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ドラクエⅤ主人公に転生したのでモテモテ☆イケメンライフを満喫できるかと思ったら女でした。中の人?女ですが、なにか?

作者:あさつき
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二部:絶世傾世イケメン美女青年期
  百十七話:爽やかな朝の修羅場

 宿に戻って、遅いのを心配して探しに出ようとしていた仲間たちに出迎えられ。
 あの場面を見られなくて良かったと内心で胸を撫で下ろしつつ、遅くなった理由は適当に誤魔化して。

 準備万端で待ち構えていてくれた女将さんに迎えられ、素朴で温かみのある手料理に舌鼓を打って。
 料理を褒めたり女将さんのお気遣いにお礼を言ったりで女将さんを赤面させつつ、夕食を終えて。

 滅多に客の来ない片田舎の宿に風呂なんていう贅沢品は無いので、キレイキレイで体も服もキレイにして。

 そう言えば踊り子さんにネグリジェを貰ってたなと思いつつ、一応は男設定を継続中なのにそんなもの着ても仕方ないということでいつもの質素な寝間着に着替え、休んで朝を迎えます。



 朝、起きると。

「……あれ?ヘンリー」

 ヘンリーがいました。

 コドランとスラリンはまだ寝てますが、ヘンリーがいるためかピエールも部屋にいるし、珍しく全員が朝から部屋に揃ってます。

「起きたか。おはよう、ドーラ」
「おはようございます、ドーラ様」
「おはよう、ヘンリー、ピエール。……珍しいね、ヘンリーたちがいるなんて」
「……まあな」

 訓練か経験値稼ぎかなんかのために、いつもいないのに。
 田舎の村で朝から動き回ると目立つとか、そんな理由だろうか。
 ……まあ、私が口を出すようなことでも無いか。

「じゃあ、着替えるから。ちょっと、出てくれる?」
「……今日も、男装するのか?」
「うーん……どうしよう」

 カールさんには、もうバラしたからなあ。
 完全に女を見る目に変わってたし、男装だと余計に話がややこしくなるだけかもしれない。
 言った通りに忘れてくれてればいいけど、そうで無かったら下手すると、男同士での修羅場的なものを村のみなさんに見せ付ける羽目に……。
 すぐ出てくし私はそれでも別にいいけど、わざわざ話を複雑にすることも無いか。

「……どっちでもいけるヤツにしようかな」
「そうだな。それがいいな。じゃ、出てるから」
「うん」
「スラリン殿、コドラン。起きられよ。少々、外しますぞ」
「……ピキー……」
「……んー?あれ?朝?ん?ドーラちゃんが、起きてる?……うん、わかった」
「おはよう、スラリン、コドラン。ごめんね、すぐ済ませるから」
「ピキー!」
「おはよう、ドーラちゃん!いーよ、ゆっくりで!」


 というわけで、今日はどっちにも見せかけられる中性的な服装を選んで。
 着替えて身嗜みを整え、朝食も済ませて宿を出ます。


 まずは道具屋に寄って、毒針を。
 こういうものは非力な女性や魔法使いの護身用であるのが世の常だということで、非力であるかは置いておいて女性である私としても、まあ使えそうだということでスラリンと私に計二つを購入して。


「ドーラ様。まずは西に向かい、魔物の()()となりそうな場所を探すということで、宜しゅうござりますか」
「そうだね。それで行こう」
「魔物の棲み処かー。洞窟でもあればいーけど、その辺の森で寝起きしてるようなヤツだとなー。ちょい、大変そー」
「ピキー」
「そうだね。まあ、何かあるかもしれないし。まずは、行ってみよう」

 話しながら、村の外に向かって歩いていると。


「ドーラさん!待ってけれ!」

 ああ。
 来てしまったか。

「……カールさん。おはようございます。何か、ご用ですか?」

 追いすがって来たカールさんに振り返り、返事をします。

「ん、んだ!おら、一晩考えただが、やっぱり、……ドーラさん、今日は、なんだか……か、可愛い、だな……」
「……」

 用件を言う途中でまじまじと私を見詰め、ぽっ……と顔を赤らめるカールさん。

 少しは女らしく見えなくも無い姿を見たからって、いちいち惚れ直してくれなくていいんですけど。
 ていうか、惚れられてるのか、やっぱり。
 揉まれたせいで。

 微妙な顔で黙り込む私をヘンリーが抱き寄せて腕の中に囲い込み、カールさんが咎めるように声を上げます。

「な!!よ、嫁入り前の娘っ子に……!!な、なんてことさ!!は、離れれ!!」
「お前に言われることじゃないな。昨日、ドーラに……何、した?」
「……!!」

 低い声で問うヘンリーに、瞬時に真っ赤になって目を泳がせるカールさん。

「……やっぱり、お前か」

 ……ヘンリーの、声が、雰囲気が!

 低いです、声が!
 怖いです、雰囲気が!
 思った以上に、修羅場です!!

「……ヘンリー!!あの」
「わかってる。優しいな、ドーラは。こんなヤツのことまで心配して。でも」

 カールさんに向けた冷たい声から一転、やけに優しいというか、やたら甘いような声を私に向けたヘンリーが、耳元に顔を寄せて来ます。

「……俺の前で、他の男のことなんか、考えないでくれ」
「……!!」

 …………耳元で、甘く囁くとか!!

 なに、なんなのこのヘンリーは!?
 なに、新しいキャラ開拓してるの!?

 尋常じゃなく恥ずかしいんですけど!!

 真っ赤になって俯く私の頭をまたやたら優しく撫でながら、ヘンリーが再びカールさんに冷たく声をかけます。

「そういうことだから。お前の出る幕じゃ無いが、まだ何か用か?」
「ぐ……!ど、ドーラさんが、そう言ったわけでねえ!ひょっとしたら、嫌がって」
「嫌がってるように見えるか?」
「ぐっ……!!」
「お前がしたことは……嫌がってた、よな?」
「……わ、わざとでねえ!!おら、そんな」

 ああ、なんという修羅場。
 やめて、私のために、争わないでー。
 みたいな。

「当たり前だ。わざとそんな真似してたら、ドーラがどう言っても許さない。わざとじゃなくても、本当なら許したくは無いが。……ドーラが、泣くからな」

 そしてまたいちいち、私にかけるヘンリーの声が……!
 なんで、そんな、甘いの!?
 そこまでする必要、ありますかね!?

 なんかもう止めないといけないのかもしれないけど、居たたまれずにまた真っ赤になる私を絶望したように見詰めて、カールさんが必死に叫びます。

「だ!!だども!!ドーラさんが大事なら、なして!!危ねえ真似さ、させるだ!!おらなら、好いた娘っ子に、ドーラさんに!!そったら真似、絶対にさせねえ!!」

 ああ。
 やっぱり、そういう感じですか。

 私が、望んで旅を、危ないこともしてるって、ちゃんと言ったのに。
 あなたが、させたくないから、させないって。
 やっぱりあなたも、そう言うんだ。


 急に冷静になって私が口を開こうとすると、それを遮るようにヘンリーが。

「俺は、ドーラを自分の思い通りにさせたいわけじゃ無い。ドーラがしたいことを出来るように、力になりたいだけだ。することもしないことも、俺はドーラに押し付けない。ドーラがしたいことをさせて、それに付き合って。危なければ、守るだけだ」

 ……なんで。

 なんでコイツは、こういうところを外さないんだろう。
 いちいちこういうことを言うから、言うだけでなく実際にしてくれるから、うっかり縋り付きたくなって。
 甘えきって、もたれかかって、一緒にいたくなってしまう。

 私は、それじゃダメなのに。

「そ、そったらこと……!いつでも、守れるとも、限らねえべ!なら、始めっから」
「絶対に安全な場所なんてあるのか?一番安全な場所に置くために、閉じ込めるのか?お前の勝手で?ドーラが嫌がっても?」
「お、おら……そったらこと……!」
「俺は、ドーラの嫌がることはしない。いつでも守りたければ、俺が強くなればいいだけだ。だから俺は強くなったし、まだ強くなる」
「う……ぐ……!!」

 澱み無くはっきりと言い切るヘンリーに対して、言葉に詰まって押し黙るカールさん。

 これは、勝負あったということでいいんだろうか。
 最初から、勝負になってなかったような気もするが。
 そろそろ私が、口を挟むべきなんだろうか。

 と、思ってると。


「は!朝からお盛んで、結構なことだべ!これだから、都会の道楽もんは!」

 え、ここで登場人物追加?

 折角収まりかけたのに、まだ拗れるの?

「カール!おめえ、余所者に頼るだけでねくて、誑されただか?やけに綺麗な男だと思っただが、男を二人も手玉に取るだとは!ハハ、さすが都会もんは、オラたち善良な田舎もんには、想像もつかねえ乱れっぷりだべさ!誑された挙げ句に捨てられるとは、おめさもいい面の皮だべ!」

 新たな登場人物は、昨日の理不尽なお兄さんでした。

 あれだけの接触でしたが、ちゃんと男として記憶されていたんですね。
 普通にこの場面だけ見たら、私を男とは思わないだろうから。

 しかし、悪女ならぬ小悪魔系腐男子ですか……散々な言われようだ。
 男装でも同じだったか、これなら。

 と、諦めに満ちた目で理不尽お兄さんを眺めていると、カールさんが反論を始めます。

「ドーラさんを悪く言うでねえ!それに、ドーラさんが男だ?おめえの目は、節穴だか!?こんな可愛い男が、どこさいるだ!!」

 え、カールさんがそれを言うの?
 ずっと男だと思い込んで、揉むまで気付かなかったのに??

 そして、いちいち説明してくれなくてもいいんですけど。
 小悪魔男子のままでも。

 カールさんの言葉に、理不尽お兄さんが改めて、まじまじと私を眺めます。

「まさか、女、だか?……いや、昨日は確かに……いや、でも、……確かに」

 納得したように、ぽっ……と顔を赤らめる理不尽お兄さん。

 いや、もういいですから。
 間に合ってますから、色々と。

 げんなりした私の視線の先で理不尽お兄さんが我に返り、改めて口を開きます。

「だ、騙されねえだ!女なら、余計だ!そったら可愛い顔してたって、オラ、騙されねえ!!田舎もんだからって、何でも簡単に落ちると思うでねえ!!」

 いや、そんな真っ赤な顔で言われましても。
 全く落とそうとか思ってませんし、むしろ頑張って踏み留まって頂きたい。

「フ、フン!ちょっと可愛いからって、オラが絆されると思ったら、大間違いだ!そったら娘っ子に、化け物退治だなんて、できるわけがねえべ!さっさと諦めて、尻尾を巻いて逃げ帰ればいいだ!」

 え、なに、ツンデレ?
 どう反応すればいいの?これ。

 相変わらず真っ赤な顔で私をチラチラ見ながらツンデレていた理不尽お兄さんが、今度はヘンリーをチラチラと気にし始めます。

「フ、フン!ちょっとはいい男みてえだが、そんな可愛い娘っ子を戦わせてるようでは、たかが知れてるだな!……なんなら、オラが代わりに、その娘っ子の面倒を見てやっても……ひッッ!!」

 理不尽お兄さんがおかしなことを言い出したところで、すかさずヘンリーとピエールが殺気を発し、理不尽お兄さんが腰を抜かします。
 二人の殺気が強すぎて気付くのが遅れましたが、よく見るとカールさんもなんか発してますね。

 腰を抜かしたまま後退り、理不尽お兄さんが悲鳴のように叫びます。

「な、なんだべ、いきなり!!や、やるだか!?なんでも力尽くで済ませようとは、これだから都会もんは!!……フ、フン、やっぱり碌なもんでねえ!やっぱり、オラが正しかっただ!余所者は、信用ならねえ!カール、精々骨の髄まで搾り取られないように、気を付けることだべ!!」

 なんとか立ち上がり、ヨタヨタと逃げ去って行く理不尽お兄さん。

 なんだったんだ、一体。


 一方的に喋って消えて行った理不尽お兄さんを見送っていた私に、カールさんが気まずそうに声をかけてきます。

「……ドーラさん、済まねえ。おらたちのために化け物さ退治してくれるドーラさんに、村のもんが、あんな」
「いえ。私は気にしませんから。カールさんも、気にしないでください」

 ていうか、退治はしないんで。
 そうはっきり言い切られると答え辛いので、もうちょっとぼかして頂きたいというか。

 さっさと話を打ち切ろうとした私から、カールさんがヘンリーに視線を移します。

「……ヘンリーさん。おらは、まだ納得がいかねえけども。……ドーラさんを危ねえ目さ遭わせたら、おら、許さねえだ」
「お前に許される必要は無いが。言われなくても、ドーラは俺が守る」
「……そうだか」

 一瞬視線を落としたカールさんが、また私を見詰めます。

「ドーラさん。……気を付けてけれ」
「ありがとうございます。それでは」

 名残惜しげに見送るカールさんをその場に残し、今度こそ村を出るために歩き出します。

 ……抱き締められてた続きで、ヘンリーに肩を抱かれたままで。


「……あの。このまま、行くの?」
「歩きにくいか?なら、また抱いて」
「いや、いいです。このままで」
「そうか」
「……村を出たら、やめてよね?」
「仕方ないからな」

 ……仕方ないから、やめるの?
 今、必要があるからやってるんじゃないの?

 なんかちょっとおかしい気がするが、やめてくれるなら、まあいいか。


 とにかく、修羅場も無事に乗り切って、いよいよモモを迎えに西の洞窟、魔物の棲み処に向かいます。

 ああ、長かったけど!
 ここまで本当に長かったけど、やっと!
 やっと、モモに会える!

 いま行くから、待っててね、モモ!! 
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