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甘い生活

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第三章

 シャルルは今一つといった感じで首を捻った、そしてこう言った。
「あまり」
「あまりって?」
「いや、確かに黒くて熱いよ」
 このことはタレーランの言う通りだった、絶望の様に地獄の様に。
「けれどそれでもね」
「何かあるの?コーヒーに」
「純粋ではあるね」
 その味は、だ。確かにコーヒーの味だ。
 しかしその最後の甘いもの、それはというと。
「甘くはないね」
「だってお砂糖もミルクも入れてないでしょ」 
 だからだとだ、マルゴはシャルルに言って来た。
「それじゃあね」
「甘くないか?」
「はい、入れる?」
 マルゴは自分の向かい側に座っている彼に砂糖を入れたボットを差し出した、そしてミルクも。
「この二つは絶対でしょ」
「コーヒーに」
「そう、だからね」
 それでだというのだ。
「この二つを入れたら甘くなるわよ」
「じゃあその二つを入れないコーヒーは」
「甘くなくて当然でしょ」
 これが妻の主張だった、実に率直である。
「それはね」
「言われてみればそうかな、やっぱり」
 彼はタレーランの言葉を思い出しながら述べた。
「コーヒーが甘いっていうのは」
「何も入れないコーヒーは絶対に甘くないわよ」
 妻の仕事は花屋だ、だから花言葉は詳しいがタレーランの言葉は詳しくない。それでこう言ったのである。
「だから入れたら?」
「そうするか。じゃあやっぱりあれか」
 シャルルはタレーランの恋の様に甘いという言葉についてさらに考えながら妻に対して述べた。
「コーヒーはそれで甘くなるのか」
「学校の勉強の話?」
「少し違うけれどね」
 タレーランも教科書に出るには出るからだ、あながち間違いではない。
 だがそれでも教科書に出て来るタレーランとはまた違う感じなのでだ、マルゴに微妙な感じで言ったのである。
「まあとにかく貰うよお砂糖とミルクね」
「ええ、どうぞ」
「恋の様に甘い、ねえ」
 飲みながら考えていく。
「どういうことなんだか」
「コーヒーは何も入れないと甘くないわよ」
 マルゴの方もこう彼に言う。
「だからね」
「ああ、そうだよな」
「コーヒーはそのままだと苦いものだから」
 それしかないというのだ。
「だからね」
「そうだよな、じゃあな」
「どっちを入れるの?」
「両方にするか」
 シャルルはこう妻に答えた。
「そうするか」
「はい、じゃあね」
 こうしてだった、シャルルは妻から砂糖とミルクを受け取って両方共コーヒーに入れて飲んだ。そのコーヒーは確かに甘かった。
 だが、だ。やはりコーヒーはそのままだと苦い。甘さなぞ全くなかった。
 それでマルゴと家で飲んだことを喫茶店でペニーにも話した、ペニーもまた彼に対してどうもという感じで言うのだった。
「僕の方もな」
「コーヒーは、だよな」
「うん、苦いだけでね」
 そういったものでしかなかったというのだ、彼も。
「黒く熱く純粋で」
「しかし甘くはないな」
「コーヒーは甘くないよ」
 ペニーもまた言うのだった。 
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