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最後列

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第四章

「思ったよりよくなかったかも」
「よくなかったの?」
「そうだったの」
「だって、後ろにね」
 背中、そこにだというのだ。
「誰もいないっていうのはね」
「それがなの」
「どうしてもなの」
「うん、私これまでずっと後ろに皆がいたじゃない」
 最前列にしかいなかったから当然だ、このことは。
「けれどそれでもね」
「今回は皆が前にいて」
「後ろにはいないから」
「それがなのね」
「どうしても」
「うん、ちょっとね」
 首を右に左に傾げさせながらそのうえでの言葉だった。
「微妙だったの、違和感があって」
「そうした感じだったのね」
「背中が寒かったわ」
 誰もいないせいでだ、どうしてもそう感じたというのだ。
「後ろ見たら誰もいなくて寂しかったし」
「じゃあ一番後ろは嫌?」
「そうなの?」
「小さいのは確かに嫌よ」
 小柄なことへのコンプレックスは確かにある、とにかく小学生に間違えられていつもあれこれ言われるからだ。
 だがそれでもだとだ、朋子はいうのだ。
「けれど後ろに皆がいてくれるから」
「そこは安心できたのね」
「そうなのね」
「そうなの、まあ後ろから意地悪する娘もいたけれど」
 悪戯でだ、これは誰かが後ろにいればどうしても起こり得ることだ。だがそうしたことを考慮してもだというのだ。
「それでもね」
「後ろに誰かいてくれるのはいいっていうのね」
「これまでもそうだったから」
「最後列も完全によくはないのね」
 これが朋子の最後列になった感想だった。
「そのことがよくわかったわ」
「そうなのね、慣れていないし」
「このこともあって」
 友人達もわかった、朋子のその考えが。
「じゃああんたはやっぱり」
「一番前がいいっていうの?」
「うん、そうなるわよね」
 朋子は考える感じの顔で友人達に述べた。
「結果としてね、じゃあ最前列に戻ってもね」
「そうなってもなの」
「これまでとはちょっと違うと思うわ」
 憧れていた最後列のことを知ったからだ、それでだというのだ。
「嫌なことばかりじゃないわね」
「じゃあ小さいってことも」
「そうなるのかしら」
「みたいね、じゃあこれまでよりはね」
 少しだけでもだ、それでもだというのだ。
「小さいことにもコンプレックス感じずにね」
「一番前にいるのね」
「これからのあんたは」
「そうしたいわね、少しだけでもね」
 笑顔で言う朋子だった、そしてだった。
 次からまた一番前になった、だがそれでも朋子はこれまでよりはその一番前に笑顔でいられた。後ろにいる皆のことを感じられるから。


最後列   完


                     2013・6・28 
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