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甘い生活

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第一章

                  甘い生活
 かつてナポレオンの下で外務大臣を務めたタレーランはこんなことを言った。
「絶望より黒く地獄より熱い」
「そして天使の様に純粋だな」
「そして恋の様に甘い」
 これがタレーランの言葉だ、今喫茶店で飲んでいる二人のやり取りである。
「そう言ってたな」
「そうだったな、ただな」
「ただ、何だ?」
「タレーランってな」
 彼、シャルル=クレッソンはこう友人のペニー=ルペンに言った。
「とんでもない奴だったからな」
「ああ、あの人はな」
「確かに有能だったけれどな」 
 このことは歴史にある通りだ、彼は政治家としてはそれこそ欧州のあり方を作る程だった、だがそれでもだったのだ。
「酷い奴だったな」
「そうだな、シャルルもな」
「僕のことか」
「奥さんに手を出されて自分以外の子供産まされたいか?」
「そんなこと喜ぶ奴は相当おかしいだろ」
「まあな、僕もな」
 ペニーも言う、二人共見れば落ち着いてかなり知的な感じだ。シャルルはブロンドですらりとした感じの青い目の男だ、ペニーは茶色の髪で灰色の目をした少しがっしりとした身体つきをしている。二人共仕事は学校の先生だ。このパリの中学校で教壇に立っているのだ。
 そのペニーがだ、こうシャルルに返した。
「そんなことされたらな」
「相手を殺すな」
「当然だろ、そうしないでいられるか」
「例えその間男が自分の愛する生徒でもな」
 例えそうであってもだというのだ。
「もうそいつをな」
「だよな、確かドラクロワがな」
 画家だった彼にも関係があった、タレーランは。
「あれだろ?実の父親がな」
「そのタレーランらしいな」
 この可能性はかなり高いという、つまりタレーランはドラクロワ夫人、人妻に手を出して子供を産ませたのだ。
「他にも何人もの人妻に手を出してるらしいしな」
「しかも謀略家でな」
「結構な人間を蹴落としてるらしいな」
「ナポレオンですら失脚させたからな」
 主である彼も裏切ってである、このことについてはフーシェという共犯もいた。
「おまけに賄賂も取ってな」
「人間としてはとんでもない奴だったからな」
「絶対に傍にいて欲しくないな」
 これはナポレオン失脚を企んだ共犯であり無二の政敵でもあったフーシェも同じだ。二人共上司にも部下にも友人にも同僚にも持ちたくはないタイプだった。フーシェは人間としては清廉で女性にも賄賂にも興味はなかったが。
 だがそのタレーランの言葉についてだ、二人はさらに話していった。
「まあとにかくコーヒーは甘いか」
「恋愛の様にな」
「本当かね、こうして飲んでいてもな」
「そうだよな」
 男の教師二人で飲んでいきながら話していく、そのコーヒーを。
「苦いな」
「砂糖を入れないとな」
 二人は今砂糖を入れないで飲んでみている。無論ミルクもだ。そうして飲んでみているコーヒーは苦いだけである。
「それで甘いか?」
「タレーランは砂糖やミルクをかなり入れて飲んでいたのか」
「美食家だったしな」
 このことでも有名だった、それにまつわる逸話もある。
「だから甘いのか?」
「そう思ったのか?」
「というかな」
 ここでさらに話された、そのタレーランについて。
「タレーランが恋か」
「不倫じゃないよな」
「それも人妻にな」
 このことをが話されるのだった、その中でも特にだった。 
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