魔王の友を持つ魔王
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§35 白銀の軌跡と漆黒の螺旋
前書き
ドニもなんだかんだ言って最後の能力が不明なんですよねぇ(汗
仮死云々言ってたからそれ系統だとは思うんですが。
ジークフリードの権能の方に仮死効果ついているのかしら?
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「っと、な」
邪気で具現化した翼を用い、地表へゆっくりと降下していく。こちらがひとたび注意をむけたらもう攻撃はしてこない。どうやらドニはこちらの注意をひく気で攻撃してきたようだ。全ては挨拶代わり。なんとなく、でどうせ飛行機まで壊されたのだろう。
「なんつー迷惑な……」
呆れる黎斗と対照的に、目を満面の笑みの剣の王。
「とうとう本性を現したね?」
肉食獣が獲物を見つけた目でこちらを見てくるドニ。背後で賽巻にされふごふごと呻いているのはアンドレアだろうか?
「何やらかしてんですかアナタは」
権能を用いて襲撃してきた、とうことは黎斗がカンピオーネであることがバレたことは確定したも同然か。
「いやー酷い酷い。隠すことないじゃないか大先輩」
アンドレアを見やる黎斗と、怯えを見せるアンドレア。
「なんかこの前の戦いでイロイロ隠してるっぽかったからさぁ」
「んで、アンドレア卿を絞め上げた、と」
半眼でドニを睨む黎斗に対し、ドヤ顔のドニが笑みを見せる。
「あぁ、違う違う。なんでキミがロンギヌスを持っていたのか、というところから疑問は始まったんだ。ソレはレプリカなんかじゃない。その気配、ホンモノなんだろ?」
ロンギヌス? 一体何を言い出すのだろうか?
「それがどうし……」
「レプリカなら色んなトコで見かけるけどホンモノは目撃情報なんて全くない」
「!?」
言葉を遮られ、発せられた言葉は予想外の内容だった。こいつ脳筋じゃなかったのか、などと焦る黎斗。背筋を冷たい汗が伝う。自分は、何を見落としている――?
「……歴代の持ち主がひっそりと隠れ潜んでたんじゃないの?」
「じゃあさ。仮にキミが人間だと仮定して。なんで人間如きが神の武器を使っているんだい? 知ってるかい? 普通の人間は死ぬんだよ? 平気な顔でロンギヌスを扱えることこそが、キミが同胞である何よりの証。神の武器は――人如きに扱える代物じゃあ、ない」
「……」
どうにか絞り出した言葉は、ドニの言葉に一刀両断され、今度こそ黎斗は完全に沈黙した。武器の名前を言うだけでここまで追い込まれるとは。
「んで黎斗がカンピオーネって言ったらアンドレアが焦るのよ。問い詰めてみたら知ってたらしいじゃない。主に隠すの、ヒドイんじゃない?」
朗らかに「僕の心を傷つけた責任、ちゃんととってよ?」などとのたまう魔王。彼を前に黎斗は苦虫を踏みつぶした表情を作らざるを得ない。完全に、油断した。
「……はぁ」
しょうがない。これは隠しきれない。
「よく僕の正体に辿り着いたね、後輩。ご褒美だ。僕が戦ってやる」
「そうこなくっちゃ!」
「ただし」
喜ぶドニに被せる様に言葉を紡ぐ。これだけは確約させねば。そのために「ご褒美」などと役者のように振る舞ったのだから。ドニに満足してもらえるような演出をすればきっと条件を呑んでくれる筈。
「僕の正体を、絶対に漏らさないこと。これが守られない場合僕は何が有ろうと戦わないよ」
黙ってもらう代償に一戦交える程度なら安いものだ。気障ったらしい喋り方は正直とっても恥ずかしかったけど。
「戦ってくれるんならそこらへんはどーでもいいよ!」
ニコニコと満面の笑みを浮かべるドニ。
「じゃあ、そういうワケだから」
銀に輝く右腕をだらりとさげて、サルバトーレ・ドニは宣言する。
「僕は僕に断てぬ存在を許さない」
「さて」
言ったは良いがどうしよう。黎斗としてはそれに尽きる。彼の権能は、どう贔屓目に見ても近~中距離専門だ。対するこちらは遠距離中距離近距離なんでもござれ。遠くからチマチマ銃やら弓を撃っても良いし、至近距離で剣やら槍、(あまり得意ではないが)殴り合いも出来る。微妙な距離からワイヤーや術で攻めても良い。ドニに投擲技もある事はわかるが、投擲ならばこちらも投擲で対応出来るのは旅客機からの落下の時点で証明済み。焦点は必然的に、ドニが自身の間合いにいかにして黎斗を誘い込むか、という形になる。
「どーしよ……」
しばし逡巡。別にドニの間合いに入ってやる義理もへったくれもないのだけれど。
「選択肢ミスると強制的に毎日勝負挑まれる展開になりそうだよね」
友情ENDならまだしも、その可能性は胡麻粒より小さいだろう。
「あーあ。どうしてこうなった」
ロンギヌスを見せただけでこうなるとは。剣を避けつつため息を吐く。相手の踏み出した足を払い、勢いを利用して放り出す。くるくるとドニは宙を舞って綺麗に飛んでいく。この数秒で、態勢を整える。
「しゃーない。こっちも至近距離勝負、か」
自身の得意とする射程でズタボロに負ければ、しばらくは来なくなるだろう。遠距離勝負で勝っても、卑怯だのなんだの言われて結局毎回襲来しそうだし。
「さて、じゃあ行くぞ」
影の扉を開き、武器を取り出す。二振りの無骨な大剣を持って、邪気の力を剣に満たす。邪気化した自身の一部を武器に”汚染”させるような感覚。所有者の命を奪う魔剣のようにおどおどしく、邪神の加護を受けたかのように禍々しく。
「ん、こんなもんかなぁ」
「余所見とは余裕だねぇ黎斗!」
小細工をしている間にここまで接近してきたか。こちらへ振るわれる刃を受け止めつつ黎斗は密かに嘆息する。想定よりも随分と速い。牽制で振るった一撃だが。
「無駄ぁ!!」
銀の軌跡を描く剣が、当然の如く大剣を切断する。まるで紙か何かのように。せっかく邪気化したのに無駄になってしまった。おまけに眼前を刃の切っ先が掠め。紙一重の回避。
「……こりゃ手こずる、かなぁ。様子見で倒れてくれるとベストなんだけどそれは無理くさいぞ」
大剣の強度は相当あった筈。まして邪気化による強化もしていたのにこのザマだ。当たったら拙いことがわかったので回避に重点を置いて行くとしよう。
「一刀流は慣れてないんだよなぁ」
二刀流より一刀流の方が強い。これは古来より言われることだ。剣を二本持つことと二本同時に振るうことは全く違う。二本で戦うということは一本だった時よりも当然自由度は上がるのだろう。だがそれは一本の剣を片手で十全に使うことが出来る、という前提のもとに成り立つ。
「――来い。重量刀」
武器は、重い。当然のことだ。大抵の武器は片手で振り回せるような生易しい代物ではない。「武器に振り回される」ことすらも片手で持っていては叶わないだろう。よしんば振り回せたとして、戦いが長引けば疲労によりそんな真似は次第に出来なくなる。だから二本使う場合は大抵、攻撃用の長剣と防御用の短剣の組み合わせとなる。短剣で受け止め、長剣で切り裂く。それが常識。だが。
「前と違って二刀流なんだね……ッ!!」
ドニが呻く。矮小なる英雄により、身体能力が激増している今の黎斗に、そのような人間の常識は通用しない。人間が使う程度の武器なら軽々と使いこなせる。十全どころか、十全以上に使いこなすことも不可能ではない。長剣の二刀流を真の意味で実現できる。攻撃にも防御にも変幻自在の軌道を魅せる、二本の剣は見る者に己が威容を鮮明に刻む。
「二刀流は僕の中で槍の次に得意な戦法よ。――僕から本気を、引き出してみせろ」
黎斗からドニに向けられた最大級の挑発。ドニが乗らないはずが、ない。
「……上等ぅ!!」
聖騎士ですら粉微塵になるであろう剣舞が二人の間で巻き起こる。
「これほどか……!?」
アンドレアの声が潮風漂う水面を走る。互角の戦いを演じることが出来たのは僅か数分の間だけ。有利に戦っているのは黎斗であり、ドニは思うように動けていない。黎斗が優勢であることが、素人目にもわかるほどだ。至高の武を体現する魔教教主とも剣なら互角に張り合えるドニが、押されている。剛を究めた一撃はいなされ、柔を極めた一撃は押しつぶされ。ドニの実力を知るが故に、眼前の光景は到底理解出来るような物ではない。
「うん。だいぶいいカンジだわ」
ここに最も得意な武器で、ドニと互角に張り合っていた頃の黎斗の面影は残っていない。連戦に次ぐ連戦は、黎斗の鈍っていた腕を確かに呼び覚ましていた。満足げな声と共に、腰を深く落とす。直後、頭上すれすれを銀の軌跡が通り過ぎた。
「くっ…… 本当に、強いねぇ……!!」
ドニの声にいつものような暢気さなど無い。一部の隙も見逃すまいと冴え渡る瞳も、全てを切り裂く究極の剣も、今は無意味。
「せッ!!」
左右交互の二連撃。水月で交差する筈の斬撃を防ぐのは、旧き英雄の権能たる鋼の肉体。攻撃を表面上は阻みきったように見える。が、
「斬鉄出来ないワケ、ないでしょ?」
「!?」
神をも葬る秘奥の一、斬鉄。とある剣豪が生み出した、東洋に生まれし神を殺める為の技術。人の業が神を超える、その証明者であるドニも斬鉄が出来ない訳ではない。だが、眼前の少年が世界でも稀少な業の使い手だとは思わなかったのだろう。瞳に写す驚愕と連鎖し、鋼の体躯に傷が走る。舞う血飛沫と共に黎斗の得物も砕け散る。
「やっぱ傷程度か。……こっちは壊れたのにさ」
瘴気を帯びた二振りは粉々になった。いかに神殺しの秘奥といえど、本物の神の力を前にしてはやはり厳しいらしい。全存在を賭けてつけた傷がかすり傷とは。これでは武具も浮かばれまい。
「いろいろひどい。やっぱ理不尽だわ」
不満を告げる少年の手には、波打つ炎の剣が二振り。黎斗の陽炎の如き動きは、ドニに間合いも、攻撃の気配も察知させない。瞬時に変わり続ける動きは心眼をもってしても易々と捉えられるものではない。瞬時に迫る黎斗は再び斬鉄。いとも容易く秘奥を放つ様は、異端の天才と呼ばれたドニも舌を巻く。
「今日は武器の大盤振る舞いだ」
死の宣告は簡潔だった。鋼の体を切り裂くまでには至らないが、己が命と引き替えに肉体に傷を与えていく無数の剣達。破砕音とドニの傷痕はただひたすらに増えていく。彼の抵抗は、全て紙一重で躱されて、一撃たりとも当たらない。
「痛っ、痛い痛い痛い……!!」
緊張感の無い声が、致命傷を受けていないことを教えてくれるが、いつまで保つかは時間の問題だ。あのサルバトーレ・ドニが防戦一方という異常事態を、誰が予想しただろう?
「水羽黎斗、一体何者だ……」
まさか武の極みにも匹敵する剣才が及ばないとは。
「前回での一件では加減していた、とでもいうのか……!?」
賽巻きにされ戦慄する苦労人は、震える奥歯を噛み締めた。少年の姿をした未曽有の化物との誓約――彼の正体を黙秘すること――を破ってしまった結果招かれるであろう、絶望的な未来を想像して。
―――水羽黎斗はカンピオーネかい?―――
ドニのあの問いに動揺さえしなければ。僅かな動揺から彼の主は疑惑を確信に変えた。あの時は、ここまで一方的な展開になるとは予想していなかった。
「なんなのだ、あの方は……!!」
それだけならまだしも、彼の振るう剣の禍々しさは、アンドレアに本能的な恐怖を植え付ける。自らの主と戦う"アレ"は何だ? アレを親友の同朋と、思いたくなかった。
「ほらっ!!」
ドニが後ろに吹き飛ばされる。黎斗程度の腕力では呪術で強化していても、矮小なる英雄で強化していてもここまでの距離は吹き飛ばせなかっただろう。それならばこれはドニが、仕切り直したくて後ろへ下がったと見るべきか。
「くっ……」
この時、腹部の違和感に気付けていれば、展開は変わっていたかもしれない。鋼の身体に権能無しで傷をつけられた、という事に注視しすぎていたのは、間違いなく彼の敗因だった。斬撃だと思った感覚は斬撃に非ず。彼の肉体が熔けているという―――事実。
「これで終わりだよ」
大地に手の平を置く。マモンの権能で周囲一帯の大地を鉄に変化させたのだ。
「!?」
悪寒を感じて飛びずさろうとしたドニだが、それも残念ながら、叶うことは無い。雁字搦めに縛られたワイヤーが、ドニの動きを阻害する。
「無駄な事を。この程度のヒモで――!?」
重量に物を言わせて引きちぎろうと自身の重みを増やした事も、敗因だっただろう。言葉は最後まで続かない。爆音と共に周囲の水分が一斉に気化し、気体の体積が無慈悲なまでに膨張する。即ち、爆発を起こす。―――普通ならば。
「爆発されるとちょいと困るんだよねぇ」
嘯く黎斗は左手に持つ呪符を翳した。緑に淡く輝く札は、爆風の威力を抑え微弱な上昇気流へと軽減させる。一瞬白煙が周囲を覆ったが、上昇気流によりすぐにそれは空の彼方へ飛んでいく。
「数秒持てば十分だったんだわ、うん。……もう聞こえないか」
周囲の気配を探り無事、ドニがいないことを確認する。相手が魔王ならば油断が死と直結しかねない。
「よっ、と」
アンドレアまで被害が及ぶ前に彼を回収。安全な場所に放り投げる。それも落下した際に着地の衝撃を完全に殺すような力配分で。これで、決着だ。
「あ、一応始末しなきゃね」
液体と化していた大地をマモンの力で再び金属化する。渦を巻くように外周から固化、黎斗の足元に螺旋が収束していく。きゅぽん、と間抜けな音がして。あっという間に砂浜は鉄板に存在を変質させられた。
「これで良し、と」
黎斗がしたことは至って簡単だ。剣戟を交えながら大地を鉄に変換する。そして、金属と化した足元を熔かす。流体となった金属に鋼となって重量が増したドニが抗える訳も無く。ただただ沈むのみ。灼熱の流体金属の中に生き埋めにしたのだ。大気の膨張により生じた突風も、重量級となったドニを吹き飛ばすには至らない。まして微風に返られてしまえばなおの事。―――ドニに、回避する術なかった。
「あぁ、最後の仕上げがあったか」
気軽そうに黎斗が周囲を眺める。黎斗の邪眼が、金属を再び砂に戻していく。数秒足らずにして、砂浜は元の光景を取り戻す。
「な……」
ドニが相手になっていない、という事実がアンドレアの心身を冷やしつくす。だが、それ以上に。
「さて、と。まぁこれで当分は出てこないでしょう」
造作も無く同胞を撃破した少年が、怖かった。
後書き
順調に停滞を重ねている内にアニメのカンピ、終わりますねぇ……
殺陣が……orz
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