戦でこの戦場でも沢山味方は死んでる。親しい相手だからって悲しむ資格は僕には無い」

 この男は何が言いたいのだ?

「君を責めるつもりは無いよ。さっきも言ったけどこれは戦だから仕方が無い。だから…」

 男が(おもむろ)に左手に持っていた小太刀を頭上に掲げる。

「これはただの…」

 そして突如として我々の上空を埋め尽くすほどの刃の群れが出現した!

「八つ当たりだよ!」

 男が指揮棒の様に小太刀を振り下ろすのと同時に天壌の刃の群れが地上の我々目掛けて降り注いでくる。
 わたくしは黄金色に輝いていた未来図と共に刃の奔流に切り刻まれた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 傲慢(ルシファー)の砕ける音が周囲に響く。何をやっているんだ僕は。彼らを殲滅する為だけにこんなに消耗する必要は無いって分かってた筈なのに。
 感情的になるな、冷静になれ――――今だけは。自分自身にそう言い聞かせる。

「紫、本陣に戻るからスキマを開いて」

 僕がそう口にするとスキマが開き中から半泣きの紫がこちらを見ていた。僕はスキマに入ると無言で紫の頭を撫でる。
 紫は何か言いたそうに僕を見上げるが僕は「何も言わないで」と言う代わりに首を横に振る。今この子に慰められたら甘えてしまう。
 スキマを抜け本陣に戻ると予想通り騒ぎになっていた。

「おお!七枷殿一体何があったのですか!」

 僕の姿を見つけた岩さんがそう言いながら近づいてくる。

「…岩さん、諏訪子は何処?」

「えっ?あ、あぁあちらにいらっしゃるが…本当に何があったのだ?」

 悪いとは思いつつ岩さんの質問を無視して諏訪子の所へ急ぐ。数人の神と話をしていた諏訪子は僕に気付くと駆け寄ってくる。

「虚空!楓は!楓はどうしたのさ!」

 僕の胸倉を掴み錯乱したように詰問してきた。

「…楓は死んだよ。そんな事より「そんな事ってなんだよ!!楓が死んだんだよ!!」

 物凄い形相で僕を睨みつける諏訪子。僕だってこんな事は言いたくない。でも僕達の今の立場でそんな事は言ってはいけない。…気は引けるけどこの際仕方が無い。

「イヤだな諏訪子、王が戦の最中にたった一人の為に涙を流すの?止めてよ他に示しが付かないでしょ。そんな事ならいっそ降服しようか?そうだそうしよう、そうすれば好きなだけわんわん泣けるよ?国も責任も捨てて『御免なさい許してください!』って懇願すればいいだけなんだから。じゃぁさっそく白旗の用意を…!?」

 肉を叩く鈍い音が周囲に響く。
 そこで僕の台詞は諏訪子の右拳によって遮られた。口の中に血の味が広がる。決して大きな音ではなかった筈だが僕達の周りは静寂が支配していた。
 諏訪子は拳を振り抜いた姿勢のままワナワナと身体を震わせている。そして、

「馬鹿にすんな!!!!分かってるわよ!!!」

 涙目でそう叫んだ。言葉は少ないがしっかり覚悟は伝わってくる。

「…上等。じゃぁ最後の作戦を始めよう。皆も覚悟を決めてもらう」

 僕の言葉にその場に居る全員が力強く頷いた。




□   ■   □   ■   □   ■   □   ■   □   ■




 神奈子の元に一つの報告が上がる。
 河上の陣を落とされた後全軍を一箇所に集めて防御に徹していた諏訪の軍が突如反撃に出たと。
 それだけなら想定の範囲だったが奴等の陣頭に敵の大将であるはずの洩矢がいるというのだ。鋒矢(ほうし)の陣で一気に此方の中軍を破り本陣に進軍してきているらしい。
 本来ならその陣形では大将は後方に配置する筈なのだが敵の策士は相当にイカレているようだ。

「どうすんだ神奈子?また敵の罠か?」

 俺は報告を聞いてからずっと黙っている神奈子に問いかける。

「…自分の所の大将を態々先頭に配置するか…罠にしてもこっちが先に洩矢を討ってしまえばそれまでだよ。それに敵の正体不明の奇襲も警戒さえしていれば防げる筈だ。伝令!各部隊に鶴翼(かくよく) の陣で敵を包囲しつつ中央を抜けさせる様に伝えろ!敵が中央を抜いた所で本陣の部隊で進軍を受け止める!そうすれば連中は袋の鼠だ。行け!」

 神奈子の号令を受け伝令達が飛び出していく。神奈子の指示は最良で適切だ。でもなんか嫌な感じがする、闘神の勘ってやつだが。


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 その後の戦況は神奈子の計略通りに進んだ。こちらのほぼ全軍での包囲戦、あそこからの打開はどう考えても無理だ。どうやら敵の策を警戒し過ぎていたらしい。
 遠目に戦場を見ながらそんな事を考えていた。そして突如悪寒がした。途轍もなく嫌な予感。
俺は近くに居た神奈子と姉貴の元へと走り、

「二人とも動くんじゃねーぞ!」

 俺が能力を使うと俺達の周囲の地面から幅が一メートルもある長大な刃が無数に生え天幕状に包み込んだ。
 直後とんでもない重圧が襲ってくる。防御していなければ潰されていた。そう確信出来るほどの重さだ。

「な、何だいこれは!」

「くっ!」

 神奈子も姉貴も突然の重圧に苦悶の声をあげる。刃の天幕がベキベキと音を立てるが力を注ぎ込み重圧に抗する。どれ位の時間そうしていたか分からないが不意に重圧が消えた。
 念の為刃を細かく砕き全周囲ばら撒く。刃が砕け視界が開けた先に居たのは男が一人、女が二人。

「…流石にこれは想定外なんだけど…」

 男がそんな事を口走った。




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 僕が指示した最後の作戦は至って単純だ。簡単にいえば諏訪子を囮にして敵本陣から戦力を誘き出す事。内容は単純だが実際はそんな簡単な事じゃない。
 そもそもこちらの大将である諏訪子を陣の先頭に置く事がハイリスク・ハイリターンな賭けだ。上手くいったから良かったが下手をすれば諏訪子が討たれて戦が終わっていた。
 敵の戦力を引き剥がした後は僕とルーミアそしてスキマで回収した諏訪子の三人で手薄な敵本陣を強襲し神奈子を討つ手筈だった。本隊の方には敵が本陣に戻らないように死に物狂いで足止めをしてくれ、と命令してある。
 途中までは予定通りだった。でもまさか神奈子と同等の気配を持つ人物が二人も居たのは流石に想定外過ぎた。
 その事を吐露してしまった自分を叱咤し状況の打開策を考える。すると栗色の髪をした女性が此方に声をかけてきた。

「そちらにいるのはもしや諏訪の王、洩矢ですか?」

 その瞳は僕の後ろに居る諏訪子を見つめていた。

「…そうだけど、あんた誰さ?」

 いきなり自分を名指してきた人物に不審を隠しもせずに問い返す諏訪子。

「失礼、お初にお目に掛かります私の名は天照。大和を統べし者です」

「「「 はっ? 」」」

 彼女の発言に僕達は間抜けな声を出してしまった。何で此処に敵の御大将が居るんだ?僕達の疑念を察したのか天照は続ける。

「古き大国である諏訪との決戦に大和の長として参じるのは礼儀と思いまして。もっともこの様な形で邂逅するとは思いもよりませんでしたが。しかし残念です、まさか歴史ある諏訪の国がそのような穢れを我々の戦に持ち込むなど……失望しました」

 天照の嫌悪の視線の先にはルーミアがいた。どうやら相当な妖怪嫌いみたいだな。とりあえずお喋りに興じるほどこっちには余裕がない。さっさとしないと本隊が全滅する。
 正直神奈子以外の二人は想定外だがその内の一人が敵の大将なら話は別だ。彼女を討てればこっちの勝利。討てなくても深手を負わせれば撤退させる事も出来る筈。

「お喋りばっかしてねーでとっとと始めようぜ!俺の名は須佐之男!大和最強の闘神だ!さぁテメー等も名乗りな!!」

 そう言うと須佐之男は腰に()いていた長さが七十センチ程刃幅が五センチもある剛刀を抜き放ちその切っ先を此方に向けてくる。
 その横で神奈子が須佐之男の言葉に呆れながらもその手に長さ百八十センチ程幅が三センチの六角棍を呼び出していた。

「念の為に名乗ろうかね、あたしが八坂神奈子だ。まぁそこのあんたには一度名乗ってるけどね」

 神奈子は僕を見ながら唇の端を少しだけ吊り上げる。こんな所で再会するなんて思ってもいなかっただろう。
 相手の名乗りを受け諏訪子が声高々に応えた。

「あたしが諏訪の王、洩矢諏訪子!あたしの国に手を出した事をたっぷり後悔させてやる!!」

「しょうがないわね、私はルーミアそこの女が言った様に穢れた妖怪よ。よろしく!」

 諏訪子に続き天照に嫌味を返しながらルーミアが名乗りを上げ闇色の大剣を呼び出した。

「僕は特に何でもない人間の七枷虚空。侮ってもらえると嬉しいかな?」

 そう言うと神奈子達の反応は予想外のものだった。何故かは知らないけど少し驚いているようだ。

「アーハハハハハッ!!こいつはいいや!テメーが神狩か!嬉しいぜやり合ってみたかったんだ!」

 須佐之男が笑い声を上げたかと思うとそんな事を言ってきた。まぁ理由はどうあれやり合うのは決定事項だ。
 最終戦が幕を上げた。

 
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