Geet Keeper ~天国と地獄の境~
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最終審査会特訓・水野希美の場合
前書き
門番になると言ったってそう簡単じゃぁありませんよ。
今回は、彼女の場合。
「それじゃあ早速特訓といきますか!」
血梨はるんるんな口調で言った。
「特訓すんの?最終審査会に行けばいいだけじゃない。」
「力もないのに審査会行けるわけないでしょうに!!これからそれぞれ守護神と特訓をしてそうだな~…あっちの19月はこっちの~…2週間くらいかな!あ、ちなみに特訓中の時間は止めておくから心配ご無用!といっても私が止めるわけじゃないけどねー。」
じゃあ、と言って血梨は希美の手に触れた。
【特訓・水野希美の場合】
「…え?あれ?ここどこ?」
一瞬にして風景が変わった。
どこかの森の中。でも音も風もない。
夜とも夕暮れともつかない妙な空が漂っている、そんな場所。
「特訓専用の特別空間!今あの家からはみんな消えて、守護神の用意した特訓空間に移動してるはずだよ~。」
「ふーん…まぁいいや。で?特訓って?」
「門番となって戦うには武器が必要でしょ?素手で魔物殴れないじゃない?」
「…まぁね。」
「だからまずは…はい!これ持ってみ!」
そう言って血梨は巨大な鎌を目の前に出した。
希美の身の丈よりもある鎌。
死神=鎌という方程式はどうやら正しいらしい。
「持ってみって…でかいっちゃぁでかいけどあんたが持てるんだから両手で持てば簡単…重っっっ!!!!!」
とっさに手を話してしまった。
ズシンと音を立てて鎌が地面に落ちる。
「なにこれ!!!!尋常じゃないくらい重いんだけど!!!!!」
手首からボキリと持っていかれるのではないかというくらい重かった。
コンクリートの塊を100個くらい積み上げても足りないかもしれない。
「まぁしょうがないよ~。武器の重さは魔力に比例するからね~。」
「ったぁ…魔力に比例?」
「魔力が強ければ強いほど武器は軽くなる。今あんたが重いと感じるのは、持ち上げられないのは、あんたの魔力が無いに等しいから。でもご安心!私にかかれば最終審査会までにぶんぶん振り回せるようにしてあげるから!」
とんでもない守護神が付いたとちょっとだけ後悔した。
こうして、それぞれが特訓専用の空間にて守護神から手ほどきを受けていた。
守護神によって武器や能力は違う。
引きずりそうな大剣を持たされる者もいれば、箒にまたがって浮遊することを求められる者、念だけでイメージを構築して守護神を武器に変えることをしなければならない者もいた。
だが、全員が総じて抱いていた感情。それは、『自分の守護神は何者か』ということだった。
「はぁ…はぁ…きっつー…ちょっとタイム!」
「でもあんたすごいじゃん!まだ一時間しか経ってないのに両手で支えられるなんてさ!」
支えられるといってもほんの数秒だ。
「…お褒めの言葉どうも。っていうか…はぁ…はぁ…っあんたって…死神なんでしょ?」
「そうだよ~。死神の中でも一流の死神ね!」
「自分で一流とか言っちゃうのはどうかと思うけど…はぁ…はぁ…なんでそんなに一流なら…守護神なんかやってんのよ?」
血梨は『やはりそうきたか』という顔をした。
「ん~…簡単に言うと”自分見直しのため”かな?」
「見直す?なんでまた?一流なんでしょ?」
「一流だからこそっていうか…まぁいっか。どうせ長い付き合いになるんだし。じゃあ休憩がてらお話してあげよう!」
「死神ってね、元々は人間なの。そこ、大前提ね。でも人はいつか死ぬ。病気だろうと老衰だろうといつかは必ず。だけど”若くして死んだ魂”は、天国でのんびり暮らすか死神として働くか選べるの。
そして14歳であの世に送られた私は死神として働く方を選んだ。まぁこれは完全に興味本位。自分も死ぬ間際に死神と話したからね~。」
「でもさ、死神って”もうすぐ死ぬ人の魂を狩る”んでしょ?元々人間なら罪悪感っていうかこう…やりづらくないの?」
「最初はそりゃぁやりづらいよ~。狩らなきゃいけない人間の中には当然ながら命乞いするやつもいるしね~。でも狩らないとその人間はあの世にいけないんだから狩ってあげないとじゃない?」
「あの世にいけない…そうなんだ…」
「死神になって決められた期間修行を積むと”死神の谷”への所属が認められるのね。あの世の外れにあって、東西南北にそれぞれ谷があるんだけど、どこの谷も同じってわけじゃなくて能力によって住み分けされてるの。ちなみに私は東の谷所属。そこでコツコツ仕事して、やっとこさちょっとエライ地位まできたんだけど…」
東の谷で第一等級班のリーダーを任された血梨は、ある日いつも通りに魂を回収していた。
上からリストを渡され、そのリストに書かれた人間の魂を狩る。ただそれだけの、いつもの仕事。
でもその日最後の魂だけは”狩れなかった”。
対象は交通事故で病院に搬送された14歳の女の子だった。
向かう途中に現場を見たが、悲惨だった。
”あぁ、これは即死だろうな”と思った。
だが、病室に潜り込んでみると、女の子はまだかろうじて息をしていた。
しかし外傷はひどく、片腕は切断を余儀なくされ、爆発のせいか顔は包帯で覆われていた。
死神はなるべく対象者に見られてはならない。
見えない人間がほとんだが、中には生前の血梨のように見えてしまう者もいる。
痛みを感じているのか定かではないが女の子は眼を閉じていた。
こっそりと気づかれないように魂を引き出す作業に取り掛かろうとした時、女の子の眼がうっすらと開いた。
『死神さん…?』
消え入りそうな声で女の子は呟いた。
バレている。
『見えんの…?』
『はっきりとは見えないよ。でも…来るんじゃないかなぁって…思ってたから』
『そう…悪いけどお嬢ちゃんはあと3分後に死ぬことになってるから。』
『3分かぁ…ねぇ死神さん。それ、もう少しだけ待ってもらえないかな…?』
『え…?』
『ママにも…パパにも…誰にもお別れ言ってないの…目が覚めたとき私が死神さんと一緒に行っちゃってたら…ママもパパもきっと悲しむから…』
生前の、14歳の自分がフラッシュバックした。
火災事故に巻き込まれて全身火傷を負い、搬送先の病院で死神を見た、あの時の自分。
部活の合宿先での事故だった為に、両親の到着が少し遅れていた。
死ぬのは仕方がない。でもせめて最後に謝りたい。”お父さんお母さんごめんなさい”。
このまま死神の言うがまま一緒にあの世へと行ったら、両親は確実に生きている最後の自分と会うことはできない。
一人っ子で好き放題させてもらってきたくせに、死ぬときは何も言わずになんて…そう思って血梨は死神に頼んだ。”あと数時間待って欲しい”と。
あの時の自分が、そこに横たわっているような気がした。
『ダメ…かな…?』
もう日付が変わろうとしている。
死ぬ運命にある魂を数分でも見逃すことは、死神の世界では掟破りになってしまう。
それどころか、天界の神々たちにも迷惑をかけることになる。
運命を操作しているのは彼らなのだから。
運命の歯車が寸分でも狂えば、世界全体に影響を及ぼす。
わかっている。痛いほどに。
『…日が昇ったら、連れて行くからね。』
『ありがとう…死神さん…』
規定通りの時間には狩れなかった。
女の子が両親に別れを告げ、両親が涙に暮れている中、血梨は規定時刻より6時間遅れて女の子を連れて行った。
心音図が0を指す”あの音”を聞きながら。
谷へと戻った血梨は自ら不備を報告し、罰を受けると言った。
死神の規定に反した行いをした始末は自分でつけなければ。
だが、上司の口からでた言葉は意外なものだった。
”門番の守護神をして自分をもう一度探してきなさい”
「それで守護神になったのか…」
「まぁほら、あれだよ。私が未熟だったんだよね~。何万もの魂を狩ってきたのに、どうしてもあの子だけはすぐに狩れなかった。これだから困っちゃうよね~生前の記憶持ちはさ。大事な時にフラッシュバックしちゃうんだもんなぁ~…ホント、困っちゃう。」
あれほどまでに元気だった血梨の表情が初めて曇った。
「でもその子はきっとあんたに感謝してると思うよ。あたしなら感謝する。大切な人にさよならも言わずに死ぬのは…きついよきっと。」
死神という存在を今まで誤解していた。
容赦なく人を死に導く悪魔のような存在だと思っていた。
でもまさか死神自身も元を正せば人間だったとは。
そして血梨のように生前の記憶を鮮明に持ちながら魂を狩らなければならない死神もいることも、知らなかった。
この出会いもまんざら悪いものではないかも知れない。
血梨の横顔を見ながらそう思った。
後書き
悩んだ結果、守護神それぞれに過去を設けてみました。
それぞれがそれぞれ、『何故守護神になったのか』をこれから少しずつ紹介していきます。
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